独り合点(ひとりがてん)

きもの業界をステージとした、ビジネスと生活スタイル、および近況。

實物標本付 織物講座(3)

2011-06-25 | 自学実践塾

昭和5年、東京に人口が集中化しはじめ、サラリーマン等の都市勤労者層が増え、いわゆる“大衆化”が始まった時代です。この時代は女性は未だ未だきもので暮らす人が多く、日常着は明治、大正と経てもきものでした。しかし圧倒的に染めの絹のきものは高価なものでしたから、化学染料を使い、大胆な色、柄で、毎年刺激的な新柄を発表する銘仙は、多くの女性達の支持を得、人気を博しました。一方、当時織物のきものは各産地の地産地消で、余り全国には流通していなかったようです。そこで、東京の問屋は各産地を積極的に指導、協力し、明石縮、銘仙に続くヒット商品を積極的に進め、織物の地位向上、普及を企画し、「實物標本付 織物講座」を発行したのではと推測しています。染めと織りとはいいますが、圧倒的に染め上位だったようです。

当時一般に知れ渡っていなかった数々の各産地織物を流通に乗せ、普及拡大するために知恵を絞り、織物関係営業者だけでなく、「小学校女学校生徒及び家庭婦人等が」とあるようにオピニオンリーダー、将来の顧客層をも啓蒙しようと織物の歴史や特徴、技法、さらに経糸緯糸の種類や番手、反物び幅、長さ、密度や重量、そしてすごいのは、問屋値段や問屋歩合、23分、参考販売価格、染加工代とか、板上銘仙や色モスの原価採算までもガラス張りにしていること。「自己の職務に通暁するは、事業繁栄、成功致富の基である。殊に、超スピード的に新製品、流行物が続出して、その応接に遑なき多岐多様の斬新なる意匠、巧緻なる柄行、繊細なる組織科学の最善を応用せる染料等に就いて、顧客に忠実なる説明を要せぬであろうか」と呉服店にアピールしている。ページをめくるごとに織物の普及拡大をめざした意気軒昂な人たちの姿が思い浮かびます。毎月発行し、12冊を1輯とするとありますが、第1輯第3篇は「ウ」行の途中迄で、第4篇で「ウ・エ」行の掲載を予告している。また第3篇では、人気で部数が増えたため定価を10圓から8圓に値下げ。この後も発行され、完結したのか気になるところですが、4篇以降の行方を捜し、目処が付いたらデータか何かで、皆様にご紹介したいと考えています。


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