以前にも外務省元主席分析官佐藤優氏の中国新疆ウイグル感覚については、疑問があるということを当ブログでは言ってきた。
佐藤優の中国対ウイグル宗教政策の認識に対する疑問
http://blog.goo.ne.jp/kokkok2014/d/20070318
それはどうも現在でも変わっていないと当ブログは思う。
3月10日前後から始まった今回のチベット動乱に関して、佐藤氏はlivedoorのコラム佐藤優の眼光紙背 第25回「チベット情勢と日本の国益」でこう述べている。
http://news.livedoor.com/article/detail/3558923/
これまで、中国専門家は、新彊ウイグル自治区では、ウイグル民族主義とイスラーム原理主義が複雑に絡み合った分離、独立傾向が深刻であると見ていたが、チベットについては情勢は比較的安定しているものと見ていた。今回の暴動はそのような「常識」を覆すものだ。
だいたい、まず新疆の疆の字がちがっている。そして中国専門家からしかウイグル、チベット問題を捉えていない。ウイグル、チベット問題は地域研究を行っているその専門家がいるはずだが。
ウイグルについては何年にもわたる教育政策が功を奏したのか、新疆第14番目の民族と呼ばれる民考漢(漢語で教育を受けた少数民族)が生まれかなりの多数になり、分離独立指向をいきなり求めるというよりも、現状への不満を民族主義に求めている感じが高い。現在の新疆経済はほぼ完全に中国内地に取り込まれている形となっている、という専門家もいる。
そしてウイグル民族主義とイスラム原理主義が複雑に絡み合っていることなどほとんどないのではないか?なぜならウンマの再生を指向するイスラム原理主義はナショナリズムと対抗する思想であるからである。
現在のウイグル独立運動の主流はジャディーズムとパン・トルコ主義の精華であってイスラム原理主義などではない。
イスラム原理主義者がウイグルにいないとは言わないがそれはハッサン・マフスムの戦死などがひびいて、ごく少数になってしまった。80、90年代になってソ連崩壊また社会主義諸国の民主化の影響で、ウイグル独立指向の団体は多数海外に出来たようだがいろいろな考えの持ち主が多くて一つにまとまりにくかったというのが本当ではなかろうか。
訝しいのは次のところだ。今日本は様子見でよいとし、次の一手として、佐藤氏は言う。
日本政府から、チベットやウイグルの経済発展に向けた協力を中国政府に提案する。経済状況の安定は、過激なナショナリズムを抑制する効果があると中国政府を説得する。
「チベット、ウイグルの経済状況の安定」がチベット人、ウイグル人の経済状況の安定なのか、チベット自治区、ウイグル自治区の経済状況の安定なのかまったく明確ではない。
自治区の経済状況ならわざわざ日本から言われなくとも安定に近づいているといってもよかろう、
政府発表では躍進する自治区経済が発達する鉄道、道路、空港等のインフラと共に輝かしく喧伝されている。
そして日本はそのための「経済協力」なら、結構やっている。青木直人氏のブログの記述や以前のエントリーを参考にしてくれるとよい。
青木直人BLOG
http://aoki.trycomp.com/2008/03/post-23.html
新疆ウイグル自治区はさらにひどい。この地域を「解放した」のが人民解放軍の王震将軍であり、彼が対日利権の最大の窓口である中日友好協会の名誉会長であったことから、日本のODAも相当行っている。なかには現地幹部(漢民族)用に温泉まで作っている。もちろん私たちの税金が出所である。
日本の援助がチベットなど少数民族への弾圧と無関係ではないという自覚が日本人の長期的な支援の継続には不可欠だろう。
その結果どうなったか、新疆ウイグル自治区に多くの漢族が流入し、ウイグル人は漢語を第一言語としない二等民族とされ、急速な経済発展についていけなくなった人はアイデンティティを喪失して犯罪者、ジャンキーになっていく。雇用、貧困からの脱出という名目での漢族化、ウイグル文化の破壊が起こっている。それにわが日本も一役買っているのである。
つまり、「チベット自治区、ウイグル自治区の経済状況の安定」は短期的にはナショナリズムを抑制されているように見える、しかし潜在的な憤怒の声はむしろ大きくなっており将来的には不安定の原因になっているというのが実際ではないかということなのである。
佐藤氏の言う「チベット、ウイグルの経済発展」が「チベット人、ウイグル人の経済発展」を指すのならばそれは喜ばしいことだ。しかし、日本が国家として中国の少数民族政策に意見を提言できるかといえば、その能力もないしまず中国は受け付けない。
かつて日本は第二次大戦前、そして戦中に特務員をウイグルにも送り込み、中国包囲作戦の駒としようとしたが、それははかなく終わった。
こういう経験があるから、中国の警戒心は並ではない。
以前も言ったが佐藤氏の提言は「地政学」「国益」にとらわれるあまりに現地の人間に対する目が行き届いていない。
こういう考えでは明石元二郎気取りの人間を増やすだけであろう。
ちなみに私はイスラムを含む多民族国家の教科書的なものはいまだどこの国にもないと思っている。
強いて言えば、カナダか。
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