特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

その1・正のミューオン寿命の精密測定の歴史的経緯

2024-04-27 03:39:38 | 日記

「ブルックヘブン国立研究所ミュオン蓄積リングでのミュオン寿命の正確な測定」:A Precise Measurement of Muon Lifetime at Brookhaven National Laboratory Muon Storage Ring」2006年/8月: https://www.sas.upenn.edu/~tqian/thesis.pdf :のP21からの引用から始めましょう。(注1

『1.2 ミュオン寿命測定 – 歴史と困難

1937年、宇宙線中でミューオンが発見され、それは湯川がパイ(π)メソンの存在を仮定した直後でした。ミューオンの質量は、電子の約200倍であり、パイメソンと類似しています。その後、ミューオンが弱い相互作用を介して崩壊することがわかりました。それ以来、ミューオンの崩壊とその生成物の測定は、電弱相互作用の研究において重要な役割を果たしています。

この研究は、ミューオンが加速器で人工的に生成されるようになったことで大幅に向上しました。高強度のミューオンビームは、スイスのポール・シェラー研究所(PSI)、カナダのTRIUMF、およびイングランドのラザフォード・アプルトン研究所(RAL)で利用可能です。すべてのミューオン寿命実験は、Particle Data Book [3] にリストされているものよりも20年以上前に実施されたことに留意する価値があります。寿命の世界平均値は、2.19703±0.00004μs です。図1.1は、正のミューオン粒子と負のミューオン粒子の過去の寿命測定を示しています。それらの値と参照文書は表1.1にリストされており、それらの実験は次のセクションで議論されます。

1.2.1 正帯電ミューオンの寿命測定
停止したミューオンの最後の正帯電ミューオンの寿命測定は、1970年代後半から1980年代初頭にかけて行われました。1つの研究グループは、バンクーバーのTri-University Meson Facility(TRIUMF)で働き、もう1つのグループはフランスのSaclayリニアアクセラレータで働きました。2つの実験で使用された技術はかなり類似していました。パルス状のπ+ビームが標的で停止し、崩壊した陽電子が検出されました。参考文献[8]では、140 MeV/cのパルス状π+ビームが硫黄標的で停止されましたが、これは他の材料よりもミューオンの偏極をより速く失わせることが知られています。停止したパイ粒子が標的内で偏極していないミューオン源を提供しました。ビームの約5%は、パイ粒子の飛行中に偏極した崩壊ミューオンで構成されていました。崩壊陽電子は、ビーム軸に沿って標的を囲む6つのプラスチックシンチレーターテレスコープによって検出されました。これらのテレスコープは、75%の立体角をカバーしています。数年間で合計125.4億のイベント(陽電子)が取得されました。そのうちの約16%のイベントは液体水素標的で取得されましたが、これについては1.2.2節で議論されます。測定された陽電子は指数分布で記述され、
R(t)=R(0) [exp(−λ t)+A⋅r exp(−2A t)+B]となります。

ここで、レートに依存した項 r が含まれ、物理的なバックグラウンド B は主に宇宙線から来ました。
B=B0+B1 exp(−t/T) ここで、T=160 ps 最終的なレート効果への補正は、高レートから低レートまでの推定から得られました。実験からの最終的なミューオン寿命は、
τμ+ =2.197078±0.073 nsで、表1.1にリストされています。最終的な誤差には、統計誤差とシステマティック誤差の両方が含まれています。偏極効果は、システマティック誤差に0.06 ns の上限を寄与しました。

TRIUMFの他のグループは、同じ年(1984年)に彼らの正帯電ミューオン寿命実験結果を発表しました。エネルギーが150 MeV/cから170 MeV/cの間の正パイオンビームが約10 mの長さのチャネルを通過し、水タンクに入りました。ビームは主にパイオンで構成され、少量のミューオンと電子が含まれていました。ビームは2-5 nsのバンチでした。粒子は、長いチャネル内の時間差で識別されました。水タンクの手前にある2つのシンチレーションカウンターが入射ビーム粒子を検出しました。約5%のパイオンが核反応を介して除去された一方で、残りの95%の入射 π+ が水中で停止し、μ+ に崩壊しました。水中を非常に短い距離移動した後、娘の μ+ が停止し、e+ に崩壊しました。これらの崩壊 e+ は、ステンレス鋼シリンダー水槽内のチェレンコフ放射によって検出されました。シリンダーの両側に設置された直径12.7 cm の光電倍増管2本が、放射からの光を収集しました。2つの PMT からの合計信号が、はるかに小さい信号を持つ μ+ と π+ から e+ を区別するために使用されました。崩壊イベントの時間情報は、入射シンチレーションカウンターからの開始時間とセレンコフ信号からの停止時間の間で20 μs の時間間隔で記録されました。中程度のエネルギー範囲の時間ヒストグラムは、崩壊関数形
R(t)=N exp(−t/τ)+B でフィットされました。ここで、B はバックグラウンド項でした。フィットの開始時間はパイオンの寿命の11倍以上であったため、ミューオン集団の初期成長の記述はフィッティング関数で必要ありませんでした。最終的な結果は
τμ+ =2196.95±0.06 ns で、表にリストされています。』

『VALUE(1.0*10^-6秒)  DOCUMENT ID  YEAR  TECN  CHARGE
2.197078 ± 0.000073   BARDIN     1984  CNTR  +
2.197025 ± 0.000155   BARDIN     1984  CNTR  -
2.19695 ± 0.00006    GIOVANETTI   1984  CNTR  +
2.19711 ± 0.00008    BALANDIN   1974  CNTR  +
2.1973 ± 0.0003     DUCLOS     1973  CNTR  +
表1.1:Particle Data Groupによるミューオン寿命測定の歴史的記録、2004年 [3]。』

ここにセルンが行った結果を追加します。

「円軌道上の正および負のミュオンの相対論的時間遅延の測定」1977 年 7 月 28 日: https://www-nature-com.translate.goog/articles/268301a0?error=cookies_not_supported&code=8868aa4e-8ae3-40d0-a956-febb2d8ba851&_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc :

『正および負の相対論的ミュオン ( γ = 29.33)の両方の寿命がCERN ミューオン保存リングで測定され、結果は τ + = 64.419 (58) μs、τ − = 64.368 (29) μsでした。』

ここから静止時のμ粒子の寿命が逆算され結果は

τμ− = 2.1948(10) μs

さらにこの値から逆算されるτμ+の値は

τμ+=2.1965 μs となります。(注2

そうして上記ブルックヘブン2006年/8月の報告数値は

τμ+=2 197.301 ± 0.200 ns (89 ppm)

τμ−=2 197.655 ± 0.152 ns (69 ppm)

となっています。(注3

さてセルンもブルックヘブンもストレージリング内を円運動しているμ粒子の崩壊の様子をモニターする事で光速に近い速度で運動しているμ粒子の寿命を測定しました。

それから円運動の速度を出して相対論の時間遅れの式から「止まっている時のミュー粒子の寿命を逆算した」のでした。

そうしてもちろんセルンの実験よりもブルックヘブンの実験の方が精度及び解析手法に於いて改善が図られた事と推察できます。

そうしてブルックヘブンの実験の前のτμ+の世界平均は2.19703±0.00004μs でした。

それに対してブルックヘブンは「それは精度が悪い。精度が良いブルックヘブンの実験ではτμ+=2 197.301 ± 0.200 ns (89 ppm)である。」と2006年/8月に主張したのです。

さてこの主張は正しかったのでしょうか?

ちなみにこの数字はDUCLOS( 1973)と同じものになっています。

 

注1:論文の冒頭部分はここからコピーできます。: https://www.proquest.com/docview/305306042 :

注2:上記ブルックヘブンのレポートのP167にセルンの結果を加えた図8.1があります。その図の中でg-2と記された点がブルックヘブンの得た「静止ミュオンの寿命」となります。

それを見るとよく分かるのですが、セルンの実験からブルックヘブンの実験では相当に精度の向上が図られたのでした。

注3:ブルックヘブンの概要から引用

『ブルックヘブン国立研究所で、正のミューオンと負のミューオンの寿命が同じ装置、すなわちg-2蓄積リングで測定されました。実験は、2000年および2001年に正のミューオンと負のミューオンに対してそれぞれ行われました。ミューオンの静止状態での寿命を測定するために、主に2つの主要な解析が行われました:ミューオンの減衰時間スペクトルから拡張された寿命を抽出すること、およびサイクロトロン周波数とミューオンの運動量分布から相対論的拡大因子を取得すること。

逆比率法と呼ばれる新しい手法が開発され、ミューオンの時間スペクトルの減衰定数を適合させました。得られた拡張された寿命はτμ+= 64 408.4 ± 2.3 ns(stat) ± 5.2 ns(syst)および、τμ−= 64 421.0 ± 2.8 ns(stat) ± 3.3 ns(syst)です。ミューオンの損失、ゲインの安定性、およびパイルアップイベントという3つの主要なシステマティックエラーが存在します。引用注:もちろんそれらの系統的な誤差要因は修正された上で寿命計算は行われています。)ミューオンの平均運動量は、注入直後の時間におけるミューオンビームの高速回転構造を分析することによって得られました。運動量分布を抽出するためのシミュレーションモデルが開発されました。

この研究におけるτμ+と静止状態で測定されたτoから比較すると、(τo-τ/γ)/τo = (12.4 ± 9.3) x 10^-5となります。アインシュタインの時間拡大因子は、γ = 29.314(速度がβ = 0.9994cに対応)の95%信頼範囲で、実験と一致します。その範囲は(-6.2から31.0) x 10^- 5です。』

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/9M6J7

 

 


9-16・追補:ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-04-22 02:28:14 | 日記

ストレージリングメソッドで使っている式については以下の資料に説明があります。

そのあたりの具体的な内容は「ミュオン磁気能率測定は標準理論の破れを検出したか?」: https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/56/11/56_11_848/_pdf/-char/ja :にて詳細に述べられています。よい資料ですのでぜひともご一読を。

なおほぼ同じ内容ですが写真が鮮明なのは: http://meson.riken.jp/g-2/g-2_mac/old/g-2-JPS/%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E8%AA%8Cver3.pdf :の方になります。

ポイントになる式は(1)~(3)なのですが式の形が下の資料では崩れて表示されている為に、上の資料の方で確認をしてください。

それで(1)式が磁場強度Bのストレージリングに粒子速度がγのミュオンを閉じ込めた時のサイクロトロン角速度ωcの計算式になっています。

ωc=eB/(mμ*c*γ) ・・・(1)式

ここでe電荷、mμはミュオンの質量、cは光速、γは1/sqrt(1-(v/c)^2)、vは粒子速度

でスピン角速度ωsは

ωs=eB/(mμ*c*γ)*(1+aμ*γ) ・・・(2)式

ここでaμは異常磁気モーメント

で求めたいのはaμだから

ωs=eB/(mμ*c*γ)*(1+aμ*γ)=ωc*(1+aμ*γ)=ωc+ωc*aμ*γ

従って

ωs-ωc=ωc*aμ*γ

だから

aμ=(ωs-ωc)/(ωc*γ) ・・・(4)式

これが基本式

ちなみにωa=(ωs-ωc)とすると(4)式は

aμ=(ωa)/(ωc*γ) ・・・(5)式(注1)

となる。

 

さてそれで資料より(3)式を参照すると

ωa=(ωs-ωc)=e/(mμ*c)[ aμ*B-(aμ-1/(γ^2-1))*βxE) ] ・・・(3)式

これがストレージリングメソッドで使われているトーマスBMT方程式から必要な部分だけを取り出したものになっています。

この式の第二項 (aμ-1/(γ^2-1))*βxE) をゼロにするγの値がマジック運動量でそれはγ=29.30

それでこの項が落ちた後の式の形は

ωa=e/(mμ*c)[ aμ*B-0]=e*aμ*B/(mμ*c)

そうであれば

aμ=ωa*(mμ*c)/(e*B)

