山の上のロックの永~い旅(5)

2018-06-10 10:51:32 | 童話
何年か経った時に台風が来た。
山に沢山の雨が降り、小川の水量が増えて、僕はまた動き出した。
そして、もっと広い川まで滑って来た時、急に水の流れが激しくなってきた。
あっちこっちぶつけながらすこしずつ進んだ。

その時、前の方の川岸や木が見えなくなり、空が見えてきて、急に体がふぁっと浮かんだ。 次の一瞬、下へ下へと体が落ちて行った。
それは、お父さんやお母さんから聞いていた滝だ。
初めて見たし、初めて下へ落ちて行った。
ドボーン、ドスン。僕は滝壺に落ちてお尻をぶつけた。
その衝撃で体が半分くらいになってしまい、滝壺から飛び出した。
そして、僕の体の仲間が沢山できたのだ。

『みんな大丈夫かい?』
『大丈夫だよ。』
『大丈夫。』
『元気だよ。』
『一緒に居るよ。』
『僕も元気だよ。』
『良かった、良かった。みんな無事でよかった。』
『この滝壺から出るのに何年かかるかわからないけれど、みんなで海に向かっていこうね。』

そして、永い年月が過ぎて滝壺から転がり出た。
今度は広い川の中なので、僕は転がりだして、大きな岩にぶつかった。
『痛いっ。岩にぶつかったので、頭とお尻の角が取れちゃった。』
僕は次々と岩にぶつかりながら転がって行った。
『あれっ、あっちこっちの角が取れちゃったので、段々丸くなってきた。』

そして、取れた角の小石も川の中でコロコロと転がっていた。
『お~い、みんな大丈夫かい?』
『大丈夫だよ。一緒に転がっているからね。』
『だけど、君達の方が小さいから転がるのが速いね。』

段々川が広くなって、魚も多くなってきた。人間が川下りする船とも出会った。
『僕はロック、君達は?』
『ぼくはコイ。』
『わたしはアユ。』
『ぼくはイワナで、あそこにウナギも居るよ。』
『ロックはどこへ行くの。』
『海へ行くんだよ。』
『海はまだ遠いよ。』
『この川を転がって行くと海へ行けるよね。』
『うん、海の少し前まで行った事があるけれど、遠いよ。』
『ありがとう、頑張って行ってくるからね。』

そして、何年か転がって海の入口にやって来た。
『水が少し塩辛くなったね。』
遠くに大きな船が見えてきた。
『海だ、海だ、海に着いたのだ。』

僕の上を大きな波がザブン、ザブン。
『ここは、波でユラユラと楽しいな。』
『やぁ、僕たちよりも前に来た石達もみんな丸くなっているね。』
『お父さん、お母さん、僕は海に着いたよ。お姉ちゃん、弟、海で待っているからね。気を付けて来るんだよ。』

何年もかかったけれど楽しい旅だったと、僕は思った。

   おしまい