人生を支え、導いてくれたことばがある。
➀「幸せってなんだろうね?」(大学時代の恩師)
➁「子育ては10年」(職場の上司)
➂「家族が一番の幸せだ」(渡辺昇一)
➃「何のために生きているのか考えたこともない」(猫と暮らすミサエおばあちゃん)
⑤「毎日、楽しく暮らしなさい」(ショートコースで出会ったオジイサン)
⑤について。
明日で退職という日だった。
持ち物の片づけはすでにすんでいた。
おまけに何の業務もなかった。
その日、ワタクシは人生で最後の年休をとった。
朝からぶらりと一人でショートホールに出かけた。
念願のショートホールだった。
毎日、出勤の時に車の中から橋の下を見下ろし、「ああ、退職したら、おれもあんなふうにゴルフがしてぇなぁ」と思っていた。
ショートホールは9ホール。
ここを同じ料金で何回、回っていい。
1周目を回ってきたところで、知らないおじいちゃんに話しかけられた。
「いっしょに回りませんか?」
よくワタクシは人から声をかけられる。
別に話し相手がほしいわけではないが、なぜか話しかけられる。
「いいですよ!」
断る理由はなかった。
2周目からいっしょに回ることにした。
何ホールか回っているうちに、「軽く打たれますね」とほめられた。
そんなことはないが、このおじいさんはほめ上手か?
歩きながら「お名前は?」と聞かれたので、「○○です。おじいさんは?」と返した。
名前を聞いたはずだが、今ではすっかり忘れてしまった。
その後、「今日は年休をとって回っています。明日がとうとう最後です。」と話したのを覚えている。
その時、おじいちゃんはとてもありがたいことばをくれた。
「〇〇さん、毎日、楽しく暮らしなさい!」
これからの人生のはなむけのことばとして、最高に沁みた。
その前後の時期で一番、どんなことばよりも心に響いた。
「毎日楽しく暮らしなさい!」
「毎日楽しく暮らしなさい!」
「毎日楽しく暮らしなさい!」
回りながら、ワタクシは何回も、何回もこのことばを繰り返していた。
なんならショットの前にもまじないのように繰り返していた。
だから、おじいちゃんの名前を忘れちゃったのかな?
おじいちゃんとその後2回、回った。
「いっしょに昼飯を食べませんか?」と誘われたけれど、
「すみません、用事があるので」と断った。
用事はなかった。
しかし、ひさびさのゴルフでちょっぴり疲れていた。
おじいちゃんはちょっと寂しそうだった。
もっと話をしたかったのじゃないかと思っている。
それ以来、おじいちゃんには会っていない。
退職後1年間、練習場通いに励み、2年目からは自治会ゴルフに入会してショートコースに行かなくなったからだ。
あれから9年がたとうとしている。
おじいちゃんは空港の3階ホールで個展を開くほどの画家だった。
あの時すでに83才だったおじいちゃんは、まだ生きているだろうか?
「毎日楽しく暮らしなさい!」
あの日からずっと楽しく暮らしています!
死ぬまであなたのことばを忘れません!
ありがとう!
ありがとう!