何度読んでも読む度におもしろい本を名著と呼ぶなら、『オデッセイア』はまさにその一冊だと思います。
来月、エプタニシアのレフカダからイタカ、ケファロニアへ行くので、『オデッセイア』をまた本棚から引っ張りだして読んでいました。
第一歌のテレマコスの登場はあまり注意した事がなかったのですが、今回読んでいると、彼が「壮麗な中庭の内の、四面を見晴らす場所に胸高く築かれた寝所」へ向かうという下りで、これはいったいどういう建築なのかと気になりだしました。
それで建物や屋敷が出てくるところを想いだして何カ所か読んでいるうち、こんどは建築とは全く関係のない事に気づきました。それは重要な女性の登場人物がまるで申し合わせたようにみんな機(はた)を織っているのです。
第一歌でオデッセイアの妻ペネローペが求婚者たちに「この織物が出来上がったら、誰と結婚するか決める」と言っておいて、まるまる3年もの間、日中はせっせと機を織り、夜になると、こっそりほどいていたというのは有名です。これがいったいどんな織物であったかは説明がありません。
第四歌では美女ヘレネの足もとには黄金で仕上げた銀の籠いっぱいに濃紫の羊毛を巻きつけた糸巻き棹があり、第六歌ではナウシカの母がやはり紫貝で染めた糸を紡いでいます。
ここで興味深いのは彼女たちが女王や領主の妻であること。その当時は糸を紡いだり機を織ったりするのが、労働でなく、高尚な趣味あるいは先端技術とでも考えられていたのかもしれません。
一般の女性は家事や育児に一日の大半を費やしていたのでしょう。料理ひとつ作るのも今とは全く違う複雑な行程があり、水汲みから始めなければならないのですから。織物はそういう家事労働一切する必要がない、時間を存分に費やせる地位にある女性に許された特権だったのかもと、目からウロコが落ちる思いです。
さらに先を読み進んでいくと...
人間以外の女性、キルケも例外ではありません。第十歌に登場する彼女は「不壊(ふえ)の機で女神たちが着る薄物のうるわしくも見事な布」を織りながらながら、美しい声でオデッセイアの仲間たちを誘い込み、毒を入れた食べ物を供して彼らを豚に変えてしまうのです。
とまた、一回読んでしまいました。まんまとホメロスのわなにかかってしまいましたか。それにしても、テレマコスの寝所の形状が気になります。広い中庭の真ん中に二階建ての建物があるのでしょうか?イタカで探してみましょう...あ、実はオデッセイアの故郷イタカは現在のイタカでなくケファロニアだという説もありましたっけ。
追記:文中の引用は 岩波文庫 ホメロス オデュッセイア 上下 松平千秋訳 より
いってらっしゃいませ、
たのしいギリシャのお話を期待してます。
久しぶりですね、ギリシャ経済に貢献しに行きます(笑)そして楽しい話を仕入れてきますね!良い夏をU+203C