特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

9-9・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-03-20 01:23:05 | 日記

さて装置の概要を見ておきましょう。

資料1: https://slidesplayer.net/slide/11232933/#google_vignette :のP19に「建設中のBNLのストレージリングの写真」があります。

そうしてそれが出来上がった状態=運転状態では:資料2: https://www.sas.upenn.edu/~tqian/thesis.pdf :P48のように「リングを作っている超伝導マグネットが断熱材でカバーされている」のが分かります。

それでこのストレージリングにミュー粒子を打ち込む装置の全体図は:資料2:P44の様になっています。

BNLでは前のページで示した様にAGS (the Alternating Gradient Synchrotron)から取出された陽子ビームを 原子核標的に打ち込んでパイオン(注1)を生成し,そのパイオン崩壊で生成したミュオンをビームとして用いたのです。

 

それでストレージリングですが上から見るとこんな感じです。:資料2:P47.

半径7mのリング状になった真空チューブのそれぞれの場所に各種装置が取り付けられています。

No1~24まで番号が振られたのが「ミュー粒子が陽電子とニュートリノに崩壊する、その時に出た陽電子を検出する装置」です。

そうしてここで注目すべきは円周上の4か所に水色でしめされたQuadrupole(=四重極)の存在です。

この静電四重極はビームが縦方向に広がるのを防ぐように動作します。(注2

その静電四重極部分の断面図はP52にあります。

Top plateとかかれた上部電極と同じ形状の下部電極は厚さが3ミリのアルミ製です。

でSide Plateとかかれた横電極は厚さが0.5ミリのアルミ製。(注3

Side Plateが薄い、その理由は「ミュー粒子崩壊で生じた陽電子がアルミ製の電極を通過してリングの内周に置かれた検出器にエネルギーロスがなく到達できる様にする為」との事。

一つの四重極がもつ円周角度は39度でそれが4つあるのでリング全体の内の43%がこの四重極部分に占められている事になります。

ちなみにその断面図ではリングの中心は左側になります。

そうしてその断面図の四重極で囲まれた部分に書かれた円、その円の中をミュー粒子の一団が走る様です。

つまりは「結構太いビームで測定している」のです。(注4

 

で「どれくらい太いのか?」といいますれば:資料3: https://journals-aps-org.translate.goog/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.73.072003?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=nui,sc :の右側2番目のイラストをクリックしてください。

半径が44ミリの円の中をミュー粒子が走っている事が分かります。

ちなみにその時のミュー粒子の円運動半径は7.112mである事も分かります。

 

そうしてまた左下にあるイラストをクリックすれば「四重極以外の場所でのリングの断面形状が分かる」のでした。

 

注1:パイオン(=パイ中間子): https://archive.md/mEnEn :

荷電π中間子の質量は約139 MeV/c2、寿命が2.6 × 10−8 秒。 主な崩壊モードでは反ミュー粒子とミューニュートリノに崩壊する。

π+ーー>μ+ + ミューニュートリノ

でこのμ+をビームラインでストレージリングまで持って行ってInflectorを使ってリングに入れたのです。

注2:横方向への広がりは垂直にかかっている磁場によって制限されています。

しかしながら縦方向への広がりの制限がそのままではない事になります。

で、そのままですとミュー粒子のビームは縦方向に拡散して真空容器の壁に衝突して消えてしまう=ビームロスの発生、ということになってしまい、ωaの測定ができないのです。

したがって「縦方向への運動を抑える事が必要になる」、その装置が「静電四重極」という事になります。

注3:ミュー粒子はプラスにチャージしていますからトップーボトムプレートにはプラスの電圧、そうして両サイドプレートにはマイナスの電圧をかける事になります。

注4:示された円の内側いっぱいにミュー粒子が広がって走っている、と言うよりは「その円の中に納まるようないろいろな軌道を持ったミュー粒子の一団が走っている」というイメージでしょうか。

たぶんビームは上下にも左右にも振動しながら、つまりは「きれいな円周上をビームが走る」のではなくて「いろいろな動きをしながら、それでもその円の中に納まる様に運動している」と見るべきでしょう。

ちなみに垂直方向にかかっている磁場の強さBは1.45Tとの事。

 

追記:ビームをぐるぐると円運動させる、まあコトバで言うとそれだけなのですがこれがけっこう難しい、という話の参考までに。

「加速器のビーム調整」: http://accwww2.kek.jp/oho/oho20/F/lecture/OHO_beam_tuning_1.pdf :

「ベータトロン振動」: https://www.rri.kyoto-u.ac.jp/beam_physics_lab/thesises/2009_takashima.pdf :

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/r6me3