ライフ&キャリアの制作現場

くらし、仕事、生き方のリセット、リメイク、リスタートのヒントになるような、なるべく本音でリアルな話にしたいと思います。

50.ファイナンシャル・プランニングにおける心理学

2016-08-30 22:50:39 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 ファイナンシャル・プランニングにおいて心理学が役立つことがある。ファイナンシャル・プランニングとは、一言で言うとお客様のライフプラン(生活設計)を作ること。そのためには、本来お客様の現状は勿論のこと、将来に対する希望や想いを聴くことが必要だ。
 
 しかし、お客様が最初からプライベートな現状や問題、将来に対する想いや本音を語ってはくれない。お客様自身が、頭の中でも心の中でも整理できていないこともある。だからこそ、お客様に接する際に心理学でいう「受容」と「共感」が大切になる。まず、お客様の思っていることや考えていること、不安な気持ちや迷いなども含めて、評価したり否定したりすることなく十分に聴く姿勢が、深い信頼関係を作るためにも肝心になる。

 よく顧客心理を読み取り営業に役立てるノウハウがビジネス雑誌等に特集されている。それらを活用することが無意味とは言わないが、その前にまず大事なことはお客様に誠実に向き合い話を聴くことだ。営業マンが自分の聞きたいことだけを聞き、都合の悪いことは聞き流し、売り手の立場中心で物を言ってもなかなか受け入れてもらえないのは当然だ。相手を受容していないのに自分を受け入れろなどと考えるのは都合が良すぎるし、そんな営業が精神論や小手先の心理学的ノウハウだけで続くわけがない。

 ファイナンシャル・プランナーは「家計のホームドクター」として、中立的な立場でお客様の側にいて、求められればお客様に寄り添いライフプランの実現に向けて伴走する存在であることが理想だ。現実は理想に遠いかもしれないし、お客様が求めることも多様な時代である。プランナーとしての仕事や役割もいろいろある。私としては、今後も地道に自分自身を認知してもらうために営業に努め、お客様に誠実に向き合って生の反応を「受容」し「共感」しながら、信用を積み重ねて行きたいと思う。

 
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49.理容師Hさん

2016-08-26 00:09:59 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 理容師Hさんとは30年以上の付き合いだ。私が若手社員の頃、たまたま行った近所の理容室にいた新米理容師がHさんだった。私についたHさんは、緊張した面持ちでぎこちない会話を交わしながら、一生懸命にカットしてくれた記憶がある。次にその店に行った時、理容師の指名を尋ねられ、前回と同じ人と指名して以来、Hさんが私の担当になった。2回目の時、Hさんが嬉しそうだったので、自分も何となく大人の対応をしたような気がして嬉しかったことを覚えている。

 その後、私が転勤で地元を離れてからも、年に2回くらい帰省した際にはHさんのいる店に行っていた。今から約20年前にHさんが独立してお店を借りて営業していた頃も、10年位前に今の自宅兼店舗を建ててからも、ずっとHさんにカットしてもらっている。約8年前に私が会社を辞めてからは、毎月Hさんの店に行っている。

 実はカットの仕方は、ほぼHさんにお任せで仕上がりの際に鏡を見せられても注文を付けたことはない。私が疲れている時は話しかけないし、会話したいときは適度に合わせてくれる。なじみゆえの居心地の良さがある。

 そんなHさんも最近、老眼、手荒れ、腱鞘炎などと闘っている様子だ。一方、研修会にも参加して、はさみの入れ方も時々微妙に変えているし、新しい店のレイアウトやサービスも取り入れようとしている。今回は、冷クールシャンプー&頭皮マッサージをしてもらい、思わず寝てしまうくらい気持ち良かった。

 Hさんは、これまで延べ何人のお客さんの頭をシャンプーし、カットし、はさみを何回動かしたのだろう。何十年も一筋に続けているキャリアはすごいことだ。これからも、髪の毛がある限りHさんにカットしてもらおうと思っているが、いつかHさんが引退した時、理容師一筋の人生をどう思っているか、そしてお客の一人としての私がどのように見えていたか聞いてみたいと思っている。

