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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

秋山邦晴著「秋山邦晴の日本音楽史を形作る人々 アニメーション映画の系譜」を読んで

2021-04-25 13:08:12 | Weblog

照る日曇る日 第1566回


音楽評論家にして作曲家の秋山邦晴選手(1929-1996)によって、1971年から78年まで白井佳夫編集長時代の「キネマ旬報」に63回に亘って長期連載された貴重なインタビュー付の表題のエッセイが、このほど単行本化された。635Pを超える質量とも圧倒的なボリュームを誇る貴重な「伝説的」大著である。
本書で扱われている映画音楽作家は、佐藤勝、黛敏郎、早坂文雄、芥川也寸志、林光、武満徹、山田耕筰、松村禎三、伊福部昭、堀内敬三、湯浅譲二、柴田南雄、團伊玖磨、古関裕而、真鍋理一郎、宇野誠一郎などであるが、彼らが映画監督の溝口健二、成瀬己喜男、黒澤明、木下恵介、大島渚、篠田正浩、小林正樹などなどが取り出してくる映像に向かって、ある時は琴瑟相和し、ある時は対極的に配置して異質な調和を図り、またある時は別乾坤を建立して新創造の別天地めざして協同をしていくありさまを、個々の実作の各シーケンスを再現しながら細説してゆくその道行は、まことにスリリングであり、未見の映画ならいますぐ見たいと思い、すでにみた作品でも今すぐ再見したいと思わせる強烈な誘導剤的効果を発揮するのである。
黒澤明と早坂文雄が取り組んだ「七人の侍」、小林正樹と武満徹が組んだ「怪談」、亀井文夫と古関裕而の「戦うふ兵隊」、秋山自身も作曲したアニメ作品の歴史的回顧、全篇の最後に置かれた篠田正浩と秋山の対論はその絶好例である。
秋山選手はそれらの論考や証言を、これ以上ない明快さと海岸の砂丘を裸足でずんずん進んでいくような爽快さ、エランヴィタール漲るヴィバーチェで歌うように叙述する。
今も昔も映画を論じる人は多いが、「映画音楽を軸に映画を論じる」人は殆どいない。そして本書を紐解く人は、秋山邦晴がその数少ない、いな唯一無二の存在であったことを思い知るだろう。
巻末に附された秋山夫人、高橋アキさんへのインタビューも、当時の時代と音楽状況に対して新鮮な光を当てていてまことに興味深い。彼女がいうように「秋山は歴史を知ることの重要性を意識していた」のである。


  秋山の邦晴さんの「音楽史」を鞄に入れたまま車にはねらる 蝶人