さてローレンツ変換の導出についての歴史的な事実をならべて年表を作って見ましょう。
1887年 ローレンツと親交があったフォークトはフォークト変換を公表した。この変換はマクスウエル方程式を不変に保つものであった。(注1)
1887年 MMの干渉計の実験結果の発表:アルバート・マイケルソンとエドワード・モーリーによって行なわれた光速に対する地球の速さの比 (β = v/c) の二乗 β^2 を検出することを目的とした実験(注2)
1889年 ジョージ・フィッツジェラルド(1889) ローレンツ短縮仮説
1892年 ヘンドリック・ローレンツ(1892) ローレンツ短縮仮説
ローレンツ短縮仮説は、マイケルソン・モーリーの実験の否定的な結果を説明し、静止エーテルの仮説を救うためのもの。
1897年 アイルランドのジョセフ・ラーモア(1897年)全ての力が電磁気的な起源を持つと考えられるモデルを開発
1899年 オランダのヘンドリック・ローレンツ(1899年)
1900年 ローレンツはこの変換がマクスウェル方程式を不変な形で変換することを、1900年に発見
1904年 『ローレンツ変換は1904年に初めて発表されたが、当時これらの方程式は不完全であった。<--フランスの数学者アンリ・ポアンカレが、ローレンツの方程式を、今日知られている整合性の取れた 4 つの方程式に修正した。』(修正はアインシュタインの特殊相対論の発表より前に行われた模様。)
1905年6月5日 ポアンカレ ローレンツへの2通目の手紙で、ポアンカレはローレンツの時間の遅れの係数が結局正しい理由を自ら示し、ローレンツ変換を群にする必要があったため、現在では相対論的速度加法則として知られている法則を示した。「38.4、Poincaré to HA Lorentz、1905 年 5 月」
ポアンカレは後に1905年6月5日にパリで開催された科学アカデミーの会議でこれらの問題を扱った論文を発表した。: https://archive.md/yCAyz#selection-6029.1-6029.16 :
1905年6月30日 アインシュタインの1905年の特殊相対性理論の最初の発表
アインシュタインのローレンツ変換の導出方法はそれまでの方法がマクスウェル方程式を不変な形で変換することを目標としたのに対して、より基本的な時計の時刻合わせと光速が1Cである事、及び座標軸の長さについての考察の組み合わせから導出されている事に特徴があります。
『1905年のアインシュタインの特殊相対性理論の最初の提示に続いて、多くの異なる仮定のセットがさまざまな代替の導出で提案されました。』(注3)
たとえば
1906年、ポアンカレ 『1905年6月5日の論文(いわゆる「パレルモ論文」、7月23日受領、12月14日印刷、1906年1月発行)の大幅な拡張作業を終了しました。
彼は文字通り「相対性理論の仮定」について話しました。彼は、変換が最小作用の原理の結果であることを示し、ポアンカレ応力の特性を開発しました。彼は、ローレンツ群と呼ばれる変換のグループ特性をより詳細に示し、その組み合わせを示しました。x ^ 2 + y ^ 2 + z ^ 2-c ^ 2*t ^ 2は不変です。(注:ローレンツ変換での不変量についてはポアンカレが最初に指摘した模様)』:ういき「特殊相対論の歴史」: https://archive.ph/xhfqD :から引用
『このように,かなり一般的な幾何学的仮定と変換群の要請のみで, ローレンツ変換則と同形の疑似ローレンツ変換則が導かれる.その際の鍵は変換が群をつくるということである.このことをいち早く指摘したのはポアンカレであった.』(注4)
1907年 ミンコフスキー 11月5日にゲッチンゲンの数学会で行った講演「相対性原理」。この中でローレンツ変換での不変量について語る。(注5)
1921年 L.A.Pars, Philos.Mag. 43,249(1921) : https://www-tandfonline-com.translate.goog/doi/abs/10.1080/14786442108633759?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc、
・・・
1932年 ケネディ・ソーンダイク実験 長さの収縮と時間の遅れの両方を確認
1938年 アイヴス・スティルウェル 実験 横ドップラー効果の測定
MMの干渉実験結果(1887年)とケネディ・ソーンダイク実験、アイヴス・スティルウェル 実験の3つの実験結果からローレンツ変換を客観的に導出出来る。この件、内容詳細については: https://archive.md/975MI :を参照の事。
・・・
1964年 『1964年の論文で、[2] Erik Christopher Zeemanは、光速の不変量よりも数学的な意味で弱い条件である因果関係保存特性が、座標変換がローレンツ変換であることを保証するのに十分であることを示しました。』(注3)
1966年 『 こで説明する「光速不変の原理」を用いないロー レンツ変換の導出を,最初にやって見せたのは,テルレッツキーである。彼はその著書「相対性理論のパラドックス」(中村誠太郎監修,林 昌樹訳 (東京図書)1966年 )の中で,この導出を示した。』(注6)
