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京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

シメゴロシノキ

2022年03月06日 | こんな本も読んでみた
見晴らしの効く広い道路の交差点の一角に、花を植える6人ほどが寄っていた。
車のフロントガラスには霰やみぞれのようなものが吹き付ける。ワクチン接種3回目を終えた帰り道、小さな虹が目に入った。

乙川優三郎(『あの夏が来て この春がゆく』)、小田雅久仁(『残月記』)に続いて、河崎秋子さんの『絞め殺しの樹』を読みだした。

『残月記』ではかなり気持ちをぐにゃぐにゃに、時に不快感を引きずり、引っ掻き回された。もうやめよう。でももったいないから最後まで読もうと葛藤しながら三作目の表題作「残月記」を読んでいった。
それがこの作品でもいつしか文体の力というか、語り口にしっかり引き込まれていた。
発症すると数年のうちに命を落とすという感染症にかかった男の一生を見事に描ききっていると心打たれ、そして読み終わってひどく疲れた。この気持ちを鎮めるのに時間をかけることになった。


「絡み付いてね。栄養を奪いながら、芯にある木を締め付けて締め付けて、元の木を殺してしまう。芯となる木がなくても蔓が自立するほど太くなっているから、芯が枯れて朽ち果てて。中心に空洞ができるの。それが菩提樹。別名シメゴロシノキ」と帯の折り返しにある。
書評だけを頼りに手にした初めての作家さん。今度はどうかな。
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春を召しませ

2022年03月03日 | 今日も生かされて
        
                     

弘法さんや天神さんの市では、茣蓙の上や陶器が並ぶブルーシートの隅に段ボールに入ったままの雛人形を見つけることがある。

目や口の周りや頬の白い塗りは剥がれ落ち、黒髪がそそけた官女雛。15センチほどの高さで、ほとんど重さを感じさせない古雛は、小袖に長袴の装束をまとう。経年で劣化しているはずが、白と朱赤の色が妙に鮮やかに映る。それが傷ましい。それらの雛に宿された思いの強さの名残りと見えなくもない。
娘の幸せを願い、成長を喜びとする家族の中にあったはずの雛。どんな事情があって、春の陽の下にさらされているのか。

もてなし好きだった義母は、雛段の美しさを感嘆しているだけの人ではなかった。どう楽しもうか、思いはいつもそこにあった。近所の女の子たちを招き、やがては娘本人の親しい友人たちに変わっていくが、彼女たちの雛会を歓待し支えた。
あの賑やかさが消えて久しいが、今年も少し多めのでんぶを添えて、華やかな彩りのばら寿司を供えよう。
春を召しませ。
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迷いのこの世

2022年03月02日 | 今日も生かされて

雨の降る昨日午後。パソコンに向かっていた時、右耳でカサコソと音がした。「あっ、これは!」
即座に目をつむり、手のひらで目を軽く覆って下を向き、頭の中がくるくる回るような時間を耐えた。どこか異空間に連れ去られそう、というか放り出されそうな不快な感覚の中で、自分を引き留めるのに必死という時間だった。

一分あったかどうかくらいだと思うが、吐き気がしないといいなと考えた瞬間を覚えている。
これまで生きてきて、過去に4回ほどあっただろうか。今回はむかつきが生じて数時間横にならざるを得なかったが、どうにか回復。
一夜が明けたが少し後を引いていて本調子ではなく、静かに家で過ごすことにした。

老いが病が、私に生を問いかけている? うーん…。
うーん、「迷いのこの世」。

                               (辰巳明子さんの絵)


2 / 16日に出した絵葉書3枚、今日着いたと連絡がきた。
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