今までに発症前からの経験の殆どは掲載したつもりだが、時折もう少し詳しいことをふと
思い出すことがある。今までのことの隙間のような話だから大したことはないと思うが、折
角思い出したのだから記録として残しておく。自覚症状の詰まりが出始めた時のことであ
る。どうも癌になったらしい、これは大変なことになったと観念せざるを得なくなり、ここは
冷静にならねばならないと自分に言い聞かせた。
私の場合、7月の初めか中ごろに最初の症状が出て月末までには、自己がん告知をして
いる。最初の症状が出て僅かの期間しか経過していない、経過観察などと無駄な時間を
使わないで病院に行くのだから、これは早期発見、早期治療の部類に入るに違いないと
思っていた。ただ自分の心の中でいやらしい癌は肝臓と食道、怖い癌は肺がんだった。
長年ヘビースモーカーでいたから、私自身が肺がんにかかるリスクは高いはずなのに自
分は癌にはならないが肺がんは怖いと支離滅裂な論法を振りまいていた。それというのも、
私の友達2人、義兄の3人とも肺がんからの生還を果たせなかったからだ。自分自身の周
辺や状況はともあれ、大病をすることはおろか癌などの心配はしていないし、がんのことを
考えることがあっても、ほんの一時のこと。理由はよく知らなかったのに食道がんはいやらし
いから、間違ってがんになったとしても、こいつだけは願い下げたいと勝手なことを思ってい
た。ところが食道がんとおまけの胃がんに襲われてしまった。
手術をして2度目の抗がん剤治療を受けた後に食道がんのことを調べ始めた。手術前に右
往左往する情報の嵐は錯綜を起こし気分が滅入るのではなかろうか、医者からの情報以外
のことを知らなかったために、取り返しのつかないことが起こるとは考えなかった。知らなけれ
ば気楽という一番いい加減な道を選んでしまった。
術後に調べてみると自覚症状が出始めた時、食道は半分近くまで塞がれていて、食べたもの
が詰まる自覚症状が出始める、とあった。それなのに早期発見の部類にあるのではないかとい
う、藪医者のとんでもない誤診だ。
お気楽なことで結構でございました・・・と間抜けなことだが、もし最初からそんなことを知ってい
たら、どのような心境で手術に臨んだのか知る由はないが、知らなかったことで何一つとして後
悔するようなことはない。
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