欧米によるシリアへの爆撃がいまにも始まりそうだ。
シリア政府が化学兵器を使用したというのがその理由だ。
しかし、国連調査団は調査に着手したばかりで、まだ何の報告も出していない。
「国際社会」がシリア爆撃を急ぐのは、誰が化学兵器を使用したかをすでに知っているからだ。
つまり、化学兵器を使用した者とシリアを爆撃しようとしている者は同一なのだ。
繰り返される稚拙で卑劣な手法
イラクは、『大量破壊兵器』を理由に爆撃された。
リビアは、市民への攻撃を理由に爆撃された。
アフガニスタンは、ビンラディンを匿っているとして爆撃された。
しかし、イラクに『大量破壊兵器』はなかった。
リビア軍は市民を攻撃していなかった。
タリバーンはビンラディン引渡しの意向を米国に打診していた。
「国際社会」が主張する爆撃の理由は常にこじつけにすぎない。その時々で、もっともらしく見えれば何でもいいのだ。カダフィ大佐がネコの尻尾を踏んだ、でもかまわないのだ。世界の主要メディアが一体となって報道を大量投下すれば、ネコの尻尾でも世界を簡単に誘導操作できる。
今回のシリア爆撃に向けた動きを少し概観しただけで、まったく正当性のない展開であることが分かる。
8月18日: 国連調査団がシリアに到着。
3月にアレッポなどで化学兵器が使用された可能性に関する調査を行う。
8月19日: 国連調査団による調査が開始される。
8月21日: 首都ダマスカス郊外グータ地区で、新たに化学兵器が使用されたと反政府側が主張。
ユーチューブに仔細不明の動画が投稿される。
シリア政府は、反政府勢力による攻撃であると主張。
米英仏は、シリア政府を非難。
ロシアやイランは、反政府勢力を非難。
8月22日
│ : 西側の政府関係者から次々とシリア攻撃の声があがる。
26日
8月27日: 国連調査団がグータ地区での調査を開始。
米英仏は調査団の結論を待たず、シリア政府の犯行と断定し、爆撃の準備をはじめる。
国連による調査が始まったばかりで、まだ何の報告も出ていないにもかかわらず、米英仏政府は、シリア軍が化学兵器を使用したと根拠もなく断定し、声高にシリア政府を非難し、シリア爆撃に向けた準備を始めた。この間、たったの一週間だ。あまりにも性急で不自然な展開と言うしかない。しかし、このでたらめな展開こそが、「国際社会」の通常の手順なのだ。
極めて根拠の乏しい疑いをかけ、その疑いを強引に拡大し、不都合な事実は故意に無視し、そして、高性能の爆弾を他国の市民の頭上に投下するのだ。「国際社会」はいつもそうしてきた。後に、ウソや捏造が露呈しても、誰も責任をとる必要がない。そのころには世界はとっくに興味を失っているからだ。したがって、どんなに強引ででたらめな手法も平気で行うことができる。
冷静沈着なシリア政府
そもそも、国連調査団を受け入れたシリア政府が、調査が開始された直後に、化学兵器を使用したとしたら、それは無謀な自殺行為と言うしかない。わざわざ自分の首を絞めるほど、シリア政府は錯乱してはいない。それどころかこの二年間、どのような困難にも常に冷静に対処してきた。シリア政府と国民との結束も固い。そして現在、武装勢力との戦いを極めて有利に展開している。
シリア大統領バシャール・アル・アサドは、ダマスカス近郊で化学兵器を使用するほどの「愚か者」ではない、と国内最大のクルド人組織(PYD)のリーダー(Saleh Muslim)は語った。
Syrian President Bashar al-Assad would not be "so stupid" as to use chemical weapons close to Damascus, the leader of the country's largest Kurdish group said.
Muslim が率いるPYDは、重武装された有力な民兵組織で、この紛争の期間、彼らの支配地域は政府軍と反乱軍から侵犯され、彼らはその双方と戦ってきた。
Muslim's PYD, which has well-armed and effective militias, has clashed with Assad's forces as well as rebels, but has allowed both to move through its territories during the war.