1975年 Lee, A. R. ; Kalotas, T. M. 「Lorentz transformations from the first postulate:最初の仮説からのローレンツ変換」: https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/1975AmJPh..43..434L/abstract
『この論文では、普遍的な制限速度の存在の先験的な仮定に頼ることなく、相対性原理のみを呼び出すことによるローレンツ変換の導出を提示します。
そのような速度は最初の仮定の必要な結果であることが示され、それが無限ではないという事実は実験によって裏付けられています。』
https://www.deepdyve.com/lp/aapt/lorentz-transformations-from-the-first-postulate-njZkMjKvfd?key=aip
1976年 JM Lévy-Leblond 著 · 1976年 :概要 https://ui-adsabs-harvard-edu.translate.goog/abs/1976AmJPh..44..271L/abstract :ローレンツ変換導出のもう一つの方法
論文pdf: https://web.physics.utah.edu/~lebohec/P3740/levy-leblond_ajp_44_271_76.pdf
この中で1921年 L.A.Pars, Philos.Mag. 43,249(1921) についての言及有。
1979年 1979-01-01 クック、RJ :13 ローレンツ 変換の自己逆形式についてのコメント
https://worldwidescience-org.translate.goog/topicpages/g/generalized+lorentz+transformations.html?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc
『・・・したがって、制限速度の仮定がすべての慣性系で因果関係が満たされるという要件に置き換えられた場合、特殊相対性理論の出現よりずっと前に知られ広く受け入れられていた概念に完全に基づいたローレンツ 変換の導出に到達します。
すべての慣性系における空間の均一性と等方性、相対性原理、および因果関係の原理。』
1983年 1. 菅野礼司, 物理学の論理と方法(上), 大月出版, 1983
https://sken20k.hatenablog.com/entry/2018/02/03/121741 の参考文献1
2004年 V.Yakovenko, Derivation of the Lorentz Transformation, Lecture Note of Univ. Maryland, 2004
http://www2.physics.umd.edu/~yakovenk/teaching/Lorentz.pdf
次ページ以降で「光速不変を使わない方法」の一つを取り上げて具体的にその手順を確認していく事と致しますが、その例題としてこのV.Yakovenko氏の資料を使います。(注7)
2005年 2005/1/4 Yaakov Friedman Physical Applications of Homogeneous Balls
with the assistance of Tzvi Scarr Progress in Mathematical Physics 40
2005/1/4
『この章では、光速が一定であると仮定せずに、ローレンツ変換を導出します。 特殊相対性理論とそれに関連する対称性の原理のみを使用します。
この原理は、2つの慣性システム間のガリレオまたはローレンツ時空間変換のみを許可することがわかります。
ローレンツ変換の場合、間隔と特定の速度の保存が得られます。
既知の実験から、この速度はC、真空中の光の速度です。・・・』
https://www.jct.ac.il/media/5619/bookmain.pdf
でDL可です。
2005年 井上猛, ローレンツ変換に付いて, 天界 2005 年 10月
http://perihelie.main.jp/contents/0510_tenkai.pdf
2007年 『Norman Goldsteinの論文は、因果関係ではなく慣性(時間のような線の保存)を使用した同様の結果を示しています。[3](同様の結果=座標変換がローレンツ変換であることを保証するのに十分であること)』(注3)
2007年 David Morin (2007) Introduction to Classical Mechanics, Cambridge University Press, Cambridge, chapter 11, Appendix I
https://www.academia.edu/43410742/David_Morin_Introduction_to_Classical_Mechanics_With_Problems_and_Solutions
