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ジョーの日記

米国での日々の生活を写真と言葉で綴ります。

すきとおったほんとうのたべもの

2016-01-31 | 日記






                       数年前、日本に帰省しているとき、
                       
                       新幹線を途中下車して

                       岩手県花巻市にある宮沢賢治記念館に行くつもりだった。

                       当日の朝、起きるといきなり「ゴンッ」という咳が出て、

                       マジ?と熱を測ったら37度5分くらい。

                       レールパスの期限があったので、

                       なんとしても出発しなければならなかったものの、

                       無理はできないってことで花巻に寄るのは断念。

                       そして、数年経つけれど、

                       宮沢賢治記念館にはまだ行っていない。



                       この「注文の多い料理店」は、

                       最初の「序」の言葉がとても好きです。

                       こんなにわかりやすくてやさしい、
        
                       心震える言葉があるでしょうか、

                       と思えるくらい。

                       最後の日付と名前にリアリティがあります。

                       

                       

                               序


                       わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、

                       きれいにすきとおった風をたべ、
            
                       桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。

                       またわたくしは、はたけや森の中で、

                       ひどいぼろぼろのきものが、
 
                       いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、

                       宝石いりのきものに、
           
                       かわっているのをたびたび見ました。

                       わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。

                       これらのわたくしのおはなしは、

                       みんな林や野はらや鉄道線路やらで、

                       虹や月あかりからもらってきたのです。

                       ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、

                       ひとりで通りかかったり、

                       十一月の山の風のなかに、

                       ふるえながら立ったりしますと、
      
                       もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。

                       ほんとうにもう、

                       どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、

                       わたくしはその通り書いたまでです。

                       ですから、これらのなかには、
 
                       あなたのためになるところもあるでしょうし、

                       ただそれっきりのところもあるでしょうが、

                       わたくしには、そのみわけがつきません。

                       なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、

                       そんなところは、わたくしにもまた、

                       わけがわからないのです。

                       けれども、わたくしは、

                       これらのちいさなものがたりの幾きれかが、

                       おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、

                       どんなにねがうかわかりません。

                

                       大正十二年十二月二十日       宮沢賢治