照る日曇る日第1454回
1945年4月9日、フィリピンのルソン島で23歳の若さで戦死した詩人の殆どの作品と日記、書簡を納めた1冊である。
兵隊の死ぬるや あわれ
遠い異国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
(以下省略)
と戦地へ行く前に歌い、そしておそらくはそのような「ひょんと」ではない死に方で死んだであろう詩人のこれが代表作であるが、そもそも自分の死に方を「ひょんと死ぬ」と書いてしまう、書けてしまうところが、この若者の凄いところである。
詩もいいけれど、彼が戦地へ送り込まれる前に「決死のグライダー攻撃」の訓練を受けていた当時の日常を、知力と意力を駆使して、懸命に明るく書き残した「筑波日記」が、優れた詩人が記録した帝国軍人の日常を描破していて感動的ですらある。
もしも竹内浩三が無事に生還していたら、間違いなく詩はもとよりもっと多面的に活躍する偉大な文学者になったことだろう。
鎌倉に鎌倉時代の物はない大仏と円覚寺大鐘くらいか 蝶人