旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

嘘とイタズラの歴史 

2016年12月07日 18時07分56秒 | エッセイ
嘘とイタズラの歴史   

 「ウソの歴史博物館」(アレックス・バーザ著、小林浩子訳、文春文庫)という本を、ブックオフで108円で買った。そんなに面白い本ではないが、いくつかのエピソードは楽しい。これを読んでいて学生の時の出来ごとを思い出した。
 中3か高1の頃だ。何しろ中高一貫の坊ちゃん学校だったので、中高の区別がない。親友がいて、彼が学校に持ってきた一枚の写真が騒ぎとなった。アイドル(森昌子だったと思う)と彼が一緒に写っていて、何と彼女の肩に手をかけている。えっ?こりゃどう見ても本物に見えるが、こんな馴れ馴れしい態度を取れるはずがない。彼は本当に会ったんだと言い張るが、ウソだー。クラスはその写真の真偽(本物だと弁護する奴はほとんどいない。)を巡ってカンカンがくがく。
 結局足元が写っていないのが怪しい(その意見は的を得ていた)、また彼女の肩にしわがよっていない、よってニセモノということになった。実によく出来た写真だったが、アイドルの等身大の立て看板に、光が当らないようにして肩を抱いて写したものだった。いやー、事実を知れば簡単なトリックだが、危うく引っ掛かるところだった。彼は大人になりカメラマンとなってタイに住んでいる。

 さて本の話だが、訳者のあとがきが面白い。次の話は嘘か本当か。
①泥投げ合戦は1904年オリンピックの正式種目だった。
②ゴキブリは頭をちょんぎられても1ヶ月は生きている。
③サメは癌にならない。

ウソも方便、楽しいウソ、頭にくるウソ、悪意のあるウソといろいろだ。歴代大統領のIQを調べたところ、ブッシュ大統領(親父でも息子でも良い)が断突の最下位で何とIQ95だった、というのは思わず、なるほどと膝を打つ嘘だ。
4月1日のエイプリルフールにBBCがTVで流した嘘は実に楽しい。今年もここスイスの山奥の村では、スパゲッティーの実の収穫の時期を迎えました。イタリア北部ほど大規模ではありませんが、今年の作柄は良いようです。それと云うのも長年苦しめられてきたスパゲッティー虫による被害が、今年から無くなったからです。スパゲッティー虫の根絶に成功した村人の表情は、ご覧の通り明るいものです。品種改良も進んで、実の長さも揃い-----、TVの画面では、刺繍のついた民族衣装を身につけた娘たちが、木から垂れ下がった柔らかいスパゲッティーの実を楽しそうに摘み取っている。
英国のNHKといえるBBC、よくやるものだ。日本でやったらけしからん、不謹慎だと目くじらを立てられるに違いない。やっぱ大人は違う。幼児体質の日本人には100年経っても出来まい。当時イギリスではスパゲッティーを食べる習慣はほとんど無かったそうだが、この放送を見た視聴者から、どこに行ったらスパゲッティーの木の苗が買えるのか、という問い合わせが殺到したそうだ。
次のいたずらも楽しい。2階に下宿する学生が窓を見下ろすと、パン屋のおカミさんが飼っている亀にパンクズを与えていた。学生はペットショップに行き、同じ種類の亀を大きさを変えて6匹買ってきた。そして夜中に2階の窓から亀を掬いあげて、一廻り大きな亀と取り代えた。3日目におカミさんが気付いた。一日で亀の大きさが倍近く大きくなっている。
6日目には水槽一杯の大きさになり、近所でも大評判となって新聞社が取材に訪れた。おカミさんは興奮してこの亀の不思議を語り、集まった見物客の買い物でパン屋業が忙しくなった。ところがしばらくすると、亀が逆に日に日に小さくなるじゃないか。おカミさんは、大きさが変わるこの不思議な亀を水族館に寄贈するが、水族館に納まった亀が一日で大きさを変える訳がない。

この話で思い出した。若いころ小さな貿易会社に勤めていた。そこで事務の女の子達が共謀してイタズラを仕掛けるのを目撃した。悪気はないがチョイ横柄な印象を与える管理職のオジさんがターゲットだった。彼は毎朝コーヒーを彼女達に頼んでいた。多分女性陣は、「朝は特に忙しいのに、自分で入れろよ。」と思っていたに違いない。でもオジさんに対して、そう悪い感情を持っていたとは思わない。
彼女達は、オジさんの大きなカップに砂糖を入れるが、それを一日ごとにスプーン一杯増やしていった。オジさん3日目で小首を傾げ、4日目は考え込み、カップを何度も覗き込んだ。自分も女の子たちも机につくほど顔を下げ、書類で隠して笑いをかみ殺した。クックッック、苦しい、顔が赤くなった。5日目、6日目、オジさんは何度も天井を仰ぎ、カップを眺めてため息をつき、半分は飲み残した。7日目、こうなると砂糖も飽和状態で、女の子は一度入れたコーヒーを少しこぼしてガシガシガシとかき混ぜていた。
8日目、オジさんついにGive up。女性陣に向かって白旗を上げた。「もうカンベンして下さい。明日からは自分で入れる。」その日オジさんは外出時にエクレアを買って来て女の子に進呈した。
「俺、そんなに嫌われているのかな。」落ち込むオジさん。「そんな事はありません。ところで何日目から気が付きました?」「何日目かは分からないけど、4-5日前から分かっていたよ。」オジさん、気に病むことはない。こんな事で怒るような人じゃあない、と分かっているから女の子も大胆にイタズラを仕掛けたんだ。
さて十二分にイラズラを楽しみ、戦利品まで手に入れた女の子たちは、次の日からきっちり山盛り一杯の砂糖を入れてオジさんにコーヒーを出してあげた。

株価を乱高下させて大儲けをしようとしてつく嘘は、面白くもないし不愉快だ。戦争は拡大する。近く40万人の追加招集が行われる、とかね。アメリカでは南北戦争の頃からやっていた。
アメリカの青年3人が夜道でUFOに遭遇する。逃げる三人の宇宙人の内一人を誤って車で轢いてしまった。UFOは二人の宇宙人を乗せて飛び立った。普通この手の話では、思わせぶりな証拠とピンボケ写真が残るだけだが、今回は何と得体の知れない小柄な生物の死体が道に転がっているじゃあないか。警官がそれを拾って町の医者に見せると、見たこともない生物としか言いようがない。これで大騒ぎとなり取材が殺到した。
でも結局はインチキだった。青年達は、オマキザルをペットショップから買ってきて殺し、尾を切って全身の毛を剃ったのだ。これはやり過ぎだし、後味が良くない。
嘘は大きいほどバレない。大衆は騙されたがっている。両方とも真実だと思う。最近は新聞を見なくなったが、以前たまに、年に一度か数年に一度、「アトランティス大陸の痕跡を見つけた。」「チンギス汗の墓発見!」「北極にあるフランクリン探検隊の隊員の墓を発掘したところ、3人の隊員の内1人が何と170年の眠りから目覚めた。」こういう記事は一度ポッと出て、それっきりになる。第二報はない。カバの足のゴミ箱で、泥道に丁寧な足跡を池までつけた学生は、騒ぎの余りのでかさに真っ青になった。

さてここいいらで休憩。最初の質問の答えを出すね。正解は、

①本当。ミズーリ州セントルイスで開催された第三回オリンピックでは、<人類学の日>という名目で、先住民による様々な競技が行われた。でもどうやって勝敗がつくんだろう。
②本当。ゴキブリは頭をはねられても出血で死ぬことはない。頭部はものを食べるためだけに必要なので、ひと月ほどで餓死する。脳みそはどこ?
③嘘。まれではあるが、鮫も癌になる。

 「経済難からロシア、レーニンの亡骸を売りに出す。」「マイクロソフト、カトリック教会を買収」いろいろ出てくるね。最後に一つ。
 ヴェトナム戦争真っ盛りの頃、フィリピンからニュースが飛び込んだ。フィリピンの山奥で、石器時代さながらの生活をする種族が見つかった。彼らはタサザイ族といい、自分達以外の人間がこの世界にいるとは知らなかった、と言っている。タサザイ族の言葉には敵、戦争、いさかいという概念がない。
 フィリピン政府は、当時マルコス大統領の時代だったが、文明に接したことのない種族を保護するとして、外国人の接触を禁じた。また長い間続いたマルコス政権の戒厳令によって、奥地の旅行は許可されなかった。マルコス政権が倒れて真っ先に奥地に向かった記者は現地で、タサザイ族の代わりに貧しいが小ざっぱりした服を着た村人を見出す。彼らと話すと、当時は役人に言われて服を脱ぎ、役を演じていたのさ、小遣いも貰ったしね。

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