歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪【本の紹介】渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版≫

2022-09-19 18:52:28 | ある高校生の君へ~勉強法のアドバイス
≪【本の紹介】渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版≫
(2022年9月19日投稿)


【はじめに】


 前回のブログでは、小林公夫氏の論理思考、論理学の本を紹介した。
 今回のブログでも、引き続き、論理力について、考えてみたい。
 その際に、今回は、次の著作を参照した。
〇渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]
 この書籍は、帰納法・演繹法・弁証法といった伝統的な論理思考法のみならず、最近注目されている思考のツールとしてMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)、ピラミッドストラクチャについて、紹介している。この点が、渡辺氏の本書の特徴である。
(ただし、内容は必ずしも大学の受験生を対象にしてはいない。むしろ一般人向けといえるかもしれない。しかし、国語の読解力を身に付けるには良い内容であろう)

 なお、論理力を鍛えるには、『論理学』(東京大学出版会、1994年)の著者でもある野矢茂樹氏の次のような本もある。
〇野矢茂樹『論理トレーニング』産業図書、1997年[2003年版]
(こちらの本は、別の機会に紹介することにしたい)

【渡辺パコ氏のプロフィール】
・大学で哲学を専攻(23頁より)
・1960年生まれ。コピーライターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。
・1988年に独立し、100社以上にコーポレートコミュニケーションプランを提供する。
・1998年からはweb系を中心とするベンチャービジネスのコンサルティング活動を開始。




【渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』(かんき出版)はこちらから】
渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』(かんき出版)





渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]

【目次】
はじめに
プロローグ〇脳で汗をかこう!
第1部 理論編 論理思考の基礎
第1章●論理思考ができる仕事はどう変わる?
第2章●論理思考のツール
第3章●思考をドライブするための手法
第2部 実践編 論理思考のトレーニング
STEP 1●確実に言えることを判断する
STEP 2●短い命題の論理の穴を発見する
STEP 3●会話をしながらイシューを押さえる
STEP 4●長文の論理を構造化して理解する
STEP 5●ロジックの弱点を発見し、効果的に主張をつくる
エピローグ●論理思考を身につけるために




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・伝統的な論理思考法
・MECEについて~思考のツール
・ピラミッドストラクチャ
・STEP 1●確実に言えることを判断する
・STEP 2●短い命題の論理の穴を発見する
・長文の論理を構造化して理解する
・論理思考を自分のものにしよう






伝統的な論理思考法


・論理思考と一口に言っても、さまざまな手法がある。
 歴史的に見れば、哲学の傍流としての論理学がある。そこでは帰納法や演繹法、弁証法などの思考法が形作られてきた。

【伝統的な論理思考法】
①帰納法
②演繹法
③弁証法

①帰納法
 帰納法は、演繹法と並んで、最も歴史のある推論の方法の一つである。
 自分がロジカルであるという自覚があるか否かにかかわらず、多くの人が無意識に日常的に行っている。
 帰納法の基本は、以下のようなものである。

・人は必ず死ぬ=結論
←孔子は死んだ 平清盛は死んだ 祖父が死んだ

・帰納法の論理構造は、実例を何件もあげ、その実例に共通する命題(意見)は正しい、と結論づけることである。
※帰納法での推論は、多くの実例から予想される結論を導き出しているにすぎないので、「人間は必ず死ぬ」のような自明の事実に見える結論でも、あくまで「推論」にすぎない。「おそらく……という命題は正しいだろう」という以上の結論を導き出すことは、原理的に難しい。
 そのため、帰納法では、「蓋然性(がいぜんせい)」という概念が必要になってくる。
 蓋然性とは、「正しさの度合い」という概念である。「この推論は蓋然性が高い」などと使う。
 帰納法では蓋然性の高い推論(結論)を導き出せれば、論理的に正しい議論ができる。


②演繹法
 演繹法は、帰納法と並ぶ論理展開の基本である。
 最も基本的な演繹法のロジックは、以下のようなものである。

・祖父は必ず死ぬ=③結論
←祖父は人間であり、ほ乳類だ(②小前提)←ほ乳類は必ず死ぬ(①大前提)
 ①大前提、②小前提、③結論で、大前提と小前提が正しいなら、必ず結論は正しくなるのが、演繹法のロジックである。
※ただし、①の大前提をどうやって導き出したかが、問題になってくる。大前提は、帰納法を使って導き出したと考えるのが普通なのだが、そうなると、帰納法の問題点が、演繹法の中にも影響を及ぼしてくる。

