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細沼の「オゼコウホネ」

2019年12月05日 | 地域の山野草

オゼコウホネ(尾瀬河骨)は昭和12年、尾瀬で新種のコウホネ(浮葉植物)として見つかったのでオゼコウホネの名がついたといわれている。尾瀬、山形月山、北海道空知、宗谷等限られた場所にしか生えていないとされてきた。そのオゼコウホネが湯沢の細沼に群生している。尾瀬より早く発見されていたらホソヌマコウホネの名がついていたのかもしれない。

数年前、福島県の桧枝岐村から始まる尾瀬を散策した。オゼコウホネは地塘(高層湿原にできる池)の主役などと言われているが生育場所は尾瀬でも限られ木道散策等では見ることはできない。山形県の月山のオゼコウホネは八合目、駐車場からすぐの阿弥陀ヶ原湿原。無数の地塘のある中で、広さがせいぜい100㎡に満たない地塘に生育している。湿原の木道を数分歩いてたどり着く。地塘なので立ち入りはできない。6月中旬に散策したときは地塘の中心部に一本オゼコウホネが咲いていた。山形野草園にはかなりの本数が植えられていた。

一般的に池塘には「ミツガシワ」、「ヒツジグサ」、「オゼコウホネ」の3種類の植物が混生している。この3種類の植物は池塘の水深により棲み分けをしている。水深75㎝がミツガシワ、125㎝ヒツジグサ、150㎝オゼコウホネといわれている。

池塘ではない細沼にオゼコウホネが群生していることを数年前から聞いていた。今年9月末、「雄勝野草の会」秋の観察会で初めて細沼のオゼコウホネを観察できた。

 細沼のオゼコウホネ (2019.9.28)

細沼の標高は307ⅿの地点にある。水深約4m。貝沼は細沼の北側で水深約10m、鯉、ヘラブナ、ワカサギ釣りの名所として全国の釣り人によく知られた沼。30数年前、私も子供たちを連れてワカサギ釣りに通った。当時は細沼のワカサギの方が貝沼より少し大きく良く釣れた。

この写真では右側の大きい方が貝沼、左の小さい方が細沼。上方の山は奥宮岳。皆瀬ダムの入り口の反対側に道路がある。国道398号線から600ⅿ程で沼に着く。

貝沼と細沼 (引用)

細沼は、その名の通り細い形をした沼。上空からの風景は貝沼と細沼の間の陸地が島のような形になって見える。水の流入口は見えない。周辺の山から自然の流れと湧き水で沼面が保たれているのだろうか。貝沼にはカラス貝が生息していることから貝沼の名がついた。カラス貝は30cmを超える個体も見られる大型の淡水貝で、湖や池、沼などに主に生息しているといわれているがそれほど大きな貝を私は見たことはない。細沼にもカラス貝は生息している。

細沼にオゼコウホネの群生がある。オゼコウホネの漢字表記は尾瀬河骨。スイレン科コウホネ属。

細沼のオゼコウホネ(2019.9.28)

細沼は水深4ⅿともいわれ、オゼコウホネは細沼の両突端にまとまって生育していた。今年は梅雨に極端に雨の量が少なく、細沼の沼面は例年より1ⅿ以上も低くなっていた。例年だと水の量が大きく、オゼコウホネの生育場所に近づくことができない。今年は水量が極端といえるほど少なく、一部の生え際近くまで近寄ることができた。

水中に生える多年草で根茎は深く泥の中、長い葉柄を伸ばし水の上に葉を広げる。葉は円心形で長さが10㎝前後。裏面に細い毛が密生している。花は黄色、直径が2~3㎝、花弁状の萼片は5枚。中心にある柱頭盤は深紅色。

拡大の花弁(2019.9.28)

多くのオゼコウホネ愛好者も真上からの写真を撮りたいと願っているようだがなかなか機会がないらしい。こんな見事な写真は雨の少なかった今年の天候のおかげだ。そして、水際で撮れたのは偶然な出来事だった。

細沼のオゼコウホネは「昭和46年(1971)8月、湯沢高校の教師、望月陸夫氏が生育を確認している。6月に木地山高原の谷地沼、7月に五才沼で確認と「植物研究雑誌 第47巻第3号 昭和47年(1972)3月」で発表している。その記事によれば「「山形県月山のものと比較し検討 したところ、全体がやや大型であること、 葉裏の毛が少ないこと以外は特に差異はない。オゼコウホネと同定される植物であった」とある。

さらに、「植物研究雑誌 第 80 巻第1 号 平成17 年2月」に 「短報 オゼコウホネ(スイレン科)の 新品種(高橋英樹、山崎真実、佐々木純)  日本固有とされる現在まで に、尾瀬(三木 1937)、山形県月山(佐藤 1964)、秋田県谷地沼(望月1972) 、北海道 雨竜沼(伊藤・梅沢 1973)、キモマ沼(伊藤 1967 、 1967) などから報告されており、角 野 (1994) では尾瀬、月山、雨竜沼の 3ヶ所 が確かな産地」とある。

コウホネ属は北半球の温帯を中心に20種、日本では4種およびいくつかの変種が知られる。しかし変異の幅も広く、その区別はなかなか難しいとされれる。

オゼコウホネは昭和12年(1937)にネムロコウホネの変種として発見されてから92年になる。植物は進化と退化の途上にある。さらに変種の位置づけはどう推移していくのだろう。


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