報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

「民主化」される中東のゆくえ 1

2011年02月25日 12時11分02秒 | 『民主化』の正体

 予想だにしない出来事が続く。
 北アフリカから中東全域をつつみそうな反政府暴動の数々。
 メディアは、こうした暴動に対して「民主化」の文字を躍らせているが、
 なぜ何の躊躇もなく即座に「民主化」運動だと断言し、連呼できるのだろうか。

「民主化」とは何か

 20年前に「民主化」の先例がある。1989年にベルリンの壁が崩壊すると、東欧諸国が次々と「民主化」された。しかし、現在の東欧の有様を見れば、輝かしい「民主化」の正体が明らかになる。東欧の人々は、自由を与えられる替わりに、それ以外のすべてを奪われた。

 共産主義体制の東欧諸国は高度な社会福祉制度を整備していた。福祉、医療、教育に対する経済的負担はなく、失業も存在しなかった。しかし「民主化」後、西側の国際機関の指導による政治経済改革によって、福祉制度は破壊された。その結果、「民主化」後に発生した貧困層の病人や高齢者に対しては、ほとんど何の保証もない冷酷な社会が実現した。失業率は高い数字を維持し、賃金は低い水準を維持している。かつての特権階級がそのまま資源の大半を支配し、人口の大部分が貧困層に転落した。

 「自由」と「福祉」というのは、同時に成立させてはならない概念なのだ。自由を拒絶する者などいない。自由を得たければ、それ以外のものをすべて捨てなければならない。これが「民主化」と呼ばれるものの隠れたルールだ。「民主化」される人びとはそんなルールなど知るよしもない。いままで空気のように享受してきた福祉が、「民主化」後にことごとく奪われるなどとは夢にも思っていなかったはずだ。

 全東欧の住民は「民主化」の犠牲者だ。かつての特権階級は「民主化」の受益者だが、それ以上の受益者がいる。外国の企業だ。「民主化」と同時に、市場原理が導入された東欧諸国では、国際機関の指導により国営産業の大半で整理が行なわれた。つまり、大量の失業者を生み出した。別の見方をすれば、低賃金の労働力が大量放出された。しかも、労働力としてはたいへん質が高い。労働力の大バーゲンセールだ。当然、多くの多国籍企業が東欧諸国に進出し、この低賃金労働をフルに活用して、利益の拡大をはかった。その結果、東欧諸国のGDPは押し上げられ、「民主化」の大成果のように宣伝されている。しかし、国民の生活向上にはほとんど寄与していない。労働者の賃金を上げれば、外国企業の利益を圧迫する。

 おまけに、東欧諸国の人びとが待ちわびた自由も、結局のところ、制限された自由でしかなかった。EU圏の多くの国が、東欧からの移民労働に制限を加えている。低賃金で働く東欧からの移民は、自国労働者の雇用を奪う。移民排斥運動や政府批判など社会不安につながる。EU圏が謳う移動の自由は、絵に書いた餅でしかない。東欧諸国の住民は、決して移動の自由を行使せず、自国に留まって低賃金労働を外国企業に提供するべきだ、というのがEUの本音なのだ。ただし、EU諸国で労働力が不足したときだけは調子よく招き入れ、必要なくなれば追い返す。

 輝かしい「民主化」が東欧の人びとにもたらしたものは、不安定で何の保証もない、ぎりぎりの生活環境だ。「民主化」以後、東欧やロシアの平均寿命は低下している。よくても現状維持だ。

 こうした「民主化」の輝かしい先例を概観すると、現在、北アフリカから中東で進行している事態のゆくえも察しがつく。

できすぎた展開

 今回の出来事の発端は、チュニジアでの一人の若者(Mohammed Bouazizi)の焼身自殺だとされている。しかし、抗議の焼身自殺がこれまでイスラム社会でなかったわけではない。それが今回だけ、大統領を逃走させるほどの暴動に発展したというのは少し不自然ではないだろうか。そんな先例はどこの社会でも聞いたことがない。

 メディアも、たった一人の焼身自殺によって、大規模な暴動が発生し、大統領を逃走させ、それが他国にまで波及したということを信じているとは思えない。そんな話は荒唐無稽というしかない。しかし、そういうことになっているので、メディアはそのように報道しなければならない。メディアは、不自然さが露にならないよう工夫しながら報道している。メディアの腕の見せ所であり、メディアとはそのためにこそ存在する、操作のプロフェッショナルなのだ。作為のある出来事もメディアの手にかかれば、違和感のないごく自然な出来事という印象を与える。

 メディアはこう解説する。イスラム教では自殺を禁じている。また、体は来世のために必要なので火葬を行なってはならないとされている。このようなイスラム世界で、自らの体を焼いて死ぬというのは、極めて異例な行為だ。厳格な戒律を、いわば二重に破ってまで自らの体に火を放ち、政府に抗議した青年の激しい思いに、イスラムの人々は強い衝撃を受け、事態を重く受け止め、そして、腐敗した独裁政府への抗議に立ち上がったのだ、と。まるで、風が吹けば桶屋が儲かる式の説明だ。結局これは何も説明していない。

