〇テロップ
4年後。
〇立山の麓
立山の美しい山並み。
麓の過疎の村跡にいくつかのログハウスが点在している。
まわりには、行き届いた田畑。稲穂が風になびき、野菜畑では、収穫を待つ野菜が色とりどり並んでいた。
一番手前のログハウスのところに、『芸術村』という手作りの看板。
そのログハウスから、3軒目の家が洋介の仕事場であった。
〇洋介の家の中
山小屋のような雰囲気。ログハウス独特の丸太を積んだ壁から、ヒノキのいい香りが漂っている。
リビングとダイニングを兼ねた部屋は質素であるが、使いやすそうに見えた。壁際にシンプルなキッチンセット。耳つきの木材で作られた素朴なテーブルに椅子。
スタジオは防音壁できっちりと仕切られていた。
回り階段を上がった屋根裏に部屋が二つ。スロープの天井はいかにも別荘という感じがして、訪れたものの心をワクワクさせた。
愛子「いい香り。自然の匂いって何て気持ちいいんでしょ」
ヒデト「ほんとに心地良いところですね」
洋介、お茶を出しながら、
洋介「ああ、自然の中で暮らすことが、人間にとって最高の贅沢なんだろうな。それに、何も持たないってのが、気楽でいい」
温かみのある手作りの湯飲みが三つ、テーブルの上に。
愛子「(触りながら)このお茶碗、もしかして、洋介さんのお手製?」
洋介「(頭を掻きながら)ばれた? でこぼこだもんなあ。この村の奥にある熊さんちの窯で焼いてもらった」
ヒデト「熊さん?」
洋介「熊谷さんっていうんだけど、熊さんって呼ぶのがぴったりなんだ。会えばわかるよ(笑)」
ヒデト「ここはいろんな芸術家が集まっているそうですね」
洋介「自称『芸術家』。音楽家、作家、画家、他に、彫刻家、陶芸家、染色家たちがいる。
そうそう、有機農業など、理想的な農業を目指す農家も合わせて、今のところ、計、33軒」
愛子「ちょっとした共同体ですね」
エヴァが愛子の足元でくつろいでいる。
ときどき、声のするほうを見ては首を傾げている。
洋介「まだまだ増える予定だ。ここんとこ希望者が多くて」
ヒデト「食料品とか学校とかは?」
洋介「農産物は村がかりで、結構、自給自足できるほどまでになっている」
ヒデト「自給自足?」
洋介「途中で見なかったかい? どこの家も畑を持っていただろ? ある程度、自分たちの食べる野菜は自分たちで作っている。
あと、米は、農繁期には、みんなが協力して生産している」
愛子「へえ~、すごい! 洋介さんも、田植えや稲刈り、するんだ」
洋介「もちろん! 自然の中で働くっていうのは、じつに気持ちがいい。
作曲で行き詰っているときなんか、特にいい。農作業していると、思いがけず、ポロッとメロディが浮かんできたりしてね。作家や画家の人たちも同じようなことを言ってる」
愛子「私もやってみたい」
一瞬、顔を見合わせるヒデトと洋介。
ヒデト「うん。やろう! 手伝わせてもらおう」
ニッコリ微笑む愛子。エヴァも鼻を愛子のひざにすり寄せて同調している様子。
洋介「そうそう、さっきの続きだけど、農産物以外は、通販を利用したり、時には町のスーパーまで買いに行ってる。
学校はね、去年までは、親が協力し合って、町まで送り迎えしていたけど、今は水野という人がつくった学校に通わせている。
彼らは夫婦で、子どもたちを教えているんだ。いろいろあったみたいで、『真の教育』を目指してここにやって来た」
ヒデト「ふうん。芸術家だけじゃないんだ」
洋介「いや、シュタイナーは、教師は『芸術家』でなければならない、と言ってる」
ヒデト、ぽかんとしている。
洋介「まあ、いい(笑)。ところで」
愛子、洋介の言葉を継いで、
愛子「そうそう、ワークショップはどこでやるの?」
洋介「村の真ん中に集会所がある。学校の隣。先月できたばかりさ。オレたちが初めて使うことになる」
ヒデト「何人くらい集まるんですか?」
洋介「たしか、オレたち合わせて15人。いや、一人、特別参加があるから、16人だ」
