多少の薬代で解決できる糖尿病。ガンは痛いが本人だけが痛い。認知症は他人をきづ付ける。だから適糖でも多少なりとも予防のための糖質制限。それでいいのでは。
有料会員限定3本 登録会員の方は月10本まで閲覧できます。
記事 今月の閲覧本数:2030年不都合な未来(3)認知症家族に迫る限界
介護保険には頼れない
- 2016/12/21付
- 日本経済新聞 朝刊
11月22日。森義弘さん(68)の10年に及ぶ認知症介護が終わった。この夜、妻の敏子さんが亡くなった。72歳だった。
敏子さんは62歳で認知症に。森さんは仕事を辞め在宅介護に専念した。食事、入浴、排せつのケア。「夜中に13回、起こされたことも」。心と体が追い詰められる夜を幾度も重ねた。
今、森さんは喪失感に襲われている。「さみしい」。笑顔に癒やされ、予想外の言動にいらだった。介護は生活そのものだった。
要介護度がネック
認知症大国・日本。462万人(2012年)の認知症の人は、団塊の世代が80代になる30年、多いシナリオで830万人に。森さんが体験した介護の日々は、多くの人の日常になる。
2000年に始まった介護保険。家族は楽になるはずだった。だが……。
「物忘れがひどくなってきた。いずれは施設なのかな」。東京都世田谷区の奈良慶子さんは悩む。
生後半年の娘を抱え、認知症の父親(85)を介護する。「ダブルケアは負担が大きい」。施設を頼ろうにも、特別養護老人ホーム(特養)への入所には、父親の要介護度がネックになる。
今は生活の一部に介助がいる要介護1。15年の介護保険法改正で、要介護1と2は原則、入所対象外に。認知症の特例はあるが、区内には2000人近い待機者がおりメドがたたない。
「認知症は介護が大変なのに要介護度が低い」。青森県で特養を営む中山辰巳さん(64)は嘆く。
介護保険は身体機能の衰えへの支えを重視する。妄想や問題行動は体が元気でも出るため、要介護度と介護の大変さが一致しない例もある。「そもそも介護保険の成立時、認知症の激増は前提ではなかった」
家族の負担はすでに重い。認知症の人を1人介護するのに、年382万円も家族は無償で負担している――。慶応大学が出した試算だ。自らする介護、離職での収入減など負担は計6兆円。30年には9兆円になる。
地域互助に活路
介護保険の給付額は15年時点で約10兆円。25年には19.8兆円に膨らむ。財政が厳しいなか、老夫婦のみや単身の世帯が増え、家族の介護力は弱まっていく。
頼みは地域の互助力だ。住民が訓練を重ね、認知症の行方不明者を発見した実績を持つ福岡県大牟田市。だが「ここまでに10年かかった」(同市の白川病院)。急がねば間に合わない。
たとえ認知症でも、介護保険だけに頼るのはますます厳しくなる。そんな未来を見据え、自ら備える意識も広がる。太陽生命保険の「ひまわり認知症治療保険」。認知症になると300万円を給付する。3月の発売後、予想を上回る約14万6千件の契約を集めた。
介護保険料を払う40歳以上の人は21年をピークに減る。財源が限られるなか、公助・共助の役割をどう定め、互助や自助の力をどう引き出すのか。難題から目を背けても、830万人を支える未来は逃げてはくれない。