で見る事が出来ます。(DLも出来るが、少々面倒である。)
注目すべきは
「11.10 Relativity without c」の章と
Appendix I Lorentz transformations P708~710
です。
上記「11.10 Relativity without c」を含む一部本文は
https://scholar.harvard.edu/files/david-morin/files/cmchap11.pdf
でDL可です。
ちなみにこの論文の中でDavid Morin さんは「1975年 Lee, A. R. ; Kalotas, T. M.」を引用されています。
2018年 「ローレンツ変換の形式は光速度一定とは無関係」 はてなブログ sken20k
https://sken20k.hatenablog.com/entry/2018/02/03/121741
2022年 「MMの楕円の3Dプロット・相対論」 サイエンスフォーラム entangle1
https://archive.md/77c5C
entangle1はこの変換がマクスウェル方程式を不変な形で変換することを、2022年に図形的に証明(それはまた「光速不変の原理」が成立しているメカニズムの図形的な説明でもある。)
2024年 「その5・棒の時間からのローレンツ変換の導出」karel
当方はローレンツとポアンカレによって明らかにされた棒の時間(Local Time)を使う事でローレンツ変換と同じことが実行できる事を示した。
加えてそこからさらに進んで棒の時間からのローレンツ変換の導出に至った。
注1:フォークト変換: https://archive.md/bHzHk#selection-321.0-321.3 :
1887年にローレンツと親交があったフォークトはフォークト変換を公表した。
この変換はマクスウエル方程式を不変に保つものであった。: https://archive.md/dGY2n :
注2:ういき「マイケルソン・モーリーの実験」 : https://archive.ph/ENUqB :
『静止したエーテル中の電磁気理論(1864年[3])を作り、光は電磁波であるという説(1871年[4])を立てたジェームズ・クラーク・マクスウェルは、ある時、自身の方程式の数式中に、直接的ではないものの、静止エーテル中の地球の運動が適当な光学上の実験で探知できることが示されていることに気づいた[注釈 4]。
ただし、その方法とは、マクスウェルがワシントンの航海年鑑局に勤務していたデイヴィッド・ペック・トッドに宛てた手紙の中で
「光速度を測定する地球上のあらゆる方法では、光は同じ道筋を通って帰ってくる。エーテルに対する地球の運動は、往復で、光速に対する地球の速度の比の二乗だけ変化するが、これは小さすぎて観測できない」
と述べている[5][注釈 5]ように、光の速さ c に対する地球の軌道運動の速さ v の比 (β = v/c) の二乗、すなわち β^2 で表される極めて小さい有限の量を測定するという非常に高い測定精度が必要なものであった[注釈 6]。
一方、上記マクスウェルからの手紙を読む機会を得た、トッドの同僚でアメリカ海軍士官であったアルバート・マイケルソンは、そのマクスウェルの考えた測定実験に興味を抱いた。』
↑この話の発端がマクスウエルにあった、と言う事実は興味深いものがあります。
そうして「今はできないかもしれないが、こういう実験が可能である」と公表しておく事は意味がある、という例でもあります。
注3:ういき英語版 「ローレンツ変換の導出」 : https://archive.md/rlraI : https://en-m-wikipedia-org.translate.goog/wiki/Derivations_of_the_Lorentz_transformations?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc
ちなみにういきに限らず英語圏での検索による情報収集は日本語のみの場合と比較すると桁違いに多い情報の収集が可能となりますね。
注4:「微分形式による特殊柑対論」
菅野礼司著
丸善(1996 年9 月)の29ページに上記記述あり。
そうなりますと「光速不変を使わないローレンツ変換を最初に言い出したのはポアンカレ」という事になります。ちなみにこの資料は下記アドレスから入手できます。: https://ps.jp1lib.org/book/16289277/69acde :<--ここからDL可
注5:fnorio氏がまとめられた資料から引用: https://archive.md/rhjsW :
注6:「第 2章 特 殊相対性理論 2」:http://physics-world.sakura.ne.jp/relativity/re3.PDF:のP10のコメント(8)より引用
注7:以下「光速不変を使わないローレンツ変換の導出」をV.Yakovenko氏の資料に基づいて具体的にトレースしたページとなります。
PS:相対論の事など 記事一覧
https://archive.md/Jbv9M
https://archive.ph/rwDPy