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『らーめん放浪記』麺25 本目。

2009年05月09日 09時36分54秒 | 連載書き物シリーズ
『らーめん放浪記』

〈2-(3)・佐賀&北九州〉


「また放火?」
夕飯のおかず鶏の唐揚げをつまみ食いしながら
大学生の『猪股瓜二(いのまたうりじ)』通称『瓜坊(うりぼう)』は
もううんざりといった表情で肩をすくめた。

ここのところ佐賀県中心地の唐人町商店街で
連続放火事件が立て続けに起こっており
商店関係者や地域住民達はすっかり安眠を妨害されていたのだ。
犯人も分からぬまま警察も手を焼いていた。
瓜坊もまた眠れぬ日々にイライラ気味。
というのも商店街には瓜坊の母親『シシ代(ししよ)』の営む小料理屋
『春夏冬(あきない)』があるからだ。

母親のシシ代は瓜坊が物心つかぬうちに夫と離婚。
母一人子一人で『春夏冬』をきりもりしながら
やっとの思いでここまでやって来た。
肝っ玉母さんと甘えん坊な瓜坊の生活は『春夏冬』と共にあり
といった所か。
そんな思い出たっぷり想いたっぷりの『春夏冬』を放火魔に燃やされたらなんて
考えただけでも身震いしてしまう。
身震いしながら鶏の唐揚げ食ってしまう。
瓜坊またつまみ食い。

「また葬式よ」
唐揚げをつまんだ瓜坊の手を“ピシッ”と叩き
呆れ顔で呟く喪服姿のシシ代。

『佐賀唐人町商店街連続放火事件』はとどまる事を知らなかった。
今やお客を郊外の大型ショッピングモールや郊外店舗に取られがちな商店街。
人々に愛され続けて来た商店街も色んな意味で老朽化が進み
シャッター通りと呼ばれてしまう程急速なスピードで閉店が相次いでいた。
そんな中でも「きばっていこう!」と
道路整備や店舗の改装等を行い
またまた立派に誇れる唐人町商店街へと生まれ変わりつつあった矢先の連続放火。
正直ショックは隠せない。
恐ろしい事にここの所放火の速度は加速度を増していた。
それは商店街の陳腐化よりも早いスピードで。
肉屋、八百屋、ブティック、床屋、喫茶店、文具屋、鞄店、タバコ屋…
次々焼け野原と化していった。
同時に同じ数の死者をも出しながら…。

犯人は葬儀屋なんじゃなかろうかという根も葉もないおかしな噂が上る程
ここの所の放火による葬式の数が半端ない。
“不思議な葬式”が毎晩のようにしめやかに執り行われる。
というのも
複雑な表情で顔を引きつらせながら葬儀屋が用意する棺桶には
どこもかしこも遺体が納められておらずからっぽ。
亡き骸が無いのだ。
放火により焼け野原となった現場からは
焦げた遺留品等は見つかっているものの
“遺体自体”がごっそり消えてしまっていた。
それはどの現場も同じ。
“遺体が無い”つまりは“骨が無い”。
この連続放火事件をもっと複雑な事件として警察は取り上げ
『佐賀唐人町商店街連続放火骨無し事件』は未だ犯人も“無い”まま
マスコミはミステリアスに報道を繰り返し
捜査は難航を極めていた。

またそんな“遺体無き葬式”へ出かけねばならない。
「じゃ、母さん行ってくるけん。
夕飯は唐揚げで食べんしゃい」
「うん」
もう殆ど食べているが。
「火の元、戸締り」
「わかっとうよ」
「そのまま店ば行くけん。
帰りは遅くなるけんね」
「わかっとうて!」
「か~!
いつからそげな生意気ば口利くようになりよったんかね~!」
「生まれたてのおかんゆずりばい!」
お決まりの親子悪ふざけだ。
「今晩のは?」
「ん?
パン屋ばい。
『ロバさんベーカリー』。
『春夏冬』の隣たい」
「そう…」
「気持ちん良か人やったから、残念でないよ」
「元気出しぃね!おかん!
それよかおかんこそ気ばつけんしゃいよ!」
「おお!良か息子ね!
これで頭ん中も良かったら言うこつ無かろうもんね!」
「せからしか!
もう、早よ行き行き!」
「はいはい」
黒のハンドバッグに香典を入れ
「じゃ、行ってくるばい!
我が良き息子よ!留守ば頼む!ははは!」
シシ代はいつものように急ぎ足で家を出て行った。

