Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

海外のREIT投資(6) Ascott Residential Trust

2009年09月09日 | 海外REIT研究


 アスコットレジデンストラスト(ART)はアジア地域のレジデンシャル不動産に投資
するシンガポール上場のREITでシンガポール市場に2006年3月に上場した比較的新し
いREITだ。アジア地域に幅広く投資するレジデンシャルREITという点でユニークな
投資vehicleでもある。現在は38物件3642戸を11の地域に分散投資しており、総資産
は15.5億シンガポールドル(996億円)の規模に成長している。地域分散は中国が25%、
インドネシアが5%、フィリピン9%、ベトナム13%、豪州3%、日本18%、シンガポール
27%となっている。(下図参照) スポンサーはシンガポールの不動産大手のCapitaLand
だ。CapitaLandはこのREITのほかにシンガポール最大のREITであるCapitaMall Trust
商業REITの代表格であるCapita Commercial Trust、中国ショッピングモール特化ファ
ンドであるCapitaRetail China Trust、マレーシア商業REIT Quill Capita Trust
などを運用しており、アジアでも最大級のREITマネジャーである。





このリートの面白いところはエマージング市場に52%、先進地域に48%という形での
分散投資を行っており、新興国にベットしたいがあまりリスクはとりたくないという
投資家にはぴったりかもしれない。シンガポール、日本、豪州などの先進国でのヘッ
ジをおこないつつ、ベトナム、中国などの経済成長率の高い地域に投資するというの
がこのREITのアイデアとなっている。保有物件はSomersetもしくはAscottというブラ
ンドで統一されている。例えば日本の物件はSomerset麻布、Somerset六本木、などで
ある。地域別の投資は述べたとおりであるが、利益的な寄与ではベトナムの利益が最も
大きく、次いでシンガポール、フィリピン、中国、日本、豪州という順になっている。
但し、利益構成比を見てみるとキャッシュフローが安定するとの触れ込みの先進国地域
の利益構成が低く、エマージング諸国の利益構成比が高いというのは少し注意をする必要
があるだろう。(下図参照)


     

(2Q決算のポイント)

 発表された2Q決算では鑑定価格の減価はあったものの比較的検討した部類に入るとは
思える。コアの賃貸利益は減益ながら最悪のシナリオとはならずキャッシュフローベース
で見た場合の打撃はコントロール可能な範囲にあるといってよいだろう。(下表参照)




 しかしながら、リーマンショックによるグローバルな金融危機は当法人にも少なか
らず影響した。第2四半期(4-6月期)の業績は営業収益で7%減、償却前利益で11%減少、
配当可能利益は17%の減少となった。鑑定評価の値洗いによりよる償却額61百万ドル
を差し引くと税引き後利益は3166万ドルの赤字に転落した。但し、赤字といっても
鑑定評価の減価分は非現金費用であるので配当可能利益は黒字であることに注意する
必要がある。従って配当はあり、年率換算の分配金利回りは8.13%である。また鑑定
評価額は60百万ドル減価したが、このほとんどが日本及び中国の資産の減価によるも
のである。1株当たりの純資産(NAV)は1.36ドルとなっており、現在の株価88セントか
ら見ると35%のディスカウントとなっている。金融危機後に株価は暴落したが、現在
はかなり株価が回復しており、ボトムからは倍以上の株価となり金融危機前に近づい
ている。

 営業収益ベースでの各地域別のパフォーマンスはシンガポールで41%減益、中国で
31%減益、インドネシアで12%減益となったが、豪州、日本、フィリピン、ベトナムの
各地域では増益となった(償却前利益であることに注意)。

 気になるバランスシートの状況だが、6月末のギアリング(LTVに相当)は40.7%。有利子負債
は630百万ドルとなっている。この数字だけからすれば特に問題となることはないだろう。
有利子負債の長期固定比率は70%でポートフォリオの平均固定金利は3.4%となっている。
しいて問題となりそうなのはMaturity Profileかもしれない。ファンディングスケジュール
からは2011年に有利子負債の62%に当たる389百万ドルの借換えが必要となってくる。
但し幸いなのはすべて銀行借り入れでCMBSによるファンディングでないこと。日本のREIT
は投資法人債で問題を抱えているが、海外のREITはCMBSを発行して、その償還問題が大きな
ところがあり、その点では日本と似ている。当法人はその問題からは無縁だといえるが、
それでもMaturity Profileは改善の余地があるだろう。



(投資判断)

 正直言って確信といえるほどの自信はないが、結構面白いREITだと思う。実は既に
投資はしているが、バランスシートリスクは皆無ではないが、スポンサーも信用でき
るし投資対象、戦略は面白い。バランスシートを見てふと気がついたのだが、当法人
の有利子負債の4割が円資産というのはちょと....という感じがする。でも、将来、
円安になるとこのREITにはかなりのメリットはでる。その逆はマイナスなのだが...
株価は大きく回復したが、まだNAVディスカウントは大きいのでしばらく保有でよい
だろう。

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