ティティが知らないことを自分が教えられることにすっかり得意になったロロは、同じ木箱から、今度は一冊の古びた本を出しました。これまたぼろぼろになった本の表紙には、グリフと思われるワシに似た大きな鳥の絵が描かれていました。
「これさ、運河の町で働いてる兄ちゃんが、荷主の人からもらっておいらにくれたんだよ。世界のことが色々書いてあるんだ___おいらあんまり字が読めないけど、ほら、絵がいっぱいあるだろ?」
その本にはところどころに、薄明の大陸のあちこちの様子が描いてありました。クァロールテンのふもとに住むヒョウの尾を持つ人たちが狩りをしている様子、北の岩地で険しい崖を飛び越えるケンタウロスたち、湖底の町に住む美しい人魚たち、巨木に住む翼を持つ人、象のひく車で旅をする奇妙な格好をした人たち、死火山の火口で小さな竜を牧して暮らす村、砂丘に点々とそびえる巻貝の形をした塔___ティティは悲しんでいたのも忘れて、絵に見入ってしまいました。
「おもしろいだろ?なんて書いてあるのかわかったらもっといいんだけどなあ。父ちゃん忙しくって、なかなか字教えてくれないんだよ。」
「字は、あたしもわかんないわ。アローやバーバリオンなら読めるはずだけど。」
「おいら、大人になったら船乗りになるんだ。まだこの町からも出たことないけど___でも宿屋ついだら、父ちゃんみたいにこっから動けなくなっちまうもんな。それに船乗りでもさ、遠い土地の珍しい物を手に入れてさ、こっちの町へ持って来て売ったり、そんなのになりたいんだ。世界中に行けるだろ?きっとこの辺りのやつらが行ったことのない場所だって、まだまだ沢山あるんだ!」
ロロはまるで屋根裏部屋の天井に、遠い地方の珍しい風景が見えるかのように、どん、と胸をたたきました。遠くの知らない所へロロがそんなに行きたがるのがティティには不思議でしたが、あんまりうれしそうに話すものですから、自分もちょっとだけそんな気持ちになってきました。
「それから、ほら、ここが滝の宮殿だよ!ティティはもうすぐここに行くんだろう?クァロールテンのちょっと南にある、崖の上にあるんだ。ふもとには町もある。行ってみたいなあ___」
それは、クァロールテンの山を後ろにして、高い崖が切り立っている絵でした。何段にもなった滝が落ちて当たる場所には泉がたまり、庭が作られていて、太い柱になるよう岩を掘り残した、崖の中の宮殿に続いていました。滝のそばには小さな虹も描かれています。ユリアも行きたがっていた滝の宮殿。ティティはほうっとため息をつきました。まだ見ぬその場所を思うと、気持ちが少し軽くなるようでした。
「あたし、滝の宮殿に行ったら、あんたのこと呼んであげるわ。やさしくしてくれたもの。ユリアとジュラの姉妹も。この虹の服は、ユリアがつくってくれたのよ。」
「母ちゃんがそんな不思議な色の生地見たことないって言ってたよ。やっぱり女王さまが着てるもんは違うってさ。とにかくさ、宮殿に行って、王様になってみなよ、ティティ。そしたらきっと、新しい、面白いこともいっぱいあるさ。へへっ、おいらの初めての旅が滝の宮殿だったら、みんなに自慢できらあ。父ちゃんも兄ちゃんたちも、まだ行ったことないんだぜ!」
ささやかなワインの酔いのせいもあったのか、二人ともすっかり楽しい気分になって、ロロはガタガタいう椅子の上に立って船長のまねをしたり、ティティは月明かりの落ちた地図の上をくるくる回ったり、絵を見ながらああだこうだと話したりしている内に、だんだんあくびの回数が増えてました。そうして次の朝、いつまでたっても手伝いに来ないロロを探しに来た母親が、屋根裏部屋でロロとティティが地図の上につっぷして眠っているのを見つけるまで、ぐっすり眠りこんでしまいました。こうしてロロは、羽を失って悲しんでいたティティを、おそらく誰よりも上手に元気づけることができたのです。