(1)式よりωc=eB/(mμ*c*γ)

従って

aμ=ωa/(ωc*γ)

これは(5)式と同じものになり、(3)式で第二項をゼロにする事でaμの値がωaの測定値と外部磁場Bの値から計算できる、という事になり整合性が取れています。

 

ちなみに本来のトーマスBMT方程式の形は

「Foundation of Electron Accelerator」: https://accel.hiroshima-u.ac.jp/files/2022/Lecture/2019TextBook.pdf :の42ページに説明されています。(本文は日本語です。)

で最終的な形が(3.130)式になっており上記(3)式はγを [    ] 内に移して分子、分母で打ち消して整理した形になっています。

加えて(3.130)式では「ビーム進行方向に平行な磁場成分B∥がある場合はそれも考慮する形になっていますが、ストレージリングでは磁場成分B∥の成分はゼロですから結局(3.130)式は(3)式に帰着する事になります。

注1:(5)式に於いてミュー粒子のBNL~フェルミ研の場合はγ≒29.3で電子のぺニングトラップの場合はγ≒1である。

 

追記:トーマスBMT方程式の導出には以下の様な資料もあります。

・「異常磁気モーメント g-2 を測る式の導出」: https://soryushi.ynu.ac.jp/theses/bachelor/2018yoshihara.pdf :

追記の2:このThomas-BMT 方程式の正しい使い方の例としてはたとえば

「スピン偏極電子」: https://archive.md/XNGve :というものがあります。ご参考までに。

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上記以外でミュオン異常磁気モーメント測定に関連した資料をご参考までに以下に示して置きます。

・ミュオン異常磁気モーメントの測定値(セルン~BNL)

「muon g-2 の理論」: https://indico.ipmu.jp/event/164/contributions/2417/attachments/2070/2499/dnomura-slides.pdf :のP19にある。

CERN I (1965) Long dipole magnet, B = 1.6 T μ injection 1 0.4% [14], [15]
CERN II (1974) R = 2.5 m storage ring, B = 1.71 T p injection 12 270 ppm [16]
CERN III (1978) R = 7.1 m storage ring, B = 1.47 T π injection 29.3 7.3 ppm

信頼できる実験値はLong dipole magnet,の時代から一貫して理論値を上回っていた!!

 

・「ブルックヘブン国立研究所のミューオン一時リングでのミューオンの寿命の正確な測定」: https://archive.md/RJoGS :

出版物: 博士号論文  公開日: 2006年 概要部分の日本語訳

 

・一方、過去の実験では検討されていなかったスピンとビー ムのダイナミクスに相関があった場合をシミュレーションしたところ、スピン方向と運動量 分布に相関がある場合、ミューオン g-2 の測定値を系統的にズラしてしまう効果があ ることを発見した。この新しい系統誤差要因に関して調べるため、線型加速器中の ミューオンスピンのダイナミクスに関してシミュレーションした。
https://mlfinfo.jp/sp/qbs-festa/2019/files/Q_binder.pdf

・ミューオン線形加速器における スピンダイナミクスシミュレーション
https://www.pasj.jp/web_publish/pasj2020/proceedings/PDF/FROT/FROT02_oral.pdf

・ミューオン線形加速器におけるスピンダイナミクスシミュレーション
https://www.pasj.jp/web_publish/pasj2020/proceedings/PDF/FROT/FROT02.pdf

 

追記:速報:「世界初 素粒子ミュオンの冷却・加速に成功」: https://archive.md/zl1dZ :

『・・・研究グループは、ミュオンをいったん光速の0.002%にまで“冷却”し、ほぼ停止状態にしてから、正ミュオンに高周波の電場をかけて加速しました。これにより、向きがそろった状態で光速の4%の速さ(秒速約1万2000km)まで加速することに成功したということです。

 この方法を用いれば、さらに加速して指向性が極めて高いミュオンビームを得ることができるとしており、研究グループでは最終的に光速の94%まで加速する予定です。

 高エネルギー加速器研究機構の三部勉教授は、今回の成果により「素粒子標準理論に含まれない未知の素粒子や物理法則の存在を明らかにしたい」としており、今回実現したミュオンの冷却・加速技術によって、世界で初めてのミュオン加速器を実現できるとしています。』<--「J-PARCの実験準備」が順調に進行中の模様です。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/8d7Rc

 


9-15・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-04-17 03:25:04 | 日記

「取らぬタヌキの皮算用」を続けます。

さて以前のページでは「J-PARCの実験はフェルミ研での実験結果を支持しない」と主張しました。

そうしてその根拠は「9-12」で示した様に(1)式の第二項が計算上ではゼロにならない、と言うものでした。

加えて前のページで示した様に「γの値がマジック運動量の29.30になっていない」という事もそのように主張する根拠となります。

 

さてそのような状況が起きる原因として当方が主張しているのは「客観的に存在している静止系に対して地球が0.001Cでドリフトしている」と言うものでした。

これに対してハーフェレ・キーティングの実験の場合は「北極上空に静止系を置く事で実験結果を説明できる」というものでした。

さてそれで「フェルミ研の実験がJ-PARCの実験結果と一致しない」となった時にハーフェレ・キーティングの実験の場合の様に「北極上空に設置した静止系を考える事でフェルミ研の実験結果を説明できるのかどうか」、先回りになりますがここで検討しておきます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

地球が静止系に対して0.001Cでドリフトしている場合に計算するべき項は(aµ − 1/(γ^2 − 1))でした。

で、ドリフト量が0.001Cの場合は以下の様な計算になりました。

但しここではβの値は0.99942137とします。

25/21584/(2pi)-((1/( (((0.99942137*cos x+0.001)/((1+0.99942137*(cos x)*0.001)))^2+(sqrt(1-0.001^2)*((0.99942137*sin x)/((1+0.99942137*(cos x)*0.001))))^2)))/(2pi)-1/(2pi))をxが0から2πまでの範囲で積分

https://ja.wolframalpha.com/input?i=25%2F21584%2F%282pi%29-%28%281%2F%28+%28%28%280.99942137*cos+x%2B0.001%29%2F%28%281%2B0.99942137*%28cos+x%29*0.001%29%29%29%5E2%EF%BC%8B%28sqrt%281-0.001%5E2%29*%28%280.99942137*sin+x%29%2F%28%281%2B0.99942137*%28cos+x%29*0.001%29%29%29%29%5E2%29%29%29%2F%282pi%29-1%2F%282pi%29%29%E3%82%92%EF%BD%98%E3%81%8C0%E3%81%8B%E3%82%89%EF%BC%92%CF%80%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%A7%E7%A9%8D%E5%88%86

