特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

速度の加法則と時間遅れの合成則のMN図による表現と確認

2024-05-29 01:00:44 | 日記

「ういき特殊相対論」: https://archive.md/Tsk4p :の「ローレンツ変換の具体的な形」に提示されているイラスト: https://archive.md/ND6P3 :を使います。

これはMN図のなかにローレンツ変換座標を示したものになっています。

それでこの場合黒座標は静止系で赤座標が運動系。

運動系はほぼ+0.58Cで静止系の+X方向に動いている。

そうしてこの2つの慣性系に作ってある直交座標の原点がちょうど重なり合った時の状況をこのイラストは示しています。

で、黒座標視点で描いてありますから黒座標は直交座標になっていますがそこから見た赤座標は斜め右方向につぶれた斜交座標になって見えています。(注1

そうしてこの斜交座標がそのまま相対速度V≒0.58Cでのローレンツ変換を示しています。

 

さてそれでこのMN図の中に2つの世界点A、Bを決めます。

Aは黒座標(7,12)でBは黒座標(10、11.5)に取ります。

点Aは黒マス目を数えると分かる様に赤座標のY軸上にあります。

そうであればこの座標値から赤座標の移動速度=相対速度が分かるのです。

相対速度V=7/12=0.58333・・・≒0.58C

点Bは黒座標(10、11.5)ですので黒座標での相対速度V1読みは

V1=10/11.5=0.869565217・・・≒0.87C

 

さてそれでこの時に点Bの速度は赤座標読みでは幾つになっているか、それをイラストから読み取ります。

点B赤座標(4,7)です。(きれいに読める点を点Bに選んだのですからそうなります。)

そうすると赤座標での点Bの相対速度V2読みは

V2=4/7=0.571428571・・・≒0.57C

 

さて速度の加法則によれば

V1=(V+V2)/(1+V*V2)

となっているはずです。

でV1=0.87

次に(0.58+0.57)/(1+0.58*0.57)は

=0.86427・・・

読み取り誤差などを考慮すれば

0.87≒0.86427・・・

として良いでしょう。

つまりは「MN図の上でも速度の加法則は成立している」という事がこれでわかります。(当然そうなっているであろう、という事の図形上での再確認でした。)

あるいは「赤斜交座標は確かにローレンツ変換を表している」と言えます。

 

さてそれで次は時間遅れについてです。

点Bの黒座標読みでの時間遅れ割合は

sqrt(1-0.87^2)=0.4930517・・・

黒座標に対して相対速度0.58Cで移動している赤座標の時計の遅れ割合は

sqrt(1-0.58^2)=0.8146164・・・

そうしてその赤座標に対して相対速度0.57Cで動いている点Bのsqrt(1-0.57^2)の値は

sqrt(1-0.57^2)=0.8216446・・・

 

ここで時間の遅れ合成則は

sqrt(1-V1^2)=sqrt(1-V^2)*sqrt(1-V2^2)/(1+V*V2)

となります。

でsqrt(1-V1^2)=0.4930517・・・

次にsqrt(1-V^2)*sqrt(1-V2^2)/(1+V*V2)は

=0.8146164*0.8216446/(1+0.58*0.57)

ウルフラムを呼んで

https://ja.wolframalpha.com/input?i=0.8146164%EF%BC%8A0.8216446%2F%281%2B0.58*0.57%29

答えは

0.503025・・・

0.4930517・・・≒0.503025・・・

これもまあそれなりの精度で成立している事がわかります。

つまりは「時間遅れの合成則も図形的に確認できた」のです。

 

ちなみにこの時に「全ての慣性系は平等である」というスタンスに立つと

sqrt(1-V1^2)=sqrt(1-V^2)*sqrt(1-V2^2)

でよい、という事になります。

しかしながら

sqrt(1-V^2)*sqrt(1-V2^2)

=0.8146164*0.8216446

ウルフラムを呼んで

https://ja.wolframalpha.com/input?i=0.8146164%EF%BC%8A0.8216446

答えは

0.669325・・・

sqrt(1-V1^2)=0.4930517・・・ですので

sqrt(1-V1^2)はsqrt(1-V^2)*sqrt(1-V2^2)ではないのです。

つまりは「全ての慣性系は平等である、は成立していない」

という事が分かります。

これはつまり「時間遅れの合成則は全ての慣性系は平等である』という対称性を破っている」のです。

 

さて以上の様に「速度の加法則」も「時間遅れの合成則」もNM図上で表したローレンツ変換図形で確認した場合でも成立している事が確かめられました。

それはつまり「時間遅れの合成則」はローレンツ変換の当然の結果であって、特殊相対論の中に入っているルールの中の一つである事が図形的に確認できたのであります。

 

注1:もちろん赤慣性系に立てばこの赤斜交座標は直交座標になっています。

そうしてそのかわりに黒座標が今度は反対方向に(左方向に)つぶされた斜交座標として表される事になります。

 

追記:点Bについて黒座標から赤座標にローレンツ変換で変換すると

黒座標(10、11.5)ーー>赤座標(4,7)

