第1小臼歯
これでも詩かよ 第340回
こないだね、ついに歯を抜いて貰ったんだ。
第1臼歯、右の、下の方の。
ウィキで調べたらね、にんげんの大人の、親知らず4本を含めた、永久歯32本の歯には、ぜんぶ名前がついているんだって。
最前列が中切歯で、次が側切歯、その次が犬歯で、こんかい岸本先生に抜いて貰った4番目の歯が第1小臼歯だ。
この第一小臼歯の奥には、第2小臼歯、さらにその奥には3つの大臼歯があるのだが、私にはない。1本もない。
つまりとっくの昔に虫歯になって、それをいろんな歯医者で治してもらったが、おいつかずに4本全部が、次々に抜かれて、その代わりに、数珠つなぎになった入れ歯が、その代役をつとめてきたんだね。
今は亡き4本の臼歯についての記憶はないが、こんかいの第1小臼歯が、まず虫歯になって、それを岸本歯科で治してもらって、また虫歯が進んでひどくなって、また治してもらって、また虫歯が進んでひどくなって、また治してもらって………
それを繰り返しているあいだに、歯槽膿漏も、ガザ最深部やクリミヤに侵攻し、地の塩からはどんどん塩味が失われ、そのあいだ私は、それなりに苦しみ、ときには懊悩して、分厚い遺書なども書いているあいだに、とうとう我慢できずに、武装解除して全面降伏してしまったというわけだ。
けさ、第一小臼歯と共に生きた私の、失われた20年を振り返ろうとしたのだが、途中で横道にそれて、どうもうまく行かないようなので、あとはまたの機会ということにしたい。
箆棒な一句詠みたき小正月 蝶人