③弁証法
・弁証法での論理展開は非常に高次元の脳の活動のため、社会生活では応用しにくいが、知的活動としての価値は大きい。
・両者を結合した新しい社会(合)
            ⇑
ブルジョア[資本家](正)⇔プロレタリアート[労働者](反)

(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、40頁~49頁)

MECEについて~思考のツール3


・物事を考えるとき、一度に全体を考えようとすると思考が分散して、収拾がつかなくなる。
 このようなトラブルを防ぐのが、MECEという概念である。

〇MECEとは
・MECEとは、「ミッシー」「ミーシー」などと読まれる。
 「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の頭文字をとったものである。
 「相互に排他的な項目」による「完全な全体集合」を意味するようだ。
 簡単に言えば、「モレなくダブリなく」複数の領域に分けて考えるという意味になる。
・物事を考えるとき、一度に全体を考えようとすると思考が分散して、収拾がつかなくなる。このようなトラブルを防ぐのが、MECEという概念である。論理学には欠かせない概念。
・マッキンゼーをはじめとする主要なコンサルティング・ファームがビジネスに使いやすいように体系化し直したことから、知られるようになった。
・最近では、日本の企業内にも、整合性のとれた話をまとめるためにはMECEでなければならないという理解が進んでいるようだ。

・では論理的というと、MECEが登場するのはなぜか?
 MECEでないということは、モレがあったりダブリがあったりするということである。
 たとえば、市場を分析するときに、年齢に切り分けて、それぞれの特性を考えるというような方法がある。
 +0~19歳、+20~29歳、+30~45歳、+46~60歳、+61歳~
 この分け方はモレもダブリも生じないので、完全なMECEである。
 これに対して、
 +児童・学生、+OL、+ビジネスマン、+主婦、+高齢者という分類はどうか?
 一見網羅性があるように見えるが、「仕事を持つ主婦」「ビジネスの一線に立つ高齢者」などはどの分類に入るのか、複数の分類に入る可能性もあるから、MECEとは言えないことがわかる。
(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、50頁~51頁)

ピラミッドストラクチャ


・ロジックツリーとピラミッドストラクチャは、できあがった形はどちらも樹形の図になるが、思考の手法はまったく異なる。

【ロジックツリーとピラミッドストラクチャの違い】
〇ロジックツリー
・課題を先にはっきりと立て、そこから下位の概念にブレイクダウンしていく。
・上位概念から思考することで、最底辺のメッセージが非現実的になる可能性がある。

〇ピラミッドストラクチャ
・最底辺、つまり具体的な情報や観察事項から上位の概念に向けて、推論を進めていく。
・下辺から出発するので、事実をはずす心配がない。そのかわり、上位の概念を適切につくることが難しく、思考の手法としてはロジックツリーより難しく感じることが多い。

 それでは、次のような例文を通して、ピラミッドストラクチャの基本を見てみよう。
・【例文】気候変動とCO2濃度の変化
 このまま何もしないままに時がたつと、22世紀の初頭には地球の平均気温は最大摂氏6度も上がるという予測が出た。6度といわれてもぴんと来ないが、逆に平均気温が6度下がると、地球は氷河期になるらしい。20世紀に入って大気のCO2(二酸化炭素)濃度は上がり続けており、これからもCO2の排出量は減る見込みが立っていない。CO2濃度の変化は全地球的な気候の変動と深く関係していることは事実であり、前述の予測が正しいか否かにかかわらず、CO2濃度の上昇を放置しておくことは、大きな気候変動を招く危険性が高い。世界は98年の京都議定書でCO2削減に合意したものの、各国が批准をためらって、実効が上がっていない。早急にCO2排出を抑制するルールづくりに取り組むべきだ。

この文章の中心的な主題(メインメッセージ)は、文末にあるように、
世界は早急にCO2排出を抑制するルールづくりに取り組むべきだ。

そのメインメッセージを支える理由づけとして、2つをあげている。
①CO2濃度上昇による気候変動は人類の生活を脅かす
②CO2削減の国際的な合意が上がっていない

メインメッセージと、2つの理由を図で表すと、
〇世界はCO2排出を抑制する新たなルールづくりに取り組むべきだ。
    ●
  ●   ●←キーラインメッセージ
  ①   ②
メインメッセージを頂点に、それを直接理由づけるサブ的なメッセージで支える図になっている。⇒これがピラミッドストラクチャの基本
メインメッセージを直接理由づけるメッセージを「キーラインメッセージ」と呼ぶ。
(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、62頁~64頁)