となります。

この時に黒座標で点Bの固有時を計算すると

11.5*sqrt(1-0.87^2)=5.67009・・・

同じようにして赤座標で点Bの固有時を計算すると

7*sqrt(1-0.57^2)=5.7515128・・・

読み取り誤差を考慮すれば

5.67009・・・≒5.7515128・・・

理論上は「固有時はローレンツ変換では変わらない=保存する」となっていますので、一応それも成立している事がわかります。(注2

ちなみにここで固有時とは点Bが原点から黒座標(10、11.5)まで速度0.87Cで等速直線運動した時にどれだけの時間が必要だったのか、点Bに設置されたストップウオッチで測定した時に得られる値の事です。

そうであればこの点Bのストップウオッチに表示された値は異なる速度で移動しているどのような慣性系=観測者からみても同じ値になるのは「自明な事」=「必要な事」であります。

そうであれば「固有時を保存する様にローレンツ変換は点Bの座標を変換する」のです。

それはつまり「そのようになる様に赤座標の目盛りマス目の大きさローレンツ変換によって決定されている」という事であります。

そうしてまた赤座標のX軸、Y軸の傾きは赤座標の黒座標に対する相対速度Vで決まってしまいます。

こうしてローレンツ変換を表す赤座標は一義的に決定されるのですが、その結果は驚くべき事に「全ての慣性系は平等であるという宣言が成立しなくなる」という結果に必然的に結びつく事になるのでした。

つまりは「ローレンツ変換は固有時の保存の方を優先していて、その為に『全ての慣性系は平等である』という対称性はやぶれている」のでした。

さてこれは本当に皮肉な結果であります。

アインシュタインは「全ての慣性系は平等である」宣言の下で特殊相対論を作ったのですが、その結果出てきたものが「『全ての慣性系は平等である』という宣言は成立していない」という事態に至ったのですから。

そうであればこの結末には「アインシュタインもビックリ」という事になります。

 

注2:ミンコフスキーによれば黒座標(10、11.5)の値を使って計算した

S^2(黒座標)=10^2-11.5^2=-32.25

という値は世界間隔Sを表していて、この値もローレンツ変換では保存される、となっています。

そうであれば赤座標(4,7)のS^2を計算してみると

S^2(赤座標)=4^2-7^2=-33

であってこれもまた「読み取り誤差内で一致している=保存している」という事がわかるのです。

ちなみにこの値の符号をひっくり返してルートをとると黒座標では

sqrt(32.25)=5.67891・・・

赤座標では

sqrt(33)=5.74456・・・

となりこれは最初に計算した固有時の値になっている事が分かります。

つまりは

sqrt(-(世界間隔S)^2)=sqrt(-S^2)=固有時

になっていて、従ってこの2つの値はローレンツ変換では同じように保存されるのです。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/hbGGO

 


閑話休題・ういきの特殊相対論の説明が無駄に分かりにくい件

2024-05-24 01:32:17 | 日記

「ういきの特殊相対論の説明が初学者にとって無駄に複雑になっている件」

あるいは「別解:速度の合成則」について

 

まずは「ういきの特殊相対論の説明」を参照します。: https://archive.md/Tsk4p : https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E6%AE%8A%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E6%80%A7%E7%90%86%E8%AB%96

でまあ今回はその中でラピディティ (英: Rapidity) について語ります。

というのも上記の記事の中で「ローレンツ変換の具体的な形」の所に: https://archive.md/ND6P3 :というイラストが提示されていて、そのイラストの下の説明文が「ローレンツ変換の図示。(ct,x) を (ct',x) に変換する様子が ζ ≈ +0.66に対して描かれている。」となっています。

でこの「ζ ≈ +0.66」の意味が初学者にはわからないのです。

そうして本文を読んでいくと「この値 ζ は正規直交基底の取り方に依存せず、ローレンツ変換 φ の固有値のみによって決まることが知られており、ζ を φ のラピディティという。」とさらに分かりにくくなって「ハイ、ここはパスだ」となってしまいます。

まあそれにもめげずに「ういきラピディティ」: https://archive.md/SIG4B :にあたる根性が残っている方は

「逆双曲正接関数 artanh を用いて、ラピディティ φ は速さ v から 

artanh(v/c)=tanh^-1(v/c)=φ
 の様に算出される。」と言う所までたどり着きます。

で、上記「ういき特殊相対論」では「ζ」(=ギリシャ文字の一つで、「ゼータ」)となっていたのがこちらでは「φ」(=ギリシャ文字の一つで、「ファイ」)に変わっていて、でもそれは同じものであって速さ vを光速cで規格化した値(=β)で

artanh(v/c)=tanh^-1(v/c)=tanh^-1(β)=φ と計算できる事を知るのです。

さてそうであれば: https://archive.md/ND6P3 :に戻って「ζ ≈ +0.66」というのは

tanh^-1(v/c)=φ=0.66 である、という事が分かります。

さてそうであれば

tanh^-1(x)=0.66 の解 とウルフラムに入れれば良いのです。

https://ja.wolframalpha.com/input?i=tanh%5E-1%28x%29%3D0.66+%E3%81%AE%E8%A7%A3

答えは数直線上の黒丸をポチる事で

0.578363・・・

である事が分かります。つまりは

v/c≒0.58 の事を「ζ ≈ +0.66」は表していたのです。(注1

 

