My Favorite Things

お気に入りのものあれこれ

灯台

2008-07-14 00:00:28 | 
灯台〔ハヤカワ・ミステリ1800〕 (ハヤカワ・ミステリ 1800)
P.D.ジェイムズ
早川書房

このアイテムの詳細を見る


P.D.ジェイムズって早川ポケットミステリの写真がだいぶん前のやつですので、そのせいでもっと若いような錯覚を長いこと抱いていたのですが、1920年生まれですので、今年で88歳になるわけです。

が、85歳のときに出版されたこの作品を見る限り、衰えは感じられません。そういや、販売キャンペーンのサイン会を開く、というような案内も読んだ気がする。BBCラジオにもどんどん出演して、切れ味鋭いのみならず、baroness(女男爵ってのも変だし、なんていやいいんでしょ、男爵の女性版です)と呼ばれるのにふさわしい威厳と、はつらつした魅力をふりまいてましたっけ。つまり、体力もある人なんでしょう。

久々の孤島ものです。高級保養所としてVIP御用達の島で世界的に有名な作家が殺害され、ダルグリッシュのチームが捜査にのりだす、といった筋書き。被害者に対する容疑者一人ひとりの嫌悪感、ダルグリッシュを含む捜査陣の私生活と仕事ぶりの丹念な描き方、島の描写などなど丁寧にかかれてます。

ご本人が重んじている、といっていた構成のよさはあいかわらず。ダルグリッシュ・シリーズではお約束といえる終盤のアクション・シーンも、今回はダルグリッシュではなく、ケイト・ミスキンやベントンースミスがこなす、というひねりもあって、面白いものがあります。

さすがに、過去の作品ほど、じわじわとくる重苦しさはなくなり、悪に対する考察とかの重いテーマに体力負けしそうな気分になることはありません。また、容赦のない悪や孤独が存在するというやり切れなさが残るラスト、というものもありません。

一つには、一時期の発言とは裏腹に、主役級をハッピーエンドにしてやりたい、という気持ちが抑えられなくなっているからなんでしょう。前回、ジェイン・オースティンのPersuasionを思わせるようなやりかたでエマにプロポーズして承諾を受けたダルグリッシュはもちろん、ケイト・ミスキンにも格好のお相手を作ったりしてますからね。

あと、出演しているラジオ番組を聴いたときに感じたジェイムズのユーモアがかんじられる描写もあります。孤島モノといえば、かつての皮膚の下の頭蓋骨のように、クリスティと比べられるのがいやなのか、ところどころに予防線をはっているようなところがあります。それを面白がりながらやっているかんじ。

ジェイムズの最高傑作とはいいませんが、あいかわらずの高水準でびっくりしてしまいます。いったい、作家って何歳になるまで衰えずにいられるのでしょう。知っている範囲では、一番長く高水準を保った作家は99歳のなくなる直前まで「」のような力作を書いていた野上弥生子。

ま、作品のジャンルはちがいますが、もともと頭がよいだけでなく、勉強家であること、構成力、人物描写、高齢にもかかわらず長編を平気でかけてしまう体力、と共通点があるような気がする。

ということは、ジェイムズも90台になっても書き続けてくれるかもしれません。新作"The Private Patient"は今年の8月にでます。今回ははやく読もうと、原書の予約をいれました。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