STEP 1●確実に言えることを判断する


〇「第2部 実践編 論理思考のトレーニング」の「STEP 1●確実に言えることを判断する」では、次のようなことが述べてある。

・最初の課題は、「与えられた情報から確実に言えること」と「与えられた情報からでは言えないこと」を区別するという課題である。
・この章では、論理思考を鍛えるSTEP 1として次のような課題を出している。
 文章を読み、その文章だけから判断できることを推論し、最も適切な推論を、あとの5つの中からひとつ選びなさい。そのひとつを選んだ理由、他を選ばなかった理由も説明しなさい。

⇒まず、課題の文を読み、自分なりに正解と思われるものをじっくり考えること。
 そして、それを選んだ理由もである。

【課題3 遺伝子組み換え作物】


【課題文】
「受粉をコントロールする従来の方法による品種改良では、
 近縁品種の新種をつくるのに数年かけるのが普通だった。
 しかし遺伝子組み換えでは、ほんの一瞬の遺伝子操作によ
 って、縁の遠い遺伝子が結びついた新種が生まれている。
 こういった縁の遠い(自然界では通常一緒にならない)遺
伝子をひとつにするという<不自然>なことは、自然界で
は数百年、数千年の時間が必要であるが、遺伝子組み換え
ではそれを短時間ですませることを意味する。それだけに、
できた新種が本当に自然界や人間に悪影響がないのか、従
来以上の試練や調査を行うべきだ」

文章を読み、その文章だけから判断できることを推論し、最も適切な推論を、あとの5つの中からひとつ選びなさい。
そのひとつを選んだ理由、他を選ばなかった理由も説明しなさい。

【選択肢】
①遺伝子組み換えは今日確立された技術である。
②遺伝子組み換え作物は安全性が確認されていない。
③植物と植物以外の遺伝子を組み合わせることも可能だ。
④十分な試験をすれば、遺伝子組み換え作物は安全だ。
⑤通常の品種改良は自然な行為である。

【正解とその理由】
 正解② 
<②が適切である理由>
・文書に安全性を確認されたという記述はない一方で、悪影響に関する更なる試験や調査が求められていることから、遺伝子組み換えは安全性が確認されていないと言える。

<①が不適切である理由>
・遺伝子組み換え技術は、自然界や人間にどのような影響を及ぼすのかわからず、その意味で現在研究中の技術であり、確立されているとは言えない。

<③が不適切である理由>
・自然界では考えられない遺伝子組み合わせ範囲として、文中では、植物と植物以外の組み合わせ可否まで言及していない。
※植物に動物の遺伝子を組み込むことは、本文からは、可能であるとも可能でないとも言えない。よって、「可能だ」と断言している③のメッセージは、適切ではないと考えるとよい。

<④が不適切である理由>
・遺伝子組み換え作物は新種であるため、安全を測る十分な試験が何なのか、まだわからないため安全とは言い切れない。
⇒この理由づけするのが一番説得力がある。

<⑤が不適切である理由>
・通常の品種改良でさえ、長い年月が必要となるものを、数年で起こしてしまうものである。そう考えると、通常の品種改良も自然な行為とは言えない。
(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、92頁~94頁、107頁~112頁)

STEP 2●短い命題の論理の穴を発見する


〇「第2部 実践編 論理思考のトレーニング」の「STEP 2●短い命題の論理の穴を発見する」においては、次のようなことが述べてある。

言葉の意味をいつも吟味する


・論理は、いつも言葉によって組み立てられている。
 論理の基本的な単位はセンテンスだが、センテンスをつくっているのは当然単語である。 
 単語の意味があいまいだと、センテンスの意味があいまいになり、できあがるロジックも、意味が定まらないものになってしまう。
 論理思考に慣れるには、論理を組み立てる個々のブロックにあたる単語の意味を、常に吟味する習慣を身につけることが重要である。