答えは

-4.12233*10^-10

 

それでこの時にドリフト量がゼロの場合は上記積分は理想的にはゼロになっているはずです。

それを確かめます。

25/21584/(2pi)-((1/( (((0.99942137*cos x+0)/((1+0.99942137*(cos x)*0)))^2+(sqrt(1-0^2)*((0.99942137*sin x)/((1+0.99942137*(cos x)*0))))^2)))/(2pi)-1/(2pi))をxが0から2πまでの範囲で積分

https://ja.wolframalpha.com/input?i=25%2F21584%2F%282pi%29-%28%281%2F%28+%28%28%280.99942137*cos+x%2B0%29%2F%28%281%2B0.99942137*%28cos+x%29*0%29%29%29%5E2%EF%BC%8B%28sqrt%281-0%5E2%29*%28%280.99942137*sin+x%29%2F%28%281%2B0.99942137*%28cos+x%29*0%29%29%29%29%5E2%29%29%29%2F%282pi%29-1%2F%282pi%29%29%E3%82%92%EF%BD%98%E3%81%8C0%E3%81%8B%E3%82%89%EF%BC%92%CF%80%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%A7%E7%A9%8D%E5%88%86

答えは

1.68242*10^-10

ゼロではなくて少しプラスになっています。

これはβの値として0.99942137と厳密解0.999421369916024917・・・から少しだけおおきな値を使った事に起因している様です。

そうであればここでは逆に

1.68242*10^-10の値を原点=ゼロと読みます。

そうすると上記のドリフト量が0.001Cの場合の(aμ-(1/(γ^2-1))) の値は

(-4.12233*10^-10)ー(1.68242*10^-10)=-5.80475*10^-10

となります。

以上の値がドリフト量が0.001Cの場合の結果でした。

 

それに対して北極上空に静止系を設定した場合はフェルミ研のストレージリングのある実験室は静止系に対して地球の自転分だけ運動している事になります。

それでここではその自転分の速度を赤道での自転速度とします。

注意すべきはもちろんフェルミ研の場所は赤道ではなくてもっと北寄りにあるためにその場所の自転速度は赤道上よりも遅くなっている、という事です。

さてそれで地球の自転速度ですがウルフラムでの積分計算をうまく行うために地球の自転速度9.50*10^-7を少しくりあげて10.0*10^-7とします。

この数字が上記で示した地球のドリフト量の0.001Cの代わりになります。

以下はウルフラムによるその計算です。

 

25/21584/(2pi)-((1/( (((0.99942137*cos x+10^-6)/((1+0.99942137*(cos x)*10^-6)))^2+(sqrt(1-10^-12)*((0.99942137*sin x)/((1+0.99942137*(cos x)*10^-6))))^2)))/(2pi)-1/(2pi))をxが0から2πまでの範囲で積分

https://ja.wolframalpha.com/input?i=25%2F21584%2F%282pi%29-%28%281%2F%28+%28%28%280.99942137*cos+x%2B10%5E-6%29%2F%28%281%2B0.99942137*%28cos+x%29*10%5E-6%29%29%29%5E2%EF%BC%8B%28sqrt%281-10%5E-12%29*%28%280.99942137*sin+x%29%2F%28%281%2B0.99942137*%28cos+x%29*10%5E-6%29%29%29%29%5E2%29%29%29%2F%282pi%29-1%2F%282pi%29%29%E3%82%92%EF%BD%98%E3%81%8C0%E3%81%8B%E3%82%89%EF%BC%92%CF%80%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%A7%E7%A9%8D%E5%88%86

答えは

1.68242*10^-10

この値はドリフト量がゼロの場合と同じになっています。

つまり「10.0*10^-7程度のドリフト量=地球の自転速度によるもの」ではほとんどその効果は検出されずにゼロと同じとなるのです。

つまり「北極上空に静止系を設定した場合には(aµ − 1/(γ^2 − 1))の項目はゼロになる、従って静電四重極が作る電場の影響をミュー粒子は受けない」ということになりその結果は「フェルミ研での実験はJ-PARCの実験結果と同じになる」という事になります。

 

さてそうであれば「フェルミ研での実験はJ-PARCの実験結果と違っている」という事になった場合は「地球が静止系に対して無視できない程の速度でドリフトしている」という事になるのです。

これが「今回の実験結果とハーフェレ・キーティングの実験結果との大きな違い」=「実験の測定感度の違い」=「実験の測定精度の違い」と言えます。

つまりは「北極上空の静止系設定」では「J-Parcの実験がフェルミ研での実験値と異なった場合の理由の説明はできない」という事になるのです。

さてそうなりますと「BNL~フェルミ研の実験は客観的に存在している静止系に対して地球が0.001C程度でドリフトしているという事を歴史上始めて確認できた実験」という事になるのです。(注2

 

追記:「ミュオン異常磁気モーメント測定のテーマ」が「理論計算と測定値が一致しない件」という事について。

結局の所、QEDによる計算結果は電子の異常磁気モーメント測定の値と「10^<-12>のオーダーまで測定値と理論計算が一致する」のです。(注1

これは一応「QEDの計算手順は正しい」という事の証明になっています。

さてそれに対してミュオン異常磁気モーメントでは「測定値と理論計算値が一致しない、5σ程度の差がある」となっています。

そうであれば「ミュオン異常磁気モーメント測定のテーマ」は「理論計算と測定値が一致しない件」という事になります。

そうしてもちろん理論計算も測定も「自分達が行った事については単純なミスはない」と主張しているのです。

それで業界の世論としては「理論計算と測定が一致しないのは、そこに我々がまだ知らない新物理が現れているからである」と予測、期待しているのです。

他方で当方は「いやいや、数値は理論計算が正しい。間違っているのは実験の方で、その理由は地球が静止系に対してドリフトしている効果を考量していないからだ」と主張しているのです。

