旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

オバQな世界 - 続

2018年08月09日 11時49分47秒 | エッセイ
オバQな世界 - 続

 サウジ、ジェッダの下町に出ると市場や食堂が並んでいる。ひげ男たちは東洋人の自分に結構優しい。一緒に茶を飲まんか、と誘われた。リヤドには世界有数の規模のショッピングモールがあるそうだが、行ったところで自分には縁がない。

 下町の市場には商品が溢れている。しかも安い。子供がよほど大切にされているらしい。こじゃれたデザインの子供服が沢山売られている。200円とかで買える。息子に何枚か買って帰ったが、どれも小さすぎて一度も着られなかった。イメージよりも子供の成長は早い。しっかしどの商品も歯ブラシからティッシュ、菓子からスプーンまでが外国製品。国産は石油と羊の肉だけか。棗椰子の実は?これも輸入か?

 飯はどれも羊肉料理で、まあたいして美味くはない。ビールちょーだいって、あるわけないか。何日か滞在すると、自動車部品の商売の相手が5割以上イエメン人であることが分かる。たまにヨルダン人やイラク人の店主がいる。サウジの純潔種は、部品のような油臭い仕事はやらない。石油関連やトヨタの代理店とかは、サウジ(アラブ)人が社長だ。

 彼らは背が高くてノーブルな顔つきだ。しかし鼻血ブーの哲学青年の例があるから、外見に騙されてはいかん。内心Hなことを考えているかも。ちょっと前まで駱駝に乗って半月刀を振り回していた連中だ。と、首狩り族(戦国時代)の子孫の自分は思う。

 イエメン、これは中世のアランビアナイトの国だ。また内戦が始まったのか。自分が行った時は、内戦は収まっていたが、道端に焼け焦げた戦車の残骸が残っていた。首都攻防戦の名残りか。なんでそうまで戦いたがる。イエメン人に較べると一律に背が低い。しかし小柄だが太った奴はほとんどいない。いかにも血の気が多そうだ。

 全員首からぶっとい短剣をぶら下げ、街にはひげ男達がライフルを担いでのっしと歩いている。サヌア郊外オールドサヌアは、日干しレンガの平屋根の建物が丘の上に絶妙に連なり、いきなり14世紀にタイムスリップしたようだ。衝撃だ。今はいつ、私はだれ?

 ★★★ 「ちょ、ちょっと カーット!」「駄目だろ、ターバン巻いて短剣ぶら下げたエキストラが街中に溢れているのに。」「えっ何がですか。」「バカ、あの車、何とかしろっての。あっそれからアリババ呼んできて。」 ★★★

 イエメンの男達は、一日中カートを噛んでいる。照りのない榊か椿のような葉っぱだ。しょうーもない何の変哲もないただの葉っぱ。それをちぎって噛み噛み、片方のほっぺをハムスターのように膨らませて、葉のエキスをチューチュー吸う。夕方からは20人も車座になって、真ん中にカートの葉のついた枝を積み上げカート宴会が始まる。365日やっているんじゃないかな。品質に差があるそうだが分からん。静かな宴会だこと。

 カートで食欲が抑えられるから太らないんだな。イエメンの男の平均寿命が短いのがよく分かる。カートの覚醒効果が出てくるには時間がかかる。2時間も3時間も付き合うのは退屈なので途中で退散した。でもその事を後悔している。カートの効果が出てくるとどうなるのか?高野秀明氏の『謎の独立国家、ソマリランド』を読めば分かる。

 あとトレジャーハンターの人が書いた本に、サヌアの市場が出てくる。彼は乳香で一攫千金を求めてイエメンに来たが、今では養殖ものが出回っていることが分かる。しかし彼は香料市場で匂いを頼りに伽羅を見つけ、それを全部出してもらって買い占めた。一言で書いてしまえばこうだが、迷路のような市場の一画で繰り広げられる迫真のやり取りが面白かった。イエメンの商人は米ドルの数字が読めない。アラビア数字なのに。彼らはドル札を絵柄の顔で判別している。

 何かこの話、止まらなくなりそうだ。何回かに分けて書いた方が良かったかな。ここまでがイエメン編ね。俺がプロのエッセイストならそうしているね。ああ、これで後3回はネタに困らない、ウッシッシ。でも原稿料が入るわけではないから、ここはサラっと続けよう。

 サウジの首都は内陸のリヤド。ジェッダは港町だ。ジェッダの客の店先にいると面白い。ここに買い付けに来る連中の中にはアフリカ人が実に多い。ソマリア、エチオピア、チュニジアといった北アフリカだけでなく、ウガンダ、ケニア、コンゴ、マラウィといった中央・南アフリアの黒人商人がひっきりなしに買いに来る。そういった国々にも日本車はたくさん走っている。そしてその中にはハイラックス、ランドクルーザーの割合が多いのだ。

 だったら彼らの国に直接部品を売りに行ったらどうだろうな。歓迎されるのは間違いない。値段は1.5倍くらいにはなり、利益率は激増する。但しTotalの金額は小さく、支払いと運送のリスクは神がかり的に膨らむ。個人で商売をやっていたら、心配で眠れなくなりそうだ。うまくいったらおなぐさみ。一回一回が賭けみたいなものだ。それに比べるとサウジの商人は信用できる。

 サウジは外国人には住みにくい国だ。観光目的では入国出来ない。入国にはスポンサーとなる人物が必要だ。気温は乾燥しているとはいえ、45℃にもなるし観光するようなものはない。あるとしたら石投げの公開処刑か?街の広場で行うらしい。ちなみに刑罰が厳しいので治安は大変よい。泥棒をして捕まったら、腕一本が無くなる。

 宗教警察が見回っているから、お祈りの時間は一斉に店を閉める。このお祈りの時間に店主の事務所に入って、他社のインボイスを盗み見て捕まった商社の男がいた。もちろん彼は2度と会ってもらえなくなり、サウジに戻ることはなかった。

 飛蝗、イナゴが街を覆いつくすことがあるそうだ。ノン、イナゴの大群ではないのね。あれはトノサマバッタの一種だ。何でイナゴになったのかな。漢字を輸入するときに取り違えたのかな。イナゴ、ごめんな。鯰と鮎、よりは間違えやすいし差が少ない。

 石油プラントとかで駐在する日本人の間では、都市伝説的な話がある。粉末の日本酒があるらしい。水に溶いて飲めば結構酔える。ところがサウジには莫大な人数の外国人が毎年訪れる。勿論ハッジだ。メッカ(マッカ)を訪れるイスラム教徒は終生尊敬されるから、アフリカ、中国、旧ロシア衛星国、インドネシア、マレーシア、ブルネイ等から大変な数の信者が集まる。その数250万人。京都の府民が一斉に出かける計算だ。

 アラビア半島に住むイスラム教徒を一言では言えない。UAEとサウジでは劇的に違う。UAEはヨーロッパだ。オバQもいるが、ビジネスマンがスーツ、ネクタイで歩いている。会社勤めの女性も多い。普通だ。オマーンがまた凄い。マジカルカントリーだ。イラク人はハンサムが多く、イタリア人?って感じだ。でもイラク人なんていないんだろう。×△族になるはずだ。自称フェニキア(レバノン)人、アッシリア人もいるし、エジプト人もいる。出稼ぎのインド人、パキスタン人もたくさん来ていてお手伝いさんや自動車整備士はフィリピン人の独壇場だ。バングラデシュ、インドネシア、スリランカからも出稼ぎに来ていて混沌としている。

 ディズニーランドのシンデレラ城のような豪邸に住む者もいるが、一般の人は結構質素だ。一見女の地位が低いように思えるが、案外恐妻家もいて、その影響力は小さくはない。家の中で華麗な女の世界が展開されているようだ。ちょっと覗いただけでもイスラム世界は面白い。まだまだエピソードや聞いた話は山ほど残っているが、キリがないのでこの辺で。おっと、最後に一つ。

 彼らは世俗の権威を認めない。学歴、肩書に価値を置かない。ワシは日本電装の常務取締役じゃ、とかは無意味。(電装さん、ごめん。適当に名前を出した)でも、ここに来るのは初めてでしょ。駆け出しの青年が売り込みに来ても、トヨタの部長が来ても基本的(心情的)には全く対等。世俗の権力を前面に出したら嫌われる。軽蔑される。何回も会ったら親しまれる。人を見る基準は厳しいから気が抜けない。

 だから中東で商売をする日本人の個人商社の若者には、無一文からチャンスがある。オバQのこういう割り切りは清々しい。ウェットで窮屈な権威主義の管理社会、日本に住み辛ければ、青年よ。砂漠を目指せ。

                                  インシャ・アッラー



 
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