 青年の焼身自殺、暴動、そして大統領の逃走、この三つの出来事の空隙を、それらしい積み木細工で埋め、スムースな流れを作っただけだ。

 しかし、メディアの手にかかると、単なる積み木細工にも臨場感と信憑性が添加される。もともと世界中の人びとは、心の中にこうしたファンタジーを受け入れる体勢が準備されている。一人の若者の絶望的な憤死が、人びとの心を動かし、ついには独裁者を打倒したのだ、という展開は、世界中の誰もが好む黄金のスーパー・ファンタジーなのだ。

 今回の事態が偶発的な出来事だと考えるには無理がありすぎる。報道を順番に並べてみると、いかにも自然な流れのように見える。しかし、あまりにも自然すぎる。役者がきちんと配置され、展開にまったく無駄がない。無駄がなさすぎる。

 チュニジアのベンアリ大統領はBouaziziの死亡後、たった10日後に国を逃亡した。エジプトのムバラク大統領はもう少しがんばって、暴動発生から18日後に辞任した。あまりにも展開がスムースかつコンパクトにまとまりすぎている。彼らは、23年、あるいは30年も独裁体制を維持してきたのだ。それがたった10日や18日で、ほとんど抵抗らしい抵抗もせず自ら退いたのだ。暴動以外の要素がなければ、こんなすばやい決断はできない。

フェイスブック、ツイッターは隠れ蓑

 この出来事の重要な配役に、フェイスブックやツイッターがある。これらが本当に何らかの役割を果たしたと証明するものは何も提示されていない。メディアがそう主張しているだけだ。もちろん、何らかの痕跡はいたるところにあるだろう。しかし、それらが実際に効果を発揮したという証明にはならない。フェイスブックやツイッターが歴史を変えた、とメディアが盛んに喧伝すれば、人びとは簡単に信じてしまう。こうしたツールには、もともとそうした幻想を抱かせるものがある。これも人びとが受け入れやすいファンタジーの一つだ。

 ブログが世界中で流行したとき、ブログが世界を変えると盛んに吹聴された。ブログが既存メディアの脅威になるとか、あるいは駆逐するという論評さえたくさんあった。しかし、いま、そんな与太話を信じる者はいない。ブログやフェイスブック、ツイッターなどが登場すると、決まって過剰な評価がなされる。しかし、実際は、ささやかな意見表明や友人間の交流、ビジネスの販促やクレーム処理に一定の効果があるという程度のツールにすぎない。

 今回の中東「民主化」運動の原動力となったのがフェイスブックやツイッターだとしたら、こうしたツールの先進的利用国で何も起こらないのはいったいなぜだ。チュニジアやエジプトが欧米よりもSNSの活用先進国だとは思えない。そもそもこうした国では、一家に一台パソコンがあるわけではない。たいていの人はネットカフェまで出かけなければならない。家庭のパソコンなら一日に何十回でもネットにアクセスできるが、ネットカフェに一日何十回も通う者などいない。

 ただ、途上国でも携帯電話の普及率は高い。しかし、ネット接続できる機種の普及率となるとあやしい。貧困層が購入する主要機種はノキア製のNokia1100だ。これは途上国を中心に2億5000万台も使用されている驚異のベストセラー機で、携帯電話のAK-47と評されたりしている。安くて丈夫で長持ち。この機種の機能はいたってシンプルで、通話とテキスト送信のみだ。いったいどれだけの人が携帯電話でフェイスブックやツイッターにアクセスしたのか、大いに疑問だ。

 メディアは、長期独裁政権を短期間で崩壊させるほどの群集を、瞬く間に結集させた手柄を、フェイスブックやツイッターに担わせようとしているだけなのだ。それは、群集が結集した本当の要因を覆い隠したいからだ。

 先例に学ぶならば、大規模な動員を短期間で可能にするのは軍隊だけだ。エジプト軍の総兵力は45万だ。蜂起の最中、エジプト軍は群集に発砲していない。軍が群集に味方したように見えるが、軍が群集を動員したのなら発砲するわけがない。軍隊が群集を守っているように見せれば、誰もが安心して群集に参加する。軍は最初の数万人程度を自前で動員すれば、あとは群集がさらなる群集を呼ぶ。もし、軍が群集を集めたとなれば、それはただのクーデターということになる。それでは世界は納得しない。大群衆を動員した主体を隠すために持ち出されたのが、フェイスブックやツイッターだ。

 政府に抗議する人びとはフェイスブックやツイッターを存分に活用し、広範に街頭参加を呼びかけ、多くの人びとがその声に呼応し、瞬く間に抗議の輪が広がった、という筋立てはとても分かりやすく、受け入れやすい。そして、軍部は民衆の運動を静かに見守り続けた、という設定にすれば、クーデターと違って、どこからも文句のでない美しいファンタジーが完成する。

