「戦慄!!ギターを持ったカニ人間」
前書き:
私は見た!この話は私の記憶の中では、あますところなく絶対的に真実であるが記憶が間違っている、あるいは記憶というものが変形を避けられぬものであるならば、これは、デタラメである。
これが真実であるという証拠は何もないのだ。あらゆるものに証拠などというものは無い。私たちは記憶と瞬間に知覚したものだけに頼って生きているのだ。
私は私の記憶を信じるしかないし、他人の同意を得て、記憶を確認するしかないのだ。まあ、この話は私がkippleという男の依頼で、ある港町の男を尾行していて偶然に見てしまった私だけの記憶だ。
私たちは、とても不確かな世界に生きている。しかし、避ける事はできない。
再度、繰り返すが、この話は全て実際に起こった事であり、私は、この目で見た!出来事の因果関係を、今さら探る事は不可能だし、無意味なのだ。すでに過ぎてしまった事だ。
話は一人称形式を用いた。
前書き:終わり。
俺は港のナイス・ガイ~♪
ボゥゥゥォオオ~ウ・・・
霧笛が俺を呼んでいらぁ。
また、この港に来ちまったぜ。いつだって俺は、ここに帰ってきちまうんだ。
霧が濃くなってきやがったぜ。あちこちの港を渡り歩いている俺だが、ここは格別よ。
港……それは女よ。女……それは港よ。
ふっ、何てなぁ。
さてと、今夜も夜霧の中からアルマーニの黒いロングコートに白いスーツで決めた俺が背中にギターを担いで登場だ。
ふふ、俺は何者かって?ふふふ、ここまでの文章からすると日活系な小林旭な人物を連想するかもしれねぇが、チッチッチ、ちと違うぜ。
俺の職業は、ある時は探偵、またある時はキップル丸の通信係、そして又ある時はファッションデザイナー、又ある時はゲームデザイナー、又ある時は天才ハッカー、しかし!その実体は正義の味方!赤胴鈴之助フラッシュだぁっ!
何てなぁ、言ってみてぇなぁ。あああ、本当のところは俺は、この港町のしがない探偵なんだ。あちこちの港を渡り歩いてるなんて嘘なのさ。
それに探偵って言ったって、まるで稼ぎにゃならねぇ。もう何年も小さなアパートに探偵事務所の看板を掲げているが、来た依頼と言えば、行方不明の犬や猫を探してくれとか、どこのラーメン屋がうまいか調べてくれとか隣町にうまい饅頭屋があるから買ってきてくれとか……そんなもんだ。
だが!俺は俺という人間の尊厳にかけても、そんな類の依頼から金は取れねぇ。親切でロハでやってやる。それが男ってもんだぜ!
と言う訳で今まで10年近くの間、一銭も探偵料として金をちょうだいしたことはねぇんだ。
でもよ。俺もまるっきり聖人君子って訳じゃねぇんだぜ。そ~いう親切な付き合いから、いつか必ず探偵らしい大仕事が舞い込んで来るって、まあ言わば、唾を付けて置いているってとこかな?
地道なご近所づきあいから、いつかきっと道が開けるって事よ。誰かも言ってたぜ。「小さな事から、こつこつと・・」ってな。
ま、何だかんだで港町コネクションは完璧なんだがなぁ。でも何だか時々、港のみんなが俺をなめてるんじゃねぇかって思うんだが。いけねぇよなぁ、そんなご近所さんを疑うような事、思っちゃ。ナイス・ガイの名がすたるってぇものよ。
お!相棒から携帯の呼び出しが入ったぜ!
って嘘さ・・。相棒なんていねぇ。しかも携帯買ったものの、まだ誰からもかかって来ねぇ・・。まあ、気にしない、気にしないっと。
あのさぁ!じゃぁ俺が、どうやって生活してるか分かる?どうやって金を稼いでるかさぁ!探偵の収入は、ゼロなんだぜ!
わっかるかなぁ~。ふふふ。
実はな・・、実はな・・、俺は殺し屋なんだ。ふふ今夜も、これから港マフィアのゲス野郎をぶち殺しに行くところよ!
ドッギュュュ~~~ン!
バッキュゥゥ~~~~ン!
・・・なぁ~んて言ってみたいよなぁ~。・・嘘だよ。
分かるだろ。ほら俺の背中で泣いてるこのヤマハのフォークギター。なぁ、俺はミュージシャンなんだぜ!
スゲーだろ!全国の何十万人ものファンが俺の歌を聴いて感動しまくって、困ったことに俺様は教祖扱いさ!CD出せば必ず歴史を塗り替えるミリオンセラーよぅ!
・・・っなぁんて言ってみてぇよなぁ。・・・嘘だ。
白状しよう。嘘は男の恥だぜ!俺は夜な夜な、この港町の飲み屋をさすらって小銭を稼いで暮らしている流しを生業としているんだ・・ううっ。
で、でもよう!せこい流しは仮の姿で、本当は、探偵・・なんだ。探偵だ!誰が何と言おうと!一銭の稼ぎも無かろうと!探偵なんだぁ!
はぁ、ひぃ、ふぅ。おっといけねぇ。クールなナイス・ガイの俺様がつい興奮しちまったぜ!面目ねぇ。
さぁてと、今夜も俺の背中で泣いてるこのヤマハのフォークギターで酒場に海の荒くれ男たちの疲れを癒しに出掛けるかぁ!
まあ癒しって言ってもなぁ。正直言って、俺様が癒されてぇんだな、最近。
ふぅ~、実はな、本当のホントはよぉ、北朝鮮産の蟹を日本産に偽装工作して売りつけるのが実は最大の収入源だったのによぉ・・・最近じゃぁ、それもバレちまってよぉ、騙しが効かなくなっちまってよぉぉおおっ!どこの蟹だろうが蟹は蟹なんだぁ!買ってくれぇぇええっ!
あっと!しまったぜ。ホントの事を言っちまったぜ。ふっ!忘れておくんな。だめ?俺はしがない探偵さ。そして、その真の実態は!クールなナイス・ガイのしがない蟹売りさ・・・ああ、蟹売りだとも!
えぇぇ~い!こうなりゃ!やけのやんぱち日焼けのナスビ、色は黒くて食いつきたいが、私ゃ入れ歯で歯が立たないよときたもんだぁ!どうです? 一万が五千、二千が五百円!ええぇいっ、持ってけこんちきしょう!
蟹・・・いかぁっすかぁ?・・・蟹・・・買ってくれ・・・・・
ボゥゥゥォオオ~ウ・・ボゥゥゥォブバブバ~・・・・・・ブブブ
霧笛が俺を拒んでいらぁ。
もう来るなってよ。お前、あっち行けってよぉ。
なんだと?ブチブチブチ。その時、俺の中で何かがブチ切れたぜぇ。
あきゃぁぁぁ~~~~!
ぷわあっ!
俺の身体は固くなり、わき腹からニョキニョキと尖がった足が生え、手はバキバキと音を立ててハサミと化し、背中は甲羅と化し、夜霧の中で朧な月に向かって、ぐんぐん巨大化していった。俺様の影は港全体を覆い尽くしたぜ!
そして、俺様はギターを持った巨大な化け物カニ人間になり、チョッキンチョキンと人間どもを切り刻み、たらふく喰ってやったぜぇええええええええっ!
うめぇうめぇ!どうだ!たくさん蟹を喰いやがってぇ!赤いギターを持った化け物カニ人間の俺様に喰われて、喰われる側の気持ちが分かったかぁぁああっ!
チョッキンチョッキンチョッキンナ~!
終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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