 
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48.キャリアコンサルティングにおける心理学

2016-08-20 17:01:55 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 前回のブログ(47)にも書いた相談業務の現場では、様々な問題や事情を抱えた方の話を聴くことがある。その中には、いわゆる「メンタルヘルスの問題」「心の病」「発達課題」を抱えていると思われる方も少なくない。例えば、人生の転機において様々な問題や困難に直面した際に、精神的に不安定になることは誰にでもあり得ることである。また、職場の人間関係や仕事の負荷による過重なストレスから、「うつ状態」になる場合もある。

 キャリアコンサルティングのベースにはカウンセリングの技法や理論があるが、カウンセリングについて習得する際にはメンタルヘルスや心理学についても一定の学習をする。実際の相談の現場においても、学習した知識や理論を思い出しながら対応を考えることがある。

 ただし、その際に間違えてはならないことがある。それは、自分はメンタルヘルスや心理学の「専門家」ではないし、相手を「治療」しようなどと思わないということだ。「治療」は医師の仕事である。自分にできることは、あくまで相手が抱える問題の「見立て」の段階やカウンセリングの可能な範囲で心理学の知識を参考にするということである。

 最近、“最先端の心理学”などと謳う各種心理学がある。勿論それらを学ぶメリットはあるだろうが、中途半端な知識や理論のレベルなら、相手の心を操ろうなどと試みないことだ。相手を支援するためとは言っても、人の心や行動はそんなに単純なものではないし、こちらの思うようにはなかなか動かないというのが、カウンセリングを積み重ねてきた実感だ。宗教家なら良いかもしれないが、実務家が責任を持てないことはやらないことだ。

 やはり、私は時間はかかっても「答えは相手の中にある」という来談者中心カウンセリングをベースにして、手に負えない時は相手のためにも早くリファーするという冷静な姿勢を守りたい。

 

 
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47.傾聴の心得

2016-08-18 00:00:58 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 ある行政機関の年輩職員が、上から目線で指示ばかりをするという批判があったので、上司が相手の話をよく聞くよう指導したら、来訪者の話を腕組みをして黙って聞くようになったという、笑い話のような実話を聞いた。
 
 各種相談に対応する窓口の専門職でも、相手の身になって話が聞ける職員は少ないということだろうか。多忙ゆえに時間的余裕がないということもあるだろうが、話を「聴く」ということは簡単なようで難しい。「聞いてるつもり」や「自分が聞きたいこと」だけを聞いてることはよくあるが、「聴く」は、「耳」と「目」と「心」を傾けて「相手の話したいこと」を聴くという意味。

 私は、「傾聴」を学んで約7年。特にこの3年間は、老若男女、様々なキャリアや問題や事情を抱える人の話を聴いて支援をしてきた。平均約50分の面談の現場を1,000回以上こなしてみて、ようやく「傾聴」の基本姿勢や柔らかくタフな心が身についてきたように思う。勿論、うまく行ったことばかりではなく、上っ面しか聞けていなかったこともあるし、なかなか話が深まらず中断したこともあった。相性の良くない相手や、強いストレスを感じる相手、感情を揺さぶられるような相手もいた。本人の話に脈絡がなかったり、矛盾があったり、コミュニケーションが成立しないケースもあった。

 なぜ、そこまでして話を聴く必要があるのか。それは、人を支えるということは、その人の価値観も人生も人格も尊重するということにつながるからだと思う。そういう基本姿勢がないと、支援者の単なる独りよがりになる。

 どんな相手どんな状況でも、まずは虚心坦懐に話を聴いて、その人にとって必要な事を共に考える姿勢を貫くことができると、相手の心や態度や行動にも少しずつ変化が見えてくる。そこに手応えとプロ意識が感じられるようになってきた。でも、うまく行ったと思うときこそ謙虚な振り返りが大切だ。
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46.50代の同窓会