・言葉には、その言葉の中心的な意味(内包)と、その中心から派生した周辺的な意味(外延)の両方が含まれている。辞書や用語の意味には含まれないが、言葉に付随して伝わってくる意味を「外延」と呼ぶ。
 言葉の意味は、内包から外延に連なるグラデーションの総体である。
 言葉を選ぶときには、ふつう、内包から外延の広い意味から、自分が最も適当だと思う意味だけに限定して使っている。しかしその言葉を聞く(読む)人は、その限定された意味でとらえるとは限らない。そこで、同じメッセージでも、異なる内容でとらえられてしまうことがある。
・このステップでは、このような言葉の持つあいまいさ(多様性)を発見し、その中からどのような意味で言葉を使っているのかを理解した上で、適切なイメージをつくるためのトレーニングを行う。

<この章の課題>
☆提示される、少ないセンテンスからなる主張(命題)は、一見正しそうに見えるように書かれている。一見正しそうなメッセージの中の、どこが問題か。
①その問題のある単語や言葉を抜き出して、問題点を指摘すること(抜き出す言葉はひとつとは限らない)。
②その上で、メッセージ(命題)が妥当だとしたら、どのような場合か。
③妥当でないとしたらどのような場合か。

【課題5 仕付け糸】


【課題文】
「M先生は、しつけについてこんな話をしてくれた。『仕付け糸』という言葉の通り、大まかな位置を決めることです。大まかな位置とは、子供が社会の中で自立して生きて行くこと。自分で選び、行動することです」

【質問】
 この主張(命題)は、一見正しそうに見えるように書かれている。一見正しそうなメッセージの中の、どこが問題か?
①その問題のある単語や言葉を抜き出して、問題点を指摘すること(抜き出す言葉はひとつとは限らない)。
②その上で、メッセージ(命題)が妥当だとしたら、どのような場合か。
③妥当でないとしたらどのような場合か。

<Aさんの回答>
①「子供」とあるが、人によって想起する「子供」の年齢はそれぞれ。
 子供のしつけ方はその成長段階により異なるため、このようなあいまいな表現はふさわしくない。
「大まかな位置とは、子供が社会の中で自立して生きていくこと」とあるが、「大まかな位置」の説明として「自立して生きていくこと」というのは説明になっていない。
「大まかな位置」とは、基本的な道徳や善悪の区別、あるいは環境に対する取り組み方、などを表しているものと思うが、それらを身につけた上で「自立して生きていくこと」が可能になる。説明文の前後で述べられていることにずれがある。
「自分で選び、行動すること」を「自立して生きていくこと」の補足としてあげているが、どちらも抽象的すぎる。子供が自ら選択し行動すればそれで本当に自立して生きているといえるのか。好き勝手やることにはならないのか。

②聞き手が「子供」像を共有している場(たとえば小学校の父母会など)で、「自立して生きていくこと」について正しい共通のイメージを持つことができる場合(つまり子供の好き勝手にさせる、といった誤解をする人がいないとわかっている場合)。また、子供の選択と行動に対し、的確なアドバイスができる場合。

③しつけの対象となる子供が、自立するには幼すぎる場合。
 また、障害などを持ち、両親の保護が必要な場合。
 あるいは、特定の宗教を信じ、その教えにそって生きることを是とする社会である場合など。

・Aさんはまず3つの問題点を指摘している。
 「子供」「大まかな位置」「自立」など、課題文のキーワードはAさんの指摘の通りかなりあいまいに、書き手の勝手な解釈で意味づけられており、端的に言ってまったくロジックになっていない。
 とくにひどいのが「自立して生きていくこと」と「大まかな位置」との関係である。
 これをイコールであるかのように主張するのはまったく根拠がない。
※実はこの課題文は実在のある教育学者の言葉を聞いた人がまとめたものであるそうだ。
 前後を読むと、もとの話をした学者も、あまりロジカルに話していた様子はなく、それをさらに論理的でない書き手が伝文的に書いたので、ますます筋の通らない文章になってしまったようだ。
 しかし、実社会ではこのような筋の通らない文章が、堂々と書かれていることが意外に多いという。とくにその先生の意見を、上司が信奉しているような場合には、たちが悪い。

※こうした「なんとなくわかったような論法」で進む文章こそ、実は最も悪影響の大きなロジックなのであると著者は警告している。
 Aさんが問題の指摘に成功している理由は、具体的なシーンを提示して、問題を指摘している点である。
 STEP2の課題は、一見正しいように見える文章から難点を指摘し、その難点がなぜ適切ではないのかを誰にでもわかるように指摘することであった。
その際のポイントは次のようなものである。
<3つのポイント>
①言葉と文章のつながり両方に注意して問題点を探す
②論理的に指摘するのはもちろん、相手に伝わるように指摘する
③具体的なシーンを想定して考え、指摘する
(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、121頁~124頁、140頁~145頁)


