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特大な野草 オオベニタデとドガランポ

2014年09月25日 | 地域の山野草
数多くの野草の中でひときわ大きくなるものがある。「オオベニタデ」と「ドガランポ」(イタドリ)だ。真夏から初秋に。「オオベニタデ」の花は見事で、「ドガランポ」」の鬱蒼とした繁茂は夏を象徴している。

「蓼(たで)食う虫も好きずき」の ことわざがある。他に草があるにも係わらず辛い蓼を食べる虫も居るように、人の好みは様々で、一般的には理解しがたい場合もあるということの説明がある。蓼(たで)の親分みたいな「オオベニタデ」が、我家のミニサンクチャアリで異彩を放って立っている。10本ほどの塊で高さを測ってみたら250㎝もあった。7月の末ごろ頃から咲きだし、今が最盛期かもしれない。畑の雑草化したイヌタデは多くの人の目につくだろうが、この「オオベニタデ」になると異次元のものに見える。


オオベニタデ 自宅 ミニサンクチャアリ  2014.9.8

オオケタデ/オオベニタデ (大毛蓼/大紅蓼 タデ科 イヌタデ属 学名Persicaria pilosa 原産地:中国南部) 和名は大型で全体に軟毛が多いことに由来。観賞用に江戸時代に渡来したが、一部野生化して空き地や河原など庭以外のところでも見られる。 茎は太く、高さ1~3mにもなる。紅色の穂がたれるように咲き、鮮やかで目立ちます。葉は大きな卵形で長い葉柄を持ち、托葉梢の縁は無毛。夏~秋にかけて茎の先の大きな花穂に紅色の小花が密生し下垂する。花被片(萼)は5片、雄蕊7個、柱頭2個を観察。マムシの毒を解毒すると言われハデコブラの別名を持つ。毒虫に刺されたとき生葉を揉んでその青汁を患部に擦り込む民間療法がある。

始めはオオイヌタデかと思っていた。イヌタデは下記の写真で畑等に良く映える。別名アカマンマともいう。


イヌタデ 湯沢市川連町黒森  2014.9.7

「草木図誌」鶴田知也著の中に氏のイヌタデのスケッチがある。こよなく山野草に接し、細かいところまでのスケッチに脱帽してしまう。このイヌタデは多くの人の記憶にあるものと思うが、「オオベニタデ」となると植物でもなにか別格に思ってしまう。


鶴田知也「草木図誌」 いぬたで (画像クリックで大)

もう一つ巨大な野草がある。イタドリだ。イタドリ(虎杖、痛取、Fallopia japonica)とは、タデ科の多年生植物。別名は、スカンポと呼ぶ地方もある(茎を折るとポコッと音が鳴り、食べると酸味があることから)。花は白い。亜高山帯にあるのサシドリの仲間でメイゲツソウがある。メイゲツソウの花は淡紅紫色で円錐状に多数つく。 

秋田の県南ではイタドリとは言わず、「ドガランポ」という名で通っている。20年程前になるだろうか、かつての吉野鉱山で亡くなった人を弔ったという墓地で、高さが4mを超るような「ドガランポ」見てあまりにもその大きさにビックリしたことがある。その後院内銀山跡の「ドガランポ」に隠れてしまった墓地に遭遇した。「ドガランポ」の旺盛な生育に圧倒された。2.5mから3mは普通、4m以上ともなれば屋根の高さまで到達、茎の太さはチクワ並み。強風にもびくとしない強靭さに脱帽してしまう。鬱蒼の「ドガランポ」は森のような雰囲気、集団の繁茂は何か異次元の世界を形成している。

現在の吉野鉱山の墓地、院内銀山の墓地も地域の人たちが草刈をし「ドガランポ」は目立たない。きれいに管理されたてはいるが墓地はかつての栄華と悲しみを伝えている。


ドガランポ 横手清陵高校グランド東 2014.9.1

秋田県の由利地方は「さしぼ」といい、早春の芽を食用にし直売所に並ぶが横手、湯沢地方では食べる習慣はない。柳田国男著「雑草雑話」にはイタドリの方言は全国に百以上もあると記されている。イタドリの名は根茎が民間薬として使われ「痛み取り」、「疼取」からと云われて全国的に活用されたのが定着したのではと思われる。

横手市のふるさと栄会ホームページには以下の記述がある。

「草・木などの名前にみられる方言(2) どがらんぽ (いたどり/虎杖)あの戦時中、代用タバコの原料の葉となったのがこれ。≪どがらんぽ≫を知らない人はいないでしょう。植物名の「いたどり」を漢字で書くと <虎杖> をあてます。≪痛取≫からきたとする説もあって、生の若葉の薬効をいうようです。横手地方ではイタドリとはあまり言わず、もっぱら、だれでも≪どがらんぽ≫です。なんとも親しげで、たのしいひびきをもつ方言といえましょう。