独裁者の賞味期限

 有能な独裁者も永遠に独裁を続けられるわけではない。マルコス、スハルト、モブツなどの独裁は一代限りで終わっている。独裁体制は世襲には向いていない。独裁者が高齢になれば、独裁に代わる別の支配体制が必要になる。それが「民主化」と呼ばれるものだ。独裁が終わる以上、以前よりもマシなものに移行したと思わせなければ、誰も納得しない。もちろん、「民主化」後も支配の構造が根本的に変化するわけではない。

 東欧の例でも明らかなように、「民主化」によって国民生活が改善された例はない。独裁終了後のフィリピンやインドネシアでも国民生活は改善されていない。GDP成長と国民生活の質とは別物だ。外国企業が進出して、低賃金労働を利用して生産を行なえばGDPは上昇する。しかし、賃金まで上昇させてしまったら外国企業は別の国への移転を考える。GDPが上昇しても、決して国民の所得水準を改善してはならないのだ。

 独裁政権の終焉は、積もり積もった国民の憤懣を利用すれば簡単に実現できる。インドネシアのスハルト大統領は30年間独裁者として君臨したが、たった一週間の暴動であっさり辞任した。誰が暴動をコントロールしているかを彼はすぐに悟ったのだ。決して民衆が暴動を起こしたのではない。背後で軍隊が組織的に行動して、暴徒による破壊や略奪、放火をコントロールしていた。スハルトは成す術もなく短期間で辞任を決断するしかなかった。表面上、民衆が独裁を終わらせたかのように演出していただけだ。一族で8兆円とも言われる資産を築いたスハルトだが、パペット以上の存在ではなかった。辞任後は、死の直前まで法廷に引きずり出される被告の身分だった。8兆円は何の役にも立たなかった。

 エジプトではムバラク大統領辞任後、軍部が政権を掌握していることに、国民は異議を唱えていない。独裁政権と共に歩んできた軍部が、なぜ民主的政府を作ると信じられるのだろうか。新国家体制を作るためのプロセスへの参加を要求する市民もいない。結局のところ、群集が群集を呼んだだけで、次のステップなど誰も考えてはいない。これがメディアの言う「民衆革命」か?民衆は主役ではなく、単なるエキストラとして体よく街頭におびき出されただけなのだ。ムバラク大統領が去ったあとは、軍部が堂々と表舞台に出て暫定政権を掌握している。

 世界中のメディアも、独裁政権と共に歩んできた軍部が、暫定統治をしていることに、ほとんど異議を唱えてはいない。本当の民主化を望むならば、こうした軍部を新国家体制へのプロセスから排除しなければならない。しかし、そんな声はどこからも聞こえてはこない。ここには触れてはならないのだ。何から何まで最初からのお約束なのだ。

グランドデザイン

 この見え透いたお約束のはじまりはブッシュ政権までさかのぼる。イラク戦争以前から、中東「民主化」の構想は進行していた。長期独裁によって硬直化した体制を、より融通の利く体制に移行するには東欧で実証された「民主化」を適用することだ。

ブッシュ米大統領は2003 年2 月26 日、ワシントン市内のホテルで保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」(AEI)の会合で講演し、米軍がイラク戦争となってもその後も必要な限り残留し、同国の民主化を足掛かりにアラブ諸国の改革を目指すことを明らかにしている。この講演は、米国のイラク開戦の目的が、フセイン政権の転覆及び大量破壊兵器の廃棄に加えて、中東地域の民主化にあることを打ち出した点で注目された。

ブッシュ大統領は……「中東諸国では、西は北アフリカモロッコから東は湾岸のバハレーンまで、政治改革への胎動が窺がえるが、新制イラクは中東諸国にとって自由の好例となる」として、力説することでアラブ・中東世界全体への波及効果を強調している。
p3 資料3 「中東の民主化と石油情勢」 外務省 2003.10.29
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/komoken-siryou-3.pdf

 北アフリカのモロッコから湾岸のバーレーンまでとは、まさにいま揺れている地域そのものだ。ブッシュ大統領の発言に、当時、こうした地域の指導者たちは、少なからず震撼したようだ。

一般には、イラク問題でブッシュ政権が唱えた「レジーム・チェンジ」(Regime Change)は「イラク政権の転覆」と理解されているが、これらの人々(中東諸国の政治評論家や知識人達は)「中東の(既存の)体制の変革」を意味するものではないかと疑っている。つまり、ブッシュ政権が、イラクのサダム・フセイン政権の転覆を手始めとして、湾岸・中東の既存政権の変革、即ち、米国流の民主化に着手して来ると見ているわけである。
p3 同上