「はいはい」
瓜坊は夕飯を適当に済ませ自分の部屋へ。
壁一面にバンドのポスターが貼られている。
お世辞にもきれいとは言いがたい程
あちらこちらにCDやら本やらが散らばっている部屋。
瓜坊、リュックの中からお気に入りのiPodを取り出し
ベッドに横たわりヘッドホンをはめ目を瞑り
ポスターのバンドの曲を大ボリューム再生。
このひと時が瓜坊のお気に入り
唯一の寛ぎ空間だ。
このバンドの曲を聴いていると気持ちが大きくなり燃え上がり
解き放たれた気分になれた。

表情が自然と緩んでいく。
安らいでゆくのが分かる。
そのまま
そのまま瓜坊は
いつの間にか深い深い眠りについていた。
バンドの曲を聴きながら…。

どれだけの時間眠っていたのか。
iPodは終わる事なくまだ再生され続けている。
よく眠れた。
頭はすっきりしている。
さっきからずっと夜だもの当然外は真っ暗。
さて勉強でもするかな。
でもその前に
「夜食夜食と~♪」
大好きなバンドのお気に入り曲メロディを鼻歌で歌いながら
iPodのヘッドホンをしたまんま
バンドの曲を聴いたまんま
キッチンへ足を運ぶ。
この「~したまんま」行為
いつも母親に「行儀悪い!」と注意されているのだが止められない。

キッチン。
ずっとテレビをつけっぱなし状態にしちゃっていた事に気づく。
深夜バラエティー。
音楽聴いたまんまだからテレビの音声は聞こえないのだが
画面を見てても特に面白くもなさそうだしと
消しに向かったその時
臨時ニュースのテロップが
テレビ画面上に流れた。

“佐賀唐人町商店街で火災。小料理屋『春夏冬』全焼。放火の疑い”

一瞬、瓜坊は固まった。

iPodの曲が切り替わる。

大音量で流れる音。
“楽”を取ってしまったかの“音”。
そしてそれは瓜坊の大好きな曲。
大好きなバンド『OCTOPUS ARMY』の曲。
爆音。

♪燃えろよ燃えろよ!
チューチュー燃えろ!
火の粉を巻きあげ!
全てをこがせ !

照らせよ照らせよ!
チューチュー照らせ!
炎ようずまき!
闇夜を照らせ !

燃えろよ燃えろよ!
チューチューあつく!
光と熱とが!
全てをこがせ!♪

テレビ画面の明かりが
瓜坊の顔をカラフルに照らし
不気味にペイントを施していた。

繰りかえされる臨時ニュースのテロップを見つめ
瓜坊はゆっくり
“にんや~~~~~り”と
ほくそ笑む。

『OCTOPUS ARMY』の曲が“プツリ”途切れ
同時に瓜坊も“ハッ”とした表情へ変わり
顔面蒼白のまま
その場にへたり込んだ。

体が震え動けずにいた瓜坊の身なりは
顔から腕から服からズボンまで
何故だろう、“煤”で汚れてとても真っ黒だった。


“ツキューーーン!”

北九州市小倉北区のとあるホテルの一室。
とても静かに銃声がこだまして
男が頭から血を流しベッドに倒れこんでいた。

その真横で青年が
熱を帯びたピストルを震える腕で支えながらも
失禁しつつ息を詰まらせて巨体な死体を見つめていた。

部屋のドアが開く。
「ご苦労。良うやった」
黒スーツの男達がゾロゾロ部屋へ入って来る。

青年はそんな労いの言葉を受け
引きつる笑みを浮かべながら
ついさっき火を噴いたばかりの銃口を
ゆっくりと自分のコメカミに当てるのだった。


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。


『らーめん放浪記』つづく。

(注)この物語はフィクションです。


写真。クリボウに囲まれた瓜坊。
瓜坊小さすぎてよくわかりませんが。


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