 

さて以上の対立点については「どちらの読みが正しいのか」J-PARCの実験結果が一つの回答を与える事になります。

そうであれば「J-PARCの実験結果がBNL~フェルミ研での実験結果と一致するかどうか」が本当に大きな意味をもつ事になるのです。

 

注1:「QED摂動論によるレプトン異常磁気能率の計算(最近の研究から)」: https://archive.md/s0Grm :

『著者らのグループは数値的手法により摂動の10次項の完全な決定を行い,結果として電子g因子について10^<-12>のオーダーまで測定値と理論計算が一致することをみた.この精度までQEDの正しさが検証されたと言える。
↓ミュオン
測定値と,QEDを含む素粒子標準模型からの理論値の間に約3σの差が見つかり,標準模型を超える新物理を探るプローブの一つとして注目されている.』

注2:注意すべきは「ハーフェレ・キーティングの実験結果は北極上空に静止系を設定する事で説明可能」でしたが、それでは「J-Parcの実験がフェルミ研での実験値と異なった場合の理由の説明はできない」という事です。

他方で「J-Parcの実験がフェルミ研での実験値と異なった場合の理由の説明」として「静止系が客観的に存在する事を認めた場合」には、まさにその同じ理由によって「ハーフェレ・キーティングの実験結果も説明できる」という所にあります。

さてこの状況を数字で表すと次のようになります。

8-7・ハーフェレ・キーティングの実験の再検討の6」では「地球が属している銀学系の静止系に対するドリフト量は±0.5Cを超える事は無い」という事が確認できました。

そうして「J-Parcの実験がフェルミ研での実験値と異なった場合」には「北極上空に設定した静止系では説明できない」となりました。

従って客観的に存在する静止系の地球から見た場合のシフト量は次の範囲にある事になります。

-0.5C<静止系<0、あるいは 0<静止系<+0.5C

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/k7Vkm

 


9-14・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-04-12 00:05:07 | 日記

さて前のページでは「J-PARCの実験はフェルミ研での実験結果を支持しない」と主張しました。

そうしてその根拠は「9-12」で示した(1)式 の第二項が計算上ではゼロにならない、と言うものでした。

ωa = − e/mµ[aµ*B" −(aµ − 1/(γ^2 − 1))*( β" × E")/c] ・・・(1)式 

再確認しますと所定のaµ=25/21584=0.0011582653817642698・・・の値に対して

(aµ − 1/(γ^2 − 1)) の部分をゼロにするγの値を「マジック運動量」であるとし、今のaµの値の設定の場合はγの値はγ=29.4となっています。

そうして確かにaµとγに上記の値を代入すると(aµ − 1/(γ^2 − 1))はゼロになるのです。

というよりもγ=29.4に対して(aµ − 1/(γ^2 − 1))をゼロにするようなaµの値を決めたのですからそうなります。

で、「何故その様な設定をしたのか」といいますれば「計算上は上記の様に確かにaµとγが打ち消し合って第二項がゼロに落ちる」のですが、その計算が成立している前提条件を明らかにする為でした。

と言いますのも上記の計算が成立する為には「地球が静止系である」という条件が必要なのです。

 

それは「地球が客観的に存在している静止系に対して0.001Cでドリフトしている」という条件を入れて計算する事で示すことが出来ました。

その様なドリフト条件で計算すると(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分はゼロにはならず、ゼロからずれてしまう、という結果でした。

そうであれば「実験室系で見た時にγ=29.4に設定できた」と思っていた条件では実は(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分はゼロにはなっておらず、したがってフェルミ研の実験では正しいaµの値は測定できていない、という事になったのでした。

 

もともと(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分をゼロにする必要があったのはこの項の後に続く( β" × E")/c という項の為であり、そうして「何故この項が必要になっているのか?」といいますれば「ミュー粒子のビームの縦方向へのドリフトを規制するために静電四重極が必要だったから」が答えになります。

その静電四重極が作り出す電場E"の影響が出ないようにするために所定のビーム速度での測定が必要となっていたのでした。

しかしながら「静止系に対して地球がドリフトしている為に、原理的に(aµ − 1/(γ^2 − 1))の部分はゼロにはできない」と言うのが答えになるのです。

さてそうであればこそ (aµ − 1/(γ^2 − 1))*( β" × E")/c の項の影響をゼロにする為にE"の値をゼロにする、というJ-PARCの実験方針は正しいという事になるのです。

それはつまり「原理的に(aµ − 1/(γ^2 − 1))*( β" × E")/c の項の影響を無くす」という事であります。

さてそれはまたコトバを変えますれば「J-PARCの実験結果とフェルミ研の実験結果に無視できない程の差が生じた」ならば「それは地球が静止系に対してドリフトしている」という事を暗に示している一つの実験事実となるのです。(もちろんこの主張は現状では当方の「とらぬタヌキの皮算用」であります。)

 

さてそれでここでは上記とはまた別の観点からフェルミ研での測定がうまく行っていない、という事を示します。(注1

引用する資料は

「Measurement of the anomalous precession frequency of the muon
in the Fermilab Muon g − 2 Experiment」: https://journals.aps.org/prd/pdf/10.1103/PhysRevD.103.072002 :というフェルミ研の最終レポートです。

その4ページ目に『The last term,which corresponds to the additional magnetic field component that the muon experiences in its rest frame from E(Eベクトル) ,vanishes for a muon with momentum p0 =3.094 GeV/c,or γ ∼ 29.3.』というマジック運動量を示す記述があります。(注2

速度vで動いているミュー粒子の運動量pは

p=γmv

ここでmはミュー粒子の静止質量で105.66Mev/C^2です。(注3

そうであればγvは

γv=P/m=(3.094 GeV/c)/(105.66Mev/C^2)

