片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

ソニー新社長平井氏は「偉大なソニー物語」をつくれるか ②

2012-02-13 16:04:18 | 社会・経済

私は、1998年に『ソニーの法則』(小学館文庫)を上梓しました。
幸い、
20万部売れました。
その際、代表取締役副社長(当時)の
大曽根幸三さんをはじめ、
森尾稔さん、ソニー木原研究所社長(当時)の木原信敏さんなど、
ソニーを代表する、名だたる
技術者たちに取材しました。
強く印象に残っているのは、
大曽根さんの話です。

ご存じのように、
ウォークマンは、1979年に発売以来、
全世界で大ヒットを記録し、
ソニーをグローバルブランドに押し上げました。
ウォークマンの登場により、人々は、
音楽を屋外に持ち出して楽しむことができるようになり
ライフスタイルに革新が起こされたのです。
ウォークマンこそ、「ソニーらしい」「夢のある」商品の象徴です。
大曽根さんは、
ウォークマンを開発した張本人です。

大曽根さんは、ソニー創業者の
井深大、盛田昭夫両氏に加え、
元社長の
岩間和夫氏、大賀典雄氏らと共に仕事をするなかで、
ある一つの
“ソニーの法則”を導き出しました。
それは、
「熱しやすく冷めにくい人たちだ」という“法則”です。
よく、日本人は、熱しやすく冷めやすいといわれますが、
ソニーの技術者たちは、「これだ!」と
テーマを思い定めると、
実現するまで、5年でも10年でも冷めない。
思い描いたものができるまで情熱を持ち続けるというのです。
粘り強い。執念深いといったらいいでしょうか。
ウォークマンもまた、そうした技術者たちの
情熱と執念に突き動かされて商品化
された一つです。

ところが、
いまのソニーには
「熱しやすく冷めにくい」人が少なくなったのではないか。
例えば、
有機ELテレビです。
大型化で、
韓国のLGとサムスンに先を越されてしまいました。
もとはといえば、有機ELは、
ソニーの技術者たちが情熱を燃やして開発した技術です。
それが、事実上撤退という形で、
冷めきってしまった。
人工知能を搭載した犬型のエンターテインメントロボット「AIBO」も、
熱していたのに
冷めてしまった技術の一つでしょう。

いまや
大企業化したソニーは、
かつてのソニーとは、
立ち位置が違います。
かつてのソニーは、技術者が情熱にまかせて突っ走り、
同じく技術者の創業者が、それを許してきました。
その結果、
チャレンジ精神の溢れる、
夢のある商品が誕生
していたのです。
しかし、
業績が悪化。まあ、貧すれば鈍するというか、
いまや、
技術や商品より、売上、収益、株価など、
業績にまつわることばかりに注目が向いてしまう。
グローバル企業の宿命でしょうか。
技術者は、二言目には収益性の話をされ、
情熱にまかせて
研究に没頭することもできないのではないか。

「昔のソニーに帰れ」といっているわけではありません。
たとえ
「帰れ」といっても、ムリな相談でしょう。
上場企業である以上、収益や株価は無視できない、重大な問題だからです。
しかし、それでも
「熱しやすく、冷めるな」という、
大曽根さんの言葉を、
ソニーは忘れてはならないのです。
技術者が、
情熱を持ち続ける環境がない限り、
収益や株価も含め、ソニーが復活する日はこないからです。
「偉大なソニー物語」が生まれるとしたら、
そこで
活躍するのは、やはり
「熱しやすく冷めにくい」技術者たちに間違いありません。

次回から、
大曽根さんに聞いた「開発18箇条」
紹介していきたいと思います。