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ギリシャへ そして ギリシャから From Greece & To Greece

ギリシャの時事ニュース、文学、映画、音楽がよくわかる
ギリシャの森林再生を支援する『百年の木の下で』の公式ブログです。

バイオリンと海の男

2014-12-10 | サランダ・40年

「私が愛するのはバイオリンと海」と80歳のデミトリス・スコペリティス船長は言います。彼は50年以上も前からキクラデスの離島を航行する小型フェリーEXPRESS SCOPELITISのオーナー船長でギリシャの島の音楽ニシオティカに欠かせないビオリ(バイオリン)の名手です。

1958年、たった一艘の小さな漁船で始めたSMALL CYCLADES LINEはNAXOS からAMOLGOSの間に点在するΜΙΚΡΕΣ ΚΥΚΛΑΔΕΣの離島を毎日運行し、地元の人たちから「島々の母」とも「我々の命綱」とも呼ばれ、船長はまるで大家族の家長のように愛されてきました。

エクスプレス・スコペリティスは離島の人々を始め、食料、郵便や新聞、建材、家具、家電、ガソリン、ありとあらゆるものを運びます。花婿や花嫁、時には棺やらイコンまで・・人体に例えるなら、からだの隅々に血液を届ける動脈のような役割を果たしていて、この船なしに離島の人々は暮らして行けません。

急病人や怪我人、早産の妊婦、海難救助のためにエクスプレス・スコペリティスは何度も出動し、謝礼を受け取った事は一度も無いと船長は胸を張ります。

その心意気は、今息子のヤニス・スコペリティスと孫に受け継がれています。エクスプレス・スコペリティスのモットーは安全な航海と決して積み残しをしないこと。大会社のフェリーではスケジュールの時間を守るため乗客の乗り降りや、積み荷の上げ下ろしは時間厳守で急がされますが、スコペリティス船長は、船長は離島の乗客の一人一人をよく覚えていて、すべての人と荷物が積み降ろしされるのを根気強く待ちます。

岸に乗り遅れた人を見つけて戻る事さえあります。もし乗り遅れて、家に帰れなければ、よその島のホテルで一泊するしかありませんが、離島の人たちの暮らしに、そんな余裕はない事を船長はよく知っているからなのです。

そんなことしてたら、船が遅れちゃうと思うでしょう。会社として営業利益を考えれば論外でしょう。それを迷惑、不便と考えるのは一面的な見方です。

効率だけで計れないのが人生であり、ことに厳しい離島の暮らしはお互いの思いやりと助け合いなしには成り立ちません。都会の価値観はここでは通用しないのです。

ドキュメンタリを見終わると、この船に乗る為にギリシャ旅行に出掛けたくなっていました。ギリシャの魅力の本質はこういうところに宿っているような気がします。

EXPRESS SCOPELITIS 英語のサブタイトル付き


オリーブの樹はいつもここに

2014-12-08 | サランダ・40年

12月6日は初めてギリシャの土を踏んだ私のギリシャ記念日。それは1974年のことでした。今年は40周年。お祝いに赤ワインのテンプレートにしてみました。

毎年この頃になると、何故これほど長くギリシャを愛してこれたのかと、我ながら不思議に思います。正しく言うと、私が愛しているのはギリシャという「国」ではありません。ギリシャの風土と文化、そしてそれが生み出す人々です。今週はその秘密を少しだけ紹介したいと思います。ギリシャという不思議な場所と人々を。

 The Olive Tree Will Always Be Here

ストーリーはギリシャの老人の回想から始まります。

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「あれは私が6-7歳の頃だったか、クリスマスに自分用の靴が欲しくて、大人たちが収穫を終えたオリーブの木々に残された実を一生懸命集めたんだ。ようやく大きな袋一杯になって、それを運ぼうと兄を呼びに行ったんだ。ところが戻ってみると、その袋は消えていた。収穫の後の枝切りに来た人たちが持っていてしまったんだろう。

悔しくて、涙をこらえられないでいる私に、兄は自分の靴を脱いで履かせてくれた。『なあ、がっかりするなよ、オリーブの木はずっとここにあるからさ』と兄は言ったんだ。その言葉は正しかった。私たちの土地は2500年もオリーブを収穫して生きて来たのだから。そしてそれは今も私たちの毎日の食生活と暮らしを支えている。そして、これからも私の息子や孫たちの為に実を付けてくれる。」

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収穫を終えた老人の家族。息子や孫たちとテーブルを囲む食事は,千年変わらぬ光景だ。人間の幸せとは何だろう?と気づかせてくれるのが、ギリシャとその人々だ。この暮らしを豊かでないというなら、どんな暮らしが豊かなのか?私にはわからない。

「先進技術」や「高度にグローバル化した経済成長」が国家と一握りの人間に富をもたらしても、個々の満足度や幸福感には繋がらない事を既に多くの人が気づいている。

宿命として「先端技術」の命は短い。それを追いかけて、あくせくするよりも、千年の単位で人間を幸せにできるものを持っているギリシャはこれから千年先も生き残るに違いない。

ギリシャは先進国になれない?そんなものにならなくて良い!小さく美しい、世界の人々が「一度は行ってみたい」と憧れる場所であればいい、と私は思う。