さらに、ソニー副社長(当時)大曽根幸三さんの
「開発18箇条」を紹介したいと思います。
⑬他社の動きを気にし始めるのは、負けの始まりだ
自分たちにやっていることに絶対の自信があったら、
他社の動きは気にならない。
他社の情報が入ってきても、本当に実力の差があれば、知らんふりできる。
知らんふりできなくなったら、他社との実力の差がなくなってきたということ。
この時点で負けが見えてくる。何にでも、自信をもって当たるべき。
自信がないなら、最初からやらなくていい。
⑭可能と困難は可能のうち
世の中、可能と不可能しかない。
できの悪い人は、その間に「困難」というポジションがあると思っている。
でも、「困難」は「可能」のうち。
「不可能」でないものは、「困難」もみな「可能」ということ。
⑮無謀はいけないが、多少の無理はさせろ。
無理を通せば、発想が変わる
「無理を通せば道理が引っ込む」ということわざは、
技術の世界では「無理を通せば発想が変わる」になる。
発想は、よほど追い詰められて、腹を決めて臨まないと変わらない。
変えようと思って変えるものでもない。
あとになって、「あのとき吹っ切れたんだ」と気がつくもの。
⑯新しい技術は、必ず次の技術によって
置き換わる宿命を持っている。
それをまた、自分の手でやってこそ、技術者冥利に尽きる。
自分がやらなければ、他社がやるだけのこと。
商品のコストもまったく同じ。
ソニーはウォークマンの次に、MD(ミニディスク)を出した。
我が世の春は、100年も続かない。
自分たちの手で、いまある技術を破壊しなければならない。
コストも必ず下がるのだから、よそが下げる前に自分たちが下げるべき。
⑰市場は調査するものではなく、創造するものだ。
世界初の商品を出すのに、調査のしようがないし、
調査しても当てにはならない
ウォークマンを出すときに、社内から相当な反対意見が出た。
市場調査から「売れる可能性はまったくない」といわれた。
市場は調査するものではない。全然信用できない。
⑱不幸にして、意気地のない上司についたときは、
新しいアイデアは上司に黙って、
まず、もの(プロトタイプ)をつくれ
とにかく、ものがあれば、いろいろな人がそれを見ることができる。
価値を認めてくれる人が必ずいる。ものを見せることは非常に大事。
いかがでしょうか。これが、ウォークマンを開発した大曽根部隊の
「開発18箇条」です。この話の最後に、大曽根さんは次のように語りました。
「ソニーらしい商品というのは、普通の感覚からいえば、
無理難題の産物ですね。無理難題のかたまりだからこそ、
できてしまえば、コロンブスの卵になるわけです。
ソニーは、無理難題に挑む私たちを、
そこからコロンブスの卵が生まれるまで、
とことんやらせてくれる会社です。
私も、これまでいいたいことをいって、やりたいことをやってきました。
また生まれ変わっても、この会社で仕事がしたいと、
心の底からそう思います」
いまのソニーの技術者は、この言葉を、どう聞くでしょうか。
私は、ソニーの技術者たちは、おそらく、いまだに熱い情熱をもち
研究開発に取り組んでいるのではないかと思うのです。
一方で、会社のビジョンを明確にし、彼らを方向付けすべき、
マネジメントが混乱しているのではないか。
逆にいえば、技術があるのだから、選択と集中で投資を集中し、
大胆に事業改革を実行できる、辣腕のトップが登場するならば、
ソニーが活力を取り戻すチャンスは、まだ残っていると思うのです。