夢色

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火月 神の気まぐれ よろずメモ。

<「アルキメデスの大戦」>

2019-08-19 | Movie

遅ればせながら観てきました

うーん、良かったんだけど・・・それなりに楽しんだんだけど・・・やっぱり事実に基づいてる以上は結末は変えられないから、始終切なくて無力感で、後味はあまり良くなかったかな・・・。
映画の出来というよりも、ネタが、ね
ゼロのほうが、未来への余韻を感じることが出来て、すごく悲劇的なのにも関わらず、涙で目がパンパンになったにも関わらず、爽やかな風を感じることが出来る作品だったかな~。
不思議だけど。


冒頭の 大和を攻める米軍戦闘機の時点で泣いてる私・・・
吹き飛ばされた砲撃手や、波に血が洗い流されていくシーンとか、しっかりと描かれてるなって思いました。
撃墜された飛行機のパイロットを水上機が救出するシーン、それをただ見つめている日本兵たちの気持ちが、もうなんか・・・辛くて・・・。
信じられないものを見たと思うし、自分たちにはこの選択肢が無い事を突き付けられてる。
そしてこうやって特攻で効果があろうが無かろうが1人が1度きりの命、の日本が、何度でも命を再利用できる欧米に勝てるわけがなかったと思う。
たった1機に当たっただけで大喜びしていた兵士たちを見て、勝てるわけがない、勝てるわけがないんだよ、って辛くて。
そして、それを分かったうえであえて日本に挙兵させた欧米のずる賢さ加減。
それに乗った時点で日本の負けは決まってた、きっと。


フィクションなんだけどリアリティがありすぎて、大和についても 本当にこの映画の中のやり取りがあったんじゃないかってくらい、ドキュメンタリー観てるように信憑性が感じられて、現実と映画の世界がごっちゃになっちゃった・・・。
舘ひろしさんや國村隼さんは流石だったし、菅田くんは、個人的には別にファンというほどでもなかったけどでもいい役者さんだなって思った。
でもそれより柄本佑さんも良かったし、なにより、泯さんが一番素晴らしかったと思う。
鳥肌が立った。

ストーリーは数学よりも一大プロジェクトに喧々諤々言いながら立ち向かうバディ物ってところかな。
だから、数学出来ない私でも全く問題なかったです(笑)
いや、数式が理解できないとカラクリが分からない、というタイプのお話だったら、たぶん途中で脱落するなと心配してたので(笑)

櫂の、エリート的な印象の中に秘める熱い日本人としての誇りは、やっぱりこの時代、各々の名も無き人たちが持ってたものだと思う。
渡米する予定の船の上から、残された日本の人々に思いを馳せるところとか。
きっと、エリート階級の良心的な人たちは、こうやって先のことまで見据えて憂慮していたんだろうな。
大和の設計図を書き上げた時の純粋に楽しみを感じているのが漏れ出した表情も素敵だった。
その学者の純粋さは、ある意味 諸刃の剣なんだろうけどね。
そして、最後に平山にとくとくと説明された後の、二律背反に挟まれた瞬間とか。
完成した大和の甲板で敬礼する、諦めのような、覚悟のような真っ白な顔。
陸に上がった後、大和を見つめて泣いている表情が どうしようもなく切なかった。
結局、どうやっても止められなかったんだよな・・・、ってそこまで考えたところで、いやいや、これフィクションだし、本当にあった話じゃないし、って我に返る。
そこまで引き込むことのできるこのお話は凄いと思った。


嶋田や、部下たちの大和建設推進派のヤラシイ人間性は本当に憎たらしかった~!!!
こんな人間があの時代、自分たちは安全な所で国の命運を決めていたかと思うと、はらわた煮えくりかえる。
でもこれは、今も全く変わらない構図なんだ。
山本五十六が、あの反戦派の人が、それでもアメリカと戦争するなら、と夢想してしまう。
そこがなんというか、怖いところだと思った。


この映画でのMVPは、泯さんだよ。
嶋田が語る海軍として卑怯じゃない戦い方だの、見栄えの良い戦艦だの、戦争の現場においてどうでもいい事にこだわる 下らない本末転倒っぷりは、説明されてもそんな事どうでもいい、としか思えなかったけど。
会議で予算のからくりを暴かれた後の開き直りともとれる 泯さんの説明は、良いとは思えない、なのに、ぐうの音も出なかった。
あの説明は、認めたくないのに、なのに納得してしまう何かがあった。
正しいとは思いたくない。でもそれなら一理ある、と思わされてしまう。
全然理論的じゃない話なのに、なのに惹きこまれてしまった。

櫂に大和の重大な欠陥を指摘され、それを認めて 潔く身を引くところ。
あれこそが仕事人としてのプロだと思った。
だいたいの人間は、あの部下みたいに「そんな確率の低いことなど気にしなくていい」って見て見ぬふりをして、重大な事故を引き起こしてしまうだろうに。
櫂に対してきっと、他の軍人には持ち得ない、数学や設計という学問という土俵において 分かり合える同志に対する尊敬や嬉しさがあったと思う。
櫂を呼び寄せて、大和の模型の前で語った話。
「日本人は負け方を知らない。」「日本という国を滅ぼさないために、依代になる艦を作りたい」
悪魔の囁きのようだった。
なのに、泣きたいくらいに 納得して、取り込まれてしまう。
そのために、大和の乗員は人柱になったというのか。
あの3000人は。
そして大和が来なかったせいで助からなかった大勢の命は。
それで良かったのだろうか。
史実じゃないのに、なのに考え込んでしまった。
大義のために小さな犠牲は仕方ない、それを仕方ないって思わざるを得ないのが戦争という恐ろしさだと思うんだけど。
なんか、どうすれば良かったんだろうかって、ずっとグルグルそこで立ち止まったまま。
そして、この美しい建造物が沈んだことを、おそらく大多数の国民は知らされないまま、さらに4か月。
広島と長崎に原爆が落とされるまで、負けることが出来なかった日本という国は。

櫂や平山が視た未来と比べて、どうだったのかなって。
櫂は、自分が作った責任を取って大和に乗艦したのかなとか、そしてきっと、一緒に沈んだんだろうなって。
モデルとなる人は居ないらしいから、調べようもないけれど、知りたいって思ってしまった。

観終わって、ゼロの時も、「何で・・・何で・・・」って答えが出ないのにずっと胸に喰らってたけど、今回のほうが苦い気持ちでいっぱいになった。
単純にエンタメとして楽しめる人には、面白い映画だと思います。  私は、辛かった。

私たち日本人って、何なんだろうね。
世論の怖い所は、皆が意図していない方向へ 大きな流れが少しスイッチ入った瞬間に怒涛の如く転がりだしてしまうところ。
ぬるま湯の蛙にならないように、今、ドイツの二の舞にならないように、やっぱり立ち止まって考えないといけない気がする。
私にはまだ、溜め息しか出ない。



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