長文の論理を構造化して理解する


「第2部 実践編 論理思考のトレーニング」の「STEP 4●長文の論理を構造化して理解する」においては、第2章で述べられていたピラミッドストラクチャの演習問題を紹介してある。

ピラミッドストラクチャのふたつの役割


・ピラミッドストラクチャにはふたつの役割がある。
①他者が書いた論説文や企画書、他社のプレゼンテーションなどを構造化することによって、相手の主張を理解すること。
そして、その理解をもとに、賛同や反論を的確に行うこと。

②自分が何らかの主張を行うときに、自分のメッセージを支える論理構造をピラミッドストラクチャで構築し、それをもとに文書を作ること。


ピラミッドストラクチャ再構築の方法


・論説文や企画書など、相手に何らかのメッセージを伝えることを目的にして作られた文書から、ピラミッドストラクチャを再構築する方法について、説明している。

・まず、文書のメインメッセージを発見する。メインメッセージは文書の中にある筆者の中心的な主張である。
 これを、×××は〇〇〇すべき、という形になるように書き出す。
※論説文は、自分の主張によって読み手や第三者に行動を促すことで情報としての価値を持ってくるので、メインメッセージはこのような「~すべき」という文体で表現できるはずである。
 メインメッセージを発見する場合に気をつけたいのは、本文が否定形で書かれている場合である。
 ××しなければ、〇〇すべきではない。
 このような場合は、意味がつかみにくいので、肯定形に変えておくと、ピラミッド構造が発見しやすい。つまり△△であれば、××すべきという形に。

・その次に、メインメッセージを支えるキーラインを発見する。
※その場合、注意すべき点は次の2点である。
①キーラインはメインメッセージの直接的な理由づけになる
②本文中に「第一に」「第二に」とあっても、それがキーラインだとは限らない
(書き手が修辞的に使っているだけで、論旨構造とは無関係の場合もあるという)

 キーラインの発見と並行して(同時進行で)、キーラインのさらに根拠としてあげている事実や情報(サポートメッセージ)を探し、キーラインの下につける。
(⇒これでピラミッドは3階層の構造になる)



【演習 課題1 公害白書の論説】
(「公害白書――都市型、生活型の時代」『朝日新聞』社説(2001年9月4日より))

 国の公害等調整委員会がまとめた今年の「公害白書」に
 よると、大気汚染や騒音、悪臭、水質汚濁など都市型、生
 活型の公害紛争が増加している。
  国や地方自治体が当事者になるケースも多くなった。被害
 を未然に防ぐ責任を果たしていない、といった理由による。
  公害問題が深刻だった70年代前半は、事件の当事者の7
 割以上を企業が占め、国と地方自治体は2割程度だった。
 最近5年間では、企業の割合が半分近くに減り、国と地方
 自治体が3割程度までになった。
  身の回りの問題に困った住民の多くは、自治体の公害相
 談窓口と接触する。担当部門がその原因を突き止め、防止
 策を検討する。それに基づいて発生源に対して改善を指導
 する。そうした処理が円滑に進んでいれば、紛争には至る
 まい。
  国や地方自治体が当事者になるのは、苦情処理がうまく
 いっていないケースが少なくないからだろう。
  白書がいきさつを詳しく紹介した瀬戸内海の豊島(てし
 ま)の産業廃棄物事件は、公害等調整委員会の調停で関係
 者が合意するまで7年近くもかかった。国や地方自治体が、
 生活型公害の苦情処理を誤って、紛争当事者になる典型的
 な例である。
  環境に対する国民の意識は年々高まっている。都市型・
 生活型の公害紛争は今後も多発、多様化するだろう。そん
 な中で、苦情を解決した比率と、苦情を申し立てた住民の
 満足度が、ここ数年、ともに横ばいだ、という白書のくだ
 りは気にかかる。
 「個々の事件の内容に応じた、きめ細かな利害の調整を図
 ることが、一層重要になった」。白書のこの指摘を満たす
 ため、自治体で第一線を狙う1万3200人の苦情処理担当
 者の奮闘を期待したい。

【設問】 
①筆者のメインメッセージは何か?
②そのメインメッセージを主張するために、筆者はどのような理由(キーラインメッセージ)をあげているだろうか?
③「直接理由づけている」とはどういうことか?