さて以上で: https://archive.md/ND6P3 :についての解読はできたのですが、その様にしてわざわざ導出してきたラピディティ φ ですが「これは一体何の役に立つのか」という話が残っています。

でその答えは「これを使うと相対論的な速度の加法則が簡単に出てくる」と言うものです。

上記「ういき特殊相対論」で「相対論的な速度の加法則の導出」を見ますと「なんのこっちゃ?」という説明文と同時に答えが天下り的に書かれているだけです。

まあこれで分かる人は初学者にはいないでしょう。

で「ういきラピディティ」: https://archive.md/SIG4B :に戻ればそこではラピディティを使って「速度の合成則」が示されています。(注2

 

そこをみると速度の合成則がラピディティの世界では単にtanhの加法則になっている事がわかります。

そうしてこの「tanhの加法則」というのは「tanhの加法定理である事」が「ういき双曲線関数」: https://archive.md/vTYws :をみれば分かるのです。

さてこれは数学上の双曲線関数の定理ですから、まあ「あえて疑う必要はない」と言えます。(注3

 

この双曲線関数と特殊相対論との結びつきについては「ういきラピディティ」によれば

『1908年、ヘルマン・ミンコフスキーはローレンツ変換が時空座標系の単純な双曲回転(英語版)、つまり虚数角度の回転とみなせることを示した[1]。従って、この角度は慣性系の(一次元的な)相対速度の単純で加法的な尺度とすることができる[2]。

ラピディティは1910年にホイッテーカー[3]、ワリチャク(英語版)[訳語疑問点]により用いられた。・・・ラピディティの理論的発展は主にワリチャク[訳語疑問点]によるものであり、1910年から1924年までの彼の著書にそれを見ることができる[5]。』となっています。

ミンコフスキーも特殊相対論を幾何学的に理解しなおしました。

そうしてラピディティもまた特殊相対論と双曲線関数という「幾何関数」に関係をもつ事が明らかにされたのです。

それはつまりは(不思議な事には=興味深い事には)「特殊相対論は幾何学的である」という事が出来そうです。

 

注1:上記: https://archive.md/ND6P3 :の「ζ ≈ +0.66」については目視ですがv/c≒0.58である事は実は: https://archive.md/UPU5I :にてすでに確認されています。

注2:ここではローレンツ因子γが γ=1/cosh(φ) である事にも注目すべきです。

注3:さてそれはコトバを変えますれば「アインシュタインが導出した相対論的な速度の加法則は数学的な裏がある」と言えます。

あるいは「数学的な対応物がある」の方が妥当でしょうか?

ちなみに双曲線関数についてはチャットGPT3.5は次のように説明しています。

『双曲線関数は、古代ギリシャの数学者であるニコマコス(Nicomachus)が、ユークリッドの『要素』の中で初めて記述しました。しかし、彼らは双曲線の考察には至りませんでした。

双曲線関数が現代の形になるまでの発展は、17世紀から18世紀にかけての数学的な進歩によって行われました。双曲線関数の基礎となる双曲線の性質は、17世紀の数学者であるヨハン・ベルヌーイやギヨーム・ド・ロアンドルによって初めて研究されました。

特に、ベルヌーイ家の一員であるヤコブ・ベルヌーイは、双曲線関数の性質を詳細に研究しました。彼は双曲線の曲線的性質を理解し、それらの関数を形式化しました。また、その後の数学者たちも双曲線関数に関する研究を発展させ、18世紀の終わり頃には、双曲線関数が広く使用されるようになりました。

双曲線関数は、業績を残した多くの数学者によって発展させられ、その基礎が築かれました。』

また双曲線関数と特殊相対論の関係については

『特殊相対性理論(Special Relativity, SR)と双曲線関数の関係について具体的に述べると、双曲線関数は特殊相対性理論においてしばしば現れる数学的な表現方法として利用されます。特に、相対論的な速度の加速や運動の表現において、双曲線関数が重要な役割を果たします。

ラピディティと双曲線関数:
特殊相対性理論では、相対速度を表すためにラピディティ(rapidity)と呼ばれる概念が導入されます。ラピディティは速度 v に対して tanh ^−1 (v/c) で与えられる双曲線関数の逆関数です。ここで、c は光速、tanh ^−1  は双曲線関数の逆関数です。ラピディティは、速度の加速度や運動の特性を相対論的に表現する際に便利です。

双曲線関数とローレンツ変換:
特殊相対性理論におけるローレンツ変換は、時空の座標系間での物理量の変換を記述します。特に、ローレンツ変換における速度の加法定理では、双曲線関数が登場します。相対速度 v と u の合成速度 w は、
w=(v+u)/(1+vu/c ^2 ) のように双曲線関数を含む形で与えられます。

相対論的エネルギーと運動量:
特殊相対性理論におけるエネルギーと運動量の関係式も、双曲線関数を含む形で表されます。特に、物体のエネルギー E と運動量 p の関係は、
E ^2 =(pc) ^2 +(mc ^2 ) ^2
  という双曲線関数の形を取ります。ここで、m は物体の静止質量、c は光速です。

