先進的な取組みを見学させて頂きましてありがとうございました。
お礼の意味も込めまして、少しでも市原市民のお役に立てるよう、
私なりの分析やコメントを添え報告させていただきます。
既に市が取り組まれていたり、市民や議員の方がご指摘済みのこと、
あるいは私の勘違い等もあるかもしれませんが、
市原市民の皆さんのためになるようにという気持ちからですので、
よろしくお願いします。
今回は水道事業。
水道は生活に欠かせない最も重要な行政のしごとの一つです。
全国的に人口減少に伴う水道料金収入の減少と、
水道施設の老朽化による経費の増大が進み、経営の大きな課題となっています。
「給水人口の減少=水道インフラの過剰化」です。
(事業の概要)
事業名 「水道事業の普及啓発事業について」
(多田:水道事業そのものではなく、水道広報事業の必要性・効果等を点検)
経 費 事業費3.5万円、人件費150万円
(多田:水道事業は大赤字なので収入全体の53%を一般会計から繰入)
事業目的 水道の普及啓発をはかる
理 由 人口減少に伴い、水の使用量と料金収入が減っているので、
市民に水をもっと使ってもらいたい。
(多田:一方で、水を無駄遣いはしないようにも広報している)
事業内容 ①水道水と市販水(ペットボトル)を飲み比べるイベント(年2回)
②マラソン大会での給水サービス
③出前講座(年2回)
体 制 コーディネーター 1人(構想日本が派遣)
点検者(無作為抽出の市民)5人
説明者(市職員) 2人
上記の説明だけでなく、
水道事業は行政が行う仕事の中では特殊な事業形態なので、
評価者に次のような基本知識がないと判断が難しいと感じました。
①水道事業は「装置産業」であること
②水道事業は市の一般会計とは区分された独立採算の企業会計であること
③複数の水道事業が併存して一般家庭に水を供給している自治体は
全国では少数派であること。(千葉県には多い)
「水道は装置産業である」
これは製造業に40年以上関わってこられた市民点検員さんの言葉。
水道は「装置産業である」という基本的な認識が重要です。
水道・鉄道・電力などの装置産業は、サービスの料金は安いですが、
営業開始までの施設・設備の建設に莫大な費用がかかる業種です。
サービスを供給するために、それらの設備が有効に稼働している間は
事業収支が安定しますが、需要が減って施設の稼働率が下がると
利益を生むはずだった資産が、維持にお金がかかるだけの負債となってしまいます。
需要に見合った設備規模になっているか、施設の稼働率は高いか、
こんなところが着眼点です。
全国的な傾向として、かつては人口が増え続けていました。
現在はピークを過ぎ、長期的な人口減少期に入りました。
水道は生活に必須のライフ・ラインですから、人口が増え続けてきた時代には、
すべての家庭に水を安定供給できるように、給水設備や配水管などを増強し続けてきました。
今は多くの自治体で人口減少期に入り、
ピークのころに比べると水の使用量は減り、料金収入も減少しています。
長期的に需要が減り続けることは、装置産業にとって一番根本的な
「収益構造の変化」なのです。
水道施設は人口がピークの頃にあわせて作ってありますので、
今度は人口が減れば減るほど施設が過剰になります。
「水道施設の能力が余っているので稼働率を上げるために、
市民は水をいっぱい使って、いっぱい水道料金を払ってくれ」という発想は本末転倒。
旅人をベッドに寝かせて、はみ出した足を切断する話を思い出しました。
市民は水道事業を黒字にするために存在するのではありません。
水道局のほうが、今の市民が使う水量に適した給水体制や価格体系をつくるべきであり、
大量に水を使うことを前提としたこれまでの水道事業体制に、市民が合わせるのは逆です。
水を使うようPR事業を行うのではなく、人口や水需要の減少に合わせて、
過剰な水道設備の統廃合や合理化を進めることが装置産業である水道事業の経営に
根本的に必要な対応なのです。
右肩上がりだった水需要が、右肩下がりになったという、
事業を行う前提条件が180度変わっていることを理解し、
これまでのやり方、考え方を全て変えざるを得ないという認識を持つことが
経営改革のスタート。
これらが、人口減少時代における水道事業の一般的な対応のあり方なのですが、
市原市の場合、総人口は減少していません。しかし問題は市営水道の給水人口の変化です。
市原市HPによれば、現在の市営水道の給水人口は、約4万7千人で、市の人口の約17%。
近年は変動が少ないようです。
「節水と同時に水を使えと呼びかけるのは矛盾、何がしたいのか分からない」
「水をたくさん使って水道料をもっと払えという呼びかけには、
家計として市民はまったく同意できない」
これらは市民点検員さんから出た意見です。
市原市水道部は、水をもっと使うようPRすると同時に節水のPRも行っており、
市民には節水の意識が浸透しています。
家計としても必要もないのに、今以上に水を使って水道料金を払えという
市のPRには同意できません。
この「水道事業の普及啓発事業」のメインの事業は、
年2回ショッピングセンターなどで行う、
市販のミネラルウォーターと水道水の飲み比べイベントです。
水道水もおいしいと認識してもらい、安い水道水を飲んでもらいたいという趣旨。
市担当者は、水道の水はペットボトルの水の値段の2千分の1と強調していました。
(ペットボトルは500ccで約100円、水道水は1トンで約100円)。
でも、この論理だとペットボトル1本飲む人には、
水道水を1トン飲んでもらわないと料金的な効果がありません。
有効な取組みでしょうか?
「小口よりも、工場等の大口に市水を使ってもらえば」
市民点検員さんの意見です。
水の飲み比べイベントは年2回しかなく、たまたま飲む人の割合は
市民全体に比べればわずかです。
しかも、市営水道を飲んでいるのは市民の17%しかいませんので、
このPR事業のターゲットはさらに少ない。
水道事業は地区によって分けられていますので、
県営水道の地域に住んでいる市民が市営水道を契約することはできません。
無差別に市民にPRしても的外れな広報になってしまいます。
市営水道の水需要を目に見える形で増やしたいのであれば、
市民点検員さんが指摘されたように大口の顧客開拓に目を向けた方が効果的と思います。
ただし、県営水道が作られた目的は工場などの大口ユーザーに
安く水を供給するためなので、企業があえて市水道を選ぶのは難しいと思います。
「水をたくさん売れば、利益が増えるのか?」
経営を改善するのは単純です。
①収入を増やす、②支出を減らす、③両方同時に行う
市原市水道部は次のように考えているようです。
「市民にPRして、たくさん水を使ってもらえば料金収入が増えて経営が改善する」
はたして、そのとおりなのか。
実は、大きな落とし穴がありました。
市民による事業総点検で取り上げた水道の広報事業の狙いは、
水をたくさん使ってもらって料金収入を増やすことです。
先ほど検討しましたように水道事業は装置産業なので、
収入に結びつかない遊休施設があると経営を圧迫します。
そこで施設の稼働率を上げるためには、水をたくさん使ってもらおう
という発想なのだと思われます。
この「たくさん水を売って利益を増やそう」という戦略が有効に機能するためには、
適切な料金設定になっていることが大前提。
つまり商品である水を作って送り届ける経費よりも、
水の販売価格の方が高くなければ経営として成り立ちません。
ところが、市原市水道の場合、
水を製造するための「給水原価」は1トン当たり約545円であるのに対し、
販売価格である「供給価格」は約198円。347円の赤字。
これでは、水をたくさん使いましょうとPRしても、
経営改善につながるどころか売れば売るほど大赤字です。
どう考えても水の使用を増やすPRをする前に、水道料金の根本的な見直しが先です。
市民点検員の皆さんも、まさかこんなことになっているとは思われなかったと思います。
料金に手をつけないまま水の使用をPRする本事業はまったく意味がありません。
市民点検員の最終判定は、廃止・凍結3人、要改善2人でした。
「複数の水道事業者」
多くの自治体では、市内の住宅は単一の水道事業者でカバーしています。
千葉県は全国でも珍しく、県営水道が一般家庭で広く使われている地域です。
市原市の場合、臨海部の人口が多い地区は県営水道(千葉県水道局)が使われ、
内陸部の大半を市営水道と、ごく一部を一部事務組合水道部がカバーしています。
内陸部は人口が少なく山などの起伏が多いので、
水道の経営効率はどうしても悪くなります。
水道事業区域の条件や経営主体が異なれば給水原価は当然異なりますが、
販売価格である水道料金はバラバラなのか?という大きな疑問が浮かびました。
平成26年度の㎡あたりの給水原価は市営水道が約545円、県営水道が約182円。
全国平均と比べると市営水道の原価はとんでもなく高いことがわかります。
平成26年度の供給単価は市営水道が約198円、県営水道が約201円です。
製造段階では市営水道の方が3倍くらい高いのに、売るときは市営水道の方が安い。
これではどんな経営努力をしても、料金を変えない限り赤字体質は改善しないでしょう。
「適切な水道料金とは?」
市の水道事業は、独立採算の特別会計(公営企業会計)です。
まるっきり市の直営ではありませんが、民間企業とも違います。その立場を整理します。
・特別会計とは、事業経営が確認しやすいよう市の一般会計と区分して経理する会計。
水道事業の経費は水道料金等で賄う独立採算が原則。(地方自治法)
・公営企業は、企業の経済性を発揮することと、
公共の福祉の増進を合わせて目的としています。(地方公営企業法)
・地方公営企業は独立採算が原則であり、
性質上当該公営企業の経営に伴う収入を充てることが適当でない経費(消防の消火栓の設置など)
及び当該公営企業の性質上能率的な経営を行なつてもなお
その経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費
を除き、当該企業の経営に伴う収入をもつてこれに充てなければならない。(地方財政法)
・料金は、公正妥当なものでなければならず、かつ、能率的な経営の下における
適正な原価を基礎とし、地方公営企業の健全な運営を確保することができるもの
でなければならない。(地方公営企業法)
基本的には独立採算。
ただし、水道事業による収入を充てることが適当でない経費や、
公共の福祉目的を併せ持つことから能率的な経営を行っても事業収入だけでは
足りない場合には他会計から補てんできる、という仕組みです。
水道料金については、地方公営企業法によれば「適正な原価を基礎」としつつ、
「健全な経営を確保することができるものでなければならない」のです。
市原市の水道料金を見た場合、適正な原価を基礎としているのか、
健全な経営を確保できているのかは非常に疑問です。
私なりに水道事業の収入・支出を整理してみました。
営業費用は営業収入でカバーするのが望ましいのですが、
市原市の場合半分以下の44%しかカバーできていません。
独立採算が原則の企業会計としてはかなりひどい赤字体質です。
どうやって倒産を防いでいるのかというと、
営業外収益を営業費用のほうにまわしているのです。
営業外収益の財源に注目すると、
一番大きいのは「他会計負担金」9億3千9百万円、収入全体の35%を占めます。
次に大きいのは「他会計補助金」4億8千5百万円、収入全体の18%です。
水道事業は独立採算が原則ですが、
条件に適合すれば市の一般会計からの補助金や負担金は地方財政法で認められています。
細かい内訳や積算内容はわかりませんが、一見して補助金が収入の18%とは大きいな
というのが感想です。
それにもまして驚いたのは一般会計の「負担金」が収入全体の35%もあることです。
市の一般会計が負担するということは、水道会計が立て替えて支出した経費を、
本来の負担者である市が負担するというもの。
負担金の具体的な項目は総務省が示しています。
1 消火栓等に要する経費(市原市H28 消火栓設置・修理負担金 36,000千円)
2 公共施設における無償給水に要する経費
3 上水道の出資に要する経費
4 上水道の水源開発に要する経費
5 上水道の広域化対策に要する経費
6 上水道の高料金対策に要する経費
7 統合水道に係る統合前の簡易水道の建設改良に要する経費
8 統合水道に係る統合後に実施する建設改良に要する経費
消火栓以外の一般会計予算の水道事業負担金は見つけられませんでした。
広域化対策や高料金対策に要する経費が大きいのかもしれません。
関心のある市原市民の方は積算内訳や必要性をご確認ください。
市原市の場合、県営水道に比べ市営水道の給水原価は3倍も高いので、
そのまま水道料金に反映すると、同じ市民の中で水道料に3倍も差がついてしまいます。
そこで市が一般会計から補助して市営水道の料金を
県営水道以下に抑えているのだと推測されます。
水道料金を安く抑えることは、一見市民のために思えますが、
よく考えれば赤字分は誰か他人が使った水道代を、使っていない市民も負担しているのです。
県営水道を使っている市民にしてみれば、自分が使った分の水道料金を払ったうえで、
他人が使った市営水道料金まで負担させられているのです。
毎年、市の一般会計予算案と水道事業予算案は市議会で承認されますので、
このことは認識・同意され、市民合意が得られた上でこのような措置が
取られているのだと思います。
あるいは、市町村合併時にそのような取り決めがあったのかもしれません。
実際は一般会計から補てんしているにもかかわらず、
どの首長さんでも水道料金を上げて住民からきらわれるのは嫌でしょう。
でも使用料ですから、使った人が自分が使った分をきちんと支払い、
水道会計も赤字にならない料金設定にすることで、健全な水道事業を維持することにつながり、
ひいては将来にわたって市民のためになると考えます。
(製造原価をダイレクトに反映して料金を3倍にしなくてもよいと思いますが)
「経営改善に向けて」
私なりのアドバイスです。
・人口減少に対応した水道施設の統廃合
市単独での取り組みは限界があります。これまでは自治体ごとに水道事業を運営して
いることが多かったですが、現在では群馬東部水道企業団のように複数の自治体が
水道事業を統合し、過剰となった浄水場などの統廃合・合理化を進めています。
市原市の場合、県営水道との統合も視野に検討されると良いと思います。
千葉県内には市内全域が県営水道になっている自治体もあります。
・アセットマネジメント
各地で老朽化した水道管や施設の更新が遅れています。
いざ事故が起きてしまうと、市民生活に多大な影響が出ます。
計画的な水道施設の更新・維持管理が必要です。
平成27年に厚生労働省は
「水道事業におけるアセットマネジメントに関する手引き」を公表しました。
全ての水道事業者にアセットマネジメントを実施し、将来の更新計画や
財政収支を明らかにするよう求めています。市民や議員の方は、
市原市の取り組み状況を確認されると良いと思います。
なお、老朽化した水道管の交換はポリエチレン管がおすすめです。
費用的にも安いですが、なにより耐用年数が100年なので交換の回数が減ります。
さらに曲げに強いので耐震性も強いです。水道用のポリエチレン管は青色なので
「青ポリ」とも呼ばれます。
・料金回収率の向上
世の中の平均は100%近いのに、こんなに低い回収率は見たことありません。
どうしてこんな状態になっているのでしょうか?
・有収率の向上
流している水の総量に対して、お金がもらえている水の割合。
あちこちで漏水などがあると、せっかく作った水が無駄になります。
有収率がこんなに低いのでは、原因調査と対策が必要です。
・民間委託について
賛否両論あります。
(8月10日 追記)
・大和総研の鈴木文彦さんから次のアドバイスがありました。
地域別料金制度や定額制の導入を検討されるのはいかがでしょう。
まずは原価構造の「見える化」。そのうえで広くディスカッションすれば
自ずと答えが出てきます。
(参考)
・市原市 平成26年度給水状況
・市原市水道 平成26年度経営指標
・市原市水道事業 経営指標の概要
・市原市水道局 経営指標分析表
・水道関係の私のブログ
お礼の意味も込めまして、少しでも市原市民のお役に立てるよう、
私なりの分析やコメントを添え報告させていただきます。
既に市が取り組まれていたり、市民や議員の方がご指摘済みのこと、
あるいは私の勘違い等もあるかもしれませんが、
市原市民の皆さんのためになるようにという気持ちからですので、
よろしくお願いします。
今回は水道事業。
水道は生活に欠かせない最も重要な行政のしごとの一つです。
全国的に人口減少に伴う水道料金収入の減少と、
水道施設の老朽化による経費の増大が進み、経営の大きな課題となっています。
「給水人口の減少=水道インフラの過剰化」です。
(事業の概要)
事業名 「水道事業の普及啓発事業について」
(多田:水道事業そのものではなく、水道広報事業の必要性・効果等を点検)
経 費 事業費3.5万円、人件費150万円
(多田:水道事業は大赤字なので収入全体の53%を一般会計から繰入)
事業目的 水道の普及啓発をはかる
理 由 人口減少に伴い、水の使用量と料金収入が減っているので、
市民に水をもっと使ってもらいたい。
(多田:一方で、水を無駄遣いはしないようにも広報している)
事業内容 ①水道水と市販水(ペットボトル)を飲み比べるイベント(年2回)
②マラソン大会での給水サービス
③出前講座(年2回)
体 制 コーディネーター 1人(構想日本が派遣)
点検者(無作為抽出の市民)5人
説明者(市職員) 2人
上記の説明だけでなく、
水道事業は行政が行う仕事の中では特殊な事業形態なので、
評価者に次のような基本知識がないと判断が難しいと感じました。
①水道事業は「装置産業」であること
②水道事業は市の一般会計とは区分された独立採算の企業会計であること
③複数の水道事業が併存して一般家庭に水を供給している自治体は
全国では少数派であること。(千葉県には多い)
「水道は装置産業である」
これは製造業に40年以上関わってこられた市民点検員さんの言葉。
水道は「装置産業である」という基本的な認識が重要です。
水道・鉄道・電力などの装置産業は、サービスの料金は安いですが、
営業開始までの施設・設備の建設に莫大な費用がかかる業種です。
サービスを供給するために、それらの設備が有効に稼働している間は
事業収支が安定しますが、需要が減って施設の稼働率が下がると
利益を生むはずだった資産が、維持にお金がかかるだけの負債となってしまいます。
需要に見合った設備規模になっているか、施設の稼働率は高いか、
こんなところが着眼点です。
全国的な傾向として、かつては人口が増え続けていました。
現在はピークを過ぎ、長期的な人口減少期に入りました。
水道は生活に必須のライフ・ラインですから、人口が増え続けてきた時代には、
すべての家庭に水を安定供給できるように、給水設備や配水管などを増強し続けてきました。
今は多くの自治体で人口減少期に入り、
ピークのころに比べると水の使用量は減り、料金収入も減少しています。
長期的に需要が減り続けることは、装置産業にとって一番根本的な
「収益構造の変化」なのです。
水道施設は人口がピークの頃にあわせて作ってありますので、
今度は人口が減れば減るほど施設が過剰になります。
「水道施設の能力が余っているので稼働率を上げるために、
市民は水をいっぱい使って、いっぱい水道料金を払ってくれ」という発想は本末転倒。
旅人をベッドに寝かせて、はみ出した足を切断する話を思い出しました。
市民は水道事業を黒字にするために存在するのではありません。
水道局のほうが、今の市民が使う水量に適した給水体制や価格体系をつくるべきであり、
大量に水を使うことを前提としたこれまでの水道事業体制に、市民が合わせるのは逆です。
水を使うようPR事業を行うのではなく、人口や水需要の減少に合わせて、
過剰な水道設備の統廃合や合理化を進めることが装置産業である水道事業の経営に
根本的に必要な対応なのです。
右肩上がりだった水需要が、右肩下がりになったという、
事業を行う前提条件が180度変わっていることを理解し、
これまでのやり方、考え方を全て変えざるを得ないという認識を持つことが
経営改革のスタート。
これらが、人口減少時代における水道事業の一般的な対応のあり方なのですが、
市原市の場合、総人口は減少していません。しかし問題は市営水道の給水人口の変化です。
市原市HPによれば、現在の市営水道の給水人口は、約4万7千人で、市の人口の約17%。
近年は変動が少ないようです。
「節水と同時に水を使えと呼びかけるのは矛盾、何がしたいのか分からない」
「水をたくさん使って水道料をもっと払えという呼びかけには、
家計として市民はまったく同意できない」
これらは市民点検員さんから出た意見です。
市原市水道部は、水をもっと使うようPRすると同時に節水のPRも行っており、
市民には節水の意識が浸透しています。
家計としても必要もないのに、今以上に水を使って水道料金を払えという
市のPRには同意できません。
この「水道事業の普及啓発事業」のメインの事業は、
年2回ショッピングセンターなどで行う、
市販のミネラルウォーターと水道水の飲み比べイベントです。
水道水もおいしいと認識してもらい、安い水道水を飲んでもらいたいという趣旨。
市担当者は、水道の水はペットボトルの水の値段の2千分の1と強調していました。
(ペットボトルは500ccで約100円、水道水は1トンで約100円)。
でも、この論理だとペットボトル1本飲む人には、
水道水を1トン飲んでもらわないと料金的な効果がありません。
有効な取組みでしょうか?
「小口よりも、工場等の大口に市水を使ってもらえば」
市民点検員さんの意見です。
水の飲み比べイベントは年2回しかなく、たまたま飲む人の割合は
市民全体に比べればわずかです。
しかも、市営水道を飲んでいるのは市民の17%しかいませんので、
このPR事業のターゲットはさらに少ない。
水道事業は地区によって分けられていますので、
県営水道の地域に住んでいる市民が市営水道を契約することはできません。
無差別に市民にPRしても的外れな広報になってしまいます。
市営水道の水需要を目に見える形で増やしたいのであれば、
市民点検員さんが指摘されたように大口の顧客開拓に目を向けた方が効果的と思います。
ただし、県営水道が作られた目的は工場などの大口ユーザーに
安く水を供給するためなので、企業があえて市水道を選ぶのは難しいと思います。
「水をたくさん売れば、利益が増えるのか?」
経営を改善するのは単純です。
①収入を増やす、②支出を減らす、③両方同時に行う
市原市水道部は次のように考えているようです。
「市民にPRして、たくさん水を使ってもらえば料金収入が増えて経営が改善する」
はたして、そのとおりなのか。
実は、大きな落とし穴がありました。
市民による事業総点検で取り上げた水道の広報事業の狙いは、
水をたくさん使ってもらって料金収入を増やすことです。
先ほど検討しましたように水道事業は装置産業なので、
収入に結びつかない遊休施設があると経営を圧迫します。
そこで施設の稼働率を上げるためには、水をたくさん使ってもらおう
という発想なのだと思われます。
この「たくさん水を売って利益を増やそう」という戦略が有効に機能するためには、
適切な料金設定になっていることが大前提。
つまり商品である水を作って送り届ける経費よりも、
水の販売価格の方が高くなければ経営として成り立ちません。
ところが、市原市水道の場合、
水を製造するための「給水原価」は1トン当たり約545円であるのに対し、
販売価格である「供給価格」は約198円。347円の赤字。
これでは、水をたくさん使いましょうとPRしても、
経営改善につながるどころか売れば売るほど大赤字です。
どう考えても水の使用を増やすPRをする前に、水道料金の根本的な見直しが先です。
市民点検員の皆さんも、まさかこんなことになっているとは思われなかったと思います。
料金に手をつけないまま水の使用をPRする本事業はまったく意味がありません。
市民点検員の最終判定は、廃止・凍結3人、要改善2人でした。
「複数の水道事業者」
多くの自治体では、市内の住宅は単一の水道事業者でカバーしています。
千葉県は全国でも珍しく、県営水道が一般家庭で広く使われている地域です。
市原市の場合、臨海部の人口が多い地区は県営水道(千葉県水道局)が使われ、
内陸部の大半を市営水道と、ごく一部を一部事務組合水道部がカバーしています。
内陸部は人口が少なく山などの起伏が多いので、
水道の経営効率はどうしても悪くなります。
水道事業区域の条件や経営主体が異なれば給水原価は当然異なりますが、
販売価格である水道料金はバラバラなのか?という大きな疑問が浮かびました。
平成26年度の㎡あたりの給水原価は市営水道が約545円、県営水道が約182円。
全国平均と比べると市営水道の原価はとんでもなく高いことがわかります。
平成26年度の供給単価は市営水道が約198円、県営水道が約201円です。
製造段階では市営水道の方が3倍くらい高いのに、売るときは市営水道の方が安い。
これではどんな経営努力をしても、料金を変えない限り赤字体質は改善しないでしょう。
「適切な水道料金とは?」
市の水道事業は、独立採算の特別会計(公営企業会計)です。
まるっきり市の直営ではありませんが、民間企業とも違います。その立場を整理します。
・特別会計とは、事業経営が確認しやすいよう市の一般会計と区分して経理する会計。
水道事業の経費は水道料金等で賄う独立採算が原則。(地方自治法)
・公営企業は、企業の経済性を発揮することと、
公共の福祉の増進を合わせて目的としています。(地方公営企業法)
・地方公営企業は独立採算が原則であり、
性質上当該公営企業の経営に伴う収入を充てることが適当でない経費(消防の消火栓の設置など)
及び当該公営企業の性質上能率的な経営を行なつてもなお
その経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費
を除き、当該企業の経営に伴う収入をもつてこれに充てなければならない。(地方財政法)
・料金は、公正妥当なものでなければならず、かつ、能率的な経営の下における
適正な原価を基礎とし、地方公営企業の健全な運営を確保することができるもの
でなければならない。(地方公営企業法)
基本的には独立採算。
ただし、水道事業による収入を充てることが適当でない経費や、
公共の福祉目的を併せ持つことから能率的な経営を行っても事業収入だけでは
足りない場合には他会計から補てんできる、という仕組みです。
水道料金については、地方公営企業法によれば「適正な原価を基礎」としつつ、
「健全な経営を確保することができるものでなければならない」のです。
市原市の水道料金を見た場合、適正な原価を基礎としているのか、
健全な経営を確保できているのかは非常に疑問です。
私なりに水道事業の収入・支出を整理してみました。
営業費用は営業収入でカバーするのが望ましいのですが、
市原市の場合半分以下の44%しかカバーできていません。
独立採算が原則の企業会計としてはかなりひどい赤字体質です。
どうやって倒産を防いでいるのかというと、
営業外収益を営業費用のほうにまわしているのです。
営業外収益の財源に注目すると、
一番大きいのは「他会計負担金」9億3千9百万円、収入全体の35%を占めます。
次に大きいのは「他会計補助金」4億8千5百万円、収入全体の18%です。
水道事業は独立採算が原則ですが、
条件に適合すれば市の一般会計からの補助金や負担金は地方財政法で認められています。
細かい内訳や積算内容はわかりませんが、一見して補助金が収入の18%とは大きいな
というのが感想です。
それにもまして驚いたのは一般会計の「負担金」が収入全体の35%もあることです。
市の一般会計が負担するということは、水道会計が立て替えて支出した経費を、
本来の負担者である市が負担するというもの。
負担金の具体的な項目は総務省が示しています。
