はやしんばんぱくの、めげてめけめけ、言論の不自由ブログ

全国各地へ飛び回り、めげてめけめけめげまくり、色々書いていましたが、ブログ終わりました。過去を読めばいい!サラバじゃ~!

『らーめん放浪記』麺107本目・ペコちゃんの場合。

2011年02月12日 14時56分39秒 | 連載書き物シリーズ
ワーーーーーッ!!!

『らーめんバトル』挑戦者がいっせいに麺を握った!
司会の『勝男(かつお)』が指で銅鑼を“チーン”と弾く。

「はじまりぃ~」


『らーめん放浪記』純情旅情編。


〈3-(54)・ペコちゃんの場合〉


「頑張れ!ペコちゃん!」

ババッ!と
ババババッ!と
ペコちゃんは『大林』のロゴ刺繍入り割烹着をおもむろに脱ぎ捨てた

ブワッサ~と宙に舞う
渡る世間は鬼ばかりバリの、純白の割烹着が
夜空の暗闇に浮かび上がって特にまぶしい。

ペコちゃんは落下した割烹着を器用にキャッチし仁王立ちだ。
まっさらな割烹着の下から現れたるは
まさに『らーめんバトル』の戦場にふさわしい迷彩色の立派な軍服。
その上には、『大林』の屋号の刺繍がきっちり施されたカーキ色のエプロンを着用している。

「負ける気がしねぇさ~!」

完全なる保護色を身にまとったペコちゃん。
この合戦場の不穏な空気色に合致して、すっかり溶け込んでいる。
どこにいるやら???まさにその様な、気配をまるで消したような
でもガッツリたくましさを主張しているような
そんな不思議な、ペコちゃんのたたずまいである。

客席の一番前を陣取ってペコちゃんを見守る
尾道ラーメン『大林』店主『のぶひこ』は“あんぐり”だ。
スタッフペコちゃんに対し、応援するよりむしろ、もう既に唖然としている。
思わず
「うわうわぁぁぁうぁ~~~」
開いた口からヨダレが!

気のせいか?舞台の『大林』ブースだけが真っ赤に染まったように感じる。
ペコちゃんの脳内にカルメン~闘牛士の歌が響き渡る。
保護色で身を眩ませていたペコちゃんが
今度は見栄え良く舞台に主張を魅せでしたではないか!

ペコちゃんガッと勇ましく、胸元から薔薇を一輪取って口に咥え
ギョロリ視線は端のブース、らーめん屋台『黒猫』を
まるで歌舞伎役者の如く睨みつけている。
キリリ引き締まった口元から鮮血がダラリ。
薔薇のトゲが唇をつらぬき、顎から首筋にかけて真っ赤な筋を作っていた。

滴り落ちる血液をペロリ舌なめずり。
不二家のマスコットと見まごうばかりのキュートな表情。
唇の傷から来る痛みなど全く無縁とばかりな表情を浮かべるペコちゃんである。

カスタネットを両手に握りしめるが如く
片手に湯切のストレーナーを
片手に長めの菜箸を持って
一気に調理に取り掛かった!
ラーメンを作る過程に於いてリズミカルに音を出しダシをとる様はまるでキッチンコンサート。
カルメンのメロディでもってひるがえるカーキ色のエプロンが
何故だか真っ赤に染まって見えて
円形状のバトル会場が闘牛場に早変わりしたかのような興奮をおぼえる。

そう、食材がペコちゃんに突進をかます!
ペコちゃんは闘牛士さながら、そいつを上手く受け流し、美味く調理する!
そんな様子全てが、向こうの『黒猫』への挑戦状であるかの如く
完全挑発的な動きでもって繰り広げられているのだ!

