ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代
「雨族」
断片70- ぷーたろー
13年後~⑫
部屋に戻ると、ターボーが、又、コカインを吸った。
クロエとマユミとチカが、3人とも真っ黒の丸いサングラスをかけて部屋に入ってきて花火をしようよ、と言った。
僕とユウちゃんとコージも真っ黒の丸いサングラスをかけた。
ターボーは、ハイになって、ぴょんぴょん飛び跳ねて、「やろうやろうぜぇええ!」と叫んだ。
そういう事で僕らはゾロゾロと夜の浜辺に防災用の懐中電灯をかっぱらって繰り出していった。
サングラスのおかげで非常に視界が悪く、歩くのがとても不自由だったが、この集団は何故か真っ黒のサングラスを外さなかった。
何か意味があるのだろうか、特にない。皆で真っ黒の丸いサングラスをかけている事が、ささやかな連帯感と不気味さの恍惚を生み出すのだ。
唯1人サングラスをかけていないターボーが元気一杯に僕らを誘導し、砂浜の適当な場所に僕らを導いた。サングラスの隙間から、遠くの売店の方でも花火をやっているのがチラリと見えた。
僕らは黙ってサングラスを上にあげ、それぞれ違った花火にいっせいに火をつけた。
ターボーは36連発につけて、ぐるぐる回り始めた。
クロエは線香花火に火をつけ、丸くなって、じっとしている。
ユウちゃんはナイアガラに火をつけ、振り回している。
コージはロケット花火を片手に持ったまま点火し、キーンという音と共に火の粉を浴び、そのまま爆発させてしまった。
そして、
「手が、いてぇよ、腕が裂けた、腕が裂けた」
と情けなくうずくまった。僕が懐中電灯で照らしてみると腕から血が滲み出していた。
「バカね」
と、せこく、線香花火を続けるクロエが笑いながら言った。
マユミとチカと僕は、ごく普通の棒花火をやっていた。3人で、くるくる回して、ケラケラ、キャッキャと行進した。
皆、やりたい放題、片っ端から火をつけて振り回した。黄、赤、緑、青の光が膨れ上がった。
花火は健全な放火だ。放火とは快楽と悲しみが同居している。何でもそうだ。娯楽には必ず悲しみが付いてまわる。そして悲しみの中には必ず裏腹な喜びが潜んでいるものなのだ。
ユウちゃんが膨れ上がった色とりどりの火花の中で笑っている。
コージが“痛ぇ痛ぇ”と砂浜を転げながら笑っている。
ターボーが36連発をカウントしながら笑っている。
マユミが僕の前で、キャッキャと飛びはね、笑っている。
チカが僕の腰に抱きつきながらクルクル回って笑っている。
クロエが線香花火を地味に小さく回しながら最近見た事もないような明るい顔で笑っている。
僕も棒花火をチカとマユミに浴びせながら笑っている。
みんな、無邪気に笑っている。子供みたいに笑っている。
僕は笑いながら涙を流している自分に気が付き、ふと、十年以上前に妹が言った言葉を思い出した。妹は何て言ったっけ?
“お兄ちゃんはね、年をとって南の島に行って月の欠片探しをしているの”
確か、そんな事だったと思い、空を見上げた。
夜空の天辺に驚くほど綺麗な月が浮いていた。まん丸の満月で夜空のど真ん中の天辺で大きく真っ黄色に光り輝いていた。
ああ、そうか、さっき、サングラスを外した時、まるで昼間みたいに明るかったのは、この満月の発する強烈な光のせいか。
何だか真夏の輝く午後の風景の海と空を黒く染めて、影をいっぱい増やしただけみたいな、そんな不思議な感じで、全てが先鋭的でクッキリしている。
そう思って見ていたら月は、ぷぅ~~っと、僕の視界いっぱいに膨らんで、いきなり爆発した。
無音だった。
瞬く間に、粉々に飛び散った無数の月の欠けらがムクムクと夜空を覆い尽くしていった。
無数の細かい月の欠けらは仄かに輝きを残したまま広がり、夜空全体が粘土でできた足の裏みたいになって、ぼぉっと肌色に光った。
僕は唖然としながら、ちょこっと横目でみんなを見た。みんな気づかずに無邪気に笑ってる。
ゲラゲラ、キャッキャとあまりに楽しそうなもんだから、僕はそぉっとしておこうと思った。
すぐに目を夜空に戻すと、あっと言う間も無く、空全体が猛スピードで落ちてきた。
地上の全ては灰塵に帰し、一瞬にして人類は滅亡した。
1999年7か月、
空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの真に偉大な雨族を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。
うひひ、あたったよ、当たったよ、あの予言ってば!やっぱり人類滅亡だったんだなぁ♪
最期、消え失せてゆく自分を感じながら、僕の心は喜びに輝やいた。
何だか、最高に嬉しかった・・・
断片70 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)