Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

REITとインカムトラストのリターン比較とのその特性(3)

2005年01月05日 | グローバル投資
 引き続き、インカム・トラストに関する議論を進めよう。前回も紹介した銘柄群を見て、ぴんと来た読者はかなり鋭い。油田にしろ、イエローページ、小切手にしろ、全てが将来を不安にさせるビジネスばかりである。例えば、イエローページの競争力を考慮すると10年前ならいざ知らず、いまではインターネットの発展によって簡単に新規参入が可能な業種である。人口カバー率が70%あろうが、将来のキャッシュフローは長期になればなるほど不安定である。

 また、インカム・トラストがカナダ市場というグローバルに見てかなりローカルな金融市場でしか発達していないのは何故であろうか。これの答えはリーガル上の問題に尽きるのである。それを知るにはインカム・トラストの構造を理解する必要がある。インカム・トラストの証券としての構造は意外に複雑である。

インカム・トラストが通常の株式と構造が異なっているのは次の通りである。まず株式形態の企業は所有権である株式を株主が保有している。一方で、インカム・トラストは発行証券をユニットトラストと呼び、キャッシュフローを生み出す企業をインカム・トラストが保有し、インカム・トラストが発行する証券をユニットホルダーが保有するという真の所有者であるトラスト・ホルダーとオペレーティング企業との間にリーガル上別の機関が中に入っている構造になる。単に入れ子構造になっているだけのようだが、実はこれがインカム・トラストのリーガル上の問題点になっている。

単純にインカム・トラストが100でユニット・トラストを発行し、100でその企業の株式を支配するという構造であれば簡単であるが、もしここにユニット・トラストが100で証券を発行し、100の銀行借入を行って、200の価値のある企業を購入したとする。ユニット・ホルダーは200の企業価値から得られるキャッシュフローを100で購入する分けであるから、レバレッジ効果が生まれ、配当利回りが高まることになる。また、支配している企業が株式100、銀行借入100の資本構造からさらに社債100を発行して、総資産300の会社となつた場合、ユニット・ホルダーのレバレッジは3倍になりさらに利回りが高まる。

いい事ずくめに聞こえるが、事は単純ではなく当該企業が倒産した場合、どうなるのかというのが問題となってくる。ここで、思い出してもらいたいのは通常の株式発行企業の場合、出資額までの有限責任であるというのはあまりにも基礎的な話だが、ではユニット・ホルダーは有限責任であろうか。

まず、実際のキャッシュフローを生み出す企業を見ると倒産すると出資額はパーになる。前述のケースでは総資産300の企業が倒産したとする。倒産によって実質の資産が200にまで減少した場合、どうなるか。まず出資金の100はゼロとなる。そして200に関しては企業が銀行借入、社債で調達したわけであるから、債権者に分配され、インカム・トラストの取り分はゼロとなる。

ここまでは簡単だが、問題の本質はインカム・トラストの清算にある。トラストが100の証券を発行し、100の借り入れを行っている。当然、ユニット・ホルダーの出資額100はゼロとなるが、残りの100はどうなるのだろうか。銀行家は諦めるだろうか。現在の教科書的な法解釈では、インカム・トラストが行った債務はユニット・ホルダーに帰属するというのがコンセンサスである。従って、ユニット・ホルダーは通常の株主権と違い、無限責任を負っていると考えられている。

これが、カナダのインカム・トラストの利回りが通常のREITなどよりも高い理由になっている。前号のケースでも、利回りが10%を越えているインカム・トラストは多い。むしろ、利回りが低いのはあまりないのが現状で、最大の理由はリーガル上の問題に尽きている。例えば、米国の年金基金はカナダのインカム・トラスト、REITへの投資を禁止しているケースが多く、機関投資家の資金が入りにくいマーケットでもある。

しかしながら、あまり事態を深刻に捉える必要もないだろう。カナダのいくつかの州ではこの問題を解決しようとしている動きがある。最も多くのインカム・トラストが本拠にしているアルバータ州ではliability issueに関して何らかの法的制度の成立に動いている。また、オンタリオ州政府も同様にTrust Beneficiaries’ Liability Actの成立を目指している。(これは2003年時点で現在は成立しているかもしれないが、未確認)

このようにカナダのインカム・トラストはそのスキームの特性から高いインカムゲインが見込まれ、さらにキャッシュフローの安定性という面から魅力的なものである。しかしながら、株式のような有限責任でないという点を十分に考慮し投資を検討することが強く勧められる。
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