 北アフリカ・中東・湾岸諸国の疑念は、今、まぎれもなく現実化し始めている。ということは、この地域の指導者たちにとっては、すでに選択肢はないということだ。米軍占領下のイラク国民が闇雲に殺戮され続けている理由がここにある。米軍は、女性や子供、老人であろうとも、残忍な方法でいくらでも殺戮することができる、というメッセージを中東全域の指導者に放っている。「民主化」か、それとも「イラク化」か、どちらでも好きな方を選べ、と言われれば答えは決まっている。 

米国のコンドリーザライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は2003年8月7日付けのワシントン・ポスト紙に「中東の変革」(Transforming the Middle East)と題する一文を寄稿し、新生イラクの創設を奇貨として第二次世界大戦後の欧州のように米国を中心とする諸国が協力して中東の民主化等を進めようと提唱している。
p4 同上

 現在、暴動が波及している地域は、ブッシュ大統領が言及した地域と完全に一致している。アフリカ大陸には、腐敗した政権はいくらでもあるのに、北アフリカ以南の地域には波及していない。それは不思議でも何でもない。

 今回の事態は、民衆による自然発生的な行動などではない。緻密に計画され、周到に準備されたものだ。だからこそ無駄なく展開され、短期間で決着が着いているのだ。 

 世界のメディアが、暴動発生直後に何の躊躇もなく、即座に「民主化」運動だ、「民衆革命」だ、などと連呼できたのは、はじめからそうした筋書きであることを察知していたからだ。世界中の人びとをファンタジーで幻惑し、望む方向に巧みに誘導するのが彼らの使命だ。メディアの巧妙な操作誘導の手練手管の中に、いまわれわれはいる。



「民主化」される中東のゆくえ 1 : 資料編
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/410ef324e0560810b835c813d8839931


「民主化」される中東のゆくえ 1 : 資料編

2011年02月25日 12時10分25秒 | 『民主化』の正体

ブッシュ政権の中東戦略

2003.10.29  資料3 「中東の民主化と石油情勢」 財務省
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/komoken-siryou-3.pdf
2003.08.07 Transforming the Middle East  by Condoleezza Rice, Washington Post
http://www.iraqwatch.org/government/US/WH/us-wh-rice-wp_oped-080703.htm
ワシントンポスト、オリジナル記事(有料)
http://pqasb.pqarchiver.com/washingtonpost/access/380315711.html?FMT=ABS&FMTS=ABS:FT&date=Aug+7%2C+2003&author=Condoleezza+Rice&pub=The+Washington+Post&edition=&startpage=A.21&desc=Transforming+the+Middle+East

チュニジア情勢

2011.01.05  Tunisia suicide protester Mohammed Bouazizi dies
http://www.bbc.co.uk/news/world-africa-12120228
2011.01.10  警察側発砲で20人死亡か チュニジアのデモ  http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011010901000540.html
2011.01.13  チュニジア首都に夜間外出禁止令 地方の暴動が拡大  http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011011301000218.html
2011.01.14  大統領、3年後の退任を表明 チュニジア、デモ沈静図る  http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011011401000024.html
2011.01.15  チュニジア政権崩壊、大統領出国 邦人団体百人超足止め  http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011011401000024.html
2011.01.16  Tunisia's protests spark suicide in Algeria and fears through Arab world 
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jan/16/tunisia-protests-suicide-algeria-arab?INTCMP=ILCNETTXT3487
2011.01.16  チュニジア下院議長が暫定大統領に、政権崩壊で混乱広がる  http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-19034620110116
2011.01.16  政変は「ジャスミン革命」 ネットで命名  http://sankei.jp.msn.com/world/news/110116/mds1101161131002-n1.htm
2011.01.19  ジャスミン革命とフェイスブック
http://www.yomiuri.co.jp/column/kenkyu/20110119-OYT8T00322.htm
2011.01.20  Tunisian army fires warning shots at protesters  http://www.guardian.co.uk/world/2011/jan/20/tunisian-army-warning-shots-protesters
2011.01.21  Bouazizi:The Man Who Set Himself and Tunisia on Fire  http://www.time.com/time/world/article/0,8599,2043557,00.html
2011.01.27  チュニジアが前大統領を国際手配、27日に内閣再改造へ  http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-19223520110127
2011.01.31  チュニジアのイスラム政党指導者が帰国、亡命先から22年ぶり  http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-19285820110131
2011.02.10  パリに「ブアジジ通り」 ジャスミン革命の引き金  http://www.47news.jp/news/2011/02/post_20110210061901.html
2011.02.18  チュニジアのベンアリ前大統領、意識不明か  http://www.afpbb.com/article/politics/2785951/6832081
2011.02.21  チュニジア首都で首相辞任求めデモ 4万人  http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011022001000519.html
2011.02.22  前大統領側近ら33人尋問、千人以上を逮捕 チュニジア  http://www.cnn.co.jp/world/30001573.html

