城台山日記

 城台山の麓で生まれ、毎日この山に登り、野菜・花づくり、読書、山登りをこよなく愛する年寄りの感動と失敗の生活日記です。

熱き人々 21.12.1 

2021-12-01 20:47:18 | 面白い本はないか
 日々のニュースを見たりしていると世界のどこの国も課題や問題満載である。しかし、田舎で隠退生活を送っている者にとっては、情報も限られる。これはこれで心の平安には良いのだが、やはりこの国の行方は気になるので、様々な本を読んでいる。特に社会、政治や経済を扱う本では、読めば読むほどこの国の将来に対し悲観的とならざるを得ない。経済的な停滞感(停滞どころか下降、衰退)だけでなく、変われない政治、少子高齢化の伸展等々。それでも希望だけは捨てたくないと自身を励ましているのである(随分大げさか)。今日はこうした現状に対し、真の意味での改革(自民党が繰り返す「改革」とは異なる)を叫んでいる二人を紹介する。一人目は井手英策で最近出た著書「どうせ社会は変えられないなんてだれが言った?ーベーシックサービスという革命」のタイトルだけを見ても随分熱い人だとわかるだろう。

 なぜ私たちはこの先の日本に対して、希望を抱くことができないのだろうか。日本を含めて先進国は近年低成長が続いている。中でも日本は勤労者世帯の収入のピークは20年以上前の1997年でそれからずっと停滞している状態で多くの女性が働きにでるようになったのにかかわらずなのである。ではこれからは政府が言うような成長政策によって所得が上がっていくのか。成長を決める労働生産人口は減るばかりだし、新しい分野への投資(例えばグリーン投資)にも日本は及び腰であることを考えると停滞は続くと考えた方が良いということになる。こうなると高齢化さらにはコロナなどよって家庭の支出は増えていくばかりということになる。伸びない所得の中から、子どものための教育費、住宅費、医療費、介護費などを支出しなければならない。将来生ずるかもしれないこれらの費用に充てるため、消費を削り、貯蓄に励む暮らしとなってくる。その結果ますますGDP(消費+投資+輸出-輸入中でも消費の占める割合は大きく60%)は停滞することになる。

 同書にある「目的別消費支出額の増加率」 1989年を100とした2018年 通信費が大きく増えているのに対しアルコール、被服は大きく減っている

 では著者の言うベーシックサービスとは何を言うのだろうか。私たちは将来に発生する費用、すなわち子どもの教育費、失業した時の失業保険、がんなど成人病にかかる医療費、高齢者になった時に発生する介護費、あるいはけがや病気などによりいきなり障害者となった時に発生する費用、所得が少ないあるいはなくなった時に払えなくなった住居費などを人の生活を支えるベーシックサービスと言い、これを現物を基本に提供しようとするものである。現状を見ると教育費は公的な支出は先進国の中で極めて少なく、かなりの額が個人負担となっている。特に大学等高等教育のサービスを低所得者は受けれないかその負担のために借金や消費の切り詰めを行う必要がある。医療費は70歳までは3割、以降は2割、1割となるが、この負担も大きい。さらに介護費では、1割の負担が原則だが食事代、居住費は原則自己負担とされ、持ち出しが多く、低所得だとサービスを満足に受けれなくなる。また、失業した時にもらう失業保険は適用者が少ないし、生活困窮に陥った時の最後のセーフティーネットの生活保護もその受給者は受給資格のある者の2割程度だと言われており、その役割を果たしていない(この割合が日本において極端に低いのは生活保護を受けるために受けるスティグマが強いことが原因の一つになっている)。このうち生活保護(その中に住居費が入っているが、この部分はベーシックサービスとする)を除くサービスを全ての所得階層に現物等で提供しようとするのがベーシックサービスの考え方である。

 現役世代向けの社会保障支出の対GDP比の各国比較 日本の社会保障は主に高齢者世代(年金、医療、介護)に偏っている
 このことは多くの論者が現役世代に対する支出(住居費、失業保険、教育費等)を増やすように随分前から主張している

 ベーシックサービスによる再分配のモデル図 格差は確実に小さくなる

 この考え方に似ているのがベーシックインカム(BI)であるが、国民一人一人に(例えば月12万円・現在の生活保護なみ)提供するために莫大な予算(約180兆円必要)を必要とし、かといって額を5万円程度にするとこれだけでは足りない。またお金持ちで必要のない人まで支給してしまうことになる。ベーシックサービスはこの点費用が発生した時に支給されるので、予算の額は抑えられるが、それでも増税は必至である。著者によると国民が安心して暮らせるためには消費税を現在の10%から16%程度にする必要がある。ヨーロッパの例からするとこの程度の消費税(ヨーロッパは付加価値税)は普通である。ただし、著者も言うようにヨーロッパの国々では日本よりも政府に対する信頼度が高いのに対し日本では低く、増税に対する抵抗は高い。増税論者は政府には確かに都合が良い。このためか著者は随分右からも左からも批判されている(ちなみにおじさんは増税必要論者であるが、もちろん政府の支出には厳しい目を注いでいく必要がある)。この本では著者の生い立ちが明らかになる。母子家庭で貧困の中で育った。幸い家族等の支援もあり高等教育を受け今や大学の教授である。しかし、著者も言うように現在ではこうした家庭環境にある子どもたちは高等教育を受けることがますます難しくなってきている。そして支援をしてくれた母と叔母の失火による死亡もあった。当時の民進党の前原代表に頼まれて政策のブレインになったこと、その政策を自民党が一部(幼稚園等の入園料の無料化、対所得者層の子どもに対する大学の授業料等の無料化)その政策として実現した。

 ではベーシックサービスが提供されるようになると社会はどう変わるだろうか。将来の教育や失業、病気、介護などへの不安は減るであろう。さらに生活のために長時間働く必要があった人たちにも少し余裕ができるだろう。何より今まで買えなかった商品やサービスを手に入れることができる。それはGDPを押し上げ、回り回って賃金水準を上げることにつながる。それでも低所得者は残るので、そのためのセーフティーネットは必要となるが、現在のような生活保護制度(この中には医療扶助、住居費がかなりの割合を占めているが、これらはベーシックサービスになるので、金額的には減ることになるであろう)は修正する必要がある。

 おじさんの力不足により、著者の熱い心は十分伝えることはできない。良かったら、この本を図書館から借りるか買って(1300円)欲しい。著者が言うように私たちは社会をまだ変えられる。そのためには度を超した政府への不信(それは国民にとって良くない結果をもたらす)を止め、選挙に積極的に関与するとともに、注意深く政府の行うことを見ていくことすなわち衰えた民主主義を活性化しなければならない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする