微妙な働きをする塩。単にけつあつだけの話ではないですね。
【塩とは、どういうものが本当の塩なのか?】
あなたはどのようなお塩を使っていますか?塩にもいろいろあるのです。
本物の塩を選びましょう。
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たばこ産業 塩専売版 1989.06.25
「塩と健康の科学」シリーズ
日本たばこ産業株式会社塩専売事業本部調査役
橋本壽夫
身体の中の塩の働き(1)
最近「塩 あなたまだ不安ですか」という本が出版された(農文協)。慶応義塾大学医学部の加藤暎一教授が監修し、東京大学医学部内科学の藤田敏郎助教授、秋田大学医学部衛生学の島田彰夫講師、女子栄養大学調理学の松本仲子助教授の3人がそれぞれ専門の立場から塩とつき合う健康法について執筆している。病人、健康人ともそれぞれ自分の体の具合に合わせた塩の取り方についての考え方が書かれており、紹介しておきたい。 さて、塩は悪者扱いにされており、なんとなく悪いものだと思い込んでいる方もあると思う。しかし一方では、塩は生命の維持に欠くことのできないものともいわれている。そこでこの度は女子栄養大教授の小池五郎先生が書いた「食べものの健康学」(大修館書店)を参考にして、どうして塩が生命の維持に欠くことができないか、体内における塩の動きをまとめてみた。
①浸透圧を一定に保つ働き
浸透圧といっても馴染みのない言葉で分かりにくいかと思う。浸透圧という文字でも分かるように、セロハンのような膜を水が浸み透っていく力をいう。逆にいえば、水を浸み出させる力といってもよい。新鮮なキュウリを薄切りにして塩水に浸して置くと、かたいキュウリから水が浸み出て萎れた軟らかいキュウリになる。これは塩の浸透圧によるもので、水に砂糖や塩が溶けていると、その溶液は浸透圧を示し、その力は溶けているものの濃度が高いほど大きくなる。 人間の体は60兆個もの細胞から成り立っているといわれるが、その細胞の中には細胞内液といってカリウムを中心とした各種成分が溶けている液があり、細胞はある一定の浸透圧に保たれて生きている。この細胞の外には細胞外液といってナトリウムを中心とした各種成分が溶けている液がある。細胞はこの液に取り囲まれ、この液の中に浮かんでいるともいえる。この細胞外液も細胞内液と同じ浸透圧に保たれている。細胞外液の浸透圧を主として決める働きをするのがナトリウムだ。 生理的食塩水という言葉を開いたことがあると思うが、これは0.9%の食塩水で、この液の浸透圧はちょうど細胞外液の浸透圧に等しくなっている。細胞外液では0.9%のうちの約0.6%分が塩の働きで、0.3%分がブドウ糖、アミノ酸、その他の有機化合物や無機化合物の働きによるもの。ブドウ糖やアミノ酸といった栄養分は体の状態によって濃度が変化する。それに伴ってその分が担っている浸透圧が変化するので、その時、浸透圧が変化しないように塩の量が変化して浸透圧を一定に保つ。 この時の塩は骨の組織の中にあり、必要に応じて細胞外液に塩を放出したり、吸収したりして、浸透圧を調節している。細胞外液中の塩がなくなって浸透圧が低くなると、細胞内液との浸透圧のバランスが崩れてくる。そこでバランスを崩さないように、水が細胞内に入ってきて細胞は脹らみ、細胞外液は減って脱水症状を起こす。この時、水だけを飲むと、細胞外液の食塩漉度は一層薄まり、ますますバランスを崩すことになる。薄い食塩水を飲むとバランスが正常になる。 このような時の緊急処置として生理的食塩水やリンゲル液を注射する。細胞外液が減れば血圧も下がり、体が正常に機能しなくなる。例えば、血圧が異常に下がると尿ができなくなる。体内の老廃物は腎臓内で血圧によって毛細血管から押し出されて尿になる。押し出す力が小さくなれば尿ができなくなり、老廃物を体内から出せないので尿毒症になってしまう。逆に塩が多くなると細胞外液の浸透圧が高くなり、細胞内液の水分が減って細胞が縮んで萎れてしまう。特に脳細胞でこのような変化が起こると生体に重大な影響を与える。また、細胞外液の量が多くなると血圧は高くなる。 このようなことが起こらないように、ナトリウム濃度は絶えず一定になるように腎臓がナトリウム排泄と水分排泄を調節しており、体液の浸透圧は一定に保たれて、我々は生きていける。
②体内水分の調整
前の説明で食塩と水と浸透圧はお互いに関連していることが分かった。我々の体は細胞外液の浸透圧を絶えず一定に保っているが、それは腎臓の塩分排泄と水分排泄によって行われている。 塩を沢山取ると細胞外液中の塩濃度が高くなり、浸透圧が高くなるので、濃度を薄めようと水が欲しくなり、喉が渇く。すなわち、過剰の塩は体内の水分を増加させる。しかし、腎臓が正常であれば時間とともに腎臓が速やかに塩と水を排泄してしまう。排泄機能が悪い時は体内に水分がたまる。そうなると、むくみ、はれとなって現れ、浮腫の症状を示すようになる。このような時には塩の摂取量をできるだけ少なくして、腎臓に塩分排泄の負担がかからないようにしてやれば、浮腫はなくなる。 すなわち、体内の水分は減少する。この時、体重が減るので、塩の摂取量を減らせば痩せられると錯覚するが、水分量が減るだけで、脂肪やタンパク質は減らないので、減塩によって基本的に痩せるということはない。塩にカロリーはない。ただし、減塩によって食欲がなくなり、食べる量が減って痩せるということはある。
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