エジプト情勢

2011.01.28  戦士エルバラダイ「エジプトの暗黒」を語る  http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2011/01/post-1939.php?page=1
2011.01.29  エジプト大統領、退陣要求を拒否 全閣僚更迭、治安対策強化  http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011012901000079.html
2011.02.01  エジプト、「百万人の行進」始まる 
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2784135/6761421
2011.02.01  グーグル、電話からツイッター エジプト向け新サービス  http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011020101000497.html
2011.02.01  GoogleとTwitter、ネットなし接続をエジプトに提供  http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/world/gooeditor-20110201-01.html
2011.02.01  エジプト、最後のネット接続業者停止 国際電話で利用も  http://www.asahi.com/international/update/0201/TKY201102010424.html?ref=goo
2011.02.01  エジプト軍「民衆に武力行使しない」 
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2784042/6759541
2011.02.02  エジプト、ムバラク大統領退陣へ 9月選挙に不出馬表明  http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011020201000015.html
2011.02.04  悪化する治安…警察当局が扇動か「わざと略奪放置」  http://sankei.jp.msn.com/world/news/110204/mds11020407380005-n1.htm
2011.02.09  デモ隊の英雄になったグーグル幹部  http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2011/02/post-1959.php
2011.02.12  エジプト・ムバラク大統領が辞任、軍が全権掌握  http://www.afpbb.com/article/politics/2785135/6803229
2011.02.12  ムバラク大統領が辞任=エジプト革命、18日目で成立-軍最高評議会が全権掌握 
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201102/2011021200022
2011.02.12  ムバラク大統領辞任 軍が権力掌握  http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011021101000028.html
2011.02.14  エジプト軍が議会解散、大統領選まで半年めどに暫定統治  http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-19514620110213
2011.02.14  エジプト軍最高評議会、議会解散と憲法停止を発表  http://www.afpbb.com/article/politics/2785190/6811188
2011.02.15  ムバラク前大統領、健康悪化の可能性 駐米大使が明かす  http://www.afpbb.com/article/politics/2785457/6810920
2011.02.22  ムバラク前大統領の財産を巡って高まる圧力軍との取引で一族は追及を逃れる? 
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5503?page=3

周辺国への拡大

2011.01.17 北アフリカで焼身自殺相次ぐ チュニジアに触発か http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011011701000985.html
2011.01.18 アラブ世界で焼身自殺が流行? http://www.newsweekjapan.jp/foreignpolicy/2011/01/post-218.php
2011.01.18 チュニジアのデモが周辺国に「飛び火」、抗議の焼身自殺相次ぐ http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-19066620110118
2011.01.20 チュニジア新内閣に国民から不満の声、改造求めデモ相次ぐ http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-19110620110120
2011.01.23 アルジェリアで警官隊と衝突 野党デモ、49人負傷 http://www.47news.jp/CN/201101/CN2011012201000607.html
2011.01.23 アルバニア反政府デモが激化、3人死亡で治安部隊兵に逮捕状 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-19147820110123
2011.01.24 イエメン反政府デモで19人逮捕、チュニジアに触発 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-19151620110124
2011.02.02 ヨルダン国王が新首相を指名、国内の反政府デモ受け http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnJT883471420110201
2011.02.09 イラン、ネット検閲に立ち向かうユーザーたち http://www.afpbb.com/article/politics/2784855/6768793
2011.02.13 アルジェリアでも反政府デモ、当局が多数拘束との情報も http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-19513820110213
2011.02.13 バーレーンの各世帯に22万円、国王が命じる http://www.afpbb.com/article/politics/2785159/6808326
2011.02.15 中東・北アフリカに広がる混乱、国別の状況は今 http://www.cnn.co.jp/world/30001807.html
2011.02.16 アラブ版「ベルリンの壁」崩壊 http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110214/218409/?P=2
2011.02.17 リビア、デモの強制排除で死傷者 http://www.afpbb.com/article/politics/2785949/6829484
2011.02.17 警官隊がデモ隊を襲撃、少なくとも3人死亡 バーレーン http://www.cnn.co.jp/world/30001837.html
2011.02.17 抗議デモがリビアに飛び火、中東各地も混乱続く http://www.cnn.co.jp/world/30001831.html
2011.02.18 バーレーン反政府デモ、激化すれば近隣国の軍事介入も http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2786012/6832833
2011.02.19 サウジでシーア派がデモ
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date4&k=2011021900269
2011.02.19 ジブチでも反大統領デモ
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date4&k=2011021900011
2011.02.19 デモ隊への暴力非難=バーレーン国王に自制要求-米大統領 http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date4&k=2011021900057
2011.02.19 中東各地で死傷者=イエメンで大規模デモ、衝突-バーレーン部隊が発砲 http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date4&k=2011021800948
2011.02.19 民主化デモ、クウェートに「飛び火」=無国籍住民が治安部隊と衝突 http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date4&k=2011021900009
2011.02.20 リビアのデモ死者約200人か、宗教指導者ら「同胞殺すな」 http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-19632120110220
2011.02.21 カダフィ大佐次男 「反体制デモは外国の策略」、首都でも衝突 リビア http://www.afpbb.com/article/politics/2786514/6845525
2011.02.21 モロッコでも政治改革求める数千人デモ、フェイスブックで呼びかけ http://www.afpbb.com/article/politics/2786513/6845521
2011.02.21 イラン、首都で大規模デモ封じ込め 警察官を多数動員 http://www.afpbb.com/article/politics/2786616/6846332?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics
2011.02.21 カダフィ大佐の次男がテレビ演説で改革明言、デモには徹底抗戦 http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-19635320110221


