「私が愛するのはバイオリンと海」と80歳のデミトリス・スコペリティス船長は言います。彼は50年以上も前からキクラデスの離島を航行する小型フェリーEXPRESS SCOPELITISのオーナー船長でギリシャの島の音楽ニシオティカに欠かせないビオリ(バイオリン)の名手です。
1958年、たった一艘の小さな漁船で始めたSMALL CYCLADES LINEはNAXOS からAMOLGOSの間に点在するΜΙΚΡΕΣ ΚΥΚΛΑΔΕΣの離島を毎日運行し、地元の人たちから「島々の母」とも「我々の命綱」とも呼ばれ、船長はまるで大家族の家長のように愛されてきました。
エクスプレス・スコペリティスは離島の人々を始め、食料、郵便や新聞、建材、家具、家電、ガソリン、ありとあらゆるものを運びます。花婿や花嫁、時には棺やらイコンまで・・人体に例えるなら、からだの隅々に血液を届ける動脈のような役割を果たしていて、この船なしに離島の人々は暮らして行けません。
急病人や怪我人、早産の妊婦、海難救助のためにエクスプレス・スコペリティスは何度も出動し、謝礼を受け取った事は一度も無いと船長は胸を張ります。
その心意気は、今息子のヤニス・スコペリティスと孫に受け継がれています。エクスプレス・スコペリティスのモットーは安全な航海と決して積み残しをしないこと。大会社のフェリーではスケジュールの時間を守るため乗客の乗り降りや、積み荷の上げ下ろしは時間厳守で急がされますが、スコペリティス船長は、船長は離島の乗客の一人一人をよく覚えていて、すべての人と荷物が積み降ろしされるのを根気強く待ちます。
岸に乗り遅れた人を見つけて戻る事さえあります。もし乗り遅れて、家に帰れなければ、よその島のホテルで一泊するしかありませんが、離島の人たちの暮らしに、そんな余裕はない事を船長はよく知っているからなのです。
そんなことしてたら、船が遅れちゃうと思うでしょう。会社として営業利益を考えれば論外でしょう。それを迷惑、不便と考えるのは一面的な見方です。
効率だけで計れないのが人生であり、ことに厳しい離島の暮らしはお互いの思いやりと助け合いなしには成り立ちません。都会の価値観はここでは通用しないのです。
ドキュメンタリを見終わると、この船に乗る為にギリシャ旅行に出掛けたくなっていました。ギリシャの魅力の本質はこういうところに宿っているような気がします。
EXPRESS SCOPELITIS 英語のサブタイトル付き