【公害白書――都市型、生活型の時代」『朝日新聞』社説のピラミッドストラクチャ】
<メインメッセージ>
〇自治体の苦情処理担当者は個々の事件の内容に応じた、きめ細かな利害の調整をするべき

<キーラインメッセージ>
〇紛争が拡大・長期化する理由は住民からの苦情処理が円滑に進んでいないことだ
 ⇑
・紛争の原因の特定と処理は、苦情処理担当者が行う
・裁判になる事例が増えている
(←豊島では紛争解決に7年もの長期間がかかった)

<キーラインメッセージ>
〇苦情を解決した比率と、苦情を申し立てた住民の満足度が、ここ数年、ともに横ばいだ
 ⇑
・環境に対する国民の意識は年々高まっている。都市型・生活型の公害紛争は今後も多発、多様化するだろう

<注意>
☆矢印の向きに注意。ピラミッドストラクチャでは必ず下から上への矢印になり、ロジックツリーとは逆向きになる
☆下位が上位を直接理由づける関係になっていることに注目すること


(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、172頁~184頁)

論理思考を自分のものにしよう


〇目次にもあるように、「エピローグ●論理思考を身につけるために」においては、「論理思考を自分のものにしよう」と題して、著者はまとめを述べている。
 そこでは、論理思考は、本でいくら読んでも決して身に付くものではないと、著者は断っている。
 著者自身も、本で読んで身に付いた部分はほとんどなく、むしろ原稿を書いて、批判を受けながら身に付けたという。自分で手を動かし、頭を絞らないと、身に付かないものらしい。
 具体的にどのようにすれば、論理思考が身に付くのか。
 この点について、著者は次の5点を挙げて、アドバイスしている。

①考える習慣をつける
②説得されない・反論する
③具体的に考える
④主張を否定し、人格を否定しない
⑤論理的であることはクリエイティブであること

もう少し詳しく見ておこう。
①考える習慣をつける
 重要なことは、いつも考えるという習慣をつけることだという。
 考える題材はいくらでもある。本書で扱った課題も、新聞の社説、日常的な会話、会社の企画書の中にありそうな文言など、どこかで目にしたようなものばかりである。
 「これは少しおかしい」「これはおもしろいが、なぜおもしろいのかわからない」という話題を見つけたら、そのままにせずに、考え続けることが大切だという。

②説得されない・反論する
 考え続けることに関係するが、「説得されない」という意地やタフな意志を持つことが重要であるという。
 あっさり納得せずに、なぜそうなのか、なぜ自分が考えたようにならないのか、もしなるとしたら、何が足りないのか、と考え続けること。
 本書で扱ったピラミッドストラクチャを使って、相手や自分のロジックを構造化してみる。そこから弱点を探し、自分の考えを再構築すると、違ったメッセージを伝えることができる。

③具体的に考える
 相手が言っていることがよくわからないと思えば、具体的に考えること。
 誰か具体的な人を思い浮かべる、日常の行動に置き換える、数字を当てはめて考えるとよい。
 具体的にイメージするだけで、一気にロジックが理解できることも多い。

④主張を否定し、人格を否定しない
 反論するときには、相手の主張のすべてを否定しないほうがいい。同時に、反論するときは主張に対して反論し、人格を否定しない。
 反論にしても賛同にしても、議論をすることによって理解が深まったり論点が明確になる、新しい知識が生まれるなど、何らかのプラスが生まれることが望ましい。人を否定してしまうことからは、プラスは生れないという。

⑤論理的であることはクリエイティブであること
 論理的な思考は、固定的な見解を生むことではないし、自分の思想を押しつけることでもない。自分がともに物事を進める相手と、議論したり説得したりする中から、自分が気づかなかった新しい価値を発見し、生み出すことが可能になる。また逆に、相手に反論する中から、相手が気づかなかった重要なポイントを発見させることもできる。
(古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、このことを、出産にたとえて、「産婆法」と呼んだ。優れた哲学者は、適切な会話によって相手が本当に考えていることを引き出すことできる、新しい価値は会話によって生まれる、と考えた)

 論理的であることは、決して冷徹なことでも、いつも同じ結論になることでもない。
 人間の脳という固い殻の中に入った新しい発見を引き出すための、殻割りのツールである、と著者は考えている。
(渡辺パコ『論理力を鍛えるトレーニングブック』かんき出版、2001年[2006年版]、226頁~229頁)