「暗闇の旅人」
暗闇の中で、暗闇が産まれた
暗闇は、暗闇の中で産まれたので暗闇の母以外は誰も気づかなかった
暗闇の母は暗闇役場に暗闇出生届けを出した
暗闇の母は暗闇届け出用紙に暗闇の子の名を記した
しかし、その暗闇の母も暗闇役場も暗闇届け出用紙も暗闇ボールペンで記載した暗闇の子の名前も全て暗闇の中だったため、誰も気づかなかった
暗闇の中で、暗闇はすくすくと育った
暗闇の中で、暗闇朝食を食べ、暗闇昼食を食べ、暗闇夕食を食べ、暗闇ベッドで寝た
暗闇は、暗闇幼稚園、暗闇小学校、暗闇中学校、暗闇高校、暗闇大学、に通い全て優秀な成績で卒業した
しかし、暗闇の中だったため、やはり誰にも気づかれなかった
暗闇は暗闇社会人になり、暗闇会社に就職し、毎日真面目に暗闇電車で通い続けた
暗闇は一生懸命、仕事をこなし続け、暗闇会社に大きな貢献をしたが、暗闇の中だったため誰にも気づかれなかった
暗闇の父も兄弟姉妹も暗闇の中だったため暗闇に気づかなかった
暗闇の母もやはり暗闇の中だったため、暗闇出生届けを出してから、すぐに暗闇の事を忘れてしまい、気づかなくなっていたが、何となく暗闇の食事だけは用意し続けていた
しかし、その暗闇の母も、いつしか暗闇の中に溶けて消えていった
歳月は容赦なく過ぎ去り、暗闇は暗闇の中で老いていった
そして、ひとりぼっちで暗闇は暗闇の中で死んでいった
もちろん、暗闇の中で死んでいった暗闇に気づく人はいなかった
結局、暗闇が産まれて生きて死んでいった事を知る者はいなかった
暗闇の名前?
そんな事は誰も知らないし、分からない
しかし、あの日、暗闇の母は暗闇役所の暗闇出生届けに、こう書いた、こう名づけた
「光」
暗闇の中を誰も知らない「光」と言う名の暗闇が生きていたらしい
別にどうって事無い
いつしか、きっと、全てを飲み込む巨大な津波のような暗闇がやってきて何もかも圧倒的な真っ暗闇に溶けて消えちまうんだし、無くなるんだし
終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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