2016-08-16 13:51:53 | 人、本、旅 日記
 先日、中学の同窓会があったが、都合により欠席した。前回出席した際は同学年の約100名が参加したが、今回はどうだったのだろう。

 今年は、高校の同窓会には出席した。出席者の中には、大手企業や官庁の役職者もいれば子会社等へ転籍した者もいた。弁護士、教師、僧侶などの専門職の者もいた。都会のキャリアウーマンや、子育てが終わり仕事に復帰した女性もいた。地元一筋に働き暮らしてきた者、私のような個人事業者もいた。出席者の多くは、これまでの人生で紆余曲折はあれど、50代になって同窓会に参加できるありがたさや懐かしさのせいか“いい顔”をしていた。40代の頃までは、お互いの仕事や地位や暮らしぶりを比べたりすることもあったが、50代になって、「定年までもう少しあるし、人生の先は長いけど、ここまでお互いがんばってきたし、今もがんばっているんだなあ」という、お互いの人生を認め合うような空気があったと思う。

 中学校の同級生となると、卒業後の進路やキャリアもさらに多様だ。前回の出席者は、地元中小企業で働く者が多かったが、親の事業を継いだ経営者や、飲食店主、高校中途退学後大きく道を外れた後社会復帰した者、孫の面倒を見ている者などもいた。当時のあだ名で呼び合うなど懐かしさを感じる場面もあったが、どこか当時の力関係の名残や相互のキャリアの距離感のような感慨もあった。

 考えてみると、同窓会の参加者は、同級生の4分の1から5分の1程度の人数である。毎回参加している者もいれば、全く顔を出さない者もいる。他界した同級生もいる。参加しない同級生は、どこでどうしているのだろうか。気になる当時の親友もいる。次の同窓会は、還暦に近い頃だ。まず、自分も健康であって、なるべく多くの同級生に会って、お互いのキャリアを認め合い共感し合うことができたらと思っている。(写真はフリー素材です)
 

 
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45.現実主義か現実追随か

2016-08-12 23:52:05 | 時代 世の中 人生いろいろ
 原発の再稼動が始まった。賛否が分かれる問題について、このブログで個人の主張を展開するつもりはないが、身近な地域社会の問題でもあるので、現時点の考え方を記しておきたい。「理の面では、南海トラフ大地震が起きても絶対安全とは言い切れないし、福島もまだ復興ほど遠い状況であるし、結局、地域社会や住民が犠牲になりながら、「想定外」の事には誰も責任を取らないから『反対』。ただ、地域経済への影響や電力安定供給の必要性を考えると、本当にやむを得ない事なのかわからない。情の面では、万一の事を考えると不安で怖い。安全神話も信用できない。反対派の言い分もわかる。でも、心配しても仕方ない。」と複雑な心境だ。

 本件はニュースでも大きく取り上げられた。賛否両論の街頭インタビューも放送されていた。サラリーマン風の若い男性が、「地域経済や電力の安定供給の問題を考えると、現時点では再稼動は必要と思いますね。」と訳知り顔で答えていた。それを見て複雑な反感を覚えた。「あなた事の本質をわかって言ってるのか。自分は安全な所にいて他人事だと思ってるんじゃないのか。万一の時、海の向こうの九州へ船で非難するしかない住民の不安な気持ちわかってるのか。」と。

 「現時点で最善の現実的解決」とか「冷静かつ慎重に安全性を確認」などと言えば聞こえがいいかもしれないが、当然のことをしているだけである。安全性を確認せずに再稼動などあり得ない。現実主義とは、問題の大きさに思考停止してしまい、ただ現実に追随していることを正当化しているだけかもしれない。

 自分自身、難問にぶつかった際に、「現実的な解決はこれしかない」と安易に妥協したり、「今はしょうがない」と思考停止にならないよう、多様な価値観を尊重して大局的、長期的に考える姿勢、過誤は率直に修正する潔さも持ち合わせたいと思った。もっと自己研鑽が必要だが。

 
 