これらの例は、双曲線関数が特殊相対性理論において相対論的な効果を表現するための重要な数学的道具として使用される方法を示しています。双曲線関数は、相対論的な速度や運動、エネルギーと運動量などの表現に不可欠な概念として、特殊相対性理論と密接に結びついています。』

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/mkAvJ

 


その2・電子の異常磁気モーメントの精密測定

2024-05-18 01:47:44 | 日記

まずは「電子g 因子の“anomaly”」: https://www.jahep.org/hepnews/2021/40-3-3-g.pdf :を参照することから始めましょう。

『一方で電子とよく似たミューオンの g 因子についても,4.2 標準偏差の理論値と実験値の乖離が発表されたことは記憶に新しいだろう [22–24]。様々な標準模型を超えた物理が提唱されているが,それらがフレーバーによらずまた十分に重いという比較的弱い仮定を置くと,ミューオン g 因子のズレを電子 g 因子に質量二乗比(me/mμ)2 でスケールすることができる。これを計算すると,もしミューオン g 因子で観測された “anomaly” が新物理によるものならば,現在の電子 g 因子の測定精度のわずか 5 倍の向上(と微細構造定数の 2 倍の精度向上)により確認できるはずなのだ。この意味で,電子 g因子の測定はミューオン g 因子のズレの独立な検証となりうる。(注1

電子とミューオン両方の g 因子に現れたこの新しい“anomaly”は標準模型の初めての綻びなのだろうか?答えは新しい測定によってのみ与えられる。我々はNorthwestern 大学において現在の電子 g 因子の測定精度を数年以内に 10 倍改善することを目標に研究を進めている。
その開発の様子を紹介する。』

『Penning trap とは電場と磁場による荷電粒子のトラップである。電場により粒子は z 軸方向に沿って閉じ込められ,磁場により動径方向に閉じ込められる。その中での粒子の軌跡は三つの独立した振動で表される—

(I)磁場による cyclotron 振動 νc,

(II) 電場による z 軸方向の axial 振動 νz,そして

(III) 磁場と残留電場によるmagnetron 振動 νm である。

Penning trap 自体は陽子・反陽子や荷電イオンなどにも使われるが,電子の場合はその質量の軽さから,他の粒子の Penning trap より数桁高い周波数スケールを持つ。この非常に高い周波数スケールが電子の Penningtrap の特徴であり,それが様々な利点(と苦悩)をもたらす。

我々の典型的なトラップパラメータでは,cyclotron 周波数が νc = 150 GHz,axial 周波数が νz = 200 MHz,magnetron 周波数が νm = 130 kHz,そして spin 歳差周波数が νs = 151.7 GHz である1。このうち,実験的に直接観測可能なのは axial 振動のみである。Cyclotron 振動は周波数が高すぎるため直接観測が難しく,magnetron振動は本質的には外乱に不安定なため観測には向いていない。よって電子に関する全ての情報は,axial 振動をモニターすることで調べる。

このトラップを,低ノイズ実現のために希釈冷凍機を用いて 50 mK まで冷却する。これにより,電子のさまざまな量子性があらわになる。』

現状については

『以上の研究開発をもとに 2021 年春頃からコミッショニングを進めている。上記の開発のうち,SQUID 検出器以外のシステムは既に装置に組み込まれている。
現在はまず,最も重要である余剰拡がりを抑制できたかを確認するための測定を行っており,またそこから実際の測定感度を見積もっている。詳細はここではまだ書けないが,装置の安定性向上と温度の改善により,1 日あたりの統計誤差は 2008 年の測定のおよそ半分程度まで改善された。』

まとめとして

『電子 g 因子の測定は一種の理想的な物理測定であると思う。電子を一つだけトラップし,量子基底状態へ落とし込み,そこで二つの周波数の比を測る。モデル依存性や系統誤差補正をなるべく無くしたシンプルな系は,そもそも不確定要素が少ない。これらは Dehmeltや Gabrielse らが一見空想のようなアイデアを粘り強く開発し続けた結果である [25, 43, 44]。まさに精密測定と呼ぶべき実験の一つであろう。
1 節で紹介した “anomaly”は本物なのだろうか。それに答えられる日も近いかもしれない。』2021 年 (令和 3 年) 10 月 7 日

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さて同じような文脈ではありますが、次の記事も参考になります。

「電子の磁気モーメントで新しい物理を探る」: https://archive.md/HhTTI :2023 年 2 月 13 日• 物理学16、22

『電子の磁気モーメントの測定は前例のない精度を達成し、標準モデルを超えた物理学の探求に大きな可能性を示しています。

目覚ましい成功にもかかわらず、素粒子物理学の標準モデルは明らかに完全ではありません。暗黒物質暗黒エネルギー宇宙の物質と反物質の非対称性は、その最も重大な欠陥の一部です。したがって、実験者は、標準モデルを完成または置き換えることができる理論のヒントを提供する可能性のある異常を熱心に探しています。