=29.28260458・・・

γ=1/sqrt(1-V^2)

従って

γv=v/sqrt(1-V^2)=29.28260458・・・=A

とすると、これは手計算で解けて

v=A/sqrt(1+A^2)=0.999417399384・・・

そうであればこの時にγは

γ=1/sqrt(1-V^2)=29.29967457034・・・

さてまあマジック運動量が3.094 GeV/cと4桁でしたからγも4ケタにすると

≒29.30=29.3

とレポートはしているのでした。

さてそれはつまり「フェルミ研ではマジック運動量が実現できてγは29.3となり従ってミュオン異常磁気モーメント測定時の静電四重極が作る収束電場の影響はなくせた」と主張しているのです。

ただしこの報告のどこにもデータから計算したγの値は出てきてはいません。

 

さてそれでその時のミュー粒子の寿命γτμはおおよそ

Muons stored at this momentum possess a boosted lifetime of γτμ ≈ 64.4 μs.

であるとこれも4ページに書いてあります。そうしてこの値のもっと正確な測定値は19ページのTABLE II.(The (blinded) fit results for the asymmetry-weighted event analysis for the Run-1d dataset. The fit used the model and parameters described in Eqs. (25)–(30) and Eq. (34).)にあり

γτμ (μs)= 64.4478± 0.0023

となっています。

さてそれでフェルミ研はγ=29.3で測定できた、と主張しています。

さてそうなりますと

64.4478=τμ(0)*29.3 である、と主張している事になります。

ちなみにここでτμ(0)は静止している時のミュー粒子の寿命です。

そうであれば

τμ(0)=2.199583617・・・(μs)

となります。

 

さてそれでここで別の実験から明らかになった「静止している時のミュー粒子の寿命」を持ってきます。

そうしてこの実験では実際にミュー粒子を静止させて崩壊までの寿命を測定しているのです。

「正のミューオン寿命の測定とフェルミ定数の百万分の1の精度での決定」

Measurement of the Positive Muon Lifetime and Determination of the Fermi
Constant to Part-per-Million Precision: https://arxiv.org/pdf/1010.0991.pdf :

2010年のこの実験によれば

VALUE(1.0*10^-6秒)  DOCUMENT ID  YEAR  TECN     CHARGE
2.1969803 ±0.0000022  MuLan   2010 MuLanコラボ  +

となっています。

 

さてこのMuLanコラボが行った測定は静止ミュー粒子の寿命についての現在の確定版といえます。(注4

それに対してフェルミ研での計算値は大きい方にずれています。

MuLanコラボ 2.1969803(μs)<2.19958(μs) フェルミ研

このずれが発生した原因は何でしょうか?

このずれを無くすにはどうすれば良いのでしょうか?

 

フェルミ研での静止ミュー粒子の寿命の計算は

64.4478=τμ(0)*29.3 という式を変形した

τμ(0)=64.4478/29.3=64.4478/γ から計算しています。

そうして実はτμ(0)は2.1969803(μs)だった。

そうであればγは実は

γ=64.4478/2.1969803=29.334719・・・

となるのです。(注5

これはフェルミ研が主張しているγ=29.3に対して0.118%だけ高い値になっています。

しかしながらフェルミ研は「γ=29.3だから静電四重極がつくる電場の影響はキャンセルできている」と主張して

aμ(FNAL)=116 592 040(54)×10^−11

という数字を出してきているのです。

 

さてこのフェルミ研の出した数値は信頼性があるのでしょうか?

当方の見る所フェルミ研の実験は「γが想定より実際は0.118%だけ高い方にずれていた」のです。

さてそうであれば「ミュオン異常磁気モーメントの精密測定実験としてはフェルミ研の実験は致命的なミスを犯している」と言えます。

 

注1:同様の理由でBNLの実験もうまく行っていない、という事が示せるのですがそれはまた後述となります。

注2:和訳では「最後の項は、ミュオンの慣性系からは電場E から追加の磁場成分を経験することを示していますが、運動量 p0 = 3.094 GeV/c、または γ ∼ 29.3 のミュオンでは(電場の影響は)消えます。」となります。

注3:「ミュー粒子」: https://archive.md/ZJnZz :から引用。

『静止質量は105.66MeV/C2(電子の約200倍)』

注4:MuLanコラボが行った実験詳細についてはページを改めて「正のミューオン寿命の精密測定の歴史的経緯」にて記述する事と致します。

注5:下記に示すBNLの数値

γ=29.314 その時のミュー粒子の寿命τμ=64.4084(μs)

を信用するならば、フェルミ研のミュー粒子の寿命τμ=64.4478(μs)から計算されるγの値は

γ=29.331932・・・

となり本文での計算値

γ=29.334719・・・

と整合性がとれる値になっています。

つまりは

BNL     γ=29.314~29.317 (aμ(Expt)=11659208.0(5.4)(3.3)×10^−10)

フェルミ研  γ=29.332~29.335  (aμ(FNAL)=116592040(54)×10^−11) 

という事になります。

こうして「本来はBNLもフェルミ研もγ=29.30で測定を行う必要があったのですが、その条件をいずれの実験の場合も満たしてはいなかった」という事が分かります。

 

追記:フェルミ研のレポートではγの値が明示されていませんが、BNLの実験ではγの値が計算され、示されています。

・「ブルックヘブン国立研究所のミューオン一時リングでのミューオンの寿命の正確な測定」: https://archive.md/RJoGS :

出版物: 博士号論文  公開日: 2006年 概要部分の日本語訳

原典は: https://www.sas.upenn.edu/~tqian/thesis.pdf :

γの詳細は128ページ表6.7に

その時のミュー粒子の寿命の計算値は144ページ表7.2にあります。

サマリによれば

γ=29.314 その時のミュー粒子の寿命τμ=64.4084(μs) でτμ(0)=2.197301(μs)