2013.08.27 Syrian Kurdish leader doubts Assad would be 'so stupid' as to carry out gas attack
http://www.reuters.com/article/2013/08/27/us-syria-crisis-kurds-idUSBRE97Q0LP20130827
シリア政府と敵対している敵から見ても、アサド大統領が化学兵器を使用するような無思慮な人物でないことは明白のようだ。
戦闘を有利に進めているシリア政府が、国連調査団が調査を行っているタイミングで、化学兵器を使用したと考える方が無理がある。どこに真理があるかは、普通に考えれば誰にでも分かる。
米英仏首脳陣によるシリア政府非難の発言は、シナリオを成立させるために強引に作り上げた設定にすぎない。彼らは事実や真実とはまったく無縁の存在なのだ。彼らの役目はシナリオ通りに歴史を進めることだ。
国連調査団という障害
国連調査団はこれまで中立的立場を堅持し、その見解は客観的で信用にたるものだ。しかしそれは、シリア政府を追い詰め、爆撃し、破壊したい「国際社会」にとっては極めて不都合な事態だ。
国連調査団は職務にこそ忠実で、「国際社会」が発する政治的シグナルにはかなり無頓着だ。つまり空気を読まない。その国連調査団がシリア現地で行う調査は、おそらく、武装勢力側に都合の悪い結果になる公算が高い。したがって、調査団がまともに調査できないような環境を作る必要がある。調査団がシリアに到着するのを待つように化学兵器が使用されたのは、空気を読めない国連調査団に対する強いメッセージなのだ。調査団の車両を狙撃したのも明確な警告を発するためだ。
しかしそれでも、国連調査団が職務を全うするという事態も考えられる。「国際社会」が、調査団の報告を待たず、国際法を無視して、シリア爆撃を敢行しようとしているのはそのためだ。さっさとシリアを爆撃して既成事実化してしまいたい。あまりにも性急で強引な展開は、そうした「国際社会」の思惑と焦りを表している。
爆撃の根拠はユーチューブでこと足りる
欧米連合がシリアに撃ち込もうとしている巡航ミサイルや精密誘導爆弾に対して、シリア政府は無防備だ。
逆に、士気が下がっている反政府武装勢力は勢いを取りもどすだろう。
しかし今回はひとまず、シリア爆撃の端緒を作れればいいという考えのようだ。
そして今後、武装勢力に再度化学兵器を使用させたり、あるいは市民を虐殺させたあと、「国際社会」がシリア政府による犯行だと非難し、そしてシリアへの爆撃をエスカレートするという流れにしたいのだ。
こうした流れを作っておけば、ユーチューブに投稿された極めて怪しげな動画数本を根拠に、いつでも巡航ミサイルや誘導爆弾を使ってシリアを爆撃できる。
「国際社会」が採る手法は、常に稚拙で卑劣、そして残忍だ。
オバマやケリー、キャメロンやオランドは、見え透いた猿芝居の演者にすぎない。
そしてそれを大量投下する世界の主要メディア。
しかし、毎度繰り返される猿芝居をいつまでも座視するつもりのない国もある。
そうした国々の努力が実ることを信じたい。
※資料は随時アップデート
資料編 1
国連調査団の到着、そして化学兵器攻撃発生
シリア政府の犯行とする論調
武装勢力の犯行とする論調
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/847316aa889060883f6f8553d8acb517
資料編 2
国連の動向/シリア政府の動向/反政府勢力の動向
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/84f1a940ddf5d13f77a8858c33016ca6
資料編 3
明確な証拠もなくシリアへの攻撃を準備する「国際社会」
当初、シリア攻撃の意図を隠していたアメリカ
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/ba067835c8e870cf5b3e55505097de94
資料編 4
シリア攻撃に自制を求める論調
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/09b000aba7653d061d06470a53a1053b
資料編 5
その他
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/8e265373da5b97e1db58c6ad01b41ea3
<当ブログ内関連記事>
シリア情勢 : 化学兵器使用をめぐる虚構
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/47c7f6ca2eacdf4d7c1889f6a83ea955
シリアの破壊を急ぐ「国際社会」
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/0a4bcb160d76ef5c3c70e1cee5472379
アサド政権打倒からシリア分断化へ
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/bdddf6c068b3a8e55d96954227f5d701
シリア情勢 : メディア ・ ウォー
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/b99eab454de636e51bace5d3d04bcb02
主要メディアによるシリア、イランの悪魔化
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/c22edebf39332cc834d5c64eae36b2c9
「民主化」される中東のゆくえ 4 シリア
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/327bb4b461077210ab135f08a39fc542