「民主化」後の東欧の状況

2001.03 人口問題に関する総論と課題
http://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/archives/jica/kyakuin/pdf/200103_02.pdf
2003冬 中・東欧の経済発展と外資の役割 http://www.iti.or.jp/kikan54/54tanakan.pdf
2007.01.   移行諸国の抱える問題点 体制転換後16年 早稲田大学
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00234698-20070100-0121
2007.03 中・東欧諸国に関する研究会  国際通貨研究所(財務省委託)
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/tyousa/1903chuutouou_01.pdf
2007.05 人の自由移動政策― 労働移民と国境管理 ― http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2007/200705/129-142.pdf
2009.10.24 Living standards continue steep fall in Eastern Europe
http://www.wsws.org/articles/2009/oct2009/east-o24.shtml
2010.04 中東欧諸国における福祉枠組みの再編 北大
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/slavic_eurasia_papers/no2/03sengoku.pdf
2010.10.23 中東欧の資本主義化と生活保護システムの変容:1989年以後の奇跡 金沢大学
http://wwwsoc.nii.ac.jp/roto/2010horibayashi.pdf

その他
2011.01.02 The AK-47 of the Cell-Phone World http://www.foreignpolicy.com/articles/2011/01/02/ideas_the_ak_47_of_the_cell_phone_world
2011.02.21 米政府はツイッターで中東の若者と連携を、クリントン国務長官 http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/it/2786600/6846061

参考図書

『貧困の世界化』 ミシェル・チョフドフスキー  つげ書房新社
『アメリカ帝国への報復』 チャルマーズ・ジョンソン 集英社


情報共有の幻想

2011年02月01日 20時22分52秒 | メディアリテラシー


 情報の共有によって、世界は変わるのだろうか。
 もし、そうなら、世界はとっくに変わっていなければならない。
 しかし、世界の情勢は悪くなる一方に見える。
 情報の共有がいまだ不十分だとは思えない。

過大な期待

 インターネットの普及によって、情報へのアクセスは飛躍的に向上した。パソコンは、もはやラジカセ並みの家電製品だし、通信費は、読む価値のない新聞の購読料を充当すれば、余分な出費はいらない。新聞は一紙しか配達されないが、インターネットなら国内外のメディアを好きなだけ閲覧できる。

 紙媒体と電子版とでは情報量が違うなどと言うが、メディアの使命は人々の考えを都合のよい方向に操作し、誘導することなのだから、操作される側にとっては分量などどうでもよいことだ。電子版は少ない文字数で同じ効果を生もうとするので、かえって意図が透けて見えやすい。

 機器と接続料の価格低下で、いまやインターネットの普及は十分達成された。誰かが他者に伝えたいと望む情報は、ブログやSNSによって手軽に公開できるようにもなった。そのためネット上には情報が分厚く折り重なって浮遊しているが、丹念にふるいにかければ、たいていの情報にたどり着ける。

 情報へのアクセスと情報の共有が容易になったにもかかわらず、世界の状況は逆にどんどん悪くなっている。情報の共有が足りない、と考えるのは妥当ではない。すでに、十分共有されている。

 使用する側がインターネットというシステムに過大に期待しすぎてしまったのだ。インターネットの黎明期、誰もがそうだったはずだ。

人間の進歩は、情報の普及と同時に進む。したがって、情報の民主化が、社会と政治に膨大な影響をおよぼすのは明らかである。
 こういうネットワークに参加して、情報を即座に入手できる人と、そのノウハウを持たない人との差は決定的になるだろう。インターネットはここ三年間で、すでに官僚たちにとって二一世紀の悪夢のような存在になっている。……。インターネットの発達が先取りしている未来は、官僚による情報独占の崩壊である。
p53-54 『日本は甦るか』 ピーター・タスカ