一体この“2組”はどんな関係なんだ?
何故にこの娘は、むこうの青年と老人に
ここまでの敵対心と執念を燃やしているのだ?
観客の誰もがそう思ってもおかしくないくらいあからさまに挑戦的な『大林』のペコちゃん。
時折調理器具を『黒猫』目掛けてぶん投げたりして凄く恐ろしい。
出刃も飛んだり、鋭い殺意すら感じるのだ。

そんな中でもらーめん作りはしっかり進んでゆく。
ズンドウでゆれる麺は不思議な様相を呈していた。
尾道ラーメン独特の平うちストレート麺!
だけどどうも様子がおかしい。
こいつは明らかに、ソーキの麺だ!
小麦粉に塩水、そしてつなぎに灰汁を
そう、ガジュマルの木の樹木灰を使った
古きソーキそばの麺の形状である!
そいつをいびつに平うちし、ストレートに伸ばした!
なんと言う奇妙な、いや、興味をそそられる魅惑の麺なんだろう!

そしてまた、肝心要なダシも変わっている!
尾道ラーメンの定番、鶏がら醤油に?これは?なんと豚を投入!?
しつこく煮込んでガリガリとこん棒で鶏豚を砕き
豚だけ早めにとりだして、そいつをミンチにかける。
出汁は何度も何度もこしてすっきり感をつくりだす。

鶏豚醤油のスープにゴリゴリと豚の背脂ミンチを削り落とし
摩訶不思議、魅惑の麺をくぐらすと
その上に角煮、かまぼこ、たっぷり刻み葱、煮玉子、メンマをトッピング。
仕上げになんとまあ、コーレーグースをぶっ掛けた!
どんぶりが、何となく赤く染まった気がして
観客達がどよめきだす。

「おぉっと!
これはこれは!またまた!凄いラーメンの誕生だ!
元祖尾道ラーメン『大林』さんが新境地を切り開いたぞ!
なんとも強烈な熱気が伝わるこのラーメン!
瀬戸内海から南国に船出した娘が牙をむいて帰って来た灼熱の麺ロード!
とでも言いますか!?
こいつはまさに、新尾道麺ソーレ!
山陽におりながら、まさか!まっさっか沖縄を感じてしまうなんて!
こいつはどんな狙いがあるのか!?調理人ペコさんは何?沖縄の人なの!?
まーその!こりゃまたビックリたまげた、意表をつく出来栄えであります!」
司会の勝男が叫んでいる。

…あれ?
あれあれ?
ペコちゃんそれって
尾道ラーメンでありながら
ソーキそばだよね…。
ええー?あれー?
これって、この麺て一体、なにもの?
君って、一体…なにもの?

のぶひこは混乱して身動きすら取れないでいる。
♪さくらぁ
胸のつぼみ開くわ
あなたへひらり舞い降りて
素敵な大人になるの
さくらぁ
お願いそっと受け止めて
少し背伸びしたわたしを
抱きしめてKISSして
Darling 今わたしはあなただけのもの
……♪
最近ちょっぴりお気に入りの歌を
頭の中で反復して落ち着きをはかっても
まったく無意味に自ら余計な混乱を招くだけののぶひこだ。

ペコちゃんを見つめるのぶひこが、一瞬凍りついた。
ペコちゃんが、沖縄のシーサーに見えたからだ!
そしてそいつは瞬時にカタチを変えて
今度は闘牛に変化した!

とその時だった。
ペコちゃんが
まるで暴れ牛の様に
向こうの『黒猫』に出刃握りしめて突進して行ったのだ!

「死ね糞―――っ!」

会場に悲鳴!
だがそれは、瞬く間に『黒猫』の老人によって制圧された!
ペコちゃんの身体は
まるでさっきの『大林』の純白割烹着の様に宙を舞った!
老人に背負い投げられたペコちゃん!
一瞬の出来事に受け身が取れず
したたか地面に頭を打ちつけて気を失う!

「ガッハッハ!
出刃ごときでワシを殺そうなどあまいあまい!」
ペコちゃんはとりあえず係員の手で『大林』のブースへと戻された。

何も出来ず、ポカンと口を開けたまま
ただただ全てを見守っていたのぶひこ。
そんな『大林』の店主は
この惨事にも関わらず
何事もなく進むイベントに
大きな違和感を抱きはじめていたのだった。

何かが起こるその前の

ジャッヂ!


♪パララ~ララ
パラララララ~~~♪

街に夜鳴きの音(ね)が響く。

めけめけ~。

『らーめん放浪記』つづく。


(注)この物語はフィクションです。

写真。東京の某街で見かけたシーサー。


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