 
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44.最後のよりどころ

2016-08-11 23:17:46 | シニア 人生100年
 再就職支援の面談をしていると、様々な事情で壁にぶつかったり、道に迷い立ち止まったままの人の話を聴く。例えば、体調を壊して離職しようやく回復しつつある40代男性、家族介護のために離職し介護が終了し自分の仕事を探し始めた50代女性、リストラされた後仕事を探し続けて数年が経過している50代男性など、再就職が困難な人の相談に乗ることが多い。

 相談に来た方に対しては、まずは日ごろの努力や苦労をねぎらい、これまでのその人のキャリアや歴史、今の心情を聴くことから始める。そして、話を聴きながらその人の考え方や適性、行動特性、意思、意欲、健康状態、生活状況、障害となる問題などをできるだけリアルに浮かび上がらせて行く。まさに「傾聴」の姿勢に徹する。「それは無理ですよ。」「もっと~するべきですよ。」などという、こちらのものさしでの評価や上から目線の無責任なアドバイスはしない。

 しかし、現実は厳しいこともある。人によっては、自分自身を客観視できていなかったり、強いこだわりやプライドが原因で自縄自縛の状態になっていたりする。挫折の連続で意欲減退が著しい人もいる。年齢やそれぞれの事情というハンディを抱えながらそのような状態で応募をしても、受け入れてくれる就職先は皆無に等しいというのが現実である。

 それでも、支援する立場としては、「最後のよりどころ」という意識を持って、その人を尊重し可能性をあきらめずにチャンスを共に探す。選択肢を広げることや方向転換することの必要性も、極力本人が気づくように働きかける。時には、寄り添いながらも背中を押すことや手を引っ張ることもある。ただし、本人が納得しないとこちらの思うようには動かない。大事な意思決定は本人がすること肝要だ。決して簡単なことではない。

 最近は、柔軟性と粘り、そしてプロ意識を持って支援対象者に向き合うように努めている。

 

 
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43.運転手の仕事の基本

2016-08-10 23:50:04 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 先日、2回続けて県内の沿岸部と山間部に仕事で出張した。沿岸部の出張先に行く際は路線バスを利用し、山間部に行く際はJRローカル線を利用した。

 おそらく50代後半のバス運転手は、態度が荒かった。たまたまそんな運転手だったのだろうが、田舎町の海岸沿いのカーブの多い国道でスピードを落とさない。バス停に人がいなければ、アナウンスせず通過する。人がいれば、急ハンドル切って寄せて止まる。停車ボタンを押し忘れた老人男性が停留所前で降ろすよう求めると、怒る。怒られた老人が慌てて千円札を小銭専用の料金箱に入れてしまうと、苛立ちながらお釣りを渡して降り際に説教する。乗っていて、見ていて、ハラハラした。

 一方、30代半ばくらいのJRローカル線の運転手は、まじめさがにじみ出ていた。1両編成の車内では、高校生が口をあけて寝ていたり、スマホを見たり、外の景色をぼんやり眺めたり、20人程度の乗客のほとんどが一人の世界に入っている。そんな中でも、「出発よーし」「信号よーし」「前方よーし」などと、一つ一つ声を出して指差し確認している。そして、駅に着くと料金箱の蓋を開けて「ありがとうございました。」と声をかける。特別愛想がよいわけではないが、業務を丁寧に遂行している印象があった。

 公共交通機関の運転手は、乗客に「乗っていただいている」のか、乗客を「乗せてやっている」のか、「ただ運転が仕事」なのか、それぞれの本心があるだろう。最初は運転手の仕事に憧れや意欲をもって始めたとしても、毎日同じことの繰り返しで競合相手のいない世界での仕事が続くと、緊張感が緩むこともあるかもしれない。

 基本動作に忠実に、当たり前のことを当たり前に続けて行くことが、その仕事のプロに近づいてゆく道だと思う。運転手は、乗客を安全に時間通りに、できるだけ快適に運ぶことが責務。

 

 