電子はこの探求において重要な役割を果たします。電子の磁気モーメントは、これまでで最も正確に測定された素粒子の特性であり、最も正確に検証された標準モデルの予測でもあります。イリノイ州ノースウェスタン大学のジェラルド・ガブリエルス氏のグループによる新しい測定 [ 1 ] により、2008 年に得られた以前の最良の推定値より 2.2 倍正確に電子の磁気モーメントの値が決定されました [ 2 ]。この結果は、今後数年間でさらに大きな精度向上への道を開き、これらの測定を使用して標準モデルを超えた物理を探索するという興味深い見通しを提供します。

物理学者の格言によれば、新しい物理学は次の桁の精度から始まります。電子の磁気モーメントの歴史がそれをよく示しています。電子にスピンがあることが実験で明らかになった後、ポール・ディラックは有名な相対論的方程式を使って電子スピンの正式な記述を提供しました。彼は、電子のg係数 (粒子の磁気モーメントと角運動量を関連付ける無次元量) は 2 になるはずだと予測しました。しかし、1947 年、物理学者のポリカープ クシュとヘンリー フォーリーの高精度実験により、gが 2 よりわずかに大きいことが判明しました。この「異常な」磁気モーメントは物理学者のジュリアン・シュウィンガーによって説明され、 g の計算に量子力学的補正を含めることで 2 よりわずかに大きい値が得られることを示しました。シュウィンガーの計算は、量子電気力学 (QED) の理論の基礎を築きました。それ以来、電子の磁気モーメントは QED と標準モデルのテストで重要な役割を果たしてきました。

しかし、素粒子の磁気モーメントを標準モデルのテストにどのように使用できるのでしょうか?その答えは、量子物理学によれば、真空には、飛び出したり消えたりする仮想粒子が溢れているという事実に関係しています。これらの粒子は、電子やミューオンなどの特定の粒子と相互作用して、磁場に対する粒子の応答を変更し、磁気モーメントとg係数に影響を与えることができます。理論家は、標準モデルによって予測される素粒子との相互作用を考慮して、粒子のg係数の期待値を計算できます。実験値が予測から逸脱すると、粒子または相互作用のモデルのレパートリーに欠落している部分が明らかになる可能性があります (図1 )。電子の場合、予測からの逸脱は、電子が素粒子ではなく内部構造を持っていることを意味する可能性さえあります。

現在、この分野で最も興味深い謎は、ミュオンの磁気モーメントに関する理論と実験の間の永続的な不一致であり、その不一致は現在 4.2σ に達しています。𝜎統計的有意性 [ 2 ]。

この不一致が新しい物理学の特徴であるならば、それは電子でも観察されるはずです。注2

電子の質量が 207 倍軽いとすると、電子に対する影響はミューオンに対する影響よりも約 40,000 小さくなります。

ガブリエルセのグループによる新しい測定では、電子磁気モーメントの相対精度が 0.13 兆分の 1 (ppt) に達しました。これは、ミューオンで達成された精度よりも 3000 分の 1 以上小さい値です [ 2 ]。得られた値の結果は、やはりガブリエルセ率いるチームによってハーバード大学で実施され、0.28 ppt の精度を達成した 2008 年の実験と一致しています [ 3 ]。』(注3

『電子のg -2 の標準モデル予測をテストするために測定を使用する機能は、予測精度が微細構造定数αの値に依存するという事実によって現在妨げられています。

残念ながら、2 つの最も正確なαの測定値間の5.5- σの不一致 、これらの測定はカリフォルニア大学バークレー校のチームによって実行され [ 4 ] 、フランスのソルボンヌ大学の私のグループによって実行されました [ 5 ]。

両グループは、この不一致を解決するために新しい測定キャンペーンを計画しています。最後に、新しいセットアップにはさらなる改善の大きな可能性があります。

近い将来、電子g -2 測定は、新しい物理学に対して、興味深い 4.2𝜎標準モデルの張力- を明らかにしたミュオンg -2 測定と同等の感度に達すると期待するのは合理的です。[ 2 ]。(注3

これらすべての発展は、電子がこれまでにないほど新しい物理学への扉を開く準備が整ったということを示しています。』

この記事の参考文献として: Measurement of the Electron Magnetic Moment : https://link.aps.org/accepted/10.1103/PhysRevLett.130.071801 :

 

注1:レプトンという素粒子の分類の中では「電子とミュオンは質量が200倍ほどミュオンが重い、という事を除けばほぼ同じ挙動をするはずである」となっています。

従って「ミュオンで確認された異常磁気モーメントのアノマリーが新物理現象によるものであるならば電子においてもそれが確認できるはずだ」となります。

しかしながらここでは「ミュオンの場合は回転運動が必要であった」という「地球が静止系に対してドリフトしている事による影響の話」は指摘されていません。

その事は置いておいて「ミュオンを電子に入れ替えても同じようなアノマリーが確認されるならばレプトンについては新物理現象が実在する事を示している」と主張しているのです。

それに対して当方は「電子の異常磁気モーメントの測定は静止系での測定になっている為、ほぼ理論計算を再現できるものになっている」と主張しています。

そうしてまた「そこには新物理がないであろう」というのも当方の読みであれば「電子の場合は測定精度がミュオンと同じレベルに到達しても実測値と理論計算との間に有意な差は検出される事はない」と主張します。

