照る日曇る日 第1179回
今年86歳で泉下の人となった著者の代表作です。1968年に出版され、2004年に復刻された梶山俊夫氏の挿画入りの豪華版を一読しましたが、今となっては普通の「帰卿譚」であり、きわめてオオソドックスな現代詩のひとつだと思いました。
巻末には「古事記」とか「日本書紀」とか「出雲風土記」などの引用参考文献がいろいろいわくありげに掲げてあり、それぞれにもともらしい自註なぞも記されているのですが、これって私も「由良川狂詩曲」でも使ったある種のハッタリで、誌の本質とはてんで関係がないずら。
でも特筆すべきは著者の視点がきわめて自由で流動的に古今東西現在過去未来を去来すること。書いている当の本人ですら訳の分からない難解な現代詩と違って嫌な感じのひとつもなく、楽しく読むことができました。
Ⅱ章で登場する片腕を銜えたい犬なんて黒澤の映画に似ているし、犬と言えばホメロスの「オデュッセイア」を思い出したりもする。
Ⅸの章にて、気の狂った母を追って飛びだせば、
十何万のがぜる群 角をふり立て ががががが
十何万のがぜる群 角をふり立て ががががが
なんて個所は、何回もの朗読、朗唱に耐えるけど、ⅩⅡ章で活字を裏返すなんて「見え透いた」ことは、できればやめてほしかったずら。
元号も皇族なども打ち捨てて民草のみで進みゆくべし 蝶人