アメリカはいま、大統領予備選挙で大いに盛り上がっているようだ。
しかし、過去二回の大統領選挙の投票が、疑惑だらけだったという事実は、忘れ去られているかのようだ。
たぶん、忘れているのだろう。
●二大政党制のまやかし
二大政党といっても財界という党の二つの派閥にすぎないのである。国民の大半は投票にも足を運ばない。わざわざ行くほどの意味があるとも思えないからだ。彼らは社会の動きから取り残され、うまいこと関心をそらされている。
『メディア・コントロール』 ノーム・チョムスキー著
米国は基本的にはひとつの党しかない状態であると、しばしば政治学者によって指摘されてきました。すなわち、民主党と共和党という2つの派閥をもつ財界政党であるということです。
ノーム・チョムスキーへのインタビュー
http://www1.gifu-u.ac.jp/~terasima/interview040102jew040322hate.htm
国家の政治機構を恒久的に掌握しようと思えば、複数政党制を装えばいい、ということだ。それは、それほど難しいことには思えない。
複数の政党を用意(設立または既成政党を乗っ取る、買収する)して、相反する主張や綱領を掲げ、まったく違った信念に基づいた政党に仕立て上げる。そして票田を明確に分ける。企業経営者と労働者、白人とマイノリティ、都市と地方、保守とリベラルといった具合だ。異なる階層や集団の利益を代表しているように見せかけて、実は国民を細かく分断し、対立させ、団結できないようにする。国民の要求はすべて支持政党が代弁・実現すると信じ込ませる。しかし実際は、支持者の要求は、少し、または不完全にしか実現されない。両政党の勢力を拮抗させておけば、要求が実現できないのは相手政党の責任にすることができる。
定期的に政権を交代して、一定の利益の移動や政策の変更を行っておけば、ほとんどの階層や職業、地域から提起される要求や不満を吸収集散することができるだろう。見た目には、複数政党制の議会制民主主義に見えても、中身は一党独裁なのだ。このカラクリは、2000年までは、ほとんどボロを出さずに運営されていた。
過去二回の大統領選挙において、不正が行われたことは明らかだ。自党の候補が二度も不正によって敗北したにもかかわらず、民主党は何の効果的なアクションも起こしていない。クリントン大統領も沈黙を守ったまま、ブッシュへバトンを渡した。本来、民主党は総力を駆使して、事実を解明しなければならないはずだ。
民主党が、事実究明を避けたことは明白だ。それは民主党にとっても不利益になるからだ。不正の事実が明らかになれば共和党が弱体化する。そうなれば、二大政党制というカラクリが成り立たなくなる。すべてのまやかしの前提が崩壊してしまう。事実を究明してはならないのだ。
こうした場合、もっとも効果的な戦術は、双方がまるで何事もなかったかのような顔をすることだ。クリントンもブッシュもゴアもケリーも、共和党も民主党も、今日に至るまで、不正についてまったく言及していない。大手メディアもほとんど触れようとしないタブー中のタブーなのだ。
どのような不正や疑惑も、四年あればたいていの人は忘れてくれる。
●テレビ広告に消える巨額選挙資金
2007年末までに、民主党および共和党の指名を争う候補者たちはすでに、合わせて5億ドルを大幅に超える資金を調達していた。予備選挙が終わるころには、大統領候補は10億ドルをはるかに上回る資金を集めているであろう。
2007-08年の一般選挙運動期間中の支出は、全体で30億ドル近くになる可能性がある。
在日米国大使館ホームページ
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-20080123-02.html
全体で30億ドル・・・
一回の選挙のために3000億円以上もの資金を投入するのだ。そんなに金をかけなければ選挙はできないものか?