1 消火栓等に要する経費(市原市H28 消火栓設置・修理負担金 36,000千円)
2 公共施設における無償給水に要する経費
3 上水道の出資に要する経費
4 上水道の水源開発に要する経費
5 上水道の広域化対策に要する経費
6 上水道の高料金対策に要する経費
7 統合水道に係る統合前の簡易水道の建設改良に要する経費
8 統合水道に係る統合後に実施する建設改良に要する経費
消火栓以外の一般会計予算の水道事業負担金は見つけられませんでした。
広域化対策や高料金対策に要する経費が大きいのかもしれません。
関心のある市原市民の方は積算内訳や必要性をご確認ください。
市原市の場合、県営水道に比べ市営水道の給水原価は3倍も高いので、
そのまま水道料金に反映すると、同じ市民の中で水道料に3倍も差がついてしまいます。
そこで市が一般会計から補助して市営水道の料金を
県営水道以下に抑えているのだと推測されます。
水道料金を安く抑えることは、一見市民のために思えますが、
よく考えれば赤字分は誰か他人が使った水道代を、使っていない市民も負担しているのです。
県営水道を使っている市民にしてみれば、自分が使った分の水道料金を払ったうえで、
他人が使った市営水道料金まで負担させられているのです。
毎年、市の一般会計予算案と水道事業予算案は市議会で承認されますので、
このことは認識・同意され、市民合意が得られた上でこのような措置が
取られているのだと思います。
あるいは、市町村合併時にそのような取り決めがあったのかもしれません。
実際は一般会計から補てんしているにもかかわらず、
どの首長さんでも水道料金を上げて住民からきらわれるのは嫌でしょう。
でも使用料ですから、使った人が自分が使った分をきちんと支払い、
水道会計も赤字にならない料金設定にすることで、健全な水道事業を維持することにつながり、
ひいては将来にわたって市民のためになると考えます。
(製造原価をダイレクトに反映して料金を3倍にしなくてもよいと思いますが)
「経営改善に向けて」
私なりのアドバイスです。
・人口減少に対応した水道施設の統廃合
市単独での取り組みは限界があります。これまでは自治体ごとに水道事業を運営して
いることが多かったですが、現在では群馬東部水道企業団のように複数の自治体が
水道事業を統合し、過剰となった浄水場などの統廃合・合理化を進めています。
市原市の場合、県営水道との統合も視野に検討されると良いと思います。
千葉県内には市内全域が県営水道になっている自治体もあります。
・アセットマネジメント
各地で老朽化した水道管や施設の更新が遅れています。
いざ事故が起きてしまうと、市民生活に多大な影響が出ます。
計画的な水道施設の更新・維持管理が必要です。
平成27年に厚生労働省は
「水道事業におけるアセットマネジメントに関する手引き」を公表しました。
全ての水道事業者にアセットマネジメントを実施し、将来の更新計画や
財政収支を明らかにするよう求めています。市民や議員の方は、
市原市の取り組み状況を確認されると良いと思います。
なお、老朽化した水道管の交換はポリエチレン管がおすすめです。
費用的にも安いですが、なにより耐用年数が100年なので交換の回数が減ります。
さらに曲げに強いので耐震性も強いです。水道用のポリエチレン管は青色なので
「青ポリ」とも呼ばれます。
・料金回収率の向上
世の中の平均は100%近いのに、こんなに低い回収率は見たことありません。
どうしてこんな状態になっているのでしょうか?
・有収率の向上
流している水の総量に対して、お金がもらえている水の割合。
あちこちで漏水などがあると、せっかく作った水が無駄になります。
有収率がこんなに低いのでは、原因調査と対策が必要です。
・民間委託について
賛否両論あります。
(8月10日 追記)
・大和総研の鈴木文彦さんから次のアドバイスがありました。
地域別料金制度や定額制の導入を検討されるのはいかがでしょう。
まずは原価構造の「見える化」。そのうえで広くディスカッションすれば
自ずと答えが出てきます。
(参考)
・市原市 平成26年度給水状況
・市原市水道 平成26年度経営指標
・市原市水道事業 経営指標の概要
・市原市水道局 経営指標分析表
・水道関係の私のブログ