 この本が発刊されたのは1994年だ。インターネットに対する過剰な期待も無理はない。3年後に発刊された本でも、彼はコンピュータの普及に大いなる期待をよせている。

 また、コンピュータが増加することによって、相互作用の機能がますます強くなる。情報の発信者と受信者の関係がガラリと変わることは容易に想像できる。二〇世紀の技術環境のなかで育成されたマスコミ社会で、一般の人々は情報の受け手でしかなかった。他方、情報を処理して送るのはエリートたちである。その構造が変わるのは、何も政治的な圧力のためではなく、もう目の前にあらわれてきた技術の革新による圧力のためなのである。
p101 『不機嫌な時代』 ピーター・タスカ

 残念ながら彼の期待とは裏腹に、いまだ「官僚の悪夢」は到来していないし、情報の発信者と受信者の関係にも構造的な変化は起こっていない。

 インターネットとパソコンの普及は、箒が掃除機に、馬車が車に代わったように、人間生活をより便利にしたというにすぎない。家電製品は家事労働を軽減し、車は目的地へのアクセスを容易にしたが、人間や社会の本質を変化させたわけではない。情報へのアクセスも、人間存在の本質を変えたりはしていない。

 ある有意な情報を得たからといって、さっきまでの自分と何かが変わるわけではない。単にひとつの情報を閲覧しただけだ。情報化時代の今日、次から次へと新しい情報が飛び込んでくる。それを消費するだけで現代人は手いっぱいだ。あふれる情報を放っておけない。消費しなければ乗り遅れるのではないかと、不安なのだ。どれだけ有意な情報が飛び込んできたとしても、消費した後は過去へ押し流されていく。

 ある特定の情報を広く流布すれば、世界の人々の意識が変わる、などという魔法のような情報はこの世には存在しない。情報を共有することに特別な意味はない。すでに、情報はわれわれの周りにあふれ、十分共有されている。情報の共有がもたらす効果とは、過剰な期待が生んだ幻想なのだ。

 発信される情報の量や頻度・範囲は問題ではない。問題があるとすれば、人間存在の不変性だ。情報の発信・受信という行為が、人間存在に変革を与えることはないのだ。

 捏造報道発覚の事例によって、人間存在の一面を知ることができる。露骨な捏造報道の事例が暴露されても、人々の認識に変化は生じない。怒りを感じる人もいるが、大部分の人々の意識には影響を与えない。捏造はごく特殊な事例だと認識され、メディアへの信頼感はたいして揺るがない。それよりも、サダム・フセインが完膚なきまでに粉砕されたことを人々は喜ぶのだ。いわれのない戦争によって、100万人もの死者が出たことにも動じない。極悪フセイン打倒という崇高な信念は何ものにも動じないのだ。一片の事実に触れた程度で、人間の信念を変化させることはできない。

 つまり、誤った信念さえ植えつけることができれば、あとは何でも可能なのだ。
 都合の悪い情報がネット上を飛び交っていても、決して脅威とはならない。
 問題は、人間が誤った信念に取り付かれやすいことにある。

信念という固定観念

 信念というのは驚くほど堅牢にできている。それが他者から植え付けられたものであったとしても、本人には自覚はない。それは、自身が判断した、自身の一部として機能する。信念は、上書きを繰り返されることによって強化される。日々接触するメディアの報道ほど、信念の形成と強化に適したものはない。

 自身の信念と信じているものの大部分は、外的に植え込まれたものだ。しかし、一度自身で判断したと思い込んだものは、信念として精神世界の中で不動の地位を占める。ポイントは、人から押し付けられたものではなく、自分自身で判断したと思い込ませることだ。

最も単純な刺激は極めて早い反応を起こすので、脳の他の領域は刺激があったことに気付く時間さえな(い)。……信念についても同じことが言える。強くて単純な信念ほど、その認知ウェブの活性化が意識的注意にまで及ばないため、疑うのが難しいのである。
p180-181 『洗脳の世界』 キャスリーン・テイラー

感化の専門家は、自動的思考、すなわち、われわれがすべての状況を最初から検討する努力を省くことのできる法則を利用するための多くの方法を開発している。(中略)それらは……、政治家や他の感化の専門家によって日々利用されており、彼らはわれわれが彼らの主張を注意深く考えない方がよいと思っているのである。
p181 同上

「考える」が意識的に考えることを意味するのであれば、われわれの行動のほとんどは考えることなく実行される。
p181 同上

 信念というのは、自覚されることなく、ほとんど無意識に実行される。あなたの信念は?と訊かれても答えられる人はほとんどいない。それは意識の中に分散して存在し、人間の行動を深く支配している。こうして見ると、信念と呼ばれるものは、先入観や固定観念の一種にすぎないことが分かる。

 一度形成された信念は、ほとんど不動と言ってよい。内的・自発的に信念の変更が行なわれることは極めて稀だ。外から植え込まれたという自覚がいっさいないため、変更の必要性をまったく感じない。たとえ信念とはそぐわない事実に遭遇しても、それは現実の方が間違っているのだと判断される。