『秋田方言』(昭和四年刊)に“横手・平鹿″の例として次のようにとりあげられています。

・どんから (平鹿) いたどり。
・どんがら (平鹿) いたどり。
・どんがからぽ (平鹿) いたどり。
・どんがらんぽ (平鹿・雄勝) いたどり。

『同書』には、“仙北”での用例として <でんすけ>(いたどり)をあげていますし、“由利”の例として <さしどり・さすどり>(いたどり)もあげているようです。横手・平鹿・雄勝での例としていろいろな言い方で示されていますが、ふつうの言い方として≪どがらんぽ≫が一般的なようです。県南に集中しているというのもおもしろいです。
、、、、、、、、、。

古名を「たぢひ」と言ったとある説をもとにして、『秋田方言辞典』では≪さしどり≫の項で、次のように考察しています。〔考〕 サシドリはイタドリの古名「たちひ」の転訛サシと、イタドリとの混交語であろう。[サシンドリ→サセンドリ→ササンドリ]と転ずる一方、[サシンドリ→サスンドリ→サソンドリ]、[サシンドリ→サセンドリ→サヒンドリ]と転じたもの。サシドリは[ドリ]の[ド]が鼻清音化を経て、鼻音を失うに至ったものであろう。
、、、、、、、。

この「どがらんぽ」の名付けについては不明です。解明はされていません。ですが、いかにものびのびした楽しいひびきには感心してしまうのです。≪いたどり≫は古くから漢字 <虎杖> をあてるのですが、実際太い茎のよく乾燥したものは丈夫で、山歩き用のりっぱな杖になります。 丈夫さからの名付けかも知れません。生のときは、ふとい茎は空ろになっていて、折ると音を立てます。そのよくひびく大きな音からの≪ドガラン ポン≫の名付けとばかり思ってきたものです。擬音語といえましょう。なんともたのしい名付けで、散歩道にはうってつけのひびきといえましょう。

イタドリは「疼取(いたみをとる)」で、地下茎に痛みを止める薬効があるとされての名である。タデ科 タデ属の多年草、中国、朝鮮半島、日本に分布して、日本では全国各地に生えている。オオイタドリは日当たりのよい荒地や斜面に生える雌雄異株の多年草。茎は太く中空で節があり、高さは2m近くになる。葉は広卵形でながさ6~15cmで互生し、裏面は緑色。8月~10月に、茎の先に円錐花序を伸ばし白色の花をつける。花言葉は回復、見かけによらないとある。花期8月~10月。 横手市 ふるさと栄会ホームページ(引用)

秋田県南言葉の「ドガランポ」をこよなく好きな名だ。イタドリ、メイゲツソウの名より体を表している。「ドガランポ」の名の響きは秋田県南人のある種の心意気をも表しているような気がする。「秋田のことば」秋田県教育委員会編によれば山形、福島で「どんがら」、「どてんがら」。長野で「どーとんがら」。新潟で「どんごろ」などがある。「どんがらんぽ」より「ん」の音がない、湯沢地方の「ドガランポ」は豪快な名だ。

「ドガランポ」の名の由来を知ることができないが、大胆な独善的な推論してみる。「ドガランポ」の茎は空洞になっている。中身のないことを空っぽということから、「ドガランポ」は空っぽと因果関係があると考えるのは自然なことだ。ウィキペデァアで「伽藍堂」を調べてみると『もともと伽藍神を祭る「伽藍堂」が語源といわれる。「伽藍堂のように何も無い」部屋などといわれた事から、そのように言われるようになった。本来は伽藍堂のように大きな部屋に何も無いことを指して言っていたが、近年では大きくない部屋でも「がらんどう」と言う場合も多い。 また、木の洞(きのうろ)のことも表す。樹皮がはがれて木のなかが腐るなどして隙間が開き、できた洞窟状の空間で、大きなものを指して言う』とある。

又、日本俗語辞典には『がらんどうとは建物の中に人がおらず、物もあまりない閑散としたさまを表す。がらんどうとはもともと寺院にある伽藍堂のことである。寺院のお堂は広く、人もあまりいないことからきた言葉であり、本来は寺院のように広い建物に人や物がないさまを指したが、最近では狭い部屋であってもがらんどうと言う。(「がらんとしている」の「がらん」も伽藍堂からきたものである)またこれが転じ、財布の中に何も入っていない状態、つまり無一文のこともがらんどうという』。

以上のような背景から「サシドリ又はイタドリ」の茎の空洞を「伽藍堂」と揶揄したのではとの推論も成り立つような気がする。胴が空っぽ、胴伽藍ぽにも結び付く。


ドガランポ 湯沢市 皆瀬川久保橋下 2014.9.5

「ドガランポ」のポは空っぽのポから来るものか、または本舗や舗道に使われている舗は。小学館の「大辞泉」によれば舗は「びっしりと敷きのべる」の意味があり、「ドガランポ」は単独でなく群生する。上記の写真で見るまでもなく高さが3mから4mにもなる姿は、他の野草を圧倒する大きな伽藍堂にも見えてくる。

鶴田知也著「画文草木帖」にいたどり(虎杖)の記事があり、正岡子規のイタドリの句が紹介されている。

  山かげの虎杖森の如くなり  子規  

この句に見られるように、集団で旺盛な「ドガランポ」はまさに野草の森、野草の伽藍堂と呼んでも違和感はない。

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