照る日曇る日第854回

本邦の時代精神を美術、思想、文学の3つのポイントから総括する規模雄大な歴史書ですが、タイトルのいかめしさとは裏腹に、その内容は第1章「三内丸山遺跡」、第2章「火炎土器と土偶」、第6章「古事記」、第10章「最澄と空海と「日本霊異記」」のようなトッピクス立てでドラマティックに展開されていくので、上巻の終りの「正法眼蔵」まで刺激を受けながら興味深く読み進んでいくことができます。
日本精神史の叙述であれば、当然日本精神を代表する幾多の偉人が登場するわけですが、とりわけ阿呆莫迦平家が東大寺などを焼き払ったあと、老境にも関わらず敢然と立ち上がって再建に孤軍奮闘する重源と、それを背後から力強く支援する源頼朝、既存仏教を全否定して立ちあがり「専修念仏」を唱えた法然と親鸞、「只管打座」で「現実が本来の姿を取る世界に近づこう」とした道元に対する著者の深い思い入れに打たれました。
それは恐らく彼らが荒廃と絶望、終末観に閉ざされた現今と同じような閉塞世界を、蛮勇を振るってこじ開けようとした不倒不屈の精神の持ち主であったからに違いありません。
著者は哲学者だと思っていましたが、専門外であるはずの文学の造詣が異常なまでに深く、「万葉集」「古今集」「伊勢物語」「枕草子」「源氏物語」などのサンプリングとシャッフルの鮮やかさには舌を巻くほかありませんでした。
五体不自由でも存分に性欲を満たすげに恵まれし障ぐあい者なるかな 蝶人