米国大統領は世界で最も影響力のある指導者というだけでなく、おそらく世界史上で最も影響力のある指導者でもある。従って、米国大統領選挙の結果は世界中の人々に影響を与える。
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-20080123-02.html
見せかけの二大政党制下では、どちらの党の誰が大統領になっても同じことだ。しかし、表向きは世界の覇権国アメリカの指導者を決める選挙なので、それ相応の儀式でなければならない。他国にマネができるような選挙ではアメリカの威信は保てないのだ。何もない月に人間を送るのと同じだ。どれだけの無駄を行えるかが、本当の国力の誇示なのだ。アメリカはあらゆる場面で浪費しなければならない。どうせ、そのツケは他国が払うのだ。
同時に、莫大な資金が必要な選挙は、二大政党制を強化する。あくまでアメリカの大統領は「二大政党」のどちらかでなければならないのだ。しかし、制度的には小政党(緑の党、リバタリアン党など)や無所属の候補にも機会は平等に与えられている。しかし、選挙資金は、こうした政党や無所属候補が到底集められないほどの巨費に膨らんでいる。もはや、勝負にはならない。事実上、小政党や無所属候補は排除されているのだ。
この莫大な選挙資金がどこで浪費されているかといえば、その大半がテレビ広告に費やされる。2000年は、約6億ドルがテレビ広告に使われた。今回の選挙資金30億ドルも、相当部分がテレビ画面の中に消えていくだろう。しかし、テレビ広告はそれほどの浪費をする価値があるのだろうか。
もし、テレビ広告が巨費を投じるほどの価値があるのなら、投票率に反映されているかもしれない。
●投票率
目もくらむほどの資金が投じられるアメリカ大統領選挙だが、その投票率は、低い。
予備選挙にいたっては、目を瞠るほど、低い。
2月5日のスーパーチューズデーは、異例の高投票率だったことがニュースになった。その最高の数字がたったの16%なのだ。通常はどの予備選挙でも投票率は「一桁台」らしい。テレビが報じるあの熱狂的馬鹿騒ぎからは想像できないほどの低さだ。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080207-OYT1T00465.htm
予備選挙の参加者は米国全有権者の2割程度であり、しかも大勢判明後は候補者選定についての影響力が薄れるため、実質的に候補者選定に関わる有権者は1割にも満たないといわれる。
2004 アメリカ大統領選挙の手続 国立国会図書館
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0456.pdf
一桁台の投票率で、ヒラリーだ、オバマだ、とメディアは騒いでいるのだ。
これが予備選挙の実態だ。
では、一般選挙(本選挙)はどうだろう。
歴代の一般選挙の投票率はだいたい50%をわずかに超える程度だ。60%を超える投票率ははるかベトナム戦争時代までさかのぼらなければならない。ちなみに、中間選挙(上院の三分の一と下院)の投票率はなんと30%台だ。
アメリカ大統領選挙 投票率
2004 -- 55.3
2000 -- 51.3
1996 -- 49.1
1992 -- 55.1
1988 -- 50.1
1984 -- 53.1
1980 -- 52.6
1976 -- 53.6
1972 -- 55.2
1968 -- 60.8
1964 -- 61.9
1960 -- 63.1
National Voter Turnout in Federal Elections: 1960-2006
http://www.infoplease.com/ipa/A0781453.html
「世界史上で最も影響力のある指導者」を選ぶ選挙にしては、アメリカ大統領選挙の投票率はかなり低いと言える。投票率を見る限り、何百億円もかけたテレビ広告の効果はほとんど数字に反映されていないと言える。
テレビ広告は、誰かに向けて打たれているわけではない。
決して、投票してもらうための広告ではないのだ。
各候補がテレビ広告で行っている内容は、ほとんどが単なる中傷合戦だ。
そんなものばかり見せられて誰が投票に行く。
●二大政党にだけ有利な選挙制度
アメリカの大統領選挙は、巨費が必要なだけでなく、予備選、党大会、本選挙という流れで、一年もの期間にわたって展開される。資金集めの準備も含めればおよそ二年という長期戦だ。
1月に始まった予備選挙がすべての州で終わるのは、はるか6月だ。そのあと、党大会が開催され、やっと党の「候補」が決定される。そして、ようやく一般選挙の活動がはじまり、11月に投票となる。
2008年アメリカ大統領選挙の日程
1月 3日 アイオワ州党員集会
1月 8日 ニューハンプシャー州予備選挙
1月26日 サウスカロライナ州予備選挙
1月29日 フロリダ州予備選挙
2月 5日 ニューヨーク州、イリノイ州、カリフォルニア州など20 以上の州で「スーパーチューズデ イ」予備選挙
3月 4日 バーモント州、ロードアイラ ンド州、オハイオ州、テキサス州でミニ「スーパーチュー ズデイ」予備選挙
4月22日 ペンシルバニア州予備選挙
6月 3日 モンタナ州、サウスダコタ州、ニューメキシコ州で最終の予備選挙
8月25-28日 民主党全国大会、ミネアポリス・セントポール (ミネソタ州)
9月 1- 4日 共和党全国大会、デンバー(コロラド州)
9月26日 第1回大統領候補討論会(国内政策)
10月 2日 副大統領候補討論会
10月 7日 第2回大統領候補討論会(聴衆との質疑応答)
10月15日 第3回大統領候補討論会(外交政策)
11月 4日 大統領選挙日
12月15日 選挙人団の公式投票
2009年
1月 5日 副大統領が連邦議会で選挙人 票を開票
2009年
1月20日 新大統領の就任式
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-20080123-02.html