しかしこの数値もまたMuLanコラボ 2.1969803(μs)を基準にすれば

γ=64.4084/2.1969803=29.3167854・・・

≒29.3168 となるのでした。

これはBNL計算のγよりも0.01%程高いものになっています。

しかしγだけをみるならばBNLの計算値はよほどフェルミ研よりも実態に近かったと言えそうです。

しかしながら魔法運動量のγ=29.3に対しては

29.3168/29.3=1.000573・・・と

0.057%ほど高い方にずれています。

さてこうして分かる事はBNL~フェルミ研の実験のいずれもが魔法運動量のγ=29.3を正確には実現できずに実験を行っていた、という事です。

従いまして「魔法運動量の縛りがないJ-PARCの実験結果がとても重要になってくる」という事になるのでした。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/Cr5De

 


9-13・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-04-06 02:35:42 | 日記

1,J-PARC実験の狙い

J-PARC実験の狙いは次の記事によく表れています。

「新物理に挑む」: https://g-2.kek.jp/new-physics/ : https://archive.md/hnbNJ :

要するに『J-PARCの実験の意義と独自性
理論計算と実験のズレの理解を目指して世界中で研究が行われています。

理論側では、より標準理論の予測を正確にするために、難解な量子補正の高精度の計算の研究が行われています。

実験側で重要となるのは、これまでの測定結果に予期せぬ系統誤差が含まれていないのか注1)、の検証になります。その検証を目指してJ-PARCにおいて全く新しいミュオンg-2測定実験が進行しています。』という訳です。

そうして『このプロジェクトではこれまでの、そして現行のg-2測定とは異なる全く新しい方法でのg-2測定を目指しています。

異なる測定手法でも同じ結果が得られれば、それは実験結果の信頼性をより確かなものにし、新物理が存在しているという可能性が一層強まります。ミュオンg-2を議論するために欠かせない実験になっています。

この実験の特徴は、数meV程度まで冷えたミュオンを用いて実験を行うことで、高品質なミュオンビームを実現し、現行の手法に比べて圧倒的に系統誤差が少ない実験が行える点にあります。

・・・これまでにない新しい手法を用いたこの実験は非常に挑戦的ですが、世界中から注目を集めています。』と結んでいます。

 

BNLの実験、フェルミ研の実験ではいずれも「あまり質の良いミュオンビームを使っていなかった」のです。

そのために「縦方向にビームを収束させるための四重極電場が必要」でした。

そうしてそのおつりが「マジック運動量指定での実験」になっていました。

それに対してJ-PARCの実験では「高品質なミュオンビームを実現できた」ので「縦方向にビームを収束させるための四重極電場が不要」となり、したがって「マジック運動量を気にする事なく」測定が行えるという事になっています。(注2

 

2,J-PARC「ミューオンg − 2/EDM実験」の設備概要

上記資料「新物理に挑む」および: https://archive.md/MmDX0 :で紹介されているイラスト、そうしてより詳細には「ミューオンg − 2/EDM実験」: https://www.jahep.org/hepnews/2012/12-3-5-g-2-Mibe.pdf :を参照願います。

特にストレージリングに導入されるミュー粒子の軌道については最後の資料のP6の図6にて示されています。

 

3,「J-PARCのg-2/EDM実験」の結果についての予想

「J-PARCのg-2/EDM実験」の結果については以下の5つのケースが想定できます。

まずは現状フェルミ研の実験と理論計算の間のギャップは+5σです。

で「J-PARCのg-2/EDM実験」結果と理論計算とのギャップについての想定は

1,+10σ -->ギャップがさらに増えるーー>混乱

2,+7.5σ -->ギャップがさらに増えるーー>混乱

3,+5σ フェルミ研の結果を支持 -->期待通り!(注3

4,+2.5σ 有意差が消える -->混乱

5,+0σ 理論と一致 -->フェルミ研は何を間違えた??-->混乱

 

考えられるシナリオ詳細

1,と2,であるとすると「混乱がますます大きくなる」という事になる。しかしながらそのようになる確率は低いだろう、とは個人的な読みです。

3、フェルミ研の結果と同じ結果を得る。-->新しい物理のはじまり(期待通りで皆喜ぶ)

4、フェルミ研の結果よりも理論計算に近い結果(中間くらい)をえる。-->実験と理論計算の差分の有意差がきえるーー>何が正しいのかわからなくなるーー>混乱ーー>5-2に行く

5、ほぼ理論計算に近い結果をえる。ーー>2つの実験の有意差が3σを超える程度になるーー>2つの実験に生じている有意差の方が問題になるーー>新たなテンションーー>なぜそんなに差が生じたのか?を探求する、というよりは「J-PARCのg-2/EDM実験」を正しいと認識するか?されるか?-->また新たなミュー粒子実験が考え出される?

5-2、電子のaeの測定精度向上での検証に期待が移る。

5-3、「J-PARCのg-2/EDM実験」を正しいと認識した場合は「フェルミ研の実験がうまく行かなかった理由の探究」が始まるーー>「客観的に存在する静止系の探求が始まる?」

それともフェルミ研とJ-PARCの差は中性子の寿命の様に「百年のなぞ」としてあつかわれる事になるのか?

 

当然皆さんは3の結果を期待しています。

そうして当方の読みは4~5ですね。

「5だ」と言い切れない理由は「J-PARCの実験でもまだ客観的に存在する静止系の影響は完全には排除できないであろう」という、これもまた個人的な読みにあります。(注4

 

4,当方の結論

いずれにいたしましても大方の予想に反して「ミュオン異常磁気モーメント測定では新物理は検出されない」が当方の結論となります。(注5

 

注1:やはり何といっても従来の手法は「マジック運動量を用いて収束電場の影響を打ち消した・・・つもり」という所が一番の弱点になっていると思われます。ー->この内容は下記の追記に続きます。

注2:BNL/フェルミラボとJ-PARCの実験状況の違い

  実験         保管条件               ビーム
BNL/フェルミラボ   R  = 7.1 m ストレージリング、B  = 1.45 T   3.1GeV/c
J-PARC       R  = 0.35 m ストレージ リング、B  = 3.0 T    0.3GeV/c