「これさ、運河の町で働いてる兄ちゃんが、荷主の人からもらっておいらにくれたんだよ。世界のことが色々書いてあるんだ___おいらあんまり字が読めないけど、ほら、絵がいっぱいあるだろ?」
その本にはところどころに、薄明の大陸のあちこちの様子が描いてありました。クァロールテンのふもとに住むヒョウの尾を持つ人たちが狩りをしている様子、北の岩地で険しい崖を飛び越えるケンタウロスたち、湖底の町に住む美しい人魚たち、巨木に住む翼を持つ人、象のひく車で旅をする奇妙な格好をした人たち、死火山の火口で小さな竜を牧して暮らす村、砂丘に点々とそびえる巻貝の形をした塔___ティティは悲しんでいたのも忘れて、絵に見入ってしまいました。
「おもしろいだろ?なんて書いてあるのかわかったらもっといいんだけどなあ。父ちゃん忙しくって、なかなか字教えてくれないんだよ。」
「字は、あたしもわかんないわ。アローやバーバリオンなら読めるはずだけど。」
「おいら、大人になったら船乗りになるんだ。まだこの町からも出たことないけど___でも宿屋ついだら、父ちゃんみたいにこっから動けなくなっちまうもんな。それに船乗りでもさ、遠い土地の珍しい物を手に入れてさ、こっちの町へ持って来て売ったり、そんなのになりたいんだ。世界中に行けるだろ?きっとこの辺りのやつらが行ったことのない場所だって、まだまだ沢山あるんだ!」
ロロはまるで屋根裏部屋の天井に、遠い地方の珍しい風景が見えるかのように、どん、と胸をたたきました。遠くの知らない所へロロがそんなに行きたがるのがティティには不思議でしたが、あんまりうれしそうに話すものですから、自分もちょっとだけそんな気持ちになってきました。
「それから、ほら、ここが滝の宮殿だよ!ティティはもうすぐここに行くんだろう?クァロールテンのちょっと南にある、崖の上にあるんだ。ふもとには町もある。行ってみたいなあ___」
それは、クァロールテンの山を後ろにして、高い崖が切り立っている絵でした。何段にもなった滝が落ちて当たる場所には泉がたまり、庭が作られていて、太い柱になるよう岩を掘り残した、崖の中の宮殿に続いていました。滝のそばには小さな虹も描かれています。ユリアも行きたがっていた滝の宮殿。ティティはほうっとため息をつきました。まだ見ぬその場所を思うと、気持ちが少し軽くなるようでした。
「あたし、滝の宮殿に行ったら、あんたのこと呼んであげるわ。やさしくしてくれたもの。ユリアとジュラの姉妹も。この虹の服は、ユリアがつくってくれたのよ。」
「母ちゃんがそんな不思議な色の生地見たことないって言ってたよ。やっぱり女王さまが着てるもんは違うってさ。とにかくさ、宮殿に行って、王様になってみなよ、ティティ。そしたらきっと、新しい、面白いこともいっぱいあるさ。へへっ、おいらの初めての旅が滝の宮殿だったら、みんなに自慢できらあ。父ちゃんも兄ちゃんたちも、まだ行ったことないんだぜ!」
ささやかなワインの酔いのせいもあったのか、二人ともすっかり楽しい気分になって、ロロはガタガタいう椅子の上に立って船長のまねをしたり、ティティは月明かりの落ちた地図の上をくるくる回ったり、絵を見ながらああだこうだと話したりしている内に、だんだんあくびの回数が増えてました。そうして次の朝、いつまでたっても手伝いに来ないロロを探しに来た母親が、屋根裏部屋でロロとティティが地図の上につっぷして眠っているのを見つけるまで、ぐっすり眠りこんでしまいました。こうしてロロは、羽を失って悲しんでいたティティを、おそらく誰よりも上手に元気づけることができたのです。