月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 4

2020年04月15日 01時54分42秒 | イン・ザ・ファインダー
 午前中はお客さんはほとんど来なかった。昼になるともう一人の
アルバイト大学生の由紀ちゃんが来たので交替して私は昼休みに入った。
おじさんが家で昼を食べないかと言ったけど、
いつも外食している由紀ちゃんの手前もあり近くにあったハンバーガーショップで
ハンバーガーを食べた。
ハンバーガーを食べ終えると何となくカメラを肩に掛け商店街を歩き始めた。
 バッテリーの充電は昨日しておいたので後はオートにしてシャッターを押すだけ。
しかし何にカメラを向けていいのか判らない。
とりあえず床屋さんのぐるぐる回るやつとか店の立て看板を撮ったりした。
暫く歩くと小さな公園があった。
子供が遊んでいたのでそれに向かってシャッターを押した。
何故かおじさんが言ったことが頭から離れず、
おじさんの言った通りにカメラを構えてシャッターを押した。
確かに重い一眼レフはその方が撮りやすい。
その後も坂道や細い路地を適当に撮って歩いた。
 昼休みを少し早めに終えて店に戻って由紀ちゃんの写真を撮った。
由紀ちゃんも私の写真を撮ってくれた。
これこれ、これだよ写真は堅苦しいこと抜きで楽しく撮らなくちゃ。
そう思いながらも私はおじさんが言った様にカメラを構えていた。
なぜか由紀ちゃんもカメラをそう構えていた。
 午後は由紀ちゃんと二人でレジに入った。今日は私がレジ初日だったので
レジの操作など一通りの事を簡単に教えてもらった。
午後になるとお客さんも増えてきた。
私と由紀ちゃんはずっと立っていると疲れるので交替で一人が立って
一人がその横の小さな椅子に座っていた。
お客さんが少ないときには二人とも座っていた。
その後お客さんは午前中より多くなったけどレジまで来るお客さんは少なかった。
意外と楽なアルバイトと言えたけどその分は時給も安かった。
 おじさんは本を片付けながら店内を回っていた。
時々、万引きもあるらしいけど店内が狭いので比較的少ないと
小さな声で由紀ちゃんが教えてくれた。
由紀ちゃんと二人、休憩時間はなかったけど殆どが休憩だった。
 五時から店を閉める八時までは高田さんという年配の男性と
山下さんという四十くらいの女性が来た。
二人はかなり以前からこの本屋さんを手伝っているらしい。
おじさんは今日は暇でもあり定時通りの五時で帰してくれた。
時々残業もあるという。
 帰り道、私は由紀ちゃんに聞いた。
 「あんなにお客さんが少なくて、お店は大丈夫なの。」
 「儲けは少ないけど、おじさんは年金をもらっていて、それで生活には
困らないので、本屋さんは老後の生き甲斐になってるみたい。」
 「へぇ、確かに私達の時給も低いしね。」
 「最近、本を読む事って少ないし雑誌はコンビニで買う人が殆どでしょ。
ネット販売もあるから本屋さんに来る人は減っているのよ。」
 確かに由紀ちゃんの言う通りだ。
 「そうね、私は昔から本は読まないけど。」
 と私が言うと由紀ちゃんは。
 「それに息子さんはサラリーマンで本屋さんを継ぐ気がないみたい。」
 「それに娘の美咲ちゃんは結婚しちゃっているし。」
 「多分おじさんの代で本屋さんは閉めるそうよ。」
 「そうなんだ。ちょっと寂しいわね。」
 そこで由紀ちゃんと別れた。
由紀ちゃんの家もここからそう遠くない所にあると言っていた。