報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

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主要メディアによるシリア、イランの悪魔化

2012年10月21日 13時40分37秒 | メディアリテラシー

すでに何度も書いているように、欧米のメディアが事実や真実を伝えることはない。
これらの機関は、あらかじめ決められた「仕様」に従って報道を製造しているにすぎない。
報道とはすべからく品質が保証された規格品であり、規格外の製品が流通することはない。
事実や真実とは、すなわち規格外であり、不良品として検品の段階で排除される。

元CNNレポーターの告発

CNNの元レポーターAmber Lyonは、ロシア・トゥデイ(RT)のインタビューで興味深い発言をしている。

アメリカの主流メディアは、シリアやイランなどの特定の国々だけを恒常的に悪魔呼ばわり[demonization:悪魔化]している。しかし、バーレーンやサウジアラビアでも同様の出来事が発生しているのに(これらの国々はなぜか非難されない)。主流派の放送局が、アメリカの方針に従順で、これらの地域に対するアメリカ政府の見解に追随することは、ジャーナリズム総体にとって実に有害なことだと私は考える。
There is constant demonization of Syria, Iran and other countries on the US mainstream media, but similar atrocities are happening in Bahrain and Saudi Arabia and I think this is an overall really harmful to journalism [sic] theme of these mainstream outlets following in the steps of US government and kind of shadowing how the US government feel about these areas.
2012.10.03  'Bahrain buys favorable CNN content'
http://rt.com/news/bahrain-favorable-cnn-content-538/


アメリカのネットワークによるシステマティックと思われるイランに対する恒常的な悪魔化が始っていることに、私は恐怖を覚える。
I fear that we are starting to see a constant demonization of Iran on US networks in what appears to be a systematic matter.
2012.10.03  'Bahrain buys favorable CNN content'
http://rt.com/news/bahrain-favorable-cnn-content-538/

 

Amber Lyonの発言にメディアの本質が簡潔に示されている。
事実や真実などどうでもよく、権力にただ従順なメディア群。

Lyonは、“規格外の不良品”のドキュメンタリーを制作したためにCNNを去ることになったが、こうしたジャーナリストがいまだCNNに残っていたことに驚きを感じる。

ただ、彼女の発言内容は報道関係者にとっては、特に目新しいものではない。しかし、報道界で生き残りたければ、事実や真実に対して積極的に目も耳も口もふさぐのが鉄則だ。トップメディアで働く栄誉や高給、厚遇を捨ててまで、事実や真実を追求しようなどという酔狂者は極めて稀だ。

まじない

誰しも高い志と崇高な信念を持って報道の世界に入るはずだ。しかし、ほどなくそんなものは捨てる方が賢明であることを学ぶ。何も考えず「仕様」に従って規格品を製造していればいいのだ。事実や真実などに目を奪われているようでは将来は保証されない。

かくして世界の報道は一定の品質保証がなされたすぐれた規格製品で満たされる。

報道機関が駆使する映像技術や編集技法、あるいは文章作法には、一定の黄金律がある。これによって、メディアは視聴者や読者を誘導したい方向や地点に的確に導く。カダフィ大佐やアサド大統領を悪として、「フリーダムファイター」や「自由シリア軍」を善として強く印象付け、確実に心理に固定する。報道は決して人々の理性には訴えかけない。感情に働きかける。理性は途中で方向を変えることがあるが、一度獲得した嫌悪や憎悪という感情はたいていのことでは変わらない。報道機関が駆使する黄金律は、人々の感情だけを刺激するテクニックだ。

ほとんどのニュースやドキュメンタリー、新聞雑誌記事はこの黄金律を踏襲している。報道は日々生産しなければならないから、そもそも独創性を追及するような余裕はない。大量生産するには鋳型が必要なのだ。

こうした黄金律は、長年の試行錯誤によって培われた、高い効果の期待できる洗練されたテクニックだ。時代の嗜好や感覚に合わせて多少変化するが、基本は変わらない。これは明文化されているわけではなく、組織的記憶として蓄積されている。

しかし、今日のような情報過多の時代にあっては、黄金も色あせる。いかに洗練された技法であっても、多用しすぎれば劣化する。メディアが駆使する技法は、実際はとっくに陳腐化している。それでもなぜか通用し続けている。それは一種のまじないのせいだ。まじないが解ければ、子供騙しの陳腐な手法が誰の目にも明らかになる。

どれだけ大掛かりなマジックでも、その仕掛けはアホくさくなるほど単純なものだ。しかし、タネがあるとわかっていても、決してそれを見抜けない。人の先入観や固定観念の裏をかいているからだ。だが、カラクリが解らないからといって、マジックを魔法と信じる人はいない。

報道も人々の固定観念や先入観を利用するが、そこには大前提が必要になる。報道の陳腐な手法が通用し続けているのは、『言論の自由』というバカバカしいまじないが効いているからだ。『言論の自由』という幻想をふりまいておけば、人びとは報道が真実を伝えていると勝手に思い込んでくれる。しかし、そんなものはこの地上のどこにも存在しない。魔法が存在しないのと同じだ。

人々にこの単純な思い込みがある限り、陳腐極まりない報道の操作誘導のテクニックは通用し続ける。世界の高名なメディアが一様にシリアやイランを「悪魔化(demonization)」すれば、それが真実として受け取られてしまう。まじないが利いている間は、魔法のように何でも信じてくれるのだ。

そして誰もいなくなった

今年の3月に、アルジャジーラのベイルート支局の特派員やディレクター、プロデューサーが次々と辞職した。理由は、シリアや中東報道におけるアルジャジーラの「偏向報道」に抗議するためだ。現場の人間には報道機関で何が行われているかは、考えなくてもわかる。信念に忠実であろうとすれば、いずれは報道機関から去らざる負えない。

発足当初のアルジャジーラは、臆することなく事実や真実を報じ続ける極めて希少な存在だった。そのため徹底した弾圧と制裁を受けた。バクダッド支局には精密誘導爆弾さえ飛来した。そして転向したアルジャジーラから、当初のスタッフは次々と去るか解雇された。ついには規格品だけを製造する月並みな報道機関に変貌した。アルジャジーラの顛末は、世界の報道機関に対する一種の見せしめだ。黙って規格品を製造していれば、頭上を気にする必要はない、と。

報道に何かを期待するのは無意味だ。
それどころか有害でしかない。

事実や真実を知りたければ、まじないから解き放たれればいいのだ。
『言論の自由』や『公正中立』、『不偏不党』などというつまらないまじないから。

 

参考資料

2012.10.03  ‘Bahrain buys favorable CNN content’
http://rt.com/news/bahrain-favorable-cnn-content-538/
2012.10.06  Major US media 'constantly demonizing' Iran, Syria: Ex-CNN reporter
http://www.presstv.ir/detail/2012/10/06/265217/major-us-media-demonizing-iran-syria/
2012.03.12  Al Jazeera exodus: Channel losing staff over ‘bias’
http://rt.com/news/al-jazeera-loses-staff-335/