注2:この書き方から分かる様に「現時点では電子の異常磁気モーメントの測定精度においては実測値と理論計算との間に有意な差は検出されていない」のです。

つまりQEDの計算が与える答えの通りの結果を実験が出している、という事になります。

ちなみに電子の場合はミュオンで問題になっている計算上でのハドロン項の影響がないので、QED計算だけで異常磁気モーメントの値が決定出来る様です。

注3:『電子に対する影響はミューオンに対する影響よりも約 40,000 小さくなります。』のであれば「電子の測定実験の感度はミュオンの40,000倍にする必要がある」という事になります。

そうして現状では『電子磁気モーメントの相対精度が 0.13 兆分の 1 (ppt) に達しました。これは、ミューオンで達成された精度よりも 3000 分の 1 以上小さい値です [ 2 ]』

さてそうであれば 40000/3000=13.3 つまりは「あと14倍精度をあげればミュオン測定に追いつく」という事になります。

これが上記pdfで出てきた数字『我々はNorthwestern 大学において現在の電子 g 因子の測定精度を数年以内に 10 倍改善することを目標に研究を進めている。』につながるのです。

追記:速報:「世界初 素粒子ミュオンの冷却・加速に成功」: https://archive.md/zl1dZ :

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/ThJeT

 


その1・電子の異常磁気モーメントの精密測定

2024-05-13 01:13:27 | 日記

電子の異常磁気モーメント ae についてはその測定のやり方がミュオンの場合と異なり「静磁場の中に電子を打ち込んで回転させる」と言うようなやり方をとってはいません。

測定対象となっている電子は静磁場の中では「古典的な回転運動はしておらず静止しているのです。

にもかかわらず電子はサイクロトロン周波数を持っていて、なおかつスピンも回転してる、とされています。

さてこれはとても奇妙な様に聞こえます。

それでそのあたりの状況は「電子g 因子の“anomaly”」: https://www.jahep.org/hepnews/2021/40-3-3-g.pdf :で説明されていますので、そこから引用します。

『先の節で Penning trap 中での運動は図 2 のようになると言ったが,cyclotron 振動に関してはこの古典的な軌道描像は実は間違いである。というのも,cyclotron振動周波数は νc = 150 GHz だが,希釈冷凍機によりPenning trap は T = 50 mK 程度に冷却されるため,熱平衡での平均量子数は
n¯c =[exp ( ¯hωc/kBT)-1]^-1
= 1.2 × 10^−32 ≈ 0
と,ほぼ完全に量子基底状態にいる。そのため古典的な軌跡ではなく量子的な準位での描像が必要になる。』

ここで図2の電子軌道イラストについては上記PDFにて確認されたい。

そのイラストで上下に波なみ運動して大きな円運動で表されているのは「サイクロトロン運動」ではなくて「マグネトロン運動」とされ、そこで小さな円が描かれているのが「サイクロトロン運動」です。

そうであれば「静磁場の中に導入された時に電子が持っていた運動エネルギーで静磁場内で回転運動しているのはこのイラストではマグネトロン運動」となるのです。

ちなみにこの「マグネトロン運動」については『磁場と残留電場によるmagnetron 振動 νm である。』と説明されています。

そうしてまた測定に使った装置は低温に保たれている為に「電子は磁場内でサイクロトロン振動数で回転運動している」のではなくで『古典的な軌跡ではなく量子的な準位での描像が必要になる。』と説明されています。

さて「これは一体何を言っているのか?」といいますれば「この時の電子の状態は水素原子で陽子のまわりを回っている電子と同じような量子状態にある」と言っているのです。

そうしてそのときの磁場にトラップされた電子の回転運動に相当する周波数をここではサイクロトロン振動数と表現しているのです。

 

さて水素原子について「陽子のまわりを電子がまわっている」という古典的な描像ではその時の電子の有様を十分には記述できていない、という事は現在では明らかな事であります。

そうしてまたPenning trapにトラップされた電子についてもこの水素原子の様に「陽子にトラップされた電子の様である」とここでは言っています。

ちなみにこの状態を指して「g-2実験  量子電磁力学の精密テスト と 標準理論のかなた」: https://slidesplayer.net/slide/15404475/#google_vignette :のP10~12:電子の歴史:についての記述の中で

『1976年  Dehmelt (Washington) ペニングトラップを用いてより正確な測定を行った。4Kに冷やしたペニングトラップに1個の電子を閉じ込めることに成功した。(注2)』の11ページに

『電子状態はあたかも電子が原子に束縛されているかのようにふるまう。それをデメルトはgeoniumuと名づけた』とあります。

そうしてこのジオニウム原子については「ういき:ペニングトラップ」: https://archive.md/iI5wD :にて「ジオニウム原子」として

『ジオニウム原子は、残りの地球に「結合」されているペニングトラップに蓄積された単一の電子またはイオンで疑似原子系であり、そのため「ジオニウム」という用語が付けられています。】この名前はHG Dehmeltによって考案されました。[9]

一般的なケースでは、トラップされたシステムは 1 つの粒子またはイオンのみで構成されます。このような量子系は、水素原子と同様に、1つの粒子の量子の状態によって決まります。という 2 つの粒子で構成されていますが、原子核に対する電子の運動は外部場における 1 つの粒子に相当します。・・・』と説明されています。