 
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42.事業は継続が一番

2016-08-08 23:49:24 | 仕事 キャリア ライフキャリア
 起業して8回目の夏だ。起業と言っても、人が相手のコンサルタントなので、大した準備も必要なく、自宅兼事務所だけ借りて始めた。当初は、人脈作りが必要と聞き、異業種交流会等にも積極的に参加した。起業家セミナーにも参加して、地元で成功している人の話を聞いたりした。

 そうしていろいろな人の話を聞いたり、情報を仕入れたりする中で、今も印象に残っている話がある。公的機関の起業支援相談員である中小企業診断士の方の話である。「事業を通じてお客様や社会に貢献しようと思うなら、どうしたら続けられるか考えること、長く継続させる努力や工夫や知恵が一番大事。そして、続けるのが困難な状況になったら、引き際を早めに決断すること」こんな主旨の話だった。

 どのような目標や方法で事業を継続発展させて行くかは、人それぞれの考え方ややり方があるだろう。時流に乗る人もいれば、派手な花火(成果、新規事業等)を打ち上げる人もいる。しかし、ある統計データによると、起業した人の8~9割は、数年以内に廃業または休眠状態になっているらしい。芸能人ではないが、一発屋のような起業人も少なくない。せっかく作った会社や団体がすぐに分裂したなんて話もよくある。

 そう考えると、8年間、何とか今の仕事を続けてこれたのは、あまり周りに気を取られずに巡ってきた仕事を一つ一つこなして実績を積み上げて来たこと、自分の立ち位置や方向性があまりぶれなかったこと、打算のない縁を大事にしたこと、人を見て人を立てて人に支えられたこと、そしてお金を大事にしたことなどが要因だったと思う。

 最近は、FPだけでなくキャリア支援関連の仕事の幅も広がり、質、量ともに県内ではかなりがんばっている方だと思う。これからも、“井の中の蛙”にならないよう気をつけながら、地道にしなやかにしたたかにやって行こうと思っている。
 

 
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41.講座運営アシスタントSさん

2016-08-06 00:14:40 | シニア 人生100年
 今私が定期的に講師をさせていただいている行政関連講座の運営アシスタントSさんは、年金生活者だ。この講座は、県内各地で定期的に開催されるので、その都度Sさんは運営本部から自宅に送られてきた資料等を、キャリーバッグに詰めて電車に乗り自宅近隣の会場まで運んでくれる。そして、簡単な会場設営と受付、後片付けなどを手伝ってくれる。それが、Sさんのアルバイトだ。

 Sさんのアシスタントとしての受講者対応は、特別愛想がよい訳でもなければ、手際がよい訳でもない。若干ぶっきら棒な言い方をすることもあるし、受付のハンコを押すのもあまり速くはない。講座開始の際の注意事項の説明や講師紹介も、何度も同じ事を話している割には滑舌がよくない。講座中は、毎回同じ話を聴いているから仕方ないのだが、たまに居眠りする。終わってから近所の日帰り温泉に行く日やプールの監視員のアルバイトを掛け持ちしている日には、私も片づけを手伝って早めに帰るよう促される。

 Sさんは、一言で言うと、麦藁帽子の似合うどこか気のいい田舎のおじちゃんの雰囲気がある。そのせいか、受講者からのクレームなどは無い。受講者も見るからに年長者のアシスタントに愛想など求めないのかもしれないが、どこか憎めないところもある。

 今、別件で55歳以上の方の再就職を支援する講座の講師をさせてもらうことがある。中高年の再就職のポイントは、やはり自分より年少者から一緒に働きたいと思ってもらうことだ。媚びる必要もないが、肩肘張る必要もない。仕事は精一杯やって、自然体で謙虚なコミュニケーションを心がけることが必要と思う。なるべく相手の目を見て話すとか、返事するとか、自ら挨拶をすることから始めればよいだろう。やってみれば難しいことではない。
 
 Sさんになぜ年金もらいながら働くのか尋ねてみた。「今一人暮らしじゃから、家にいても退屈でボケるといかんから。」
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