【どろ~ん】
どろ~ん どろ~ん
と音がする。
来る日も来る日も女郎屋の二階で真紅の襦袢に包まり,、だらだらと寝そべって暮らしていた。
どろ~ん どろ~ん
と格子窓の外から音がする。
ブリキで出来た大きなうちわ太鼓をゆっくりと叩いている様な音。
血みどろのウォーターフォンをのこぎりの側面で、ゆっくり叩いてる様な音。
どろ~ん どろ~ん
音は次第に大きく強くなりどうやらすぐ側まで近づいて来た様だ。
吸いさしの煙草を置き、格子窓から外を見ると、
狭い通りをゾロゾロと薄汚れたツンツルテンの着物を着た人々がゆっくり歩いている。随分、大勢だ。
皆、一様にざんばら髪で目を瞑り、その顔に鼻は無く、口を大きく真ん丸に開け、ペッタンコの腐った様な下駄を履いて歩いてる。
どろ~ん どろ~ん
音はどうやら大きく真ん円に開けた口の中から発せられている様だ。
真ん丸に開いた口からは声ではなく、音が発せられている。
通りは真ん丸に開いた口から音を発する人々で埋め尽くされ、通りの遥か向こうから続々と其の一様な風体の人々が行列作ってやってくる。
どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん どろ~ん
と、其の音はもう三千世界の彼方まで響き渡っているようだ。
こりゃやらなきゃな、と。
真似して大きく丸く口を開け、女郎に持ってこさせた出刃包丁で鼻を削ぎ落とし、目を閉じ、
“ どろ~ん どろ~ん ”
と云ってみた。
どろ~ん どろ~ん
やはり声では無く、音が出た。
何やらざんばら髪のあの一様な顔に変貌した様な気がして姿見を見ようとしたが目は明かず、 どろ~ん どろ~ん と真ん丸の口が音を発するばかり。
そのうち身体がからくりの様に動きだし、
よろよろと階段をおり三和土にあったペッタンコの下駄らしきもんを履き、
通りに出ると、おそらく三千世界の彼方まで埋め尽くしているだろう其の行列にすんなりと加わった。
空が美しい血の色に染まり、地上がキラキラ輝く薄い血色の陽射しに包まれる中、
大きく真ん円に開けた口から其の音を発し続けている内に、
この世のモノとは思えぬ無上の幸福に満たされていった。
どろ~ん どろ~ん
( O )
(2014年10月10日のツイート、ほぼ其のまんま)
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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