報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

タイ王国の不敗神話

2014年07月27日 23時19分45秒 | タイ


2006年の軍事「クーデター」から8年。
2014年の軍事「クーデター」はタイの政治的混乱に終止符を打つだろう。

終止符が打たれるかどうかを今の段階で断言するのは早すぎるかも知れない。
しかし、プラユット司令官率いる軍事政権は、タイ王国の未来に対して、何を成すべきかを明らかに理解している。

軍事政権への高い支持

「戒厳令」や「クーデター」というものものしい言葉が世界のメディアに躍った五月以降、タイへ渡航する外国人観光客は二割ほど減少した。観光大国としては二割の減少でも大きな打撃だった。

しかし、二ヶ月後には、様子見だった観光客がタイにもどり、観光地は観光客で満たされていった。子供を連れた外国人観光客さえ普通に目にする。繁華街のデパートは平日でも買い物客でにぎわっている。タイが戒厳令下にあることを感じさせるものはもはやない。

軍事政権は、各地で隠匿された大量の武器弾薬を応酬し、反対勢力の機先を制し、短期間で国内の平常化を実現した。

欧米諸国や欧米メディアはいつものごとく、「クーデター」などけしからん、軍事政権など言語道断と大合唱した。その論調をあざ笑うかのように、プラユット司令官率いる軍事政権は、「クーデター」直後から大多数の国民の支持を獲得した。

タイ国民にとって、8年間におよぶ国内の混乱を収拾し、国民の求める政治が行われるなら、政治形態などどうでもよいのだ。タイ国軍が国家のために行動していることをタイ国民はすばやく理解した。七月の調査では88.5%の国民が軍政に満足していると答えた。次期首相に最もふさわしい人物は誰か、というアンケートではプラユット司令官が圧倒的多数を獲得した。

欧米の目論見

欧米政府やメディアは、軍事政権がタイ国民に支持されているという事実は無視し、「クーデター」や “軍事政権” という形態だけを問題視する。それは、「民主主義」という理念が犯されているからではない。

欧米が「民主主義」を持ち出すとき、そこで欧米の利益が侵害されつつあることを意味している。「民主主義」とはそういう指標なのだ。

ようするに、タイ国軍による「クーデター」によって、欧米の目論見が頓挫しようとしているから非難し、制裁を打ち出しているにすぎない。

東南アジアの中心国家であるタイ王国がほとんど手に入りかけていたのに、それが「クーデター」によってするりと手からすべり落ちた。魔法にでもかかったような気分だったかも知れない。8年間の工程が無に帰したのだ。その落胆は大きいだろう。

タクシン・シナワット(チナワット、シナワトラ)という人物を使って、タイ王国の間接支配を試みたが、結局のところ失敗に終わったのだ。

タクシンの金権手法

今後、タイ王国は軍政から民政に順次移管していく。

政権を追われたタクシン派勢力は、民政に移管すれば、また選挙で勝てばいいと考えているようだ。
しかし、タクシン派が再び政権に就く可能性はほとんどない。

タクシン派が選挙で圧勝できたのは、ひとえに金の力だ。タクシンから潤沢な工作資金が送られ、それが上から下へと流れ落ちていた。選挙に勝ってタクシン派が政権に就けば、私物化された国家の金が落ちてくる。タクシン派の結束とは、金が生む吸引力にすぎない。何らかの信念や理念によって団結している集団ではない。

インラク政権が「クーデター」で失脚する直前、多くの農家がインラク政権に対して抗議行動を起こしていた。80万人の農民が米質入制度による米代金の支払いを受けていなかった。その総額は924億バーツ(約3000億円)にのぼる。しかし、インラク政権には支払いの目途がまったくなかった。米質入制度は、タクシン派の議員や閣僚、政府高官の汚職の温床だった。タクシン派の地盤である多くの農家がタクシンへの忠心を失い、抗議行動を起こした。所詮は金のつながりにすぎないのだ。

タクシン派は自派であるはずの農家の信頼を失ったものの、再度大金をばら撒けば、一度離れた心もまた簡単に取りもどすことができるだろう。金の力は決してあなどれない。欧米の申し子であるタクシンの資金は決して枯渇することがない。どれだけ資金を費やしたとしても必ず何らかの形で補填される。そこがタクシンの強みだ。タクシンは「国際社会」においてVIP中のVIP待遇なのだ。

しかし、いくら資金が無尽蔵だといっても、金が末端にまで届かなければ意味がない。金の流れが堰き止められれば、とたんにタクシン派グループは干しあがる。金が落ちてこなければ人は決して動かない。タクシンという個人に人望があるわけではない。タクシン派はタクシンの金を拝んでいるにすぎない。

タクシンの金の流れを封じればいいのだ。

タクシンマネーの封じ込め

軍政から民政に移管された後のタイでは、政治家や政府高官の資金の動きが厳しく監視されることになる。
国家汚職制圧委員会という政府機関は、銀行に対して情報を開示させる権限を付与される。

また、資金洗浄対策室という政府機関が独立機関に昇格する。もともとこの機関だけが、銀行に対する情報の開示請求権を持っていたが、独立機関になればさらに機動力が高まる。

タクシンの資金はタクシン派の政治家や官僚、有力者の口座に入ったあと、順次配下に流れているはずだ。口座資金の出入りを監視追跡し、あやしい口座を凍結すれば、タクシンから流れる一定の資金を封じることができる。また、監視されているという意識が、不正送金の抑制になる。タクシンの政治資金の流れは複雑多岐にわたっているはずなので、すべてを封じることは難しい。しかし、これまでのようにふんだんに振り撒くことはできなくなる。それで十分なのだ。

金は末端にまできちんと行き渡らなければ人を動員することはできない。しかし、自分の取り分を削ってまで配下に回すお人よしはそれほどいないだろう。タクシンの資金が末端に届く前に蒸発すれば、すべては無駄金に終わる。

今後、国家汚職制圧委員会資金洗浄対策室の二つの機関が、不審な送金や資金の流れを縦横に監視することになる。

軍事政権は何を成すべきかを明確に理解していることがうかがわれる。

不敗神話

軍政、民政にかかわらず、タイ王国の未来はタイ国民の手になければならない。
タイに限らず、外国の手先が政権に就くようなことがあってはならないのは当然だ。

タクシン・シナワットもタイ国民には違いない。しかし、タイ王国の利益よりも外国の利益を優先するかも知れない者に、国家の運営をゆだねられるはずがない。タクシンとタクシン派は排除されるべくして、排除された。

今後も欧米諸国や外国メディアは、タイ王国の内政に干渉し続けるだろう。
タイ王国は、外国と協力することはやぶさかではない。
しかし、外国に支配されることは断じて受け入れない。

タイ王国は外国の支配を跳ね除けてきたという歴史を持っている。
今回そうした断固とした歴史的意思を証明したのかも知れない。


 

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