4年後。
〇立山の麓
立山の美しい山並み。
麓の過疎の村跡にいくつかのログハウスが点在している。
まわりには、行き届いた田畑。稲穂が風になびき、野菜畑では、収穫を待つ野菜が色とりどり並んでいた。
一番手前のログハウスのところに、『芸術村』という手作りの看板。
そのログハウスから、3軒目の家が洋介の仕事場であった。
〇洋介の家の中
山小屋のような雰囲気。ログハウス独特の丸太を積んだ壁から、ヒノキのいい香りが漂っている。
リビングとダイニングを兼ねた部屋は質素であるが、使いやすそうに見えた。壁際にシンプルなキッチンセット。耳つきの木材で作られた素朴なテーブルに椅子。
スタジオは防音壁できっちりと仕切られていた。
回り階段を上がった屋根裏に部屋が二つ。スロープの天井はいかにも別荘という感じがして、訪れたものの心をワクワクさせた。
愛子「いい香り。自然の匂いって何て気持ちいいんでしょ」
ヒデト「ほんとに心地良いところですね」
洋介、お茶を出しながら、
洋介「ああ、自然の中で暮らすことが、人間にとって最高の贅沢なんだろうな。それに、何も持たないってのが、気楽でいい」
温かみのある手作りの湯飲みが三つ、テーブルの上に。
愛子「(触りながら)このお茶碗、もしかして、洋介さんのお手製?」
洋介「(頭を掻きながら)ばれた? でこぼこだもんなあ。この村の奥にある熊さんちの窯で焼いてもらった」
ヒデト「熊さん?」
洋介「熊谷さんっていうんだけど、熊さんって呼ぶのがぴったりなんだ。会えばわかるよ(笑)」
ヒデト「ここはいろんな芸術家が集まっているそうですね」
洋介「自称『芸術家』。音楽家、作家、画家、他に、彫刻家、陶芸家、染色家たちがいる。
そうそう、有機農業など、理想的な農業を目指す農家も合わせて、今のところ、計、33軒」
愛子「ちょっとした共同体ですね」
エヴァが愛子の足元でくつろいでいる。
ときどき、声のするほうを見ては首を傾げている。
洋介「まだまだ増える予定だ。ここんとこ希望者が多くて」
ヒデト「食料品とか学校とかは?」
洋介「農産物は村がかりで、結構、自給自足できるほどまでになっている」
ヒデト「自給自足?」
洋介「途中で見なかったかい? どこの家も畑を持っていただろ? ある程度、自分たちの食べる野菜は自分たちで作っている。
あと、米は、農繁期には、みんなが協力して生産している」
愛子「へえ~、すごい! 洋介さんも、田植えや稲刈り、するんだ」
洋介「もちろん! 自然の中で働くっていうのは、じつに気持ちがいい。
作曲で行き詰っているときなんか、特にいい。農作業していると、思いがけず、ポロッとメロディが浮かんできたりしてね。作家や画家の人たちも同じようなことを言ってる」
愛子「私もやってみたい」
一瞬、顔を見合わせるヒデトと洋介。
ヒデト「うん。やろう! 手伝わせてもらおう」
ニッコリ微笑む愛子。エヴァも鼻を愛子のひざにすり寄せて同調している様子。
洋介「そうそう、さっきの続きだけど、農産物以外は、通販を利用したり、時には町のスーパーまで買いに行ってる。
学校はね、去年までは、親が協力し合って、町まで送り迎えしていたけど、今は水野という人がつくった学校に通わせている。
彼らは夫婦で、子どもたちを教えているんだ。いろいろあったみたいで、『真の教育』を目指してここにやって来た」
ヒデト「ふうん。芸術家だけじゃないんだ」
洋介「いや、シュタイナーは、教師は『芸術家』でなければならない、と言ってる」
ヒデト、ぽかんとしている。
洋介「まあ、いい(笑)。ところで」
愛子、洋介の言葉を継いで、
愛子「そうそう、ワークショップはどこでやるの?」
洋介「村の真ん中に集会所がある。学校の隣。先月できたばかりさ。オレたちが初めて使うことになる」
ヒデト「何人くらい集まるんですか?」
洋介「たしか、オレたち合わせて15人。いや、一人、特別参加があるから、16人だ」