 ただし、外的に信念を変更することは可能だ。外敵による危機、あるいは大規模な経済危機のような大激震を与えればよい。

 自国が戦争に参加することを望む国民はいない。そうした非戦的機運が一回の武力攻撃で反転した例は多い。「ルシタニア号事件」、「パールハーバー」、「トンキン湾事件」などを契機にアメリカ国民の意識は参戦に大きく傾いた。許しがたい卑劣な攻撃とされている、こうした事件には、正史に反する事実が数多く提出されるのが常である。

 信念は外的に入力し、その後外的に変更することも可能だが、本人が勝手に変更したり、解消してしまう危険は極めて低い。捏造報道の発覚程度では、信念は決して揺るがない。ましてや、ネット上の情報を閲覧したくらいでは、信念は微動だにしない。

 ただ、激震を受けなくとも、既存の信念間のジャンプはまれに見られる。左派から右派へ、右派から左派へなど。一見極端な現象に思えるが、既存の範疇を行き来している限りは、とりたてて脅威とはならない。

 体制にとって最も不都合な存在とは、既成概念に囚われず自由に思考する人々だ。そうした人々を放っておくと、自身で物事の本質にたどり着いてしまうかも知れない。たとえたどり着かなくても、操作され誘導されることが少ない。こうした人々の増加は居心地の良いものではない。しかし、その心配はほとんどない。メディアは十分すぎるほど機能し、人々を手なずけ、囲い込んでいる。メディアは、みなさんはわざわざ自分の頭で考える必要はありません、みなさんの代わりに考えてくれる人がちゃんと別にいます、と日々アナウンスしている。

そよぐ思考

 たいていの社会では、考えるのは専門の人々の仕事であるされている。そうした専門家が提出したものの中から、一般の人々は「自由に」選択すればよい。われわれはそのように条件付けられてきた。しかし、選択肢が最初から限定されていれば、結果は最初からコントロールされているも同然だ。選択する意味はもともとないのだ。何を選んでも結果は同じだ。それが、民主主義のカラクリだ。期待は常に裏切られるようにできている。われわれは、いままさにそれを目撃している最中だ。

 もし、未来のために本当に何かをしたいと願うなら、われわれ一人ひとりが自由に思考する存在でなければならない。誰かに考えてもらって、それを支持すればよいなどという考えを持つべきではない。他者の意見はどれだけ優れているように見えても、それはあなたの意見ではないのだ。一つの事象を1000人が観察して、1000の見え方があって何の不都合もない。観察と判断を人まかせにしている限り、未来はわれわれの手にはない。誰よりもまず、自分自身が自由に思考する存在でなければならない。

 物事の本質を見抜くために必要なのは、豊富な知識ではなく、外的に植え付けられた信念や先入観、固定観念に囚われない、柔軟な思考力と発想力を取りもどすことだ。思考するのは答えを出すためではない。単純に解答や正解を求めると、結局のところ、誤った信念に陥る。解答も正解もないと考えれば、誤った信念に取りつかれることはない。

 揺るがない信念などというと、良いことのように受け取られるが、それは思考が停止している状態にすぎない。信念とは個人的真理であり、それ以上思考する必要はないのだ。たいていの信念は、単なる頑固や頑迷にすぎない。そんな不動の信念は、生きるうえで害毒でしかない。信念など持つべきではないのだ。常に、柔軟に思考し、発想し、この世界を捉え直しながら進む方が安全だ。

 メディアの垂れ流す情報に誘導され、それほど考えることもなく、ただ流れに沿って判断を下したものが、信念というものの正体だ。しかし、信念は、安直にひねり出されたか、時間をかけて下されたかに関係なく、不動の存在なのだ。そう、ポイントは、自分で判断したと思い込ませることだ。

作家ラ・ロシュフコーが指摘しているように、「誰でも自分の記憶には不満を言うが、自分の判断に不満を言う人はいない」。
p166 『洗脳の時代』 キャスリーン・テイラー

 メディアは、人々を囲いの入り口に向かって誘導するが、囲いの中までは追い込まない。しかし、囲いに入らないという選択肢が与えられているわけでもない。ほとんどの人が自分の判断で囲いに入る。囲いに入ることで自由を奪われることになっても、自分が下したものは正しい判断だと認識される。人々を考えたような気分にさせ、自分で判断を下すように誘導するのだ。自身で判断させたものは、ほぼ間違いなく信念として永続する。

 揺るぎない堅固な信念を持つよりも、柔軟にそよぐ思考力を持つ方が、はるかに人生に可能性を与えてくれる。柔軟な思考は、常にしなやかで決して折れない。堅牢な信念は、都合によって叩き折られ、差し替えられる。

 情報の共有が意味を持つとしたら、それは、一人ひとりが自由な思考と発想を取りもどしたあとだろう。




参考図書
『日本は甦るか』 ピーター・タスカ 講談社
『不機嫌な時代』 ピーター・タスカ 講談社
『洗脳の世界』 キャスリーン・テイラー 西村書店