アメリカの大統領選挙は、予備選挙も一般選挙も間接投票になっている。予備選では、「代議員」に投票する。一般選挙では「選挙人」に投票する。
一般選挙における「選挙人」は合計538人。各州の選挙人の数は、州の上院議員と下院議員の数と同じ。選挙人が一番多い州はカリフォルニア州の55人。ついでテキサス州の34人、ニューヨーク州の31人。一番少ないのは、アラスカ州やモンタナ州などの3人。
http://tokyo.usembassy.gov/j/p/tpj-elec2004college.html
選挙人は、共和党と民主党双方が独自に選出し、名簿を州の選管に提出する。有権者は、この「名簿(選挙人団)」に投票する。しかしながら、投票用紙には大統領候補者の名前しか書いていない。したがって、直接投票だと思っている有権者も多いらしい。ややこしい。
投票の多かった方の候補が、その州の選挙人団を総取りする(勝者独占方式)。つまり、カリフォルニア州だと、勝った方が55人すべてを得る。負けた方は0だ。100万票差でも、1票差でも、勝てば55人すべてを得る(例外的な州もある)。過半数270人を獲得した方が勝つ。
伝統的にどちらかの党が圧倒的に強いことがわかっている州は、投票をするまでもなく票を読むことができる。そうした州では、少数派はもはや投票する意味がない。投票率は必然的に低くなるだろう。
しかし、長期に及ぶ選挙戦や勝者独占方式の間接投票の本質的な意味は、二大政党以外の候補にとって根本的に不利だということだ。小政党や無所属の候補が、一年間もの期間を通じて、全国展開するために必要なマンパワーを維持するのは、かなり困難と言える。
アメリカの選挙制度というのは、破格の集金力と巨大な組織力を持たない候補は、最初から排除されているのだ。
すべては、二大政党のためだけにあるのだ。
つまり、一党独裁は恒久的に維持されるのだ。
●被害者か共犯か
過去二回の大統領選挙で、さまざまな不正が行われていたことは、歴然としている。特に2004年はなんでもありの状態だった。
2000年の選挙では、ジョージ・W・ブッシュ候補とアル・ゴア候補は大接戦を展開した。メディアは最初、ゴア当選と報じ、ついでブッシュ当選と訂正し、さらに「不明」と報じた。フロリダ州での差が僅差であったため、州法の規定で再集計が決まったからだ。そのとき、判別のあいまいな多量の票が存在したため、再集計を手作業で行うかどうかで、ブッシュとゴアは訴訟合戦を行った。
民主党よりのフロリダ州最高裁はゴアの主張を認め、手作業集計を命じた。しかし、共和党よりの連邦最高裁は集計の期限を決めた。結局、期限切れを理由に手作業による再集計は途中で打ち切られた。これにより、537票差でブッシュはフロリダ州の選挙人25を獲得して、大統領選挙を制した。
最終的な選挙人獲得数は、ブッシュ271、ゴア266。無効1。その差はたった5だ。全国総得票数では、ゴアが50万票上回っていた。勝者独占方式によって、こうした逆転現象も起こる。
ブッシュの大統領就任式には、抗議する市民が数万人押しかけたが、なぜかゴアと民主党は、この抗議活動を押さえ込もうとしたようだ。民間人となったゴアは、アップルコンピュータの取締役に就任したり、複数の大学で教鞭をとるなど、政界から離れた。何度か大統領選挙への再出馬が取りざたされたが、2007年末、ノーベル賞受賞の際のインタビューで「もう一度立候補する意志はない」と明言した。
2004年の大統領選挙では、さまざまな不正の疑惑が噴出した。電子投票の操作、票の廃棄、有権者登録の妨害、投票妨害などなど。にもかかわらず、ジョン・ケリーは異議を唱えるどころか、すばやく「敗北宣言」を出して、さっさと姿を消してしまった。不正を追求する市民は置き去りにされた。ケリーによる早すぎる「敗北宣言」は誰の目にも不自然だった。エール大学時代、ブッシュと同じ特権的クラブ「スカル・アンド・ボーンズ」に所属していたジョン・ケリーのこの行動はかなり露骨と言える。
ジョン・ケリーは、ベトナム戦争で受勲した勲章を、除隊後、国会議事堂に投げ返している(オリジナルは保管しているという話もある)。こうした経歴によってケリーは「反戦派」の議員とされ、2004年の大統領選挙では、イラク戦争に反対する市民から期待された。しかし、ケリーが議会でイラク戦争に反対したことはなかった。
つまるところ、ケリーは最初から大統領選挙に負けるために登場したのだ。反戦派的な経歴が、かえってブッシュの対抗馬としては適任だった。世論はとっくにブッシュに背を向けていたので、対抗馬は正反対に見えた方が騙しやすい。迫真の選挙戦を戦ったあと、ケリーはさっさと舞台を降りた。早すぎる「敗北宣言」がなければ、ケリーは危うく勝ってしまっていたことだろう。このときも、民主党は目立った抗議はしていない。
二つの大統領選挙で二大政党制のカラクリがかなり露骨に現れた。白熱しているように見えても、実際は同一政党の派閥間で争っているにすぎないということだ。何かがあれば、いつでもどのような調節も可能なのだ。重要なのは、二大政党制をこそ維持することなのだ。
不正の被害者だと思われていた人物は、有権者を裏切っていたのだ。被害者どころか、彼らは不正の共犯なのだ。
アル・ゴアは、昨年、「地球温暖化の認知を高めた」という理由でノーベル平和賞を受賞した。彼の啓発活動の代名詞ともなったドキュメンタリー映画『不都合な真実』は、イギリスの高等法院によって9つもの科学的な間違いを指摘されている。そのため、イギリスの教育機関では条件付でしか上映できない。その程度のものが代表作でしかないゴアが、ノーベル賞を受賞したのは別段驚くにはあたらない。
いずれ、ジョン・ケリーにもノーベル賞級の見返りがもたらされるのかもしれない。
アメリカ大統領選挙 : 30億ドルの茶番 : 資料編
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/0aebd5dac9d22fe3e171c7ccd0fe2f4d