「Muon g  − 2: レビュー」: https://archive.md/r6LZo :より引用

測定しているωaの違いについては「muon g-2 の理論」: https://indico.ipmu.jp/event/164/contributions/2417/attachments/2070/2499/dnomura-slides.pdf :のP54を参照の事。

BNL/フェルミラボとJ-PARCでの測定している対象の違いが判ります。

注3:以下に示すように、いろいろな方がこの3番目が実現するだろう、という事を期待しておられます。

「ミューオン異常磁気モーメントから見る素粒子理論の進展」: https://www.jps.or.jp/books/gakkaishi/77-208_overview%20articles2.pdf :

「ミュオン異常磁気能率の精密測定による新物理法則の探索」: https://www.jsps.go.jp/file/storage/grants/j-grantsinaid/12_kiban/ichiran_27/j-data/h27_j3742_saito.pdf :

「「米フェルミ国立加速器研究所などのチームが、素粒子「ミューオン」が素粒子物理学の基本である「標準理論」では説明不可能な性質を示したことを発表した」と最近のニュースがつたえていますが、一体何を?」: https://archive.md/ZXps2 :

「素粒子物理学が変わる? 標準理論に反する粒子の挙動」: https://archive.md/Y1sMS :

「ミュオン g-2 が最新の測定で倍増、新しい物理学を求めて未知の領域を探索」: https://archive.md/petRQ :

「未知の粒子の証拠を'最後の望み' の実験で確認」: https://archive.md/QgT8b :

「科学者たちは、自然の第 5 の力の発見に近づいています。それは本当に素粒子なのでしょうか?」: https://archive.md/Ul4VV :

「ミュオン異常磁気モーメント測定」: https://archive.md/1nDfP :

注4:とは言いながら「J-PARCの実験は客観的に存在している静止系に対して運動している地球上での実験である」という点を除けば「ほぼ理想的な実験になっている」と言えそうです。

それに対して理論計算は「客観的に存在している静止系の上でJ-PARCの実験を行った場合の結果を示している」のであります。

そうであれば「J-PARCの実験が理論計算と一致しない」となった場合は「地球上での実験を記述している様にみえるトーマスBMT方程式には修正が必要となる」という事になります。

そうしてもちろんその修正には「地球が静止系に対して0.001C程度でドリフトしている」という情報が入る事になります。

注5:今後のタイムスケジュール

・Q:2025年までにハドロン効果含めて理論値の統一見解を整えていくことになるのか?

 A:ホワイトペーパーには考え得る全ての効果は含まれています。格子QCD、スーパーコンピューターを用いた手法は、これをさらに検証しようという趣旨で始まったことですが、最初に出てきた結果は理論予想とはずれたところに値が現れました。他のチームが同じところに計算結果を出すのか、ホワイトペーパーに近い結果を出すのか注目されており、2025年には決着がついていると予想しています。Belle II実験でも、2024から2025年の間に、従来の理論予想と新しい結果のどちらが正しいか言えると考えています。(三部)

↑三部さんによれば「2025年が次のマイルストーンである」とのこと。

そうして「2028年からJ-PARCの実験ではデータが取られ始める予定」である。

そうであれば「実験によってこのテーマに一応の白黒が付くのは2028年以降」という事になります。

また「電子の異常磁気モーメント測定」でも多分その頃には何か結果を出している可能性があります。

さあそうなりますと「2028年は新しい物理が始まる歴史的なタイミングとなる」のかどうか?

本当に興味が尽きない所であります。

ちなみに「全く先が見えてこない地上でのダークマター検出実験」と比較すれば「こちらのテーマによる『新物理の探索』についてはよほど先が読める状況にある」と言えますね。

 

追記:「新物理発見に迫るミューオンg-2研究の最新情報」2023年8月11日: https://www2.kek.jp/ipns/ja/news/4860/ : https://archive.md/7M7AG :

『最後に、今年7月までMuon g-2実験共同代表を務めていたシニア研究者のBrendan Casey氏(FNAL)から今回の実験結果(注:フェルミ研の最終報告)へのコメント、J-PARCでのミューオンg-2/EDM実験への期待を込めたメッセージをもらいましたので、ここに紹介します。
Brendan Casey氏は9月13日に素粒子原子核研究所の招聘セミナーの講師として登壇していただく予定です。

■今回の実験結果(注:フェルミ研の最終報告)へのコメント
“This result comes close to making the final statement about what we can do with a large storage ring. We’ve almost eliminated all the systematic uncertainties we were worried about.”
和訳:今回の結果は、(ミューオンの磁力を測定する)大型蓄積リングを使用して何ができるか、最終的な見解に近づいてきたことを意味します。私たちは心配していたほぼすべての系統的な不確かさを取り除くことができました。

■J-PARCで行うg-2/EDM実験へのメッセージ
“The one problem with our result is it shares many fundamental assumptions with the Brookhaven experiment because it uses the same techniques.  The J-PARC g-2/EDM experiment is very exciting because it will be the first time in decades that a collaboration tries to make this measurement with new techniques.”
和訳:我々の結果の問題点は、ブルックヘブン国立研究所で行ってきた実験と同じ手法を使っているため、多くの基本的な仮定や考え方がブルックヘブンでの実験と共通していることです。J-PARCのg-2/EDM実験は、この数十年で初めて新しい手法でこの測定を試みる共同実験であり、非常にエキサイティングなものです。

ミューオンg-2/EDM実験

世界10カ国から約110人の研究者が携わり、J-PARCでミューオンのg-2およびEDMの超精密測定を行う実験です。g-2は先行実験によって理論予想値からの乖離が示唆されており、J-PARCでこれを検証します。世界初のミューオンの冷却・加速装置、従来と比べて20分の1の大きさの蓄積磁石を用いて、1千万分の1の精度でg-2を測定することを目指しています。』

追記の2:J-PARCの実験結果が理論計算と一致しない場合は今度はトーマスBMT方程式に疑いの目が向く事になります。

その結果はつまりは「トーマスBMT方程式では地上で行われたミュオン異常磁気モーメント測定の実験を記述する事はできない」という事を示しているからです。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/JPnpA