 

さてそれでここでのポイントは「電子の異常磁気モーメントの精密測定実験では電子は外部磁場によって古典的なサイクロトロン回転運動はしていない」という所になります。

そうではなくて「水素原子の電子の様に磁場に捉えられてその時の電子は古典的な軌道イメージで説明するならば『回転運動している』のではなくて『静止している』」のです。

 

そうであればこの事はミュオンの異常磁気モーメントの精密測定実験とは対照的な事です。

ミュオンは実際に磁場内でサイクロトロン周波数で回転運動しており、それを利用して異常磁気モーメントの測定を行いました。

しかしながら「ミュオンを回転運動させなくてはならなった」という理由の為に、それはつまり「ミュオンは地球に対して運動していた」という事ですが、地球が静止系に対してドリフトしている影響を異常磁気モーメントの測定の時にミュオンは受ける事になるのです。

しかしながら電子の異常磁気モーメントの精密測定実験では「地球に対して電子は静止状態で測定している」のです。

そうであればこの状況は「MuLanコラボがミュオンの寿命を測定した時と同じ」と言えます。

従って「MuLanコラボの実験が静止系での実験になっていた」のと同じ理由で「電子の異常磁気モーメントの測定実験は静止系での測定実験になっている」という事が出来ます。

 

以上の事は「電子の異常磁気モーメントの測定実験はミュオンの異常磁気モーメントの測定実験に対して本当に独立した検証実験になっている」という事を示しています。

つまりは「J-PARCの実験結果がフェルミ研での実験結果を支持しない」となった時に「それではどちらの実験を信用したら良いのか?」という話になります。

それでその場合に「電子の異常磁気モーメントの測定実験がその答えを与える事になるであろう」とは当方の読みであります。

あるいは「J-PARCの実験結果が出る前に電子の方が先に結果を出す」可能性すらあります。

さてそうであれば次のページでは電子の異常磁気モーメントの測定実験の現状と展望を見ておく事と致しましょう。

 

追記:ペニングトラップを用いた電子のトラップについての状況については以下の様なイラストが参考になるかと思われます。ご参考までに。

: https://slidesplayer.net/slide/11232933/#google_vignette :の8ページ あるいは

: https://slideshowjp.com/doc/73350/ :の5ページ

追記の2:レプトンの異常磁気モーメントの検証については電子の方がその測定はミュオンに比べてより高精度である必要があるものの、その条件を満たしたならば「理論計算と実測値との突合せ」と言う面では「ほぼ理想的である」という事が出来ます。

その理由は2つあります。

一つ目は「電子の方が異常磁気モーメントの理論計算が明確に出来る」という事です。そうしてこの理論計算は「静止系がベース」になっています。

二つ目は「電子の測定は静止系での測定になっている」という事です。

そうであれば理論と実測の突合せが完璧に行えるのです。

他方でミュオンの場合は「理論計算が難しい」と言う点に加えて「実験が静止条件ではできない」という弱点を持っています。

そうであれば「レプトンの異常磁気モーメントのアノマリーの検出」という意味では「電子で行う」のがベストであって、その次が「J-PARCの実験」であり、あまりお勧めできないのが結果的には「BNL~フェルミ研での実験」という事になってしまいます。

とはいえ「レプトンの異常磁気モーメントのアノマリーの検出」というテーマを長年に渡ってリードしてきたセルンから始まってBNL~フェルミ研に引き継がれてきている関係者各位の熱意と努力には敬意を表す必要があります。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/KGtF7

 


その3・正のミューオン寿命の精密測定の歴史的経緯:追補資料

2024-05-07 01:35:04 | 日記

「正のミューオン寿命の測定とフェルミ定数の百万分の1の精度での決定」(2010/12)

Measurement of the Positive Muon Lifetime and Determination of the Fermi
Constant to Part-per-Million Precision: https://arxiv.org/pdf/1010.0991.pdf :

の一部暫定訳です。

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概要を引用します。

『我々は、正のミューオンの寿命を100万分の1(ppm)の精度で測定しました。これはこれまでに測定された中で最も精密な粒子寿命です。この実験では、時間構造化された低エネルギーのミューオンビームとセグメンテッドなプラスチックシンチレーターアレイを使用して、2×10^12以上の崩壊を記録しました。2つの異なるストップターゲット構成が独立したデータ取得期間で使用されました。これらの結果を組み合わせると、τµ+ (MuLan) = 2196980.3(2.2) psという値が得られました。これは、これまでの実験の15倍以上の精度です。ミューオンの寿命は、フェルミ定数に対する最も精密な値を提供します: GF (MuLan) = 1.1663788(7) × 10^−5 GeV^−2(0.6 ppm)。また、これは、µ−pシングレット捕獲率を抽出するために使用されます。これは、プロトンの弱い誘導的疑似スカラー結合gPを決定します。』

