旅とエッセイ 胡蝶の夢

ヤンゴン在住。ミラクルワールド、ミャンマーの魅力を発信します。

今は、横浜で引きこもり。

邯鄲の夢 - 第九夜

2014年12月06日 17時45分59秒 | 夢十夜
9.大阪の、かやくご飯にご用心

 若いころ、大阪に出張し訪問先の近くまで来て昼になりました。昼食を済ませて午後一番に訪問すればちょうど良い時間です。食堂を物色したのですが、下町の飯屋はどこも一杯でした。一軒を選んで狭い4人掛けのテーブルに相席で座ると、斜め向かいにニッカボッカを穿いたおっちゃんが斜に構えてビンビールを飲んでいます。アタッシュケースをテーブルの脇に置き、壁を見ると定食の手書きの品書きがペタペタ貼ってあるので、目の焦点を合わせて「何にしよー」と思案しました。いつもは割りとパパッと決めるのですが、大阪の飯屋は勝手が違い、東京の定番メニューには無いものが出ています。
 その中のひとつに『かやく定食』があったのですが、ん?カヤク、火薬?火薬の乗ったご飯?どんな物か全く想像がつきません。以前同じようなシチュエーションで、名古屋で、『みそ煮定食』を頼んで失敗しています。自分は酒の肴としての『モツの煮込み』は大好きですが、ご飯のおかずにしたいとは思わない。ご飯と一緒じゃ生臭い。
 店内はますます混んできて、やたら勢いのいい小娘が、注文取りと配膳に一人で飛び回っていて、『かやく定食』がどんなものなのか説明を頼んだらブッとばされそうな雰囲気です。おねえちゃんは水が2/3ほど入ったコップをドンとテーブルに置きグッと胸をそらせます。「お客さん、忙しいんだから、注文早くしてよね。」とその全身が言っています。その迫力に押されて『かやく定食』とつい言ってしまいました。「カヤク一丁」おねえちゃんはすかさず叫んで飛び去りました。
 待つうちに狭いテーブルではニッカボッカの隣にサラリーマンが座りました。騒がしい店内で結構待たされた後、おねえちゃんがこれまた乱暴にトレーを私の前にドンと置きました。見るとドンブリと味噌汁、おしんこ数片630円といった代物で、なんか普通じゃんという定食ですが、ふたをとるとドンブリの中は親子丼にしか見えません。え、え、どこがカヤクなの?などと思いつつも、うまそうだったので早速食い始めた。その途端、おねえちゃんが次のトレーをますます乱暴に向かいの席に置きました。ニッカボッカとサラリーマンの中間、ややサラリーマン寄りの所です。それを見ると、なにしろ目の前ですから、「ゲッ、マズイ」何やら混ぜご飯っぽいのを中心におかずが配分されている。「これがかやく定食なんじゃないの?じゃあ俺が食ってるこれは何?」
 サラリーマンが何を頼んだのかは知りませんが、自分の注文はちゃんと把握しているらしく、ニッカボッカの方をチラチラ見て、指でちょっとトレーを押しやりました。ニッカボッカは自分には全く関係ない、という態度で視線を宙に飛ばして残り少ないビールをぐびっと飲みました。二人の間で『かやく定食?』が湯気をたてている。やばいぞ、これは。もう味なんか分からない。サラリーマンの注文が来たら修羅場になりそうだから、早く速く、一気に食い終わってガバッと立ち上がり、伝票なんか無いから「お勘定」と出口で言うと、例のおねえちゃんが「何召し上がりました?」とやたらでかい声で聞いてくるから、「親子丼。かな?」と声のトーンを落として答え、千円札をサッと出し、お釣りをもぎ取るようにして店を出た。間一髪セーフか。大阪のかやくご飯にご用心。

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