※写真はすべて2013年撮影
昨年11月に、ステープ元副首相率いるPDRC(People's Democratic Reform Committee)は大規模な反政府運動を開始した。
おおかたの予想は、数週間程度で軍が動いて決着するだろうというものだった。
つまり、インラク政権は早々に終了すると。
しかし、西暦の新年から旧正月(春節:Chinese New Year)を経て、タイ正月(ソンクラン:4月13~15日)もすぎた。
三つの正月を経て、いまだ決着がつく気配はない。
タクシン派インラク政権と反タクシン派PDRCは微妙な均衡状態にある。
どちらも決定打を欠き、迂闊に駒を動かせない。
しかし、PDRCに対する手榴弾攻撃が後を絶たず、死者の数が増えるにつれ、観光立国タイのイメージは大きく損なわれた。東南アジアをめざす外国人観光客はタイをすり抜け、隣国のラオスなどに流れた。このまま政情不安が続けば、経済は停滞し、国民のフラストレーションは高まるだろう。
ただ、タクシン派インラク政権と反タクシン派PDRCとの戦いの形勢は、PDRCが有利だ。憲法裁判所は、インラク首相による違法人事を審査中であり、首相は失職する可能性がある。また、国家汚職制圧委員会が、インラク首相の職務怠慢を認定すれば、罷免請求され停職となる。インラク首相が失職もしくは停職になれば、バランスは崩れ、PDRCが優位に立つことになる。
インラク政権は自らの政策によって自分の首を絞めたようなものだ。インラク政権最大の罪は、票を獲得するために国費を使ったことだ。表面上は経済政策だが、実際は国家の予算をふんだんに使って票を買ったのだ。政権党にそれが許されるなら、一度選挙に勝てばあとは永遠に勝てることになる。
タイの主要輸出産品は米で、世界第一位の米輸出国だった。インラク政権はその米を国際価格よりも高値で米農家から買い上げた。正確には米を担保に融資を行ったのだが、米が引き出されることはまずないので、実質的な買い上げだ。その結果、政府の倉庫には、売却できない膨大な米が備蓄されることになった。
国際価格よりも高く買ったのだから、国際市場で売れるわけがない。国際価格で売れば損失が生じる。差損が表面化するので売れないのだ。倉庫に眠っている間は差損を計上しなくてすむ。いったいどれほどの米が備蓄されているのかインラク政権は明らかにしていない。
米の質入制度にどれだけの国費が投入されたのかも明らかにされていない。また、莫大な予算の動くこの不透明な米質入制度は、インラク政権関係者の汚職の温床になった。したがって、なおさら詳細を明らかにできない。さしものIMF(国際通貨基金)でさえ、インラク政権の米質入制度を看過できず、改善を要求した。インラク首相は、こうした汚職を放置したとして国家汚職制圧委員会から監督責任を問われている。
米質入制度は国家の予算を使って票を買ったと言って差し支えない。
タクシン派は、選挙に勝ったということは国民から白紙委任状を託されたと勝手に解釈している。その後は国民の意見を聞く必要はないらしい。タクシン派は、これを「民主主義」と呼んでいるに等しい。
インラク首相は就任当時、タイのことを「半分の民主主義」と呼んだ。
もし、タクシン派による「完全な民主主義」が完成したとき、いったいそこには何が残っているだろうか。
政情不安の中で迎えることになった今年のソンクラン。
タイ人にとって正月とはソンクランのことだ。
来年はどんな気分で迎えているだろうか。