本文の最後の部分のみ

『・・・フィットの開始時間に対する結果の安定性は、パイルアップ、ゲインの安定性、スピン効果などがすべて時間依存性を示す可能性があるため、強力な集合的診断となります。
R06とR07の両方について、ライフタイムは統計的に許容される変動を除いて、フィットの開始時間に依存しません。さらに、ラン番号や磁場の方向にも依存しません。
両走行期間の最終結果は、非常に一致しています:
τμ(R06) = 2196979.9 ± 2.5 ± 0.9 ps、
τμ(R07) = 2196981.2 ± 3.7 ± 0.9 ps。
ここで、最初の誤差は統計的であり、2番目の誤差は系統的です。R06とR07の比較は、ppmレベルでは、束縛されたミュオニウムの寿命が自由な寿命と大きく異ならないという期待があります。結合すると、以下のようになります:
τµ(MuLan) = 2196980.3 ± 2.2 ps (1.0 ppm)、これは以前の測定結果と一致しています。
誤差は、統計的誤差と系統的誤差の二乗平均であり、全エラー行列計算が使用されて、すべての相関が結合されます。
MuLanの結果は、他の個別の測定よりも15倍以上も精度が高く、そのため世界平均を支配しています。私たちの結果は、現在のPDG平均よりも2.5σ低い位置にあります。図2は、MuLan平均を含む最近の測定履歴を示しています。
τµ+の値から、フェルミ定数の最も正確な決定が導かれます:
GF (MuLan) = 1.1663788(7) × 10^−5 GeV^−2 (0.6 ppm)。
正のミューオン寿命はまた、水素[13]または重水素[14]中の通常のミューオン捕獲率を得るために使用されます。, Γcap = 1/τµ− − 1/τµ+。これらの捕獲率は、[15]で議論されているように、ハドロンの量を決定します。たとえば、新しい結果は、Ref. [13]で使用されるµ−p捕獲率を8 s^−1だけ低下させ、そのためgPを理論とさらに良い一致に向かって上方にシフトさせます。
最後に、改善された精度により、[13]でのミューオン捕獲の決定のτµ+の不確かさが0.5 s^−1以下になります。
私たちは、PSIスタッフ、特にD. Renker、K. Deiters、およびM. Hildebrandt; TRIUMFのM. BarnesとG. Waitに、キッカーの設計、NCSAにデータ解析の努力を可能にしサポートしてくれたことに感謝します。また、アメリカ国立科学財団には、彼らの財政支援に感謝します。』

『図1. 実験の概要図。ミューオンは真空ビームパイプを通じてAK-3または石英ディスクターゲットに運ばれます。このビームパイプは、内側に方位方向に偏光された0.1mm厚のAK-3箔で覆われています。170対の三角形のシンチレータ検出器が、それぞれ個別に読み出され、ターゲットを囲んで配置されています。ハルバッハ磁気リングは石英ディスク用にのみ使用されます。ターゲットが開かれたときに、ビームプロファイルを監視するためにワイヤーチャンバ(EMC)が後部に配置されています。』

『図2. 寿命測定の要約。MuLan R06とR07の結果は一緒にプロットされており、一貫性を示しています。垂直の影付きの帯は、MuLanの加重平均を中心に配置され、結合された不確かさと同じ幅になっています。』

これ以上の図1.と図2.の具体的な内容および上記以外の詳細な説明については原典を参照願います。

 

追記:MuLanコラボの実験が静止系上での実験になっている件

前のページで示した様に「地球上での全ての物理実験は静止系に対して運動している慣性上での物理実験」です。

さてそうであるにもかかわらず何故「MuLanコラボの実験は静止系上での実験になっている」と言えるのでしょうか?

その理由は「MuLanコラボのミューオン寿命の測定実験では測定対象のミュー粒子が地上に対して、実験室に対して、測定装置に対して止まっていたから」です。

ミューオン寿命の測定は実験室に置かれた原子時計の時間を刻む速さを使ってミューオンが崩壊するまでの時間を計ります。

でその時にMuLanコラボは実際にミュー粒子を観測装置内で静止させて寿命を測定したのでした。

さてそうであればこの状況を静止系からみれば「実験室に置かれた原子時計と測定対象のミュー粒子は同じ方向に同じ速度で運動している」となります。

従って静止系に置かれた時計に対しては実験室に置かれた原子時計と測定対象のミュー粒子の時間は静止系に対して運動している相対速度の分だけ遅れが生じています。

しかしながらこの時間の遅れは「実験室にある原子時計と測定対象となっているミュー粒子の両方に全く等しく生じる」のです。

そうであればMuLanコラボの実験条件では『地球が静止系に対して運動している事によって生じている効果=運動系では時間が遅れる』がキャンセルしあってその結果は「MuLanコラボの実験は静止系上での測定実験と同等になっている」のです。

しかしながら残念な事に「BNL~フェルミ研でのミューオンの寿命測定」では「測定対象のミュー粒子は地上に対して、実験室に対して、測定装置に対して運動していました」。

そうであればこの時には実験室にある原子時計に発生している時間の遅れと測定対象となっているミュー粒子に発生している時間の遅れは等しくはならず、そうであればこの場合は「この実験は静止系上での実験ではなくて、運動系上での実験として扱わなくてはならない」となるのです。

しかしながらBNL~フェルミ研での測定実験の解析ではその様には処理されず、従来の加速器実験の解析と同様に「実験室は静止系である、と